2023年02月19日

【今週の風考計】2.19─ウクライナ戦争を、どうやって終わらせるか

熾烈なバフムト攻防
ロシアのウクライナ侵攻から1年となる2月24日が近づく。いまや双方で20万近い兵士が死傷し、5万人の民間人が亡くなり、数百万の難民が生まれている。
 これまでロシア軍は1800両の戦車と3950台の装甲車両、810台の多連装ロケット弾発射システム、戦闘機400機に加え、30万人の兵士を送り込んできたが、ここにきてウクライナ東部のドネツク州バフムトの攻略作戦を強化している。
この作戦にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」に雇われた戦闘員5千人が送り込まれ、戦闘の激しさは日を追うごとに増している。バフムトはロシア軍の東側からの攻撃だけでなく、南北からも包囲され苦戦を強いられている。水も電気もない凍てつく町に残る住民の多くは高齢で、退避も容易ならない。
だがロシア軍にも、ウクライナ軍の反撃で死傷者数が急増し、直近の一日当たり死傷者数は平均824人、去年6〜7月と比べ4倍以上といわれる。訓練を受けた兵士の不足や士気の低下、軍備品の補給不足が指摘されている。
 これまでもロシア正規軍と「ワグネル」間の軋轢が言われてきたが、「ワグネル」内にも戦線離脱のケースが増えている。いかに高給が支給されようとも軍事訓練もなく、いきなり戦場に投入されるのだから無理もない。

民間の傭兵組織「ワグネル」
この「ワグネル」の正体とは何か。改めておさらいをしておこう。ロシアがウクライナのクリミア半島を強制的に併合した2014年、「ワグネルグループ」が創設された。その創設者がプリゴジン氏で、<プーチンの料理人>というニックネームを持ち、ロシア政府の行事に料理を供給する飲食事業を経営していた。
その後、「ワグネルグループ」は軍事会社を立ち上げ、民間から傭兵を募集し「ワグネル」の戦闘員として世界各地の紛争地に、ロシア側の便益に資するよう送り込んでいた。今回のウクライナ戦争には「ワグネル」の傭兵5万人が投入されたが、このうち刑務所で募集された囚人が4万人に達する。
傭兵の月給は少なくとも24万ルーブル(約56万円)、ウクライナなど戦地への「出張」期間が4カ月に及ぶとボーナスまで支給する。囚人傭兵には月給5千ドル(約73万円)、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われるという。

武器供与が何をもたらすか
さて、ここにきてゼレンスキー大統領は、欧米に「戦車を300両よこせ、F16を送れ、長距離ミサイルも」と、武器供与の要求はエスカレートの一途を辿っている。ドイツは世界最強の主力戦車<レオパルト2>の供与も含め23.4億ユーロ(3323億円)、英国は23億ポンド(3800億円)、米国は229億ユーロ(4兆6千億円)を、ウクライナに供出している。
ウクライナ戦争の終結、和平に向けた全体的な政治的・戦略的な青写真がないなかで、武器供与だけがエスカレートすれば、もうロシアとNATO との戦争へ行き着く危険性は避けられない。それでいいのか。
 ウクライナ戦争は、ウクライナとロシアの国家間戦争である。そしてウクライナにおける分離独立を巡る内戦でもある。ロシアの侵攻1カ月後には停戦の条件を巡って両国は交渉に入ったものの、停戦の話は沙汰止みとなり、ウクライナは米英NATOの全面支援を頼りに、ロシアとの本格的な戦争に突入してしまった。今や米国とロシアの代理戦争ともなっている。

大事なOSCEでの討議
それではウクライナ戦争をどう終わらせるか。まずはウクライナに侵攻したロシアが戦闘を停止し、正式に停戦会談を開始することだ。ウクライナとロシアの停戦がなれば、両国は双方の平和と独立を守る公約や順守義務などを討議し、合意した内容を国連や世界各国に発表し、干渉を排して確実なものとしていけばよい。
そのためには「ミンスク合意」に、もう一度立ち戻ることではないか。2014年にロシアがクリミア半島を併合し、かつウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州をウクライナから独立させ分断してしまった。
 この問題に対し、2015年2月、ウクライナとロシアおよび独・仏の4首脳がベラルーシの首都ミンスクで討議のうえ、和平への道筋を示したのが「ミンスク合意」である。
しかし、この8年間で「ミンスク合意」は棚あげにされ、さらに複雑さが増したウクライナ情勢を打開するには、もう一回り大きいロシアも参加する欧州安全保障協力機構(OSCE)を活用すべきではないか。
 OSCEは欧州の安全保障に関わる全ての国が同じテーブルにつく唯一の組織である。欧米にとってのNATO と同じように、ロシアにとってのレッドラインである黒海地域に対する安全保障の枠組みも含め、ロシアの立場も視野に入れて討議すべきだ。(2023/2/19)
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする