岸田文雄政権が昨年12月22日のGX実行会議で決定した「原発回帰」政策に対し、全国の基礎自治体首長と首長経験者でつくる「脱原発をめざす首長会議」は12月26日、緊急声明を発出するとともに、松下玲子・東京都武蔵野市長や村上達也・元茨城県東海村長ら共同世話人4人が記者会見し、「主権者である国民の合意がないままに、原発政策を転換することは許されない」などと厳しく批判した。
「脱原発をめざす首長会議」は、2011年3月の東京電力福島第一原発事故をきっかけに、その翌年に原発立地自治体や周辺自治体も含む全国の首長らが結集して発足した。現在の会員数は94人。
◇
緊急声明は、「自治体の首長および首長経験者の立場からなお二つの問題が未解決であることをまず強調したい」として、(1)2021年3月に水戸地裁が運転を認めない判決を下した東海第二原発にみられるように、自治体の避難計画の実効性が確保されていないこと。(2)原発から生まれる高レベル放射性廃棄物の最終処分地が未決定であり、その候補地選定によって自治体内で住民の間に深刻な分裂をもたらしていること――を挙げた。
さらに「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では原発が占領され、原発の存在が安全保障上も大きな問題となっていること」も指摘。そのうえで「災害対策基本法によって『住民の生命、身体および財産を災害から保護する』責務を有している立場から、『原発回帰』政策に断固として反対する」と述べている。
記者会見で松下玲子・武蔵野市長は「主権者である国民の合意がない中で、政府が大きな方針の転換をし、『原発を最大限活用』という言葉で新規の建設、そして運転期間の延長を行うことは認められない。2021年は衆院選挙もあったが、(自民党は)政策としても争点としても掲げていない。非常に強い憤りをもっていることを基礎自治体の首長として示したい」と語った。
また、被災地の自治体首長として過酷な経験をした桜井勝延・元福島県南相馬市長(現在は同市議)は「南相馬市をはじめとして被災地の住民は、まったく復興の途上でしかない。住民の感覚と政権の感覚があまりにもずれている」と発言。原発立地自体である東海村の村上達也・元村長は「エネルギーだけの観点、あるいはカネだけの観点でああいう政策を発表したことに憤っている。腹立たしくてならない」と怒りを露わにした。
さらに、三上元・前静岡県湖西市長(現在は同市議)は、「ウクライナでの戦争で原発は国防上も大きな問題があると分かった。それにも関わらず『原発回帰』という政策は考えられない。また、民主党政権時代は各地で討論集会を開き、そのうえで(脱原発の)方針を決定した。自民党もそれは反対していなかった。十分な討論も経ず、閣議決定だけでやろうとしている。民主主義的手続きを十分に踏んでおらず、許せない」と問題点を指摘した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号