2023年02月25日
【焦点】「インボイス中止を」フリーランスら直撃 重い納税、消費増税の布石=橋詰雅博
政府が10月から実施するという消費税のインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度。「廃業」につながる死活問題ゆえにフリーランスなど個人事業者を中心に反対の声が日増しに高まっている。フリーランスとして働く人が多い出版、アニメ、演劇、映画、俳優・声優などの各団体やフリーランスなどからなる市民グループ「インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称:STOP!インボイス)」は相次いで反対声明を出し中止を岸田政権に迫っている。地方経済に悪影響が及ぶと延期や中止を求める意見書を採決した地方議会も急増中だ。
反対運動に火をつけた「STOP!インボイス」の呼びかけ人の小泉なつみさん(ライター兼編集者)はこう言う。
「一昨年10月、インボイス制度導入で私の負担はどのくらいになるかを税理士さんに尋ねたら驚くほどの金額を提示されました。夫も同業者ですからこれでは家計が立ち行かなくなるとショックでした。インボイスの実態を書いた私のツイッターへの反響は大きく何かアクションを求めていると感じ導入反対を求めるネット署名を12月にスタート。アッと言う間に3万筆も集まり、財務省に提出しました。クラウドファンディングを介して寄せられた約100万円で日比谷野音での反対集会を昨年10月に開いたとき、10万筆を超えたことを報告(=写真上=)。現在15万5000筆に増えています」
仕事がなくなる
消費税は消費者が支払っていると思いがちだが、実は事業者が税務署に納めている。3%の消費税が導入された1989年は年間売り上げ(年収)が3千万以下の事業者は免税だったが、2004年から1千万以下に引き下げられた。今回のインボス制度実施では1千万以下も課税対象となる。例えば年収300万のフリーランスなどの個人事業者が納める消費税は約14万で、経費、健康保険などの社会保険料や所得税、住民税などを差し引くと、自由になるお金は約90万という試算もある。その上に事務作業も煩雑になる。
納税を避けるため税務署に課税事業者登録をせず、免税事業者として留まる方法もあるが、報酬ダウンや仕事を失う可能性がある。なぜそうなるのかを小泉さんは「出版社と下請けのライターとの関係で言えば、未登録のライターは、インボスを発行できませんから出版社がライターの消費税を被ります。従って出版社はそのライターへの仕事の発注では、従前より安い原稿料で依頼することがあり得ます。あるいはインボイスに登録済みの課税事業者に仕事を回すことも考えられ、インボイスを発行できないライターは仕事がなくなる可能性がある」と説明する。発注元の出版社から課税事業者への登録要請があれば、ライターは飲まざるを得ない。実際、登録依頼の要請とともに、未登録なら取引価格の変更の可能性があると書かれた文書をライターに郵送した出版社もある(=写真下=)。
仕事の仲間を分断
ただ世論の反発は根強く、国会議員も超党派でインボイス制度の問題を考える議員連盟を昨年11月下旬に発足させた。このため岸田政権は免税事業者から課税事業者に転換したら3年間だけ消費税の納税を最大2割とするなどの緩和措置を打ち出した。
「反対世論の勢いが止まないので少し緩めてやろうというのがこの措置ですが、もともと複雑な制度をさらに複雑化させています。抜本的な解決策とは言い難い。仕事仲間との間に分断を生み、重い納税と事務負担で若手の成長も阻むインボイス制度は中止すべきです」(小泉さん)
課税事業者への登録は9月中までの予定だ。インボイス制度導入の背景には免税事業者をなくし消費税増税をめざす財務省の思惑が潜んでいる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号