ワシントン駐在記者として米国で仕事をしていた頃、連邦議会図書館や大学の図書館整が利用しやすいと感じた。本書で紹介されているのは、公共図書館の姿だ。
そこは、本の貸し出しや情報提供にとどまらず、地域の人々が気軽に参加できる無料セミナー、音楽会、映画会などが開催される場である。格差社会、米国にあって、文化、知識の共有を、という視点を貫く実践がある。
専門家からは、次のような提言もある。「利用者のニーズをくみ取り、適切なサービスをきめ細かく提供する」ことにより、すべての人が地域社会を楽しむことができるようになる。「その実現を目指すのが図書館の仕事」であると、新たな図書館像が示されている。
米国の公共図書館は、公的資金のバックアップや図書館協会などによる研修があり、これらが発展の土台となっている。著者は、日本の公共図書館をこれと対比し、業際的な議論の不足とともに、「良いサービス事例が生じても、それを持続していくための体制が整えられていない」と指摘する。
米国の公共図書館が政治に翻弄されることもある。トランプ政権下、国防や国境警備予算が増額される一方で、「図書館サービス機構」(IMLS)や博物館を含む18の連邦組織を閉鎖する予算案方針が示された。これに対し、図書館を支援する議員、全米の図書館利用者による運動が繰り広げられ、共和党議員のなかにもIMLSの存続と予算増への賛同者を広げていったことを本書は紹介している。文化的公共財を守り、発展させることは、闘いなのである。
(筑摩書房1600円)