本書は、日本で初めてドレスを着た皇族である明治天皇の后「昭憲皇太后」が、女性の洋装を通じて日本近代化の陰の推進力となったことを、華やかなドレスの写真と共に浮かび上がらせる。
東京新聞で宮内庁を長く担当している筆者が、同紙で連載した特集に大幅に加筆した。
初の洋服着用は1886(明治19)年7月。2日後には洋装で外出している。背景には、維新の元勲伊藤博文の宮中方針があった。日本が西洋諸国と対等であると示すため「衣装問題は日本では政治問題」と語ったという伊藤が、皇后の洋装化を周到に進めた様子が解き明かされる。
殖産興業の観点を持っていた皇太后は洋装と併せて国産服地の使用を奨励する一方、活動的な洋服で文化、福祉施設を訪問。その姿が国民に伝わり、近代の皇后像が確立された経緯もわかる。
皇太后着用の「マント・ド・クール(大礼服)をはじめ、皇族、華族が着用した数々のドレスを鮮やかなカラー写真で掲載しているのも魅力。
各ドレスについて関係者への丹念なインタビューを重ね、史料や文献を渉猟、新たにわかった事実も盛り込んでいる。当時の国内事情や国際情勢との関係も考察され、逸話を読み進めると、華麗なドレスが宮中で精細を放った明治という時代の空気が伝わってくる。
皇太后の大礼服の修復・研究プロジェクトと上皇后美智子さまとの関係も紹介され興味深い。
明治のお雇い外国人は女性の和装を好む傾向があったという。日本のこれからの装いはどうなるのだろうと、考えさせられもする。(GB1980円)