2023年03月04日
【焦点】「対中戦争準備国」への恐怖 台湾有事を煽る米国に追従 大軍拡で経済衰退は急加速 岡田充氏オンライン講演=橋詰雅博
米中両国を中心に政治をウオッチする元共同通信論説委員でジャーナリストの岡田充(たかし)氏(=写真=)は日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会が1月26日開いたオンライン学習会で「台湾有事はどう作られたか―日本衰退が加速する大軍拡」をテーマに講演した。
一極覇権への回帰
中国が武力で台湾を統一する―。中国の軍事的脅威論を米国が意図的に演出し、煽っていると岡田氏は指摘する。中国の台頭を阻み、日本を筆頭とした同盟国を巻き込んで米国がアジア太平洋地域に君臨し、ひいては「米国による一極覇権の回帰が狙いだ」という。その先鞭がバイデン政権発足直後の2021年3月の前米インド太平洋軍司令官のデビットソン海軍大将の上院軍事委員会での証言だ。「中国軍が27年までに台湾に進行する可能性がある」と述べたことについて岡田氏は「日米首脳会談に向け台湾問題で日本を主体的に関与させるための地ならし≠ニ、中国の軍事的な脅威を煽る対日世論工作だ」と分析した。
米国の思惑に沿い日本は対米追従をさらに強めた。4月のワシントンで開かれた菅義偉とバイデンとの首脳会談で@半世紀ぶりに台湾問題を共同声明に明記、A台湾有事に備えた日米共同軍事作戦の策定―などに合意した。続く22年5月の東京での岸田文雄・バイデン会談の共同声明では@日米同盟の抑止力、対処力の早急な強化、A日本の防衛力を抜本的に強化、防衛費増額を確保、B米側は日本防衛への関与と、核を含む拡大抑止の再確認をうたった。
トマホーク5百発
こうしたことを踏まえて岸田政権は「国家安全保障戦略」の改訂など安保3文書を昨年12月に閣議決定する。敵基地攻撃能力の保有(米国製巡行ミサイル・トマホーク500発を購入予定など)、防衛費を27年にGDP(国内総生産)比2%に倍増などの決定は、日本の防衛戦略の基本姿勢である専守防衛政策を骨抜きにし、戦争する国家に移行させる安保政策の大転換に舵を切った。
「21年春からメディアを通じて台湾有事と中国脅威論を煽った米国の狙い通りに日本は防衛力を大強化した。わずか2年で対中国戦争準備国≠ノ移行した日本の変質は、驚きを通り越し恐怖すら感じる」(岡田氏)
それでは中国は台湾の武力統一に動くのだろうか。習近平総書記長は昨年10月の中国共産党第20回党大会の演説で「完全な統一は必ず実現できる」と台湾統一を強調した。この演説についてNHKを始め多くの日本のメディアは、武力行使も辞さずと報じた。中国が台湾に武力行使を強行する条件は「3つ」と岡田氏は語る。その3条件は台湾独立宣言など中国から離れる事実がつくられたとき、外国干渉を含む分離をもたらしかねない重大事変が発生、平和統一の可能性が完全に失われたときだ。
メディアは台湾有事を煽っているが、これらの条件に当てはまる危ない事態は起きていない。
そもそも武力統一は「最悪の選択」だという。岡田氏はその理由をいつくか挙げた。
「米中の軍事衝突が起きる可能性があり、核戦争まで発展しかねない。キシンジャーは21年4月、『(米中衝突は)世界の終末の脅威が倍増』と警告している。
統一支持が少ない台湾の民意に逆らって武力制圧しても、新たな分裂勢力を抱えるだけで統一の果実がない。武力行使への国際的な反発と経済制裁は、一帯一路計画にもブレーキがかかり経済発展の足を引っ張る。結局、武力行使は共産党の一党支配を揺るがす悪手中の悪手です」
軍事「金食い虫」
大軍拡は日本経済の衰退を加速させる。一口に防衛費といっても、兵器開発・購入費や購入ローンの返済、訓練費、人件費、弾薬や燃料の備蓄費など多岐にわたる。生み出すものが少なく生産性が低いのに莫大な金だけが費やされる金食い虫≠ェ防衛費。すでに日本の一人当たりのGDPはピークの1997年世界4位から21年に27位まで落ちた。米大手金融グループのゴールドマン・サックスは75年の日本のGDPを世界12位に転落と予測したが、防衛費膨張によりさらにダウンするかもしれない。となるともはや先進国とはいえないだろう。
対米追従の大軍拡が行き着き先は日本の国力の著しい低下だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号