2023年03月06日

【月刊マスコミ評・新聞】社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えよ=六光寺 弦

 民主主義社会では世論が政治の流れを変えることがある。新聞が世論調査で何を問い、どう報じるかは極めて重要だ。
 新聞各紙は1月の世論調査で、岸田文雄政権が閣議決定した安保3文書の改定をそろって取り上げた。今後5年間の軍事費を従来の計画の1.5倍、43兆円に増やすことについて、財源を増税で賄うことへの賛否を問う質問が目立った。結果はいずれも反対が圧倒。朝日新聞調査では反対71%、賛成24%、読売新聞の調査も反対63%、賛成28%といった具合だ。

 ただし、財源は二次的なこと。こんな軍拡=軍事費増を認めていいのか、その賛否を直接問うた調査は多くはなく、目にした範囲では朝日、読売、産経新聞=FNN合同の3件だった。
朝日の調査結果は賛成44%、反対49%。読売もほぼ同じで賛成43%、反対49%。これに対して産経・FNN合同調査では賛成50.7%、反対42.8%と、賛成が反対を上回った。
産経は1月24日付1面準トップ記事に、「防衛費増額、賛成50.7%」の見出しを立てた。軍拡推進を社是とする産経としては、「過半数が軍拡支持」は最大限に強調したかったのだろう。
 だが昨年10月の調査では、「防衛費の増額」への賛成は62.5%に上っていた。軍拡への支持は昨年秋より減っているのだ。産経の記事はそのことには触れない。

読売の調査でも、昨年12月には軍事費の大幅増に賛成は51%、反対42%だった。その前月、11月の調査では、「日本が防衛力を強化すること」への賛成は68%に達していた。賛否は逆転だが、読売も報道ではそのことを明記しない。読売も社論は軍拡支持だ。
 ウクライナ情勢、北朝鮮のミサイル発射、中国脅威論の喧伝といった中で、岸田政権の軍拡路線は当初、世論の6割から7割近くの支持を得た。しかし世論は変わってきている。主な要因が増税への拒否感だとしても、国民の生活の犠牲の上にしか軍拡は成り立たないことや、敵基地攻撃能力を保有することの危うさなどへの理解が進めば、さらに世論は変わる。

 新聞は恣意的な報道を慎み、社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えるべきだ。さもないと、戦争遂行に加担した愚を繰り返すことになりかねない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする