佐高信は対談の名手である。軽妙な語り口で相手の気持ちを解きほぐし、いつの間にか本質に迫っていく。しかし本書はいつもの佐高節ではない。のっけから正攻法の質問を繰り出す。あの「沖縄密約スクープ」の西山太吉ががっしりと受け止め真剣な言葉が飛び交う中身の濃い対談となった。
西山は1956年、毎日新聞入社、やがて政治記者となり自民党「宏池会」を担当、宏池会の懐の深さに惚れ込む。今の岸田首相が所属する派閥である。派閥の力学と闘争の凄まじさを西山は淡々と語る。池田勇人元首相や、とくに大平正芳元首相としきりに酒席を共にして胸襟を開き、さまざまなスクープをものにしていく過程は、いわゆる旧い政治記者そのものだが、そこに平和への希求という裏付けが仄見えるので、納得させられてしまう。
この辺りはまさに、戦後政治史、それも自民党派閥史だ。しかしスクープ記者としての西山が最後の光を放ったのは、「沖縄密約」問題スクープであった。本書の「第六章・沖縄密約、その構図を多面的に分析する」で政治に翻弄されるジャーナリストの厳しい闘いに触れる。1972年の沖縄返還に伴う裏金400万ドルを日本側が負担するという密約を暴き、佐藤栄作内閣を震撼させる。だがそれは一転、西山が女性事務官と情を通じ#髢ァ文書を持ち出させたというスキャンダルに転じる。政治と司法が組んだ図式にメディアはまんまと乗せられていく。佐高は「国家のウソを暴いた記者は残念ながら西山だけである」と嘆くのだ。
まさに「西山太吉の最後の告白」とのタイトルに相応しい新書である。