2023年05月11日

【おすすめ本】五味洋治『英語と中国語 10年後の勝者は』―中国語ブーム欧米で加熱 英・中国語が語学の基礎に=上乃久子(NYタイムズ東京支局記者)

 世界の最強の公用語として揺るぎない地位を保っていた英語と「中国」の台頭により覇権言語としての中国語の将来性を見据え、東アジア情勢に精通したジャーナリストで、国際結婚し子息の英語教育に熱心な父親でもある著者が、綿密な取材と実体験を踏まえ、外国語を学ぶ必要性を説いた書。

 欧米各国の政治家、大手企業家、セレブやその子息の中国語ブームの加熱ぶりは顕著だ。
トランプ元米大統領の中国公式訪問で、英才教育を受けた孫娘が、流暢に中国語の歌を熱唱する動画を習近平主席夫妻に披露したことは記憶に新しい。一方で、中国の「ソフトパワー」の普及機関として全米に次々に開設された「孔子学院」が、悪化する米中関係の煽りで、「シャープパワー」と敵視され、閉鎖に追いこまれる逆風も吹いた。中国の投資が旺盛なアフリカでは、中国語が50年以内に公用語の一つになる可能性も示唆している。

 かたや、アメリカの人口を超える4億人が、英語を学ぶ中国の章では、子供向けオンライン英会話教室が急成長、国際バカロレアを提供する学校も増加し、英語の実力で人生の一発逆転が可能になる「懸命さ」の差が日中間の英語学習熱にはあると指摘。
翻って、ガラパゴス化している日本語の地位は、英語、中国語、韓流ブームに沸く韓国語に比べ、低下したと警鐘を鳴らす。
米中の対立は間違いなく長期化するとの予測に基づき、王道の英語よりもライバルの少ない中国語が選択肢となりうると説いている。英語と中国語の二兎を追うことが、外国語学習のスタンダードになるかもしれない。
                   
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2023年05月10日

【訃報】林 秀起さんが死去 JCJ北海道支部代表委員=山田寿彦

 北海道支部代表委員の林秀起さんが2月19日、すい臓がんのため、札幌市の病院で死去した。79歳。葬儀は近親者のみで営まれた。
                 ◇     ◇
 低音で発せられる「林語録」はキレとツヤがあり、ジャーナリストであることの自負と気概に満ちていた。酒席を包み込む呵々大笑が今も耳から離れない。「山田君、酒は命がけで飲むもんだ」。酒豪らしい一言が潔く、格好良かった。
 出会いは1986年。私は入社2年目の毎日新聞釧路支局員、林さんは朝日新聞釧路支局長。朝日の新人記者から支局長に毎晩しごかれる話をよく聞かされた。
「原稿を何度書き直しても通してくれない」と彼はこぼした。「この原稿のどこにお前の主観があるのか」と問い詰められるのだという。主観なき客観報道はあり得ないという林さんの教えは私の記憶に深く刻まれた。
 ある晩、林さんから酒場に誘われた。他社の駆け出し記者に何の用事かと思ったら、「朝日新聞に来てもらったら困りますか」と言われて驚いた。お断りしたのだが、いささか誇らしい気分になり、自分では自信があった連載記事の感想を尋ねた。「あれはあまり良くなかったなあ」と意外な答え。理由を聞くと、「記者に演説はいらない」。鋭い一言に大きな勘違いを思い知らされた。
 林さんは室蘭勤務時代、有珠山噴火(2000年3月)に遭遇し、現地で開かれたJCJの全国交流集会に案内役として参加したのを契機に入会。退社後は北海道支部運営委員、事務局長、代表委員を歴任した。植村バッシング≠ニ闘った「植村裁判を支える市民の会」では事務局次長として雑務をこなし、ご意見番的な存在でもあり続けた。
 いただいた言葉だけでなく、生き方そのものが私の「師匠」であった。「山田君、ジャーナリストにリタイアはないんだ」。いつもの声で、林さんのそんな言葉が聴こえる気がする。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号

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2023年05月07日

【今週の風考計】5.7─おいおい、これほどまでに命が粗末にされていいのか!

命を守る1週間
風薫る5月、青葉が芽吹き、鳥は鳴き、生きとし生けるもの全ての命が輝く。この1週間、命を大切にする取り組みや行事が目白押しだ。
 8日は「世界赤十字デー」─今から164年前、イタリアが統一を目指しオーストリアと交戦していた激戦地で、スイス人の実業家アンリー・デュナンが両国の負傷者を救護する活動に従事していた。
 その経験を活かし4年後に赤十字国際委員会の前身「五人委員会」を立ち上げ、国際赤十字組織の原点を作った。彼の誕生日を記念して制定された。
同日は「第2次世界大戦で命を失った人たちのための追悼と和解のためのとき」と名づけ、9日まで取り組む国際デーでもある。ナチス・ドイツが連合国軍に無条件降伏した文書の調印・批准にちなみ、2004年に制定されている。
 だがロシアのプーチン大統領は、9日のロシア「対独戦勝記念日」を、本来の「追悼と和解のためのとき」という精神を踏みにじり、「ウクライナをネオナチとみなし軍事進攻を正当化」する日にすり替え、いっそう国民を煽ろうとしている。

アルガンノキデーとは
10日は国際アルガンノキデー。あまり聞いたことのない国際デーだが、アフリカの北西端に位置するモロッコ王国に固有の樹木・アルガンノキを大切にする日。人類の無形文化遺産および持続可能な開発の源として、2021年2月に制定された。
 アルガンノキは、樹高10メートルほどの常緑樹で樹齢は150年を超える。その木にヤギが登っている写真を見た方もあるだろう。乾燥に強く種子から取れる油が貴重なアルガンオイルとして古くから利用されている。近年は化粧品にも使われ注目されている。
12日は国際看護師の日─近代看護の基礎を築いたイギリスの看護師フローレンス・ナイチンゲール(1820〜1910)の功績を称え、彼女の誕生日に由来して1965年から始まった国際デー。日本でも1990年に「看護の日」として制定されている。
14日は母の日。5月の第2日曜日に充てられている。由来は115年ほど前の米国でアンナ・ジャービスという女性が亡き母を追悼するため、教会で白いカーネーションを配ったのが始まりといわれる。
 その後、米国全土に広がり、1914年に正式に制定された。日本でも翌年の1915(大正4)年には教会で母の日のイベントが行われ定着した。

国会では軍拡法案のゴリ押し
すでに10日からは愛鳥週間が始まり、13日は愛犬の日と続く。こうした生きとし生けるもの全ての命を大切にする重要な5月。ところが岸田政権は命を危うくする法案のゴリ押しに懸命だ。
 4月末の国会では原発推進法案、保険証廃止のマイナンバー法案、入国管理法案など人の命にかかわる悪法を次ぎ次ぎと採決し、参院に回して成立を図る。
連休が明けるや、またまた岸田政権は維新や国民民主の協力・応援を頼みに、5年間で43兆円の軍拡財源法案、防衛力強化資金を創設する軍需産業支援法案など、矢継ぎ早の成立に向け、公聴会も開かず突っ走る。こんな法案に命を懸けるとは愚の骨頂。政治の堕落は極まれり。 (2023/5/7)

※本コラムは2005年4月15日以来、毎週日曜日に掲載してきましたが、今回をもって終了します。
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2023年05月04日

【おすすめ本】前泊博盛・猿田佐世監修+新外交イニシアティブ編『世界のなかの日米地位協定』─主権を放棄し対米従属する歪みが日本全土へ拡大=中野晃一(上智大学教授)

 岸田政権が昨年末安保3文書を閣議決定するのに先んじ「政策提言 戦争を回避せよ」を公表したシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の編集による最新刊。
 「世界のなかの日米地位協定」の書名が示す通り、本書は国際比較の視点から、日本の対米従属という異常な歪みを日米地位協定に焦点を置いて明らかにしている。
 日米安保条約が1960年に改定された際に表裏一体となって締結されて以来、一度も改定されずに今日に至る地位協定の全文を含め、さまざまなデータや資料、問題事例がわかりやすくまとめられている。

 対米従属の歪みが沖縄をはじめ日本国内の深刻な課題として、PFASによる重大な環境汚染被害など、今もなお経験されつづけているが、その根源が地位協定にあることが、否応なく読者に突きつけられる。これは私たちが日本の主権者として知らなくてはいけないことなのだ。
 監修者である前泊博盛と猿田佐世の巻頭言やまとめの対談が私たちに問うのは、憲法も国内法も民主的統制も利かない、主権放棄の対米従属の実態を「沖縄問題」として、見て見ぬふりをしてきた本土メディアや日本国民の欺瞞と怠慢である。
 米軍の駐留する他国で認められている国内法の原則適用や地位協定の改定が一度もできないのは日本の民主主義の不在と法治国家の空疎が原因だからである。

 「沖縄のことだから」と看過してきた日本の民主国家、法治国家としての自己決定権の喪失が、安保法制に続く安保3文書の改定で、今や日本全土で実感される事態に入った。遅くに失したとは言え、まずは本書で学び知ることである。(田畑書店1800円)
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2023年05月03日

【紙魚の独り言】松尾芭蕉は<あそび>の天才だった!=萩山 拓(ライター)

 大型連休を利用して、多くの人が旅に出ることだろう。連休からは10日ほど後だが、俳諧師・松尾芭蕉もまた江戸・千住を出て東北へと旅立った。今から336年前の5月16日だ。5カ月かけて太平洋側を北上し東北・北陸を巡り、日本海側を南下して岐阜県の大垣までの旅をした。
 その行程は曽良のメモと合わせ、「おくのほそ道」として後世に残されている。まさに今でいう旅行ガイドブックでもある。

 芭蕉といえば<わび・さび>の象徴、俳聖ともいわれてきた。<あそび>などとは無縁の畏れ多き俳諧師だ。ところが芭蕉は言葉を自在に操って、仲間たちや鑑賞する者たちに、<笑い>の句を作り、<あそび>の心でもてなそうとしていたと説く書が刊行されている。深沢眞二『芭蕉のあそび』(岩波新書)だ。
 俳諧の本分は、たわむれ、滑稽にあると言い切られると、筆者には戸惑いばかりが残る。だが本書を読むと、芭蕉が心したのは、その精神であるのが分かる。
 第一章で「しゃれ」の妙味を明かし、第二章でパロディを、第三章で「もじり」「なりきり」などの技法に触れ、第四章では「なぞなぞ」の遊びまで、芭蕉が五七五の文字に、言葉の力を注ぎ込み、人びとに笑いをもたらすことに苦闘した俳諧師であったことを、実証している。

 『源氏物語』や『平家物語』『徒然草』などの古典を取り込んだ句を始め、有名な能の謡曲を「もじり」にして遊ぶ句など、著者の謎ときは鮮やかだ。芭蕉が主催する句会に参加する当時の文化人の学識を、十分にくすぐる知的な<あそび>を、芭蕉は用意していた。
 とりわけ第五章の「蛙はなぜ飛びこんだか」を読むと、あの名句が誕生する経緯や背景が、俳諧仲間のやり取りも含め、まさに「古池」をめぐる長期間にわたる<あそび>であったことが分かる。
 まさに目からうろこ。芭蕉と仲間たちの掛け合いの妙味を解説する本書は、時に難しく、時に呻ったり、時に理解が及ばず、少し手こずるが、芭蕉の新しい顔に出会う楽しさで相殺されること間違いなし。
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