マラリアに罹患した人の話を初めて聞いた。
山里節子さん、家族8人のうち弟以外全員が罹患し、母と祖父を亡くした。
彼女は3日間熱を出し数日は落ち着くがまた3日間40度の熱にうなされるという繰り返し。1、2ケ月たつと髪の毛が抜けてケロイド状になる。脾臓が腫れて妊娠したように腹がふくれる。症状は人によるらしいが彼女の場合、踵がジンジンと痛く冷たくなり、それがだんだん身体の上のほうにあがっていき骨の髄まで寒くなる。どれだけ寝具を重ねてもダメ。軍部に薬はあったけど、使えたのは上官だけだったと後で聞いた。
そんなマラリアの蔓延する山の中に軍は住民を強制移動させた。
山里さんの妹は生後4ケ月で栄養失調で壕の中で死んだが、その壕は軍が住民を動員して掘らせたもの。戦争に勝つようにと勝代と命名された妹は死ぬために生まれたようなものだと淡々と話される。
そもそも軍が守るという「国」とは本来国民であり、国民の暮らしではないのか。
会議室で誰かが戦争を街に招き入れ、そこに住む人々がその犠牲になる。
山里さんが抱く国に対する不信感はこうした体験によるもので、守らなければならない住民をこのように扱った憤りが抑えられないという彼女は、いま自分の島が自衛隊基地によって無残な姿にされるのを阻止することに力をそそいでいる。
山里さんが死なないで本当によかった。しかし、いままた彼女の平穏な暮らしを守れないことに私たちも心が痛い。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号