北海道の人口2700人余りの小さな町・寿都町が、揺れている。町長が過疎化脱却を図ろうと、核のごみの最終処分場の調査に手を挙げたからだ。昨年度のJCJ賞を受賞した北海道放送(HBC)の番組、「ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜核のごみと科学と民主主義」は、この町の動きを2年に渡って取材し、まとめたものだ。
3月26日に開かれたJCJ賞受賞作品のオンライン講演会には、この番組の制作にあたった山ア裕侍報道部デスクが、この番組に込めたメッセージや、ちょうど国会で明かるみに出た放送法への政治家の介入問題について語った。
核のごみは何を問う
「2020年8月に北海道新聞のスクープでこの問題は明らかになりました。以来HBCは、この問題に関して、この3月までで430回近く取り上げてきました。政府は原発の稼働を60年に延長することを打ち出しましたが、そうなると核のごみも増えます。その視点からも今月、放送を出しました。WBCで盛り上がる中でしたが、伝えていくことが大事だと思ったからです」
寿都町は調査を受け入れることで、交付金をもらうのだが、山アさんはこうした構図について「交付金は過疎対策にはなりません、道内で原発のある泊村は依存している原発が休止しているため財政難に陥っています。地方に迷惑施設を押し付けることでしかありません」と指摘し「鈴木知事は核のごみの調査には反対しているのですが、泊原発の再稼働については明言しておらず矛盾しています」と手厳しい。そのうえで、核のごみの問題が浮き彫りにした点について次のように整理した。
〇本来は国レベルで考えなければならないことが地方の問題にされてしまう。迷惑施設が地方に押し付けられる、沖縄の辺野古基地建設と同じように。
〇核燃料サイクルと同様に核のごみ政策も破綻が指摘されている。しかし政権は科学的知見を無視している。一方のメディアも科学的な検証報道を殆どしていない。
放送法をめぐって
国会で放送法への政治家の介入が明らかになったが、山アさんは放送法の政治的公平とは何だろうか、と問う。そして「放送法は、戦前の反省から、表現の自由を守るものだ。政治的公平とは、放送事業者の倫理規範であって、そもそも放送の内容に政治家が口出しすること自体が、問題だ」と語った。HBCではすでに5年前に憲法を考えるシリーズの中で表現の自由と不偏不党について取りあげている。講演会ではそのビデオも合わせて紹介された。
最後に山アさんは「地方は課題の先進地であり、憲法と民主主義の現場であり、記者はその最前線にいる」「地方で頑張っている記者たちの話をもっと聞いてほしい」と呼びかけた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号