2024年01月31日
2024年01月30日
【おすすめ本】猫塚義夫・清末愛沙『平和に生きる権利は国境を超える パレスチナとアフガニスタンにかかわって』─人道支援を続けてきた医師と法学者が鋭く問う=香山リカ(精神科医)
アフガニスタンやパレスチナで起きている人道危機。ニュースでは知っていても、それが世界地図のどのあたりで起きているのか分からない、という若者もいる。彼らに関心を持ってもらうのに必要なのは、「具体的な話」だ。
本書は、北海道パレスチナ医療奉仕団の団員として、アフガニスタンやパレスチナで、人道支援を続けてきた法学者と医師による対話集である。
両人とも学術的バックグラウンドを持つ“行動の人”だ。過去の支援活動においてガザ地区の病院で手術をしていたら停電になり、看護師たちがスマホの灯りをかざして手元を照らしてくれた、といった猫塚医師の話にリアリティを感じない人はいないだろう。
こういった生々しい話が続いたあと、ふたりは日本国憲法が持つ先駆性について語る。とくにその前文に、日本国民のみならず全世界の国民が、「平和のうちに生存する権利を有する」と謳われていることの意義だ。
清末教授は言う。「私たちの活動は国境を越えた活動に見えるでしょう。それは間違いではありませんが、同じレベルで足元の日本の社会での平和的生存権の実現をめざすことが肝要です。足元を見ずに、国境を越えて活動はできません。」
さらにふたりは、先住民族アイヌが住む土地を収奪して成り立った歴史を持つ北海道の団体が、イスラエルに植民地化されたパレスチナにかかわる意義にも触れる。実は私も北海道パレスチナ医療奉仕団のメンバーである。まだ現地を訪れたことはないのだが、事態が少しでも落ち着いたら必ず医療支援に出かけたい。(あけび書房1600円)
本書は、北海道パレスチナ医療奉仕団の団員として、アフガニスタンやパレスチナで、人道支援を続けてきた法学者と医師による対話集である。
両人とも学術的バックグラウンドを持つ“行動の人”だ。過去の支援活動においてガザ地区の病院で手術をしていたら停電になり、看護師たちがスマホの灯りをかざして手元を照らしてくれた、といった猫塚医師の話にリアリティを感じない人はいないだろう。
こういった生々しい話が続いたあと、ふたりは日本国憲法が持つ先駆性について語る。とくにその前文に、日本国民のみならず全世界の国民が、「平和のうちに生存する権利を有する」と謳われていることの意義だ。
清末教授は言う。「私たちの活動は国境を越えた活動に見えるでしょう。それは間違いではありませんが、同じレベルで足元の日本の社会での平和的生存権の実現をめざすことが肝要です。足元を見ずに、国境を越えて活動はできません。」
さらにふたりは、先住民族アイヌが住む土地を収奪して成り立った歴史を持つ北海道の団体が、イスラエルに植民地化されたパレスチナにかかわる意義にも触れる。実は私も北海道パレスチナ医療奉仕団のメンバーである。まだ現地を訪れたことはないのだが、事態が少しでも落ち着いたら必ず医療支援に出かけたい。(あけび書房1600円)
2024年01月29日
【焦点】万博総額14兆円、これで打ち止めではない、維新崖っぷち=橋詰雅博
2025年4月に開催するという大阪・関西万博への批判が高まる一方だ。
その原因は膨れ上がるばかりの費用にある。政府が昨年末に公表した試算では、運営費1160億、会場設営費2350億、万博にかかわるインフラ整備費8390億だ。17年の誘致立候補申請時と比べると、運営費1・4倍、会場設営費1・8倍、インフラ整備費10倍にもハネ上がっている。このため合計1兆1900億に増えた。
この要因は@会場の夢洲(ゆめしま)への電気、上下水道、交通などの整備が必要A廃棄物、建設残土、浚渫土砂などで埋め立てた夢洲は軟弱地盤、土壌汚染の対策が必須、B資材や人件費の高騰などだ。
費用はさらにかさむ。万博に向けた行動計画事業「空飛ぶクルマ」実証実験など約3兆4000億、万博に便乗した大型開発と指摘されている中国・四国地方の道路整備や河川改修などインフラ整備費用約9兆が試算されている。なんと総額約14兆という金額になる。当然ながらこれには多くの血税が使われる。
しかもこれで打ち止めではない。この先まだまだ増えると予測されている。万博と密接につながるIR(カジノを含む総合リゾート施設)開設も目指しているからだ。だからどの世論調査でも万博開催は、反対が多数を占める。運営費の多くを賄うのは入場料収入だが、「万博チケットを購入したいと思わない」は79%(23年12月17付毎日新聞)にものぼる。
関西学院大学法学部の冨田宏治教授は「大阪・関西万博をめぐる総額14兆円という法外な関連費用が問題になっています。『税金の無駄遣いを許さない』という日本維新の会の旗印がブーメランのように維新を襲い始めています。万博問題は維新のアキレス腱≠ノなろうとしています。維新支持層の中でも『万博不要』の声は高まっている(12月17日付毎日世論調査では7割強)」と述べている(1月27日付新婦人しんぶん)。
岸田政権は即刻、万博を中止し、能登半島地震の被災地支援と復興のためにカネ、ヒト、モノを最大限投じるべきだ。これが今やるべき最優先の政策ではないか。
その原因は膨れ上がるばかりの費用にある。政府が昨年末に公表した試算では、運営費1160億、会場設営費2350億、万博にかかわるインフラ整備費8390億だ。17年の誘致立候補申請時と比べると、運営費1・4倍、会場設営費1・8倍、インフラ整備費10倍にもハネ上がっている。このため合計1兆1900億に増えた。
この要因は@会場の夢洲(ゆめしま)への電気、上下水道、交通などの整備が必要A廃棄物、建設残土、浚渫土砂などで埋め立てた夢洲は軟弱地盤、土壌汚染の対策が必須、B資材や人件費の高騰などだ。
費用はさらにかさむ。万博に向けた行動計画事業「空飛ぶクルマ」実証実験など約3兆4000億、万博に便乗した大型開発と指摘されている中国・四国地方の道路整備や河川改修などインフラ整備費用約9兆が試算されている。なんと総額約14兆という金額になる。当然ながらこれには多くの血税が使われる。
しかもこれで打ち止めではない。この先まだまだ増えると予測されている。万博と密接につながるIR(カジノを含む総合リゾート施設)開設も目指しているからだ。だからどの世論調査でも万博開催は、反対が多数を占める。運営費の多くを賄うのは入場料収入だが、「万博チケットを購入したいと思わない」は79%(23年12月17付毎日新聞)にものぼる。
関西学院大学法学部の冨田宏治教授は「大阪・関西万博をめぐる総額14兆円という法外な関連費用が問題になっています。『税金の無駄遣いを許さない』という日本維新の会の旗印がブーメランのように維新を襲い始めています。万博問題は維新のアキレス腱≠ノなろうとしています。維新支持層の中でも『万博不要』の声は高まっている(12月17日付毎日世論調査では7割強)」と述べている(1月27日付新婦人しんぶん)。
岸田政権は即刻、万博を中止し、能登半島地震の被災地支援と復興のためにカネ、ヒト、モノを最大限投じるべきだ。これが今やるべき最優先の政策ではないか。
2024年01月28日
【おすすめ本】春増翔太『ルポ歌舞伎町の路上売春 それでも「立ちんぼ」を続ける彼女たち』―摘発リスク高いのになぜ「売る]? 彼女たちの再生のヒントを提供=坂爪真吾(NPO法人風テラス理事長)
繁華街での路上売春は、極めて摘発リスクの高い行為である。普通に考えれば「なぜわざわざそんな危ない真似をするのか」「風俗店やアプリで相手を見つければいいのでは」と思うだろう。
売買春に関わる男女にとって、路上のメリットは「相手の顔が見える」ことにある。風俗店ではサービスの直前まで相手の顔が見えない。アプリを介した出会いでも同様だ。売り手と買い手の双方にとって「事前に顔が見える」ことによる安心感は大きい。
「今すぐ現金が得られる」という点もメリットだ。風俗店で働くためにも、面接や身分証の提示などが必要になる。路上であれば、そうした手続きを踏まずに、その場で稼げる。
本書は、こうした「都合の良い果て」で生きる女性たち、その背後にある社会課題について、丹念な取材を通して明らかにした力作である。
路上売春の背景には虐待歴や精神疾患などの福祉的な課題があるが、彼女たちにとって福祉は「都合の良くない」世界である。シェルターに入ればスマホは使えないし、夜職で稼ぐこともできなくなる。しかし、「都合の良い果て」にもずっといられるわけではない。
取締や啓発と並行して、彼女たちが「都合の良くない世界」でも生きられる耐性やスキルを身に着ける機会を提供すること。そのために必要な他者との関係性を再構築し、社会への信頼を取り戻すこと。困難な茨の道だが、本書の中には、それらを実現するためのヒントがたくさん詰まっている。(ちくま新書900円)
売買春に関わる男女にとって、路上のメリットは「相手の顔が見える」ことにある。風俗店ではサービスの直前まで相手の顔が見えない。アプリを介した出会いでも同様だ。売り手と買い手の双方にとって「事前に顔が見える」ことによる安心感は大きい。
「今すぐ現金が得られる」という点もメリットだ。風俗店で働くためにも、面接や身分証の提示などが必要になる。路上であれば、そうした手続きを踏まずに、その場で稼げる。
本書は、こうした「都合の良い果て」で生きる女性たち、その背後にある社会課題について、丹念な取材を通して明らかにした力作である。
路上売春の背景には虐待歴や精神疾患などの福祉的な課題があるが、彼女たちにとって福祉は「都合の良くない」世界である。シェルターに入ればスマホは使えないし、夜職で稼ぐこともできなくなる。しかし、「都合の良い果て」にもずっといられるわけではない。
取締や啓発と並行して、彼女たちが「都合の良くない世界」でも生きられる耐性やスキルを身に着ける機会を提供すること。そのために必要な他者との関係性を再構築し、社会への信頼を取り戻すこと。困難な茨の道だが、本書の中には、それらを実現するためのヒントがたくさん詰まっている。(ちくま新書900円)
2024年01月27日
【焦点】一編の詩がガザの希望と絶望を引き起こす=橋詰雅博
パレスチナ自治区ガザの住民に希望を与えた詩がある。詩人でジャーナリストのアハマドが2018年ネットにあげたもので、こんな詩だ。
私は空を飛ぶ鳥を見上げた/鳥たちは有刺鉄線の塀を隔てた両側の木々の間を自由に飛び回っていた/なぜ私たちは単純なことを複雑に考えるのか/行きたいところへ鳥のように自由に行くことは人間の権利ではないだろうか/これ以上に単純なことはないではないか/鳥は飛びたいと思うから飛ぶのだ
日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会の昨年末のオンライン学習会で講演した中東問題研究家の平井文子氏は、そして彼は平和的な手段による抵抗運動を提案したという。平井氏が続けた。
「もしも、何千何万のパレスチナ人が平和裏に行進し、1948年(イスラエル建国宣言、大量のパレスチナ人が難民に)以来排除されてきた土地から切り離すフェンスを越えたら何が起きるだろうか。非暴力的な民衆行動がパレスチナ人の権利を取り戻し、世界最大の天井のない監獄から彼らを解放すると信じた」
実際、この年の3月からガザの大帰還行進が実現した。厳重に武装化されたフェンスに向けて行進が毎日のように続いた。それに呼応して、イスラエルの反シオニストグループ(パレスチナの地にイスラエル国家をつくることに反対する組織)が彼らを歓迎するためにフェンス近くまで行った。お互いに手を振り、携帯電話で話した。こうした平和的な抗議活動は1年以上続いたが、イスラエルは強権的な弾圧により抗議活動を鎮圧した。
「フェンスに常駐するイスラエル軍のスナイパーが参加者をテロリストと決めつけ標的にした。合計214人が射殺され、3万6100人が負傷した。こうしたガザの人たちの平和的な反占領闘争に対するイスラエルの暴力的な仕打ちをマスメディアはほとんど伝えなかったのです」(平井文子氏)
一編の詩がガザの希望と絶望を引き起こした。悲しくてやりきれない話ではないか。
私は空を飛ぶ鳥を見上げた/鳥たちは有刺鉄線の塀を隔てた両側の木々の間を自由に飛び回っていた/なぜ私たちは単純なことを複雑に考えるのか/行きたいところへ鳥のように自由に行くことは人間の権利ではないだろうか/これ以上に単純なことはないではないか/鳥は飛びたいと思うから飛ぶのだ
日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会の昨年末のオンライン学習会で講演した中東問題研究家の平井文子氏は、そして彼は平和的な手段による抵抗運動を提案したという。平井氏が続けた。
「もしも、何千何万のパレスチナ人が平和裏に行進し、1948年(イスラエル建国宣言、大量のパレスチナ人が難民に)以来排除されてきた土地から切り離すフェンスを越えたら何が起きるだろうか。非暴力的な民衆行動がパレスチナ人の権利を取り戻し、世界最大の天井のない監獄から彼らを解放すると信じた」
実際、この年の3月からガザの大帰還行進が実現した。厳重に武装化されたフェンスに向けて行進が毎日のように続いた。それに呼応して、イスラエルの反シオニストグループ(パレスチナの地にイスラエル国家をつくることに反対する組織)が彼らを歓迎するためにフェンス近くまで行った。お互いに手を振り、携帯電話で話した。こうした平和的な抗議活動は1年以上続いたが、イスラエルは強権的な弾圧により抗議活動を鎮圧した。
「フェンスに常駐するイスラエル軍のスナイパーが参加者をテロリストと決めつけ標的にした。合計214人が射殺され、3万6100人が負傷した。こうしたガザの人たちの平和的な反占領闘争に対するイスラエルの暴力的な仕打ちをマスメディアはほとんど伝えなかったのです」(平井文子氏)
一編の詩がガザの希望と絶望を引き起こした。悲しくてやりきれない話ではないか。
2024年01月26日
【出版トピックス】能登半島地震が招いた2つの出来事、そして本屋「書楽」再開=出版部会
■「インプ稼ぎ」
能登半島地震が発生した直後から、12年前の東日本大地震で起きた大津波の動画を、自分の動画に貼り付け、あたかも能登地震に関係するかのように装い、Xに投稿するユーザーが急増した。
これはフェイク動画を付けて「アッと驚かせ」、アクセス回数を増やし、広告収入を見込む金儲けを目的にした「インプレッション(表示回数)稼ぎ」が指摘されている。
2023年夏にX社のイーロン・マスクが導入し展開している「広告収益分配プログラム」が悪用され、フェイク拡散を助長させている。
この「広告収益分配プログラム」とは、有料サービスの「Xプレミアム」に登録したアカウントを使い、特定の条件を満たしたユーザーの投稿に「返信」の形で広告が掲載されると、広告収益の一部がユーザーに分配されるプログラムだ。こうしたフェイクを助長しかねない「インプ稼ぎ」には、何らかの規制が必要ではないか。
■本送らないで
能登半島地震の被災地へ送られる「迷惑な支援物資」が問題となっている。賞味期限が切れている食品類、すでに使ったと思われる衣類や消耗品の残り、たとえ善意からの支援だとしても、現地では扱いに困っているのが実情だ。
そんな中、「日本図書館協会」は、被災地以外に住む一般の人々に向け「被災地や避難所に直接、本は送らないでください」と呼びかけている。阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験から、「被災地に本を送っても、読書ニーズよりも被災の片づけ作業にてんてこ舞いの上、置き場所がなく廃棄せざるをえないケースが出た」という。
それでは、どう支援すべきか。日本図書館協会は、被災地の県立図書館と連絡を取り合い、設備を復旧した後に本を補充する援助に傾注したいとする。本を直接送るのではなく資金援助により、各図書館が現地のニーズや要望に合わせた本を選書し揃えていく手助けだ。「図書館災害対策のための指定寄付金」も募集している。
■営業を継続
東京のJR中央線阿佐ヶ谷駅前南口のロータリーにある書店「書楽」は、ビル1階の110坪を擁し43年間営業してきたが、今年1月に閉店を表明していた。その後、閉店を惜しむ声が大きくなり、八重洲ブックセンターが店舗を引き継ぎ、2月中旬には再オープンすることになった。
この営業継続に多くの人々が慶び、応援しているという。とりわけ東京都内でも区市町村62自治体のうち7自治体が書店ゼロ、書店1軒の自治体と合わせれば2割に近い。書店が減ることへの危機感が広がり、「町の本屋さん」存続への取り組みが、業界内外で共有されるようになってきた成果である。
能登半島地震が発生した直後から、12年前の東日本大地震で起きた大津波の動画を、自分の動画に貼り付け、あたかも能登地震に関係するかのように装い、Xに投稿するユーザーが急増した。
これはフェイク動画を付けて「アッと驚かせ」、アクセス回数を増やし、広告収入を見込む金儲けを目的にした「インプレッション(表示回数)稼ぎ」が指摘されている。
2023年夏にX社のイーロン・マスクが導入し展開している「広告収益分配プログラム」が悪用され、フェイク拡散を助長させている。
この「広告収益分配プログラム」とは、有料サービスの「Xプレミアム」に登録したアカウントを使い、特定の条件を満たしたユーザーの投稿に「返信」の形で広告が掲載されると、広告収益の一部がユーザーに分配されるプログラムだ。こうしたフェイクを助長しかねない「インプ稼ぎ」には、何らかの規制が必要ではないか。
■本送らないで
能登半島地震の被災地へ送られる「迷惑な支援物資」が問題となっている。賞味期限が切れている食品類、すでに使ったと思われる衣類や消耗品の残り、たとえ善意からの支援だとしても、現地では扱いに困っているのが実情だ。
そんな中、「日本図書館協会」は、被災地以外に住む一般の人々に向け「被災地や避難所に直接、本は送らないでください」と呼びかけている。阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験から、「被災地に本を送っても、読書ニーズよりも被災の片づけ作業にてんてこ舞いの上、置き場所がなく廃棄せざるをえないケースが出た」という。
それでは、どう支援すべきか。日本図書館協会は、被災地の県立図書館と連絡を取り合い、設備を復旧した後に本を補充する援助に傾注したいとする。本を直接送るのではなく資金援助により、各図書館が現地のニーズや要望に合わせた本を選書し揃えていく手助けだ。「図書館災害対策のための指定寄付金」も募集している。
■営業を継続
東京のJR中央線阿佐ヶ谷駅前南口のロータリーにある書店「書楽」は、ビル1階の110坪を擁し43年間営業してきたが、今年1月に閉店を表明していた。その後、閉店を惜しむ声が大きくなり、八重洲ブックセンターが店舗を引き継ぎ、2月中旬には再オープンすることになった。
この営業継続に多くの人々が慶び、応援しているという。とりわけ東京都内でも区市町村62自治体のうち7自治体が書店ゼロ、書店1軒の自治体と合わせれば2割に近い。書店が減ることへの危機感が広がり、「町の本屋さん」存続への取り組みが、業界内外で共有されるようになってきた成果である。
2024年01月25日
【ジャーナリスト講座】前篇1回分=須貝道雄
記者をめざす学生向けにジャーナリスト講座を10月から6回シリーズで開いた。その内容を報告する。
時系列で書かない工夫
★作文講座・報道の文章をどう書くか 朝日新聞・教育コーディネータ―の岡田力さんがオンラインで担当。文章論を述べた後、受講生の作文「声」を一つ一つ批評した。冒頭、「作文の秘訣」について作家・井上ひさしさんの言葉を紹介し、「自分にしか書けないこと」を書くのが肝要で、それは自分の経験を字にすることだと指摘した。
学生の作文で多いのは、ことの順番通りに時系列でものを書いてしまうこと。最初は現在から始まり、次の段落で過去にさかのぼるなど変化をつけ、時系列で書かない工夫を心掛けた方がよいと提案した。
また文章を構成する四つの要素@場面・シーンAかぎ括弧でくくる会話B地の文・説明文Cエピソード・経験――を意識し、これらをうまく組み合わせると、文が生き生きすると語った。
作文のテーマである「声」を辞書でひくと、動物の声や虫の声、鐘の声、風の声、世論を示す人々の声と意味は多様だ。与えられた題から連想することが大事で、他の人が使わないだろう「声」を書いた方が目にとまりやすくなると助言した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
時系列で書かない工夫
★作文講座・報道の文章をどう書くか 朝日新聞・教育コーディネータ―の岡田力さんがオンラインで担当。文章論を述べた後、受講生の作文「声」を一つ一つ批評した。冒頭、「作文の秘訣」について作家・井上ひさしさんの言葉を紹介し、「自分にしか書けないこと」を書くのが肝要で、それは自分の経験を字にすることだと指摘した。
学生の作文で多いのは、ことの順番通りに時系列でものを書いてしまうこと。最初は現在から始まり、次の段落で過去にさかのぼるなど変化をつけ、時系列で書かない工夫を心掛けた方がよいと提案した。
また文章を構成する四つの要素@場面・シーンAかぎ括弧でくくる会話B地の文・説明文Cエピソード・経験――を意識し、これらをうまく組み合わせると、文が生き生きすると語った。
作文のテーマである「声」を辞書でひくと、動物の声や虫の声、鐘の声、風の声、世論を示す人々の声と意味は多様だ。与えられた題から連想することが大事で、他の人が使わないだろう「声」を書いた方が目にとまりやすくなると助言した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月24日
2024年01月23日
【ジャーナリスト講座】前篇2回分の内容=須貝道雄
記者をめざす学生向けにジャーナリスト講座を10月から6回シリーズで開いた。その内容を報告する。
自分で企画する面白さ
◆記者の仕事と昨今のメディア就活事情 初回は10月9日、東京の会場で開いた。講師を務めた共同通信・新崎盛吾さんの記者歴は30年超。「この仕事に人生をかけて良かったと今でも思える」と記者職の魅力を語った。
いま、新聞記者は「花形の職業」ではない。働き方がブラックだ、新聞の影響力が落ちた、ネットでたたかれる、といった負のイメージがある。しかし、取材して情報を発信する専門職としての仕事はなくならない。新聞も規模縮小はあっても「あと40〜50年はあるだろう」と予測した。
新人で赴任した山形支局で新崎さんは「週に1本暇ネタ(急ぎではない話題)を書く」を目標にした。成田支局時代は空港反対派農民と酒の付き合いを深め「自分の興味にはまった」。これを機に北朝鮮や日本赤軍に関心を持ち、よど号ハイジャック事件やテルアビブ空港乱射事件の犯人のインタビューを手掛けた。「海外の日本人の取材を自分の企画でできた。これが記者の面白さ」と裁量の幅の広さを強調した。
遅い防衛省の情報開示
◆若手記者が取り組む沖縄報道 10月15日にオンラインで開催した。講師のNHK沖縄放送局・宮原啓輔記者は1993年生まれ。2019年、新人で那覇に赴任し、今年から沖縄中部支局(沖縄市)に移り、名護市辺野古の米軍基地建設現場も取材している。
支局から嘉手納基地までは車で10分。平日は朝から上空を旋回する米軍機の騒音に悩まされ、大音量の米国国歌を出勤時に聞く。基地の島を実感している。最近の特徴は「南西諸島防衛強化」に伴い、自衛隊のニュースが増えたことだ。防衛省の関係者は「今まで5年間でやった仕事を、ここ1年でやっている」と話した。
問題は防衛省の情報開示が遅いことだという。前日や前々日になって「しれっと急にプレスリリース(発表文書)を出す」。10月に陸上自衛隊のオスプレイが沖縄に飛来し、初めて石垣島の民間空港に着陸した際も、事前には明示せず、メディアが飛来計画を報じた後に公表した。安全保障は大事というが、ツケを払うのは地元の人たち。そこに目を向けてほしいと思いながら取材していると語った。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
自分で企画する面白さ
◆記者の仕事と昨今のメディア就活事情 初回は10月9日、東京の会場で開いた。講師を務めた共同通信・新崎盛吾さんの記者歴は30年超。「この仕事に人生をかけて良かったと今でも思える」と記者職の魅力を語った。
いま、新聞記者は「花形の職業」ではない。働き方がブラックだ、新聞の影響力が落ちた、ネットでたたかれる、といった負のイメージがある。しかし、取材して情報を発信する専門職としての仕事はなくならない。新聞も規模縮小はあっても「あと40〜50年はあるだろう」と予測した。
新人で赴任した山形支局で新崎さんは「週に1本暇ネタ(急ぎではない話題)を書く」を目標にした。成田支局時代は空港反対派農民と酒の付き合いを深め「自分の興味にはまった」。これを機に北朝鮮や日本赤軍に関心を持ち、よど号ハイジャック事件やテルアビブ空港乱射事件の犯人のインタビューを手掛けた。「海外の日本人の取材を自分の企画でできた。これが記者の面白さ」と裁量の幅の広さを強調した。
遅い防衛省の情報開示
◆若手記者が取り組む沖縄報道 10月15日にオンラインで開催した。講師のNHK沖縄放送局・宮原啓輔記者は1993年生まれ。2019年、新人で那覇に赴任し、今年から沖縄中部支局(沖縄市)に移り、名護市辺野古の米軍基地建設現場も取材している。
支局から嘉手納基地までは車で10分。平日は朝から上空を旋回する米軍機の騒音に悩まされ、大音量の米国国歌を出勤時に聞く。基地の島を実感している。最近の特徴は「南西諸島防衛強化」に伴い、自衛隊のニュースが増えたことだ。防衛省の関係者は「今まで5年間でやった仕事を、ここ1年でやっている」と話した。
問題は防衛省の情報開示が遅いことだという。前日や前々日になって「しれっと急にプレスリリース(発表文書)を出す」。10月に陸上自衛隊のオスプレイが沖縄に飛来し、初めて石垣島の民間空港に着陸した際も、事前には明示せず、メディアが飛来計画を報じた後に公表した。安全保障は大事というが、ツケを払うのは地元の人たち。そこに目を向けてほしいと思いながら取材していると語った。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月22日
【支部リポート】北九州 大型弾薬庫 抗議の声 民間空港も「強靭化」=杉山正隆
陸上自衛隊大分分屯地(大分市鴛野、通称=敷戸弾薬庫)周辺の住民らが今年8月11日、集会を開き、「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」を発足させた。分屯地に隣接する団地住民、分屯地近くに立地する大分大学の元教員ら200人が参加して「大分に大型弾薬庫はいらない」と声を上げた。
住民らは分屯地前で着工に抗議する声を上げ続けているが、国は11月29日、同分屯地などに45億円を投入して敵基地を攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル」を保管する大型弾薬庫2棟の着工を開始した。分屯地内の山に約60メートルと約50メートルのトンネルを掘り、地中に弾薬庫を設置する。1棟目は2025年12月、2棟目は26年度中の完成を予定。来年度に湯布院駐屯地(大分県由布市)に配備される新たなミサイル連隊と一体化した運用が見込まれる。
共同代表の1人、賀来進・県保険医協会副会長は「近隣には多くの住民が暮らしている。外国を直接攻撃できる長距離ミサイルを保管する弾薬庫は『標的』となる。抑止力を強化しても戦争は防げない。平和と生活を守るため、国は努力を惜しむべきで無い」と話す。
九州最大規模ともされる富野分屯地(北九州市小倉北区)が住宅地にあり、北九州空港の滑走路3000m化や航空自衛隊築城基地(福岡県築上町)での日米合同訓練などが行われており、北九州支部は軍拡の動きを監視することを決めた。
昨年12月に策定した「国家防衛戦略」で、政府は組織的な戦いを継続する能力を確保するため、5年かけて弾薬庫を増設する方針を打ち出した。青森県むつ市の海上自衛隊大湊地方総監部にも大型弾薬庫を2棟、また全国の自衛隊施設に大型弾薬庫を6棟新設する。鹿児島県瀬戸内町の陸上自衛隊瀬戸内分屯地や、沖縄県宮古島市の陸上自衛隊保良訓練場、海上自衛隊の横須賀地方総監部や舞鶴地方総監部に通常の弾薬庫を整備する計画だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
住民らは分屯地前で着工に抗議する声を上げ続けているが、国は11月29日、同分屯地などに45億円を投入して敵基地を攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル」を保管する大型弾薬庫2棟の着工を開始した。分屯地内の山に約60メートルと約50メートルのトンネルを掘り、地中に弾薬庫を設置する。1棟目は2025年12月、2棟目は26年度中の完成を予定。来年度に湯布院駐屯地(大分県由布市)に配備される新たなミサイル連隊と一体化した運用が見込まれる。
共同代表の1人、賀来進・県保険医協会副会長は「近隣には多くの住民が暮らしている。外国を直接攻撃できる長距離ミサイルを保管する弾薬庫は『標的』となる。抑止力を強化しても戦争は防げない。平和と生活を守るため、国は努力を惜しむべきで無い」と話す。
九州最大規模ともされる富野分屯地(北九州市小倉北区)が住宅地にあり、北九州空港の滑走路3000m化や航空自衛隊築城基地(福岡県築上町)での日米合同訓練などが行われており、北九州支部は軍拡の動きを監視することを決めた。
昨年12月に策定した「国家防衛戦略」で、政府は組織的な戦いを継続する能力を確保するため、5年かけて弾薬庫を増設する方針を打ち出した。青森県むつ市の海上自衛隊大湊地方総監部にも大型弾薬庫を2棟、また全国の自衛隊施設に大型弾薬庫を6棟新設する。鹿児島県瀬戸内町の陸上自衛隊瀬戸内分屯地や、沖縄県宮古島市の陸上自衛隊保良訓練場、海上自衛隊の横須賀地方総監部や舞鶴地方総監部に通常の弾薬庫を整備する計画だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月21日
【フォトアングル】安保法制成立以来、96回目の19日行動=東京・衆議院第2議員会館前、酒井憲太郎撮影
2015年9月19日安保法制強行成立以来、廃止を求めて96回目の19日行動。主催は戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会と、9条改憲NO!全国市民アクションで「パレスチナに平和を!軍拡増税反対!辺野古新基地建設反対!改憲発議反対!」をテーマに千百名が集まった。「11月19日は沖縄で1968年にB52が墜落した日」だと、参院会派、沖縄の風の高良鉄美参議院議員が報告した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月20日
【23図書回顧―私のいちおし】100年先の農、食を巡るシステムとは=鈴木久美子(東京新聞編集委員)
平らな土地に木を植えて、落ち葉を堆肥にして土を肥やす。埼玉県西部で300年以上続いている武蔵野の落ち葉堆肥農法が今年、国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産に認定された。自然に即した伝統的な農法が今も農業として成り立っていることが条件で、生物多様性を高め、地域の文化を培うといった点も審査される。2002年開始のこの制度では、環境、経済、文化など現代の課題を評価していることに、取材した折、感心した。
評価の基準が変われば価値観も変わる。真田純子著「風景をつくるごはん 都市と農村の真に幸せな関係とは」(農山漁村文化協会)は、100年先に向けて農業や農村、食を巡る社会のシステムを変える一歩を探る。
景観工学が専門の大学教授である著者は、徳島に赴任したのを機に農村の風景を研究した。石積みという伝統的な技術を身に付け、伝える活動もしている。農村の風景は農業という営みの結果であり、農家がどのような農業を行うかは、消費者の購買行動や農業政策に左右される―そうした関係性を「風景をつくるごはん」と名付けた。
高度成長以降、生産性や効率を軸に農政、流通、消費が展開した結果、中山間地で過疎化が進んだのが現状だ。これからは環境を軸に据えた農業が経済的に成り立ち、農村の暮らしの豊かさにつながる風景ができないかと著者は考える。そこに関わりのない人はいない。近年いち早く環境保全の視点を組み入れたEUの農業政策も詳細に紹介し、参考になる。
地方の過疎化はイタリアでも同様だ。島村菜津著「世界中から人が押し寄せる小さな村 新時代の観光の哲学」(光文社)は、世界的に注目される同国の「分散型の宿」と訳される取り組みを紹介している。山村で増える空き家を宿泊施設にして、自然や地元の暮らしそのものを楽しむ「本物を求める」旅の提案だ。地方と都市の豊かな関わりの模索でもある。
2024年01月19日
【焦点】トランプがパレスチナ切り捨てを強化 大統領に再選ならその姿勢強める?=橋詰雅博
イスラエルの56年に及ぶパレスチナ占領に対して、アメリカはどういう姿勢なのか。1967年の第三次中東戦争でアラブ諸国に勝ったイスラエルはヨルダンン川西岸とガザ、エジプト領シナイ半島などを武力占領した。そこで国連安保理はイスラエルの占領地からの撤退を決議(「242号議」)。安保理メンバーのアメリカもこの決議に賛成している。イスラエルはすぐに応じなかったが、後にシナイ半島だけはエジプトに返還した。
242号議を維持してきたアメリカだったが、状況が大きく変わったのはトランプが大統領になってからだ。トランプ政権(2017年から21年)はイスラエルの占領承認と難民保護政策から撤退し、パレスチナ切り捨て姿勢を強化した。日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会の昨年末の学習会でオンライン講演した中東問題研究家の平井文子氏はトランプが4年間で行った政策転換を以下のようにまとめている。
・17年12月6日:イスラエルによるエルサレム首都宣言を支持。
・18年1月16日:国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金凍結。それまでは米国はUNRWAの予算の3割を支援。パレスチナには学校700、診療所140があり、UNRWAは難民にとって命綱だ。
・18年5月14日:米大使館をテルアビブからエルサレムに移転。
8月31日:米、UNRWAから脱退。
9月10日:ワシントンにあるパレスチナ自治政府代表部閉鎖。
・19年3月:シリア領ゴラン高原のイスラエルの主権を承認。
11月18日:ポンペオ国務長官がヨルダン川西岸のユダヤ人入植地は国際法に違反していないという見解を示した。
・20年1月28日中東和平案(「世紀のディール」)発表:イスラエルがヨルダン川西岸の占領地に建設した入植地の大部分をイスラエルの正当な領土であると認めた。
8月13日:アブラハム合意発表:米国が仲介したイスラエルとアラブ首長国連邦和平合意。続いてバーレーンを皮切りにスーダン、モロッコがイスラエルとの関係正常化に踏み出した。
この背景にあるのは米国におけるキリスト教シオニズム運動だ。平井氏こう解説した。
「全米クリスチャンの4分の1を占めるキリスト教福音派はイスラエル国家の創設と数百万人のユダヤ人の集住を、イエス復活が間近であるという聖書の予言の実現とみている。米国におけるキリスト教シオニズムは今や白人福音派の間では多数派神学となっている。シオニズムの票は数千万にものぼり、大統領選挙では大きな票田となっている」
このため歴代の米大統領はイスラエル支持を維持している。
トランプが大統領に再選したら、パレスチナ切り捨てをさらに強め中東情勢は一段と混迷を深める。
242号議を維持してきたアメリカだったが、状況が大きく変わったのはトランプが大統領になってからだ。トランプ政権(2017年から21年)はイスラエルの占領承認と難民保護政策から撤退し、パレスチナ切り捨て姿勢を強化した。日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会の昨年末の学習会でオンライン講演した中東問題研究家の平井文子氏はトランプが4年間で行った政策転換を以下のようにまとめている。
・17年12月6日:イスラエルによるエルサレム首都宣言を支持。
・18年1月16日:国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金凍結。それまでは米国はUNRWAの予算の3割を支援。パレスチナには学校700、診療所140があり、UNRWAは難民にとって命綱だ。
・18年5月14日:米大使館をテルアビブからエルサレムに移転。
8月31日:米、UNRWAから脱退。
9月10日:ワシントンにあるパレスチナ自治政府代表部閉鎖。
・19年3月:シリア領ゴラン高原のイスラエルの主権を承認。
11月18日:ポンペオ国務長官がヨルダン川西岸のユダヤ人入植地は国際法に違反していないという見解を示した。
・20年1月28日中東和平案(「世紀のディール」)発表:イスラエルがヨルダン川西岸の占領地に建設した入植地の大部分をイスラエルの正当な領土であると認めた。
8月13日:アブラハム合意発表:米国が仲介したイスラエルとアラブ首長国連邦和平合意。続いてバーレーンを皮切りにスーダン、モロッコがイスラエルとの関係正常化に踏み出した。
この背景にあるのは米国におけるキリスト教シオニズム運動だ。平井氏こう解説した。
「全米クリスチャンの4分の1を占めるキリスト教福音派はイスラエル国家の創設と数百万人のユダヤ人の集住を、イエス復活が間近であるという聖書の予言の実現とみている。米国におけるキリスト教シオニズムは今や白人福音派の間では多数派神学となっている。シオニズムの票は数千万にものぼり、大統領選挙では大きな票田となっている」
このため歴代の米大統領はイスラエル支持を維持している。
トランプが大統領に再選したら、パレスチナ切り捨てをさらに強め中東情勢は一段と混迷を深める。
2024年01月18日
【出版界の動き】読者・クリエイター・地域と協働する新たな挑戦=出版部会
◆能登半島地震による書店被害状況は、1月5日午前10時時点で被災書店309店。そのうち「再開未定」が24店、「状況確認中」が5店。280店が「すでに営業再開および一部のみで営業再開」している。
北陸地方に店舗展開する勝木書店では、ほぼ全店で商品落下などの被害。石川県内の6店舗が大きな被害。天井やガラス什器が破損。同地域が断水のため臨時休業中。復旧のめどがたっていない。
◆23年11月の出版物販売金額865億円(前年比5.4%減)、書籍493億円(同2.9%減)、雑誌372億円(同8.5%減)。月刊誌313億円(同9.2%減)、週刊誌58億円(同4.2%減)。返品率は書籍34.0%、雑誌42.2%、月刊誌41.0%、週刊誌47.8%。相変わらず週刊誌の落ち込みが続く。
23年の年間販売金額は1兆638億円前後。かろうじて1兆円は維持したが、それも定価値上げに負うところが大きい。
◆出版物のルート別販売金額を見ると、マイナス幅が大きいのはコンビニルート。23年度の売り上げは1000億円を下回り、22年1172億円から20.4%減となった。1996年はコンビニでの出版物販売額が5571億円でピークとなったが、その後、漸減し続け今や6分の1となった。
日販のコンビニ配送からの撤退、紀伊國屋書店・CCC・日販の新会社ブックセラーズ&カンパニーが設立されたことも、影響しているのは間違いない。しかし、書店1万店の輸送網は6万店のコンビニルートによって成立している以上、コンビニ流通を守ることは書店配達を維持することと直結する。出版配送網インフラを拡充するうえで、コンビニ配送の位置づけを再確認すべきではないか。
◆メディアドゥは、昨年12月期の電子書籍・流通額(ジャンル別)の成長率を発表した。「コミック」が前年比2.5%増、「縦スクロールコミック」が同88.6%増、「写真集」が同3.3%減、「書籍」が同3.8%増、「雑誌」が同0.6%減。総合では前年同月比2.7%増だった。
ここで特筆すべきなのは「縦スクロールコミック」の急成長である。本においてはジャンルを問わず、いかに「縦読み」が読み手の自然な習慣になっているか、その証明でもある。
◆日販が運営する入場料のある本屋「文喫」が、名古屋にある中日新聞社の「中日ビル」に4月23日にオープンする。これまでの2店舗(六本木、福岡天神)と比べて圧倒的な広さを誇る、約370坪の大規模な店舗。
162席の座席を有する大喫茶ホールに、一点一点選書した約3万冊の書籍を取り揃える。さらに、おかわり自由の珈琲、紅茶サービスも用意する。
◆インターネット上の 誹謗 中傷への対策を強化するため、政府はプロバイダー責任制限法の改正案を、1月26日の通常国会に提出する。X(旧ツイッター)やメタ、グーグルなどを念頭に、SNSを運営する大手企業に対し、不適切な投稿を削除するよう申請があった場合、迅速な対応や削除基準の公表などを義務付ける。
SNSの運営企業の大半は海外勢で、削除の手続きや窓口のわかりにくさなどが指摘され、申請後も対応結果が確認できないケースもあった。今回の法改正は、誹謗中傷など権利を侵害する違法な投稿を対象としている。同様に対応が急務になっている偽情報や誤情報への対策は引き続き検討する。
◆創設50年になる仮説社という小さな出版社がある。東京・巣鴨にあるビルの3階の社内は3分の1が、本やグッズを販売する書店になっている。自社の本はもちろんだが、古本や個人出版の本(「ガリ本」と呼ぶ)から、実験器具やおもちゃ、手品からミジンコ、ガチャなども並べている。
この売り場の一隅に机と椅子をおき、夏休み自由研究講座や煮干しの解剖講座、近所の子どもたちを集めて仮説実験授業などを教える科学教室まで始めている。ちなみに同社発行の『うに―とげとげいきもの きたむらさきうにの ひみつ』が、こども家庭庁の2023年度児童福祉文化財の推薦作品となっている。
◆映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」がブームとなるなか、水木しげるさんの故郷・鳥取県境港市でスタートした、「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」と名付けるプロジェクトが大反響を呼んでいる。
講談社「クリエイターズラボ」が、鳥取県と連携し地方創生とデジタルクリエイター支援を併せ持つプロジェクトを開始。あらゆるデジタルツールを駆使して創作活動している県外のクリエイターを境港市に呼び、生活の心配をせずに創作に打ち込んでもらう取り組みだ。
4月1日から2年間は境港市に居住して活動すること、その後も鳥取県に住み続ける意志があることなどを条件に、毎月約20万円(税別)が支給されるという。さらに担当編集がついて活動を支援し、創作講座が受けられるなどの特典が付く。このプロジェクトに参加できるクリエイターは5人。応募締め切りは2024年1月15日。
◆末尾ながら、今年2024年は世界的な選挙イヤーになる。台湾総統選挙(2024年1月)→インドネシア大統領選挙(2024年2月)→ロシア大統領選挙(2024年3月)→韓国総選挙(2024年4月)→インド総選挙(2024年4月〜5月)→欧州議会議員選挙(2024年6月)→メキシコ大統領選挙(2024年6月)→東京都知事選挙(2024年7月までに)→自由民主党総裁選挙(2024年9月までに)→アメリカ大統領選挙(2024年11月5日)→参議院議員選挙(2025年)
なかでも影響が大きいのは、アメリカ大統領選挙。ドナルド・トランプ再選でもなれば、“同盟国にとっての「悪夢」”が再来、動向が注目される。
北陸地方に店舗展開する勝木書店では、ほぼ全店で商品落下などの被害。石川県内の6店舗が大きな被害。天井やガラス什器が破損。同地域が断水のため臨時休業中。復旧のめどがたっていない。
◆23年11月の出版物販売金額865億円(前年比5.4%減)、書籍493億円(同2.9%減)、雑誌372億円(同8.5%減)。月刊誌313億円(同9.2%減)、週刊誌58億円(同4.2%減)。返品率は書籍34.0%、雑誌42.2%、月刊誌41.0%、週刊誌47.8%。相変わらず週刊誌の落ち込みが続く。
23年の年間販売金額は1兆638億円前後。かろうじて1兆円は維持したが、それも定価値上げに負うところが大きい。
◆出版物のルート別販売金額を見ると、マイナス幅が大きいのはコンビニルート。23年度の売り上げは1000億円を下回り、22年1172億円から20.4%減となった。1996年はコンビニでの出版物販売額が5571億円でピークとなったが、その後、漸減し続け今や6分の1となった。
日販のコンビニ配送からの撤退、紀伊國屋書店・CCC・日販の新会社ブックセラーズ&カンパニーが設立されたことも、影響しているのは間違いない。しかし、書店1万店の輸送網は6万店のコンビニルートによって成立している以上、コンビニ流通を守ることは書店配達を維持することと直結する。出版配送網インフラを拡充するうえで、コンビニ配送の位置づけを再確認すべきではないか。
◆メディアドゥは、昨年12月期の電子書籍・流通額(ジャンル別)の成長率を発表した。「コミック」が前年比2.5%増、「縦スクロールコミック」が同88.6%増、「写真集」が同3.3%減、「書籍」が同3.8%増、「雑誌」が同0.6%減。総合では前年同月比2.7%増だった。
ここで特筆すべきなのは「縦スクロールコミック」の急成長である。本においてはジャンルを問わず、いかに「縦読み」が読み手の自然な習慣になっているか、その証明でもある。
◆日販が運営する入場料のある本屋「文喫」が、名古屋にある中日新聞社の「中日ビル」に4月23日にオープンする。これまでの2店舗(六本木、福岡天神)と比べて圧倒的な広さを誇る、約370坪の大規模な店舗。
162席の座席を有する大喫茶ホールに、一点一点選書した約3万冊の書籍を取り揃える。さらに、おかわり自由の珈琲、紅茶サービスも用意する。
◆インターネット上の 誹謗 中傷への対策を強化するため、政府はプロバイダー責任制限法の改正案を、1月26日の通常国会に提出する。X(旧ツイッター)やメタ、グーグルなどを念頭に、SNSを運営する大手企業に対し、不適切な投稿を削除するよう申請があった場合、迅速な対応や削除基準の公表などを義務付ける。
SNSの運営企業の大半は海外勢で、削除の手続きや窓口のわかりにくさなどが指摘され、申請後も対応結果が確認できないケースもあった。今回の法改正は、誹謗中傷など権利を侵害する違法な投稿を対象としている。同様に対応が急務になっている偽情報や誤情報への対策は引き続き検討する。
◆創設50年になる仮説社という小さな出版社がある。東京・巣鴨にあるビルの3階の社内は3分の1が、本やグッズを販売する書店になっている。自社の本はもちろんだが、古本や個人出版の本(「ガリ本」と呼ぶ)から、実験器具やおもちゃ、手品からミジンコ、ガチャなども並べている。
この売り場の一隅に机と椅子をおき、夏休み自由研究講座や煮干しの解剖講座、近所の子どもたちを集めて仮説実験授業などを教える科学教室まで始めている。ちなみに同社発行の『うに―とげとげいきもの きたむらさきうにの ひみつ』が、こども家庭庁の2023年度児童福祉文化財の推薦作品となっている。
◆映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」がブームとなるなか、水木しげるさんの故郷・鳥取県境港市でスタートした、「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」と名付けるプロジェクトが大反響を呼んでいる。
講談社「クリエイターズラボ」が、鳥取県と連携し地方創生とデジタルクリエイター支援を併せ持つプロジェクトを開始。あらゆるデジタルツールを駆使して創作活動している県外のクリエイターを境港市に呼び、生活の心配をせずに創作に打ち込んでもらう取り組みだ。
4月1日から2年間は境港市に居住して活動すること、その後も鳥取県に住み続ける意志があることなどを条件に、毎月約20万円(税別)が支給されるという。さらに担当編集がついて活動を支援し、創作講座が受けられるなどの特典が付く。このプロジェクトに参加できるクリエイターは5人。応募締め切りは2024年1月15日。
◆末尾ながら、今年2024年は世界的な選挙イヤーになる。台湾総統選挙(2024年1月)→インドネシア大統領選挙(2024年2月)→ロシア大統領選挙(2024年3月)→韓国総選挙(2024年4月)→インド総選挙(2024年4月〜5月)→欧州議会議員選挙(2024年6月)→メキシコ大統領選挙(2024年6月)→東京都知事選挙(2024年7月までに)→自由民主党総裁選挙(2024年9月までに)→アメリカ大統領選挙(2024年11月5日)→参議院議員選挙(2025年)
なかでも影響が大きいのは、アメリカ大統領選挙。ドナルド・トランプ再選でもなれば、“同盟国にとっての「悪夢」”が再来、動向が注目される。
2024年01月17日
2024年01月16日
【おすすめ本】中村梧郎『記者狙撃 ベトナム戦争とウクライナ』─侵略者が行う戦場での犯罪行為 リアルに伝える重要さ=古田元夫(日越大学学長)
書名の「記者狙撃」と は、1979年に起きた中越戦争(中国とベトナムの国家間戦争)の3月7日、ベトナム北部ランソンで、「赤旗」特派員の高野功記者が、中国軍の狙撃を受けて死亡した事件のことである。
中国は、2月17日に陸上国境全線でベトナム領内に侵攻したが、3月5 日には「懲罰」の目的が 達したとして撤退を発 表。だがランソン市内には中国軍が引き続き残留し、戦闘が続いていることを、高野記者の死は身をもって世界に示した。
著者は、この高野氏の取材に別の車で同行しており、高野氏が亡くなった際には同時に狙撃を受け、九死に一生を得た体験の持ち主だ。本書では事件後40年以上を経て、著者が明らかにした事件の経緯も書かれている。
当時ベトナム研究者になったばかりの私にとっても、高野氏の死は衝撃的だった。さらに勇気あるジャーナリストによる戦場からの報道が、超大国アメリカの敗北に帰結したベトナム戦争の終結からまだあまり時間が経過していない当時、最前線からの報道を試みた高野氏の勇気ある行動には違和感はなかった。
ところが、その後、今日のウクライナに至るまで、繰り返されてきた大国による侵略戦争では、危険がある紛争地にジャーナリストが行くこと自体を、非難がましく見るような傾向が広がっている。
本書は、このような傾向は、侵略者が行う戦場での犯罪行為を隠蔽する手助けになっていると指摘し、「侵略戦争」には 断固反対、「抵抗戦争」は断固支持、という立場を貫く重要性を、今日のウクライナの事態も踏まえて訴えている。戦場フォトグラファーとして活躍してきた著者の言葉には強い説得力がある。(花伝社1700円)
中国は、2月17日に陸上国境全線でベトナム領内に侵攻したが、3月5 日には「懲罰」の目的が 達したとして撤退を発 表。だがランソン市内には中国軍が引き続き残留し、戦闘が続いていることを、高野記者の死は身をもって世界に示した。
著者は、この高野氏の取材に別の車で同行しており、高野氏が亡くなった際には同時に狙撃を受け、九死に一生を得た体験の持ち主だ。本書では事件後40年以上を経て、著者が明らかにした事件の経緯も書かれている。
当時ベトナム研究者になったばかりの私にとっても、高野氏の死は衝撃的だった。さらに勇気あるジャーナリストによる戦場からの報道が、超大国アメリカの敗北に帰結したベトナム戦争の終結からまだあまり時間が経過していない当時、最前線からの報道を試みた高野氏の勇気ある行動には違和感はなかった。
ところが、その後、今日のウクライナに至るまで、繰り返されてきた大国による侵略戦争では、危険がある紛争地にジャーナリストが行くこと自体を、非難がましく見るような傾向が広がっている。
本書は、このような傾向は、侵略者が行う戦場での犯罪行為を隠蔽する手助けになっていると指摘し、「侵略戦争」には 断固反対、「抵抗戦争」は断固支持、という立場を貫く重要性を、今日のウクライナの事態も踏まえて訴えている。戦場フォトグラファーとして活躍してきた著者の言葉には強い説得力がある。(花伝社1700円)
2024年01月15日
【映画の鏡】選挙とは何か、当事者からの発信『映画○月○日、区長になる女。』政治を変える市民の実像=鈴木賀津彦
c映画○月○日、区長になる女。
いま政治や選挙に関わっている人は全員がこの映画を観るといい。本来、政治や選挙に関わるのは市民すべてなので、広く見てほしいのだが、まずは与党も野党も関係なく「政治関係者」は必見だと強調しておきたい。
わずか187票差で3期12年の現職を破って無党派の女性候補が当選した2022年6月の杉並区長選は、市民選挙が政治を変えたことに注目が集まった。その後も今春の統一地方選で市民派の首長や議員が各地で多く誕生するなど、深刻な政治不信を変える新しい潮流が広がっている。今、有権者の意識がどう変化しどんな選挙をすればいいのか、この映画を観れば分かるからだ。そして政治を変える展望を提示、希望を示してくれている。
杉並区の住民たちが岸本聡子を候補者として擁立。カメラは岸本に密着し、選挙活動の会議の様子や岸本と応援者が議論する姿など、裏側を遠慮なく捉えていく。撮影するのは監督のペヤンヌマキ。杉並区在住の劇作家・演出家の彼女は、長年住むアパートが道路拡張計画により立ち退きの危機にあることを知り、止める方法を自身で調べ動き始めたのがきっかけで選挙に関わった。
そして投票率を上げるため、YouTubeで選挙期間中に密着した映像を発信して、岸本の魅力や活動を伝えたのだ。その映像を編集して本作はできたのだが、なんともその密着ぶりが「当事者メディア」の視点なので素直に受け止められる。監督が「自分ごと」としていて好感できた。今も岸本区長の密着撮影を続けているそうで、「区長になった女」の次回作も期待したくなった。ポレポレ東中野で1月2日から公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
いま政治や選挙に関わっている人は全員がこの映画を観るといい。本来、政治や選挙に関わるのは市民すべてなので、広く見てほしいのだが、まずは与党も野党も関係なく「政治関係者」は必見だと強調しておきたい。
わずか187票差で3期12年の現職を破って無党派の女性候補が当選した2022年6月の杉並区長選は、市民選挙が政治を変えたことに注目が集まった。その後も今春の統一地方選で市民派の首長や議員が各地で多く誕生するなど、深刻な政治不信を変える新しい潮流が広がっている。今、有権者の意識がどう変化しどんな選挙をすればいいのか、この映画を観れば分かるからだ。そして政治を変える展望を提示、希望を示してくれている。
杉並区の住民たちが岸本聡子を候補者として擁立。カメラは岸本に密着し、選挙活動の会議の様子や岸本と応援者が議論する姿など、裏側を遠慮なく捉えていく。撮影するのは監督のペヤンヌマキ。杉並区在住の劇作家・演出家の彼女は、長年住むアパートが道路拡張計画により立ち退きの危機にあることを知り、止める方法を自身で調べ動き始めたのがきっかけで選挙に関わった。
そして投票率を上げるため、YouTubeで選挙期間中に密着した映像を発信して、岸本の魅力や活動を伝えたのだ。その映像を編集して本作はできたのだが、なんともその密着ぶりが「当事者メディア」の視点なので素直に受け止められる。監督が「自分ごと」としていて好感できた。今も岸本区長の密着撮影を続けているそうで、「区長になった女」の次回作も期待したくなった。ポレポレ東中野で1月2日から公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月14日
【経済】迷走の岸田経済政策 増税とバラマキ 国民の将来不安増す借金頼み=志田義寧
岸田内閣の支持率が急落している。報道各社の世論調査で支持率は軒並み「危険水域」とされる20%台に低下、政権の維持に黄色信号がともっている。なぜこのような状況に陥ったのか。このような状況に陥っ大きな要因のひとつは岸田政権の経済政策の迷走を振り返った。
評判悪い経済政策
11月29日、一般会計の歳出総額が13兆1992億円にのぼる2023年度補正予算が参院本会議で可決、成立した。政府の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の裏付けとなる予算で、物価高対応として、住民税が非課税の低所得世帯に対する7万円の給付やガソリン・電気・ガス料金の負担軽減措置が盛り込まれた。一見すると国民受けしそうな政策が並ぶが、評判は極めて悪い。読売新聞が11月17〜19日に実施した世論調査では経済対策を「評価しない」とした回答は66%にのぼった。今回の補正予算には含まれない4万円の定額減税についても61%が「評価しない」と回答している。減税がこれほど評価されないのも珍しい。
バラマキに不信感
岸田首相は参院予算委員会で経済対策について「国民の理解が広がっていないことは真摯に受け止めなければならない」と語ったが、国民は理解していないわけではない。今回の減税は支持率アップを狙った一時的なバラマキであることを分かっているから、ノーを突きつけていると見るのが自然だ。この先、防衛力強化や少子化対策の負担増が控えている。
朝日新聞は補正予算について「水膨れした歳出規模も個々の中身も疑問だらけのうえ、財源の7割が借金頼み」(11月30日付社説)と痛烈に批判。日本経済新聞も経済政策について「迷走の産物という印象が強い。国民の将来不安はむしろ増すばかりではないか」(11月3日付社説)と疑問を投げかけている。筆者も同じ意見だ。この状況で、なぜバラマキ型の経済政策が必要なのか理解に苦しむ。しかも給付金ではなく実施まで時間がかかる減税。岸田首相は「増税メガネ」と揶揄されているが、それを払拭しようとしたと見られても仕方がない。
儒教ギャップ回復
日銀や内閣府の試算によると、2023年4―6月の需給ギャップはほぼゼロまで回復した。これが意味することは、日本はすでに極端な需要不足の状況にはないということだ。
経済政策は、@経済の実力を上げる「成長政策」、A実力を発揮できるようにする「安定化政策」、B格差是正を目指す「再分配政策」―の3つに分けられる。当然ながら成長政策と安定化政策の中身は異なる。新型コロナウイルス蔓延時は、需要不足に対応するために、金融政策や財政政策などの安定化政策を強化する必要があったが、現在はすでにそのステージにはない。この状況で補正予算に盛り込まれた国土強靭化を推し進めれば、人手不足等でより物価を押し上げる方向に働く。また、ガソリン等に対する補助金も、市場メカニズムを通じた資源配分を歪める政策であり、弊害が大きい。
空振り続きの政策
日本はこれまで、安定化政策や再分配政策を重視して、成長政策を疎かにしてきた。この結果がドル換算による名目GDP(国内総生産)の4位転落だ。もちろん、円安による目減りもあるが、成長政策が空振り続きだった影響も大きい。
以前も書いたが、筆者には忘れられない講演がある。ソフトバンクグループの孫正義社長が2018年に都内で行った講演だ。孫社長は日本でライドシェアサービスが禁止されていることについて「こんなばかな国がいまだにあることが、僕には信じられない」と政府の対応を批判。「国が未来の進化を自分で止めている」と現状を嘆いた。ライドシェアについては、ここにきてようやく議論が前進しているが、この程度の改革すらまともにできない日本が没落するのは当然だ。
野放図許されない
日銀による長短金利操作(イールドカーブ・コントロ―ル)の見直しで今後は「金利のある世界」に戻っていく。もはや借金頼みの野放図な財政運営は許されない。
しかし、コロナ後は財政規律意識が麻痺する中、予備費の乱用や政策効果が不透明な政策が目立つようになってきた。その最たるものが今回のバラマキの型経済政策と「異次元」とは言えない少子化対策だろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
評判悪い経済政策
11月29日、一般会計の歳出総額が13兆1992億円にのぼる2023年度補正予算が参院本会議で可決、成立した。政府の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の裏付けとなる予算で、物価高対応として、住民税が非課税の低所得世帯に対する7万円の給付やガソリン・電気・ガス料金の負担軽減措置が盛り込まれた。一見すると国民受けしそうな政策が並ぶが、評判は極めて悪い。読売新聞が11月17〜19日に実施した世論調査では経済対策を「評価しない」とした回答は66%にのぼった。今回の補正予算には含まれない4万円の定額減税についても61%が「評価しない」と回答している。減税がこれほど評価されないのも珍しい。
バラマキに不信感
岸田首相は参院予算委員会で経済対策について「国民の理解が広がっていないことは真摯に受け止めなければならない」と語ったが、国民は理解していないわけではない。今回の減税は支持率アップを狙った一時的なバラマキであることを分かっているから、ノーを突きつけていると見るのが自然だ。この先、防衛力強化や少子化対策の負担増が控えている。
朝日新聞は補正予算について「水膨れした歳出規模も個々の中身も疑問だらけのうえ、財源の7割が借金頼み」(11月30日付社説)と痛烈に批判。日本経済新聞も経済政策について「迷走の産物という印象が強い。国民の将来不安はむしろ増すばかりではないか」(11月3日付社説)と疑問を投げかけている。筆者も同じ意見だ。この状況で、なぜバラマキ型の経済政策が必要なのか理解に苦しむ。しかも給付金ではなく実施まで時間がかかる減税。岸田首相は「増税メガネ」と揶揄されているが、それを払拭しようとしたと見られても仕方がない。
儒教ギャップ回復
日銀や内閣府の試算によると、2023年4―6月の需給ギャップはほぼゼロまで回復した。これが意味することは、日本はすでに極端な需要不足の状況にはないということだ。
経済政策は、@経済の実力を上げる「成長政策」、A実力を発揮できるようにする「安定化政策」、B格差是正を目指す「再分配政策」―の3つに分けられる。当然ながら成長政策と安定化政策の中身は異なる。新型コロナウイルス蔓延時は、需要不足に対応するために、金融政策や財政政策などの安定化政策を強化する必要があったが、現在はすでにそのステージにはない。この状況で補正予算に盛り込まれた国土強靭化を推し進めれば、人手不足等でより物価を押し上げる方向に働く。また、ガソリン等に対する補助金も、市場メカニズムを通じた資源配分を歪める政策であり、弊害が大きい。
空振り続きの政策
日本はこれまで、安定化政策や再分配政策を重視して、成長政策を疎かにしてきた。この結果がドル換算による名目GDP(国内総生産)の4位転落だ。もちろん、円安による目減りもあるが、成長政策が空振り続きだった影響も大きい。
以前も書いたが、筆者には忘れられない講演がある。ソフトバンクグループの孫正義社長が2018年に都内で行った講演だ。孫社長は日本でライドシェアサービスが禁止されていることについて「こんなばかな国がいまだにあることが、僕には信じられない」と政府の対応を批判。「国が未来の進化を自分で止めている」と現状を嘆いた。ライドシェアについては、ここにきてようやく議論が前進しているが、この程度の改革すらまともにできない日本が没落するのは当然だ。
野放図許されない
日銀による長短金利操作(イールドカーブ・コントロ―ル)の見直しで今後は「金利のある世界」に戻っていく。もはや借金頼みの野放図な財政運営は許されない。
しかし、コロナ後は財政規律意識が麻痺する中、予備費の乱用や政策効果が不透明な政策が目立つようになってきた。その最たるものが今回のバラマキの型経済政策と「異次元」とは言えない少子化対策だろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月13日
【沖縄リポート】代執行・軍事要塞化と年末さんざん=浦島悦子
今年もまた、さんざんな年末だ。辺野古新基地建設という国策に抵抗する沖縄県と県民を、行政権力と司法が一体となって痛めつけてきた、その総仕上げとも言うべき代執行訴訟の判決が、今月20日に言い渡されることになった。設計変更の承認を求める判決に県が従わなければ、国が県に替わって承認し、年末ぎりぎりに軟弱地盤改良工事「着工」を、パフォーマンスであれ既成事実化しようというのだろうか。
キャンプ・シュワブ内では、新基地工事と並行して、隣接する辺野古弾薬庫の大幅再編=改修・増設工事が急ピッチで進められている。その狙いについて11月30日、ゲート前座り込みテントで報告したジャーナリストの山本眞直氏は、辺野古弾薬庫に「復帰」前からある核兵器貯蔵庫と、建設中の新核貯蔵庫(原子炉と同じ遮蔽壁構造を持つことがドローン撮影で判明)の併存を写真で示しながら、「日米同盟の核抑止力」の危うさを指摘した。新基地建設が、日本政府の言う、単なる「普天間代替施設」などでないことは明らかだ。
11月29日には、屋久島近海で米海軍の8人乗りオスプレイが墜落した。7年前の沖縄県内(私の居住地のすぐ近く)での墜落事故が蘇り、「空飛ぶ棺桶」として悪名高いオスプレイが日常的に頭上を飛び交っている恐怖を改めて感じた。日本政府は飛行停止も求めきれず、原因究明もできない。
与那国・宮古・石垣をはじめ琉球諸島の日米両軍による軍事要塞化は今年、格段に進んだ。住民の反対を押し切って今年3月に開設した陸上自衛隊石垣駐屯地は来年度さらに施設規模を拡大し、米軍との共同使用も見込んでいると報道された。
戦争の足音が刻々と近づきつつある危機感から県内60を超える市民団体が立ち上げた「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」は11月23日、那覇市の奥武山陸上競技場で県民平和大集会を開催。玉城デニー知事も登壇し、老若1万人以上の参加で成功した=写真=が、正念場はこれからだ。来年は少しでもいい年にしたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
2024年01月12日
【`23読書回顧─私のいちおし】「忘却」に抗う女性の闘いへエール=小塚かおる(「日刊ゲンダイ」編集局長)
冒頭から私自身の話で恐縮だが、今年10月に刊行の拙著『安倍晋三vs.日刊ゲンダイ』を執筆する中で、<忘れないで記憶にとどめる><忘れないように語り続ける>ことの大切さと、それを記録として残すという記者の大事な仕事を、改めて意識した。そんな観点で2作品を挙げたい。
青木美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)は、福島第一原発事故後の被災地・被災者の実情や原発政策を追い続けている彼女の3冊目の単著だ。本書では、ゴーストタウン化して名ばかりの「復興拠点」となっている避難解除地区を丹念にルポするとともに、歴史を俯瞰し、研究者や官僚、政治家など多数の当事者を訪ね「原発が止められない理由」に迫って行く。
ハッとさせられたのは、原発事故を受けて政府が発令した「原子力緊急事態宣言」が、12年を経た今も解除されていないという事実だ。ややもすると「復興」という政府広報に不都合な真実は覆い隠されてしまう。政官業学と共に「原子力ムラ」 の一角を占めるマスコミも加担しがちだ。そんな中で「忘却」に抗う彼女の存在は大きい。
『がんばりょんかぁ、マサコちゃん』(全3巻、原作・宮ア克、漫画・魚戸おさむ、小学館)は、フィクションの形を取ってはいるが、森友学園をめぐる財務省の公文書改ざんで自死した公務員の妻、赤木雅子さんの闘いを描いている。
マンガ本の良さは、主人公の人柄や心情に、すうっと入っていけることにある。雅子さんは「闘って」いるが、もともと闘いなどしたいわけではない。物語を読み進めるほどに財務省が改ざんさえ指示しなければ、今も幸せな夫婦の日常があっただろうと、ますます憤りが込みあげる。
国を訴えた裁判は国側が負けを認める「認諾」で終結した。当時の理財局長との控訴審も12月19日の判決で、改ざんに至る「真実を知りたい」という雅子さんの願いは叶わずだ。「無理が通れば道理が引っ込む」とさせないためにも、彼女の闘いを忘れてはならない。