2024年02月29日

【出版トピックス】著作者の権利を守るエージェントの重要性=出版部会

■メディアミックス時代への備え
 昨年10月期放送の日本テレビドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さん(享年50)が、1月29日に急死した。生前に『セクシー田中さん』の実写ドラマ制作をめぐりトラブルが起きていたという事態に、漫画などの映像化の現状を踏まえ、漫画家の権利を擁護するエージェントの必要性が言われている。
 というのは現在、著作権者の意向を置き去りにして出版社と映像制作を担当する企業のあいだで、映像化企画がひとり歩きしているという事実があるからだ。そこで小説家、漫画家、イラストレーターなどの著作権者と契約し、その意向や利害を代弁する立場で、出版社や映像制作会社などと交渉し、出版契約や映像化権契約の契約実務を代行するエージェント(代理人)の重要性が指摘されている。
 欧米の出版界では一般的になっているが、日本では普及していない仕事だが、日本の出版界でも早川書房出身の編集者が1999年に創業したボイルドエッグズ(東京・東久留米市)や講談社出身の編集者が2012年に起こしたコルク(東京・渋谷区)など、この業務を行なうエージェントも出てきている。
 このようなエージェントが出版社や編集プロダクションと異なるのは、出版や映像化の対象となるコンテンツに対して100%作家の利害を代弁する立場で交渉を行なう点だ。
 メディアミックス時代には、利害が複雑に絡むことは必至だけに、著作者の権利を十分に守るエージェントの重要性は、ますます高まっている。

■<団塊ジュニア世代>を狙う本
 ここにきて「50歳からの」と詠う本が続々と刊行されている。読書案内や精神論、旅案内も含め、人生の節目に挑戦するガイド本や生き方案内など、内容は様々だ。
 挙げれば中央公論新社編『50歳からの読書案内』、枡野俊明『50歳からは、好きに生きられる』(PHP文庫)、山脇りこ『50歳からのごきげんひとり旅』(だいわ文庫)、村瀬幸浩ほか『50歳からの性教育』(河出新書)、斎藤孝『50歳からの孤独入門』(朝日新書)まである。
 これまで出版界は、50代をターゲットにした本には傾注してこなかった。ここにきて50歳前後を迎える<団塊ジュニア世代>が注目され、そこに対応したテーマの本が刊行・売れ始めている。

■コンビニ内のセレクト書店
 奈良県天理市のコンビニ「セブン―イレブン天理成願寺町店」には、絵本や専門書を並べた書籍コーナーが設けられ話題になっている。ここには海外の絵本、短歌集、パレスチナ問題の新書など、独自の選書が好評で多くの人々が立ち寄っている。
 店長はコンビニの枠を超え地域密着型の挑戦を続けてきた。「日常の中に異空間」を設けたいと、スタッフとアイデアを出し合い本のコーナーを作ることにした。扱う本をより多様にすれば、日常に小さな刺激を生み出せると考え、大和郡山市にある書店「とほん」に協力を依頼。そして知的好奇心を刺激する選書本コーナーが、コンビニ内に設置できることとなった。

■急伸止まる!「アマゾン日本」
 「アマゾン日本」の2023年度売上高は、3兆6662億8200万円(前期比6.6%増)、1ケタ増収にとどまり急伸がストップ、アマゾンの全売上高に占める日本事業の割合は4.5%、2022年比で0.2ポイントダウン。他国での売上高は、以下の通り。
 アメリカ :3956億3700万ドル(前期比11.1%増)、ドイツ :375億8800万ドル(同11.9%増)、イギリス:335億9100万ドル(同11.7%増)、その他 :819億6700万ドル(同17.4%増)

■インボイス制度への不満爆発
 昨年10月に導入された消費税のインボイス制度による、初めての所得税の確定申告が16日から始まった。消費税の申告(4月1日まで)も本格化する。インボイス登録して、新たに支払いが課せられる小規模事業者は、改めて「書類を作る複雑さ」に困惑し、生産性のない過重な事務負担で現場は疲弊などの声が挙がっている。
 いっぽう未登録の業者は、この制度によって「仕事が減った」と不満を募らせ、差別・バッシング、免税業者に対する一方的な値下げや取引排除が横行している現状を嘆いている。
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2024年02月27日

【おすすめ本】西谷 文和『万博崩壊 どこが「身を切る改革」か!』―利権と勢力の拡大に利用 維新政治を打ち破る展望示す=桜田 照雄(阪南大学教授)

 科学的な認識や事実,知性への信頼をもたない首長が、自らが率いる政党の利権と勢力を拡大する手段としたのが,巨大イベントの万博である。大阪市の公式記録には夢洲誘致は松井知事の独断と記されている。しかも、博覧会というイベントそれ自体が,もはや「時代遅れ」で開催の意義すら見いだせずにいる。

 それだけではない。会場の夢洲は、高度処理を要する管理型廃棄物処分場として(夢洲1区),大阪湾口の浚渫土砂と建設残土の処分場(二・三・四区)として造成されてきた。数多くの海底活断層が存在し直下型地震と津波の「巣」と言われる大阪湾。工業地・準工業地として活用が目論まれていたので,商業用地として高層ビルを建設することなど,想定しない護岸設計なのである。
 津波がくれば,脆弱な護岸が破壊され,甚大な被害が想定される。計画によれば、災害のリスクは認識されているものの、その対策は皆無である。

 藤永のぶよは、夢洲の現状をつぶさに描き、計画の荒唐無稽さを明らかにする(第一章)。
 ところが、批判に目もくれず、維新府政・市政によって無謀な計画が強行される。維新府政・市政への圧倒的な府民・市民の支持が背景にあるのは事実である。
 では、なぜ維新は支持されるのか、内田樹が批判的に分析を行う(二章)。
 そして、第三章で経済学者の金子勝が、維新政治を打ち破る展望を語る。
 西谷文和の巧みなリードで「崩壊」から復活の展望が示された好著であり、幅広い読者にぜひ、お読みいただきたい。
(せせらぎ出版1300円)
      
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2024年02月26日

【焦点】「ジェノサイド」のガザ 女性・子どもの死者69% 超大型爆弾とAI標的設定 川上泰徳氏がオンライン講演で解説=橋詰雅博

                     
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 パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘は、終結の見通しが見えない。激しさを増すガザ戦争の行方はどうなるか―。元朝日新聞記者の中東情勢ウオッチャー・川上泰徳氏=写真=が1月13日のJCJオンライン講演で徹底解説した。
 イスラエルが「鉄の剣」作戦と名付けた今回のガザ戦争では、イスラエルの攻撃によるガザの死者のうち女性と子どもの民間人が飛びぬけて多い。世界保健機構によると、2008年、14年、21年の過去3回のイスラエルのガザ攻撃では、女性・子どもの死者は38%から41%で、非戦闘員の男性が60%。ところが23年は女性・子どもの死者は69%に達し、男性が30%で、過去3回と逆転している。

 ガザで女性・子どもの死者が激増している理由を川上氏は2つ挙げた。まず多大な巻き添え被害を出すのを承知でイスラエルは航空機から米国製超大型爆弾を都市部の高層ビルや高層マンション、大学、銀行、官公庁などに投下している。 
 川上氏が言う。
「使っている爆弾の重さは500`から1トン。1トンだと高層マンションを破壊できる。米ニューヨーク・タイムズの取材に応じた軍事専門家は『こんな狭い地域にこれほど多くの大型爆弾が投下された歴史的な例は、ベトナム戦争か第二次世界大戦まで遡る必要があるかもしれない。イラクのモスルなど都市部でIS(イスラム国)を相手に米軍が戦う場合でも、最も使う500ポンド(約227`)爆弾さえ、標的には大きすぎる』とコメントしている」。
 もう一つとして生成AIを用いた標的設定システムの利用が挙げられる。「ハブソラ」(福音)と呼ばれるこのシステムは空爆・砲撃の標的を自動的に数多く設定する。

 イスラエルネットメディア「+792マガジン」の調査報道によると、08年の1日平均標的数は155カ所、14年は122カ所、21年136カ所だったが、23年は429カ所。過去3回の1日平均138カ所に対して今回はその
3・11倍にもなる。情報部員は「数万人の情報部員では処理できなかった膨大な量のデータを処理するハブソラはリアルタイムで標的を示す」「ハマス幹部への攻撃の巻き添えで許される民間人の死者は数百人にまで増加した」と語った。
 川上氏は「人間はミサイルを撃つだけの機械≠ノなっている」とAI標的設定システムのせいで自制心を失ったと指摘した。
イスラエルのガザ攻撃は「人間の顔をした動物」(ガラント国防相)ととらえるハマスに加えて民間人も対象にした「ジェノサイド(集団殺害)だ」と川上氏は断言した。

 イスラエルはどんな戦略を描いているのか。ニュースサイト「シチァ・メコミット」が10月末に報じた「ガザの民間人口の政治的な方針の選択肢」と題した政府秘密文書では、ガザからエジプトのシナイ半島に住民を追い出すのが実行可能としている。ネタニヤフ首相はこのシナリオに沿って戦争を進めているようだ。
 日本は何ができるかについて川上氏は「政府は即時停戦を訴える、市民はイスラエルのガザ攻撃反対・中止の決議を地方議会に求める」と提案した。
 中東情勢を約20年ウオッチする川上氏も戦争がどんな形で終結を迎えるのか見通せないという。このままでは、戦闘は果てしなく続き、民間人の死者はどんどん増える。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
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2024年02月25日

【自民党裏金事件】大事件暴いた小さな疑問 その秘密は しんぶん赤旗日曜版・山田記者に聞く=矢野 昌弘(運営委員)

 
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 上脇博之神戸学院大学教授の告発で表面化した自民党派閥パーティーを巡る裏金問題は、年をまたいで岸田政権と自民党政治の闇を直撃する大事件となった。端緒の端緒は22年11月の「しんぶん赤旗日曜版」記事。大手メディアは検察が動くまで報道できなかった。同紙の記事は、公開されている政治資金収支報告書を丹念に拾い、分析した文字通りの調査費報道。その裏側を同紙編集部の山田健介記者=写真=にインタビューした。聞き手・矢野昌弘(運営委員)

 ―自民党派閥の「政治資金パーティ」は、裏ガネ作りの温床になっていました。安倍派「清和政策研究会」と二階派「志帥会」は家宅捜索され、池田佳隆衆院議員は逮捕されました。事件をどう見ていますか。
 山田 自民党のある幹部は「最大派閥の座長と『5人衆』がすべて特捜部の事情聴取を受けるなど前代未聞。自民党の歴史でもこれまでなかったことだ」と語りました。
 読者からも「政治が大きく変わるのではないか。スクープに勇気をもらった。ありがとう」と激励の声が寄せられています。捜査で明らかになってきたのは私達の予想を遥かに超える裏金の多額さと手口の悪質さ。今後の展開を注視しています。

自民党弁護士も法令違反指摘
―端緒のスクープは一昨年22年の11月6日号ですね。
 山田 はい。「パー券収入脱法的隠ペい2500万円分不記載」「岸田派など主要5派閥」と報じましたが、大手メディアの後追いはありませんでした。でもある自民党幹部は「これが事務的ミスではないことはすぐわかった。特に安倍派の不記載の額が突出していて、ただごとではないと思っていた」と語ってくれました。
 23年12月23日付「毎日」が「22年11月、共産党の機関紙『しんぶん赤旗』が安倍派を含む自民5派閥についてパーティー券収入が過少に記載されている疑惑を報道した後。自民党のコンプライアンス担当の弁護士が、安倍派側に対して法令違反 の疑いを指摘したという」という興味深い記事を載せいいます。

チケット購入団体から取材
 ―それにしても、不記載をどうやって見つけましたか。
 山田 日曜版の若い記者が電気技術者らの政治団体「全友会」の政治資金収支報告書を調べるなかで、奇妙なことに気づきました。麻生派のパーティー券計40万円分を同派所属国会議員3人の名前で10万、20万、10万と分割購入していました。安倍派の「清和政策研究会」に対しても同様で、それで取材しました。全友会の事務担当者の説明は「各議員からパーティーの案内があり、それぞれ分けて入金した」。政治資金規正法では、1回のパーティーで20万を超えるチケット購入者を収支報告書に記載する義務があります。それを逃れるための脱法的手法だと気付きました。

脱法手口 主要5派閥も疑う
―そこから、ここまで大きな事件につながった。
 山田 私は「桜を見る会」のスクープもしましたが、私たちは端緒を見つけたとき「一国会議員が個人的に単発でやった」とは思いませんでした。この脱法的手口が組織的系統的に引き継がれているのではないかと疑い、自民党の主要5派閥全てでやられていないか…と深掘りしました。調べてみたら、同じような事例がいくつも出てきた。これはいよいよ「氷山の一角」だなと思いましたし、裏金作りを闇を感じました。
 ―東京地検に何度も告発しているた上脇博之神戸学院大学教授との連携は。
 山田 上脇教授は、当初から、裏金化している可能性を指摘し、早くから重大な事件だと認識していました。頻繁に連絡を取り合い、助言を受けながら取材を進めました。

大手メディアは検察頼み
 ―事件が動き出してからの他のメディアの反応はどうでした?
 山田 他紙の記者の関心はもっぱら「東京地検特捜部が動くか」。この話をしても「時効は3年だから大した額にならない」「それじゃあやっぱり特捜部は動かないでしょうね」と、関心は薄かったです。
 「赤旗」は検察への取材ができませんから。「検察が動くか」でなく、どんな裏金づくりのカラクリがあるのか、解き明かしていけばニュースになるとやってきました。時効にとらわれず、10年前まで遡り、調べる政治団体も幅を広げるなどして縦横に取材を展開しました。
 ―取材のギアを段々と上げていった。
 山田 派閥のパーティー券を購入した政治団体の会計責任者や事務担当者に電話やメールで問い合わせを重ねました。多くの団体が、パーティー券購入の動機や、議員側からの具体的依頼のされ方、出金の処理などについて詳細に説明してくれました。団体側には、収支報告書に記載しており、やましいところはない、という意識が働いたと思います。「赤旗」にも一生懸命、説明してくれました。

公開されている収支報告書
 ―政治資金報告書はいまインターネットで公開され、誰でも見られるのですね。
 山田 そうです。総務省のホームページでチェックできます。また、都道府県の選挙管理委員会もインターネットでの公開を進めており、公開していないのは新潟県だけ。いまは全国どこからでも、収支報告書に手を触れることができます。取材拠点がどこにあるかが、ハンデになることはありません。
―それを調べて、ここまで来た。収支報告書を調べる意義は?
 山田 収支報告書には、私達が全然、解明できていない情報がたくさん詰まっていることに気付きました。長年にわたる自民党の裏金づくりを見逃してしまったという反省もあります。あまり重視していなかった支出について地道に読み込みたいと思います。
―ところで、この事件取材で、政党機関紙ゆえのハンデを感じたことはないですか。
 山田 ありません。あるとすれば、「赤旗」の質問には答えず、「赤旗」記者がいない場で、虚偽の説明を他紙の記者にしている人がいるぐらいでしょうか。会見の場で、記者が誰もそのことを突っ込まない。それで疑惑の当事者に逃げられてしまう悔しさはありました。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
 
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2024年02月24日

【焦点】「セクシー田中さん」事件で浮上した著作者人格権問題 世田谷区史に飛び火 27日見直し求める要望書提出=橋詰雅博

 昨年10月から12月に放送されたドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが脚本を巡る問題で自死(享年50)した事件は、原作マンガを出版した小学館、映像化した日本テレビを巻き込むなど波紋が広がっている。
 自死したのは、原作に忠実にという原作者の意向がテレビドラマの内容に反映されなかったことが主因とみられる。
 芦原さんが寄稿していた小学館第一コミック局編集局一同が2月8日に公表した声明でも、それを窺わせる文章がある。「著者が待つ絶対的な権利『著作者人格権』について周知徹底し、著者の意向は必ず尊重され、意見を言うことは当然のことであるという認識を拡げることこそが再発防止において核となる部分だと考えています」。

譲渡や放棄できず
 著作者人格権は「作品や作者の『名誉』や『思い入れ』を保護し、原作者さんの許諾を得ず、無断で作品を改変することを禁止した法律で、著作権(財産権)と異なり、譲渡や放棄できない権利です」と日本史史科研究会の中脇聖研究員が語っている。
 この著作者人格権問題で想起させられたのは東京・世田谷区の区史編さんを巡る区と大学教員の対立だ(筆者はJCJ機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号で記事を掲載)。区制施行90年を記念して地域の歴史を書いた区史を新たに作成するため区から編さん委員を2016年に委嘱された青山学院大学文学部史学科準教授・谷口雄太氏は、世田谷を支配した吉良一族の盛衰を含め中世史部分を担当した。17年から調査・研究活動を始めたが、23年2月に事前の話し合いもなくいきなり40人の編さん委員に執筆の条件として区史(24年から各部門を順次発刊)の著作権無償譲渡に加えて著作者人格権の不行使の契約を締結することを区は要請した。40人のうち一人は他の仕事があるという理由で辞退し、谷口氏だけが契約を拒否した。

史実の書き換えも
 筆者の取材に谷口氏はこう答えた。
 「自治体の場合、執筆者らに著作権無償譲渡を求めることはよくあります。行政ならヘンな行為はしないだろうという性善説に立つので執筆者らは承諾するケースが多い。問題は著作者人格権不行使の要請です。認めてしまえば、区の学芸員らの解釈で史実が書き換えられる、あるいは削除されても抗議はできないし、修正も受け付けてくれません。著作権譲渡と著作者人格権不行使の2つを求めた自治体は世田谷区が初めだと思う。歴史修正につながり、悪しき世田谷モデル≠ェ自治体に広がる可能性もある。撤回してもらいたい」
 実は区は区史発刊に向けた準備として17年8月に冊子『往古来今』を作ったが、執筆者の谷口氏が著作者人格権と著作権の両方を侵害したとして抗議した。谷口氏は「人格権侵害については原稿を800カ所修正、著作権侵害の方は『世田谷デジタルミュージアム』に冊子を無断で転載」と問題点を指摘した。これに対して区は著作者人格権を含む著作権について誠実に対応すると答えた。
 その約束≠反故にするやり方の背景には「2つの権利を奪えば、執筆者とのトラブルは防げる」(谷口氏)という区の強引な姿勢がうかがえる。

労組の支援受ける
 谷口氏は区史編さん担当職員と2月末に話し合ったが、不調に終わる。協議を打ち切った区は3月31日に谷口氏の委員を解任。谷口氏は調査・研究の成果を発表する場を失った。
 フリーランスとして業務委託契約を区と結んだ谷口氏は、フリーランスの編集者らが集まるユニオン出版ネットワーク(略称出版ネッツ)に入った。世田谷区による編さん委員の解任と正当な理由がない話し合い拒否について谷口氏への不当労働行為と判断した出版ネッツは、4月中旬に東京都労働員会に救済を申し立てた。

区長との対話要望
 今日まで都労委の結論が出ない中、谷口氏を支援しようと区民が中心となった「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が今年1月に結成された。芦原さんが亡くなった後の2月10日に第1回会合が開かれ、著作者人格権をないがしろにするのは著作者の命を奪うほど重い問題であることが議論された。
 そうしたことを踏まえて区民の会は「区史の執筆者との著作権に関する契約書の見直しを求める要望書」を27日に世田谷区に提出する。保坂展人区長との対話の会を3月7日〜15日の間に開いてほしいと要望。4日までに区から返事をもらいたいとしている。
区と谷口氏とは昨年2月に1回話し合っただけだ。その後は区側が話し合いを拒んでいる。
 保坂区長は「熟議」を看板にしている。この問題でもそれを実行すべきではないだろうか。

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2024年02月23日

【NHK】不祥事相次ぎ信頼揺らぐ チェック機能も不全 急激な人事改革 モラル低下し人材流失=小滝一志

 昨年12月も公共放送NHKで不祥事が相次いで明るみに出た。
 21日、NHK広報局は規定に反して内部監査資料を持ち出した3人の職員の停職1か月の処分を発表した。流出資料の内容は明らかにされていない。

 19日には、報道局社会部の30代の記者が私的飲食代を取材と称して410件総額789万円も不正請求していたことを公表した。NHKが設置した第三者委員会は、「組織としての管理活動の不足や監視体制の不足だけでなく、NHK職員の倫理観の不足も事案の発生につながった原因の一つ」「報道局長や社会部長という放送事業の根幹を支える基  幹職の倫理観の低下が、報道現場の倫理観の低下を招いた」と指摘した。NHKは、記者を懲戒免職、現職を含む歴代社会部長3人を停職1か月、さらに当時報道局長だった小池英雄専務理事、根本拓也理事は厳重注意とした。

 報道内容を巡っても不祥事が続く。
 12月5日BPO放送倫理検証委員会が意見書を公表した。5月15日放送『ニュースウオッチ9』のエンディング、「新型コロナ5類移行から1週間」(1分5秒)を放送倫理違反と断定した。意見書は「担当者がコロナウィルスに感染して亡くなった人もワクチン接種後に亡くなった人も、広い意味でコロナ禍で亡くなった人に変わりはない」と考えたことを「ニュース報道の現場を担うものとしてあり得ない不適切なもの」と指摘した。

 また、提案票には「コロナワクチンで夫を亡くした遺族」「ワクチン被害者の会」などの記載があったのを見過ごしたか、気にも留めなかった担当デスク、調整デスク、編集責任者らのチェック機能不全なども、この事件の問題点として言及した。12月5日のNHK経営委員会では「取材情報の流出」が報告された。首都圏局の記者が取材したインタビューメモと提案文がネット上に流出し、調査した結果、NHKの子会社が契約している30代の派遣スタッフが、流出させたことを認め「興味本位でやった。大変なことをしてしまい、申し訳ない」と答えたと言う。報告に対し複数の経営委員から、「NHKで働く人間として取材に関する情報を流出させるということがどういうことなのか、NHKグループ全職員・スタッフにしっかりと認識させることが必要」「面白半分でやったのか、それとも明確な意図を持ってやったのか。興味本位で急にこれだけやったということは説得力がない。バックグラウンドをきちんと調査すべき」などの厳しい意見が出された。

 不祥事多発の背景になにがあるのか。「NHKをメチャクチャにした」「『公共の論理』ではなく『資本の論理』で公共放送を語ろうとする」と現場から厳しい批判を浴びた前田前NHK会長の人事・構造(度)改革の負の遺産が放送現場のモチベーションを低下させていないか?
 「スリムで強靭な『新しいNHK』」を標榜したBS放送波削減、受信料値下げ、550億円規模の支出削減などの構造改革が、放送現場の制作意欲を阻害しなかったか。「『新しいNHKらしさの追求』を実現する“人材”の育成」を掲げた急激な人事制度改革は、場当たり的で、専門性を軽視し、ベテランを冷遇したためモラルハザードを起こし、若手の有能な人材を流出させてしまったのではないか。

 前田前会長の人事・構造改革を現場の視点から厳しく検証することが、今、視聴者の信頼回復に欠かせないのではないか。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
       
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2024年02月22日

【JCJ広島支部】呉基地強靭化の危険 岸田大軍拡問う集い=井上 俊逸

 JCJ広島支部は、岸田政権が「安保三文書」を閣議決定して丸1年となった昨年12月16日に「2023不戦のつどい」を広島市内で開いた。「岸田『大軍拡』を問う〜海上自衛隊呉基地『強靭化』の実態〜」をテーマに、呉地区平和委員会事務局長の森芳郎さんの講演などがあり、オンライン視聴を含め60人が参加した。

 森さんの講演に先立ち、支部幹事の難波健治さんが「安保三文書が意味するもの」と題して問題提起。これは「日米安保体制をまさに臨戦態勢に持っていくための指針」であり、具体的には@日本が「戦争する国になった」と国内外に宣言するA自衛隊を本格的に「戦力化」し、実態として戦争できる軍隊に仕立てるB私たち国民に対して日本はもう「平和国家」ではない、「戦争国家」に変わったということを認知させる―という三つの狙いがあると指摘した。

軍事増強が具現化
 続いて登壇した森さんは、安保三文書によって推し進められる敵基地攻撃能力の保有や軍備増強の動きが、海自呉基地にはどう具現化してきているかを解き明かした。
 それによると、呉基地には最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の発着も可能にする空母化≠ノ向けた改修工事が進む護衛艦「かが」をはじめ、大型輸送艦、潜水艦、音響測定艦など48隻が配備されている。保有艦船数では現状も海自最大の基地だが、ここへ新たに「海上輸送群」司令部が置かれることになった。軍事要塞化の進む南西諸島などに戦車や弾薬を運ぶための部隊を、海自だけでなく陸自、空自からも要員を出して100人規模で創設する。その司令部を呉に置き25年3月に発足する予定だ。

防災対策を名目に
 一方で、敵基地を攻撃すると当然反撃される、核兵器が使われることも想定し、それに耐えうるよう全国約300の自衛隊基地や防衛省関係施設を強靭化する計画が進行しており、呉地方総監部も対象施設に入っている。23年度予算で「防災対策」を名目に20億円が計上されており、太平洋戦争末期、当時の海軍司令部が米軍の空爆に備えて造った地下壕が再整備・活用されるのではないか。

 また、敵基地攻撃には欠かせない長射程ミサイルを保管するための大型弾薬庫を35年までに全国で約130棟設置する計画もあり、呉湾内にある大麗女島がその一つ。戦時中は海軍の弾薬庫が置かれていた島で、現在も海自の弾薬庫になっているが、ここを改修してトマホークなどを保管できるようにしようと、23年度から2年かけて調査するための2億円の予算が付いた。既に測量等の調査を請け負う業者も決まり、具体化に向けて動き出しているという。

市長講和にも抗議
 最後に、折から発覚した広島市の松井一実市長が就任翌年の2012年以降、毎年の新入職員研修で戦前の「教育勅語」を引用して講話していた問題を取り上げ、松井市長に対して「断固抗議し今後の絶対不使用を求める」声明を参加者一同で採択した。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号 
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2024年02月21日

【映画の鏡】『福田村事件』などを上映「第13回江古田映画祭」「3・11福島を忘れない」テーマに=鈴木 賀津彦

                       
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         「福田村事件」プロジェクト2023
 
 東京・練馬区の江古田の街で2013年から「3・11福島を忘れない」をテーマに始まった『江古田映画祭』が、今年も2月24日から3月11日までの2週間余、武蔵大学と近くのギャラリー古藤(ふるとう)を会場に開かれる。

 第13回の今年は、武蔵大学1号館で2月24日に『福田村事件』の上映と製作者によるトークイベント、3月2日には土井敏邦監督の『パレスチナからフクシマへ』と『ガザ〜オスロ合意から30年の歩み』(初上映)の上映と監督トークがある。
 ギャラリー古藤では2月25日に『飯館村 べこやの母ちゃん―それぞれの選択』(古居みずえ監督)の上映から始まり、『「生きる」大川小学校津波裁判を闘った人たち』(寺田和弘監督)やアニメ『ふながたの海』(いくまさ鉄平監督)、米アリゾナ州での核実験後の地元民の被ばくを追った『サイレントフォールアウト』(伊東英朗監督)、相馬高校放送局制作の『福島の高校生が処理水問題を考える』など、地域の市民を中心に集まった実行委員会が準備した作品が次々に上映される。

 東電福島第一原発の事故や津波の被害から13年、「福島を忘れない」から始まった映画祭は、市民による文化拠点づくりとして広がってきた。    
 商業映画館では上映機会の少ない社会的テーマの映画を、江古田地区で連続的に上映することで地域の活性化につなげているのが特徴だ。石川県・能登で地震被害が起きた今、この映画祭を続けてきた意義を確認し、能登復興支援の取り組みにも繋げる意味でもぜひ多くの人に参加を呼び掛けたい。
 詳しい上映予定や参加費などは映画祭ホームページで。       
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
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2024年02月20日

【出版界の動き】政治家が購入した<ヨイショ本>の使いみち=出版部会

◆「政治とカネ」をめぐる問題に関連し、「裏金」の使途が問われている。自民党の二階俊博元幹事長の資金管理団体「新政経研究会」は、2020〜23年の政治資金収支報告書を1月に訂正した。その報告書によると、17種類の書籍を27,700冊・総額3,470万円の支出が追加されていた。
 とりわけ大量に購入した本は、大仲吉一『ナンバー2の美学 二階俊博の本心』(ブックマン社・2020年12/8刊)である。これを2021年に5,000冊・1,045万円も購入している。ほかに購入した6冊も、二階氏が主役≠フ<ヨイショ本>である。
 総選挙があった2021年には、15,800冊・総計2,264万円も書籍代として支出している。二階氏の資金管理団体・支出総額の54%を占める。日本の公共図書館が1年間に購入する図書費は、1館あたり平均836万円、それの約3倍近い金額を二階氏は使っていることになる。何の目的のために購入したのか。誰しも疑問に思うだけでなく、自分の当選に向けて使ったと判断するのは、しごく当然ではないか。
 著者も出版社も、買い切りを前提に返品のリスクもなし、印税も売り上げも確実、儲かればよいで済むのだろうか。もし「裏金」などが充てられているとしたら、<汚いカネのマネー・ロンダリング>に手を貸したことにならないか、疑問は尽きない。

◆今年に入って書店の閉店・廃業の深刻な状況は驚くばかり。書店数の減少はここ20年近く続き、年間で500〜600店が閉店に陥っている。その流れは2023年も食い止められず、2023年の閉店または廃業した書店は669店にのぼる。今年2024年には売場をもつ書店の数が7000店台に突入するのは確実な状況となっている。
 紙媒体の市場規模が急速に縮小し、とくに雑誌と紙コミックの売上げ低下が、大きな影響を及ぼしている。書店数の減少は、配送効率の低下を引き起こし、出版物流の根幹を揺るがす深刻な状況になっている。

◆23年12月の出版物販売金額887億円(前年比8.94%減)、書籍483億円(同7.5%減)、雑誌404億円(同10.0%減)。月刊誌354億円(同8.8%減)、週刊誌50億円(同17.9%減)。返品率は書籍29.1%、雑誌40.3%、月刊誌38.5%、週刊誌50.4%。相変わらず週刊誌の落ち込みが続く。週刊誌の売り上げは前年比マイナス20%に加え、返品率が最悪な状況になっている。
 おそらく今年は月刊誌だけでなく週刊誌の休刊も続出する気配が濃厚だ。

◆紙の雑誌・書籍の売上げは1996年2兆6,564億円をピークに減り続け、全国の書店も2000年の2万1654店舗から2020年には1万1024店舗へと20年で半減した。さらに今年は物流の2024年問題にも直面する日本の出版業界である。
 ところが世界の書籍出版業界は、2019年に約859億ドルと評価され、2020〜2027年には2%以上の成長率が見込まれる成長市場だという。なのに日本では、なぜそうならないか。そこには業界平均で約40%という「返本率の高さ」があると指摘されている。
 こうした出版業界の課題に立ち向かうために、ブックセラーズ&カンパニーが組織された。大手書店の紀伊國屋書店、TSUTAYAや蔦屋書店などを運営するCCC、取次の日販が共同出資して設立された。
 現在、同社の事業に約1000書店が参加し、出版社との直接取引をまとめ、流通の効率化を支援する。このほど出版社4社と直取引で合意し、3月から順次スタートする。

◆トップカルチャーの連結決算が発表され、当期純損失13億7600万円、減収損失の決算となった。メインである「蔦屋書店事業」は売上高179億6500万円(前年比12.2%減)、その他の部門でも全てがマイナス。日販からトーハンへの帳合変更によりトーハンの筆頭株主となり、26年までに売上高181億円を目ざす。そのためには「TSUTAYA」を減らさざるを得ない状況が続く。
 トップカルチャーは1987年からCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)とフランチャイズ契約を締結し、CCCは1都9県に書店「TSUTAYA」74店舗を展開している。 その閉鎖が止まらない。1月には30年の歴史を持つ東京・世田谷の象徴的な店舗も閉鎖。この10年で半数近くが消えた。書店ビジネスの再生や東京・渋谷のスクランブル交差点に面した新型「TSUTAYA」の開発など、再構築を進めるが、果たして成功するかどうか問われている。
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2024年02月19日

【おすすめ本】青木 美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』―事故の記憶を呼ぶ覚ます キーパーソンの戦いと挫折の跡も=七沢潔(ジャーナリスト)

 これは急激に「原発回帰」に向かう日本と日本人の横っ面を思い切り引っ叩いて、忘れかけている原発事故の記憶のリマインドを迫る書である。

 本の構成は「復興」から事故プロセス、原発マネー、核兵器、脱原発と読み手の関心を誘うように蛇行するが、「原子力ムラ」「安全神話」「規制の虜」「原発ゼロ」「避難計画」・・・断続的に挿入されるこの12年間の新聞記事は、事故直後には日本の原子力体制の矛盾を暴き、批判する言説が溜まったマグマのように噴出していたことを思い出させる。同時に著者が直撃取材したキーパーソンたちの闘いの跡からは、なりふり構わず窮地を脱しようともがく原子力ムラの分厚い岩盤が目の当たりになる。 

 原子力委員長代理としてムラの排除の論理に当惑し続けた鈴木達治郎、電力会社と官僚の根腐れた癒着を語る元経済産業省官僚の古賀茂明、巨大津波を予測しながら無視され、原子力規制委員として活断層の影響を値切る関西電力により切られた地震学者の島崎邦彦、大飯原発3,4号機の運転差し止めを命じた元福井地裁の裁判長、樋口英明・・・権力の間近で、真っ当な判断を試みた彼らの抵抗は悉く挫折していく。

 その一方で著者は汚染水放出に苦しむ漁業者や、帰る見込みも立たない帰還困難区域からの避難者など生活を壊され、追い込まれたまま忘れ去られようとする人々への眼差しを保ち続ける。
 「忘れてはならない。人々の犠牲のうえに原発は動いている」(「おわりに」から)
 所属する新聞社から記者職を追われながらも現場に通い続けるジャーナリストの入魂に心が熱くなる。文春新書(1091円)
                
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2024年02月18日

【フォトアングル】逆転敗訴 福島原発東京控訴審「不当判決」と弁護団=12月26日、東京高裁前、酒井憲太郎撮影

                   
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福島から東京へ避難した住民47人が損害賠償を求める福島原発被害東京訴訟の控訴審判決では2018年の1審判決で認めた国側の責任を認めなかった。弁護団は「国の責任否定 不当判決」と抗議の意思表示をした。2022年最高裁は判決で国の責任を認めなかった。その誤りを正すのではないかと期待されたが、結果は最高裁のコピペと言われるものだった。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
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2024年02月17日

【オンライン講演会】「台湾選挙と今後の両岸関係」慶応大学名誉教授の大西 広氏が講演 3月2日(土)午後2時から4時

                     
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■開催趣旨:
1月の台湾総統選挙の結果と今後の(中台)両岸関係をどうみるか。
中国、台湾を頻繁に訪問されて取材、学術交流されている先生にアジアで戦争をおこさないためにどうすればよういか。
日本は台湾にどう向きあえばよいかを含めてお話いただきます。

■講演者プロフィール:大西 広 (おおにし・ひろし) 慶応大学名誉教授
1958年生まれのマルクス経済学者。京大教授、慶大教授を歴任。中国経済や小数民族問題の研究、著書多数。最近は『人口ゼロの資本論』(講談社新書)がベストセラーに。『中成長を模索する中国…「新常態」への政治と経済の揺らぎ』(慶應義塾大学東アジア研究所叢書)
※zoomにてオンライン 記録動画の配信有り。
■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0302.peatix.com/)で参加費をお支払いください。
※JCJ会員、日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(AALA)会員は参加費無料。
jcj_online@jcj.gr.jp に支部名を明記の上お申し込み下さい)

■共催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)と日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(AALA)
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2024年02月16日

【おすすめ本】上丸洋一『南京事件と新聞報道 記者たちは何を書き、何を書かなかったか』─著者の責任感が書かせた本格検証=藤森研(JCJ代表委員)

 「論争的なテーマはさわらない方が安全だ」。そんな空気がメディアに蔓延している。だが著者(元朝日新聞編集委員)は南京虐殺事件の報道を検証し、世に問うた。なぜ今あえて?
 450頁を超える大著は「これでもか」と事実を積み上げる。当時の全国紙、地方紙、全国紙地方版、戦史、日記、研究論文と調査は分厚く、状況を浮かび上がらせる。
 死屍累々たる揚子江岸「下関」では何が起きたのか、南京城外・幕府山での約1万5千人もの中国人捕虜のその後は? それらを新聞はどう報じたのか、何を報じなかったのか。

 著者は「南京・下関に死体の山があったといった描写は当時の新聞にもみられるが、多数の捕虜を機関銃で虐殺する場面を…具体的に描いた記事はない」とする。第一の理由は報道統制だった。だが「当時は戦意高揚が記者の最大の使命だと思っていました」という元記者の言葉も紹介する。
 ほとんどの南京の従軍記者は、戦後も沈黙を続けた。南京事件の新聞報道を見わたす作業は、ほぼ手つかずだった。
 「書くべきことを書かなかった責任は、たとえ長い時を経たとしても、改めて書くことでしか果たされない」と考える著者は、3年半をかけて、国会図書館のマイクロフィルムに向き合い、遠隔地の図書館を訪ね、体を痛めつつ本書を次代に残した。執念の底には一人のジャーナリストとしての職能的な責任感があった。
 「何を書き、何を書かなかったか」。それは私たちも後世から問われ続ける。(朝日新聞出版2600円)
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2024年02月15日

【焦点】外苑再開発で森元首相の暗躍を伝えた2年前と1年前の筆者の記事を合併再編集 そして「神宮利権ムラ」誕生=橋詰雅博

            
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 東京地裁で行われている神宮外苑再開発許可取り消し訴訟に呼応するかのように東京新聞が連載を始めた「解かれた封印 外苑再開発の真相」は、2月5日付の第7回目「目覚めた住民 開発拒否」で終わった。この連載のキモは森喜朗元首相がこの計画にどう関わったかだ。2回目と3回目でその核心に触れていた。筆者も森元首相の暗躍をJCJ機関紙22年4月2日と23年4月10日で書いている。2つの記事を合併し再編集したものを紹介する。
                 ◇
 「この一帯を再開発できたら、スポーツ施設とオフィスビルなどからなる都内有数の一大ゾーンができる」――伊藤忠商事東京本社(港区外苑前)の幹部社員が部屋のガラス窓から見える秩父宮ラグビー場や神宮球場などに視線を移しながらつぶやいた言葉を筆者は20数年過ぎた今でも鮮明に記憶している。
 伊藤忠や三井不動産、日本スポーツ振興センター、宗教法人・明治神宮などが事業主となった明治神宮外苑前地区の再開発案が都市計画審議会で2月に承認された。日本初の景観を守る風致地区に指定され100年近く緑のオアシス≠都民に提供してきた神宮外苑は、樹木が伐採され再開発で一変する。高さ190bと185bのオフィス・商業施設が入る高層ビル2棟や80bの宿泊・スポーツ関連施設ビル、60bのホテル併設の神宮球場、55bの秩父宮ラグビー場などが2036年までに建設される見込み。

国策と住民退去

 引き金は国立競技場の建て替え。ラグビーW杯会場(建設が間に合わず実現できなかったが…)とオリンピックメイン施設という口実で、高さ制限など各規制が大きく緩和された。また都は「国策」を理由に都営霞ヶ丘アパートから強制退去を求めた三百世帯の大半は、16年1月までに別の都営アパートに移った。新国立競技場(高さ49b)の収容人数を8万に広げたのは、邪魔な霞ヶ丘アパートを取り壊すためといわれている。

急速度で展開
 
 都が19年に正式公表したこの再開プロジェクトには「森喜朗元首相が深く関与している」と指摘するのは『亡国の東京オリンピック』の著者でジャーナリストの後藤逸郎さんだ。
 「森元首相が日本ラグビーフットボール協会会長のときの09年7月に19年ラグビーW杯開催が決定した。それ以降から物事が速いスピードで動き出した。10年末に都は国立競技場一帯のスポーツ・クラスター構想を発表。JOC(日本オリンピック委員会)は11年に20年オリンピックへの立候補をIOC(国際オリンピック委員会)に申請した。翌年の12年5月に当時衆議院議員の森元首相は都の佐藤広副知事、安井順一技監と議員会館で面談している。面談メモが都議会で暴露され問題になったが、私も情報公開請求で一部黒塗り資料を入手した。この時点で今の神宮外苑再開発案は固まっていた」(後藤さん)

采配するうま味

 面談メモのおよその中身は―。副知事と技監が神宮外苑再整備の概要を森元首相に説明。そして森は「(霞ヶ丘アパートの)住民の移転は大丈夫か?」と質問。副知事は「他の都住に移転してもらえるために国策として計画を進めていく」と答える。さらに森の「(オリンピック招致)が×になったらどうする?」の質問に、二人とも神宮外苑全体の再整備を前提に進めると応じた。最後に森は「すばらしいよ。あと15年は長生きしないと」と述べた。
 森元首相の動きについて後藤さんは「彼は文教族やスポーツ行政のドンとして国会議員時代以上の政治力を発揮してきている。だから『森さん、森さん』と人が寄ってくる。頼み事を受け入れ差配するというのは他には代えられないうま味だと思う。彼自身、権力そのものですから『オレのところに話を通すだろう』くらいに思っている」と話す。
 結局はラグビーW杯もオリンピックも国内最大級の再開発を促進するための道具≠ノ過ぎなかったのではないか。

石原会談が発端

森元首相は石原慎太郎都知事に2005年に計画実行を働きかけた。外苑樹木伐採の反対運動を展開する住民団体が主催した23年2月21日のオンライン講演で元都庁幹部職員の澤 章氏はこう解説した。
 「そもそもこの再開発事業計画は2005年夏の森喜朗元首相と石原慎太郎都知事との都庁での会談が発端。その後、庁内に東京が2度目の五輪開催を目指すという噂が流れた。後日聞いた話だが、電通がつくったとされる神宮外苑再開発に関する企画提案書(04年ごろに出回る)を森元首相は持参したという。老朽化した国立競技場の移転(当初は晴海に新競技場を建てる予定)、都営霞ヶ丘アパートの取り壊し、複合スポーツ施設や業務施設の建設などを行う外苑再開発実現のため五輪招致を2者会談で決めたようです。森元首相が電通案に乗ったのか、案作成を指示したのかは不明です。元文科相で自民党の萩生田光一代議士(東京24区選出)も絡んでいる」。

都市整備局動く

 知事本局計画調整部長や中央卸売市場次長などを歴任した澤氏は、20年3月出版した『築地と豊洲』で小池都政を批判したことで東京都環境公社理事長を解任された。都庁で33年間働いた澤氏は外苑再開発計画の裏側で政治家や事業者などの意向を汲んだ都市整備局がおぜん立てしたと断言する。
 「外苑再開発事業を進めるには用途地域の変更、容積率アップ、緑の量をどのくらいにするなど都市計画の大幅な変更が絶対必要です。これを司る都市整備局が各方面に根回し。ダークサイドの仕事として少数の幹部だけが関知できる案件だと思います」
こうして政官業一体の「外苑利権ムラ」は出来上がった。
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2024年02月13日

【月刊マスコミ評・放送】NHK ネット業務に不安要因=諸川 麻衣

 昨年10月、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の「公共放送ワーキンググループ(WG)」が、NHKのインターネット活用業務を従来の任意業務から必須業務化する方向性を示した。この取りまとめを受けて放送法が改正されればNHKは、テレビ受像機を持たずパソコンやスマートフォンで放送を視聴する利用者からも、必要な手続きを経た上で受信料を徴収可能になる。

 テレビを持たない世帯が増える中、放送のネット配信は、WGでも論じられた通り、時代の必然、世界的趨勢と言える。しかし、NHKのネット業務の近未来には幾つかの不安要因がある。一つは、NHKの業務拡大は民業圧迫だとしてネットの必須業務化に強硬に反対してきた新聞協会に「配慮」する形で、「ネット業務は放送と同等の効用をもたらすものに限定」と縛りをかけてしまったことだ。これまでNHKは任意業務として文字ニュースの「NEWS WEB」や番組関連サイトなどネットでの多様なサービスを展開し、評価を得てきた。しかし文字ニュースは事実上廃止される方向が固まった。予算の制約を考えると、今後は他のサイトの中にも廃止・縮小されるものが予想される。

 第二に、放送のネット同時配信がとりあえずは地上波放送に限られ、衛星波の同時配信は見送られたこと。前田前会長時代に衛星波のネット配信の準備の予算を計上するという「勇み足」をしてしまったのと逆に、「配信のための権利料負担が大きい」との理由で見送ってしまったのだ。これでは、法改正後も配信内容は現行の「NHK+(プラス)」とほとんど変わらないことになろう。

 NHKが視聴者の要求に応えて経営を維持しようとするのであれば、衛星波のネット配信や独自のネット・サービスなどは早晩欠かせないが、現状ではむしろそれに逆行しつつある。そうした中で少し注目されるのは、能登半島地震後、旧BS103の波を使って総合テレビの地震関連の情報などを放送し始めたことだ。これはあくまで総合波の同時放送に過ぎないが、独自の災害情報を盛り込み、それをネットでも配信することも不可能ではない。そのようなサービスを拡充して社会的に支持されなければ、ネットの必須業務化は公共の利益にもNHKの存続にもつながらない看板倒れに終わりかねない。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
   
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2024年02月12日

【沖縄リポート】新たな訴訟、初日の出の日に「不屈」を誓う=浦島悦子

                         
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  なぜ、これほどまでに国は前のめりになるのだろう…?
 昨年12月20日、辺野古代執行訴訟の高裁判決(沖縄県敗訴)。御用納めの28日、判決に従わない県に代わって国が代執行(設計変更承認)。荒れた年末に続く年明け、国は、予定していた1月12日の大浦湾側着工を、強風・波浪注意報の出る悪天候の中、2日も前倒しして10日正午過ぎ強行。「抗議行動を避ける狙いか」と地元紙は報じた。

 台船に載せた石材(砕石)を海へ投入し「着工」を宣言した「儀式」には既視感があった。2017年4月、建設予定地の波打ち際に数個の土嚢を置いて「辺野古埋め立て着工」を大々的に宣伝した。翌18年12月の土砂投入開始時には、見る見るうちに濁っていく海、埋め殺されるサンゴの映像が繰り返し流された。
 県との協議にさえ応じず強行着工したことに対し、玉城デニー知事は「(国の言う)『丁寧な説明』とは真逆の、極めて乱暴で粗雑な対応」「あきらめを醸し出そうという考え」と怒りを込めて批判、「沖縄の苦難の歴史にさらに苦難を加える」新基地建設の中止と対話による解決を強く求めた。

 これでもか、これでもか、と言わんばかりの鞭を沖縄に打ち据えながら「沖縄の負担軽減」、国の試算でも今後最低12年かかるという工事を「1日も早い普天間基地の返還」と平然と語る岸田首相の言葉の白々しさ…。
「前のめり」が県民をあきらめさせるためなら、それは逆効果だ。2024年元旦、ヘリ基地反対協はコロナ禍で中止していた辺野古の浜の初興し(ハチウクシ)を4年ぶりに開催。250人が、東の海を染めて昇る初日に「不屈」を誓った=写真=。
 私たち地元住民は、不当極まりない高裁判決と代執行に対し、新たな訴訟を起こすことを決意、近く記者会見する。現在、埋め立て承認撤回及び設計変更不承認という県の判断を支持する2つの訴訟も係争中。
 沖縄県は代執行訴訟の敗訴を不服として最高裁に上告したが、新基地建設を巡る新たな訴訟は起こせない。一方、住民は提起できる。最後まで「あきらめない」姿勢を示すことで県と県知事を支えていきたい。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
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2024年02月11日

【月刊マスコミ評・新聞】災害多発時代に発想の転換を=山田明

 年初から能登半島で巨大地震が発生し、甚大な被害をもたらした。災害列島日本で、災害多発時代を実感させる。震源に近い志賀原発にも危険が迫った。巨大地震災害の全容はいまだ不明だが、厳冬の地で災害関連死が危惧される。官民一体の迅速な支援が求められる。
 巨大地震の翌日には、羽田空港滑走路で衝突炎上事故が起こった。原因の徹底究明が必要だ。羽田空港の混雑は世界3位で、超過密のなかの大事故である。この事故からも学ぶことは多い。

 今年の元日社説は毎日「二つの戦争と世界」、日経「分断回避に対話の努力を続けよう」のように、戦争と平和に焦点が当たる。日本の現実はどうか。政治を揺さぶるのが、自民党派閥の政治資金パーティをめぐる裏金疑惑である。安倍派だけでなく、自民党全体の「構造汚職」と言える。岸田首相の年頭記者会見からは、「政治とカネ」の問題に正面から取り組む覚悟に見えなかった(毎日5日)。

 岸田政権は超低支持率ながら、大軍拡と強権政治を進めている。昨年末、沖縄県知事の権限を奪う前例のない代執行を強行。「苦難の歴史を歩み、過重な基地負担を押し付けられてきた沖縄で、この国の民主主義が揺らいでいる」(朝日12月29日)。一方、読売は「沖縄県知事は司法の判断に背いて、手続きを拒んでいる以上、国が前例のない法的手段に踏み切るのはやむを得ない」(12月27日)と主張。読売は日本学術会議についても「これ以上、結論の先延ばしを図ろうとするなら、国のリ―ダ―シップで改革を実行すべきだ」(同23日)と。強権政治にお墨付きを与える読売論調を注視。

 「第2自民党」を公言している日本維新の会にも注意が必要だ。災害に便乗して、緊急事態条項など改憲の旗振り役として危険な役割を演じている。維新が推進してきた大阪万博についても批判が高まる。万博より震災対応を優先せよ、万博中止・延期の声がいちだんと高まるが、維新はあくまで推進の立場だ。
 軟弱地盤の夢洲で開催予定の万博は、底なしの負担増と災害リスクが懸念される。何より万博への関心は低調のままだ。気候危機下の災害多発時代にあって、今こそ発想の転換が求められている。 
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
    
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2024年02月10日

【おすすめ本】金平茂紀 大矢英代『「新しい戦前」のなかでどう正気を保つか』日米のメディア状況を分析 近未来を見通すために=鈴木耕(編集者)

 今年は穏やかな年でありますように…と年賀状に書いた。でも元旦の夕刻におきた能登半島大地震、翌日の日航機火災、厳しい2024年の幕開けである。天変地異や事故だけではなく日本(いや、世界中)の政治そのものが崩壊寸前であるようにさえ見える。政治社会の混乱の世を「新しい戦前」とみなし、その中でどう正気を保つかを論じたのが、金平茂紀氏と大矢英代氏の対談集である。新しい戦前の進行に私たちはどう立ち向かい抗えばいいのか、まことに示唆に富む。

 第1部では日米のメディア状況を分析する。大矢氏は現在、米カリフォルニア州立大学フレズノ校でジャーナリズム論を教える准教授。金平氏は著名なジャーナリスト。だから話は当然、日米のメディア状況に及ぶ。その上で「2022年が新しい戦前の分岐点」になったのではないかと結論づける。なるほど、安倍元首相暗殺事件が、その銃爪を引いたのか。

 もともとアルジャジーラに就職希望だったという大矢氏が、なぜ沖縄に拠点を置いたか。沖縄で見つけた大切なものとは何か。渡米の経緯。そして沖縄の現状をアメリカの学生たちはどう感じているか。前線基地化する沖縄・南西諸島の現状を憂え、日米政府のやり方を強く批判することは、おふたりに共通する。それは評者の私も、強く共感できるのだ。

 変容する日本、自治や分権の不在は、昨年末の辺野古訴訟における福岡高裁那覇支部の判決に如実に示されている。本書の指摘がそのまま現実になるという、この国の不幸。そのような危機感を共有することで成立したのが本書だ。近未来≠見通す上でも、ぜひ読んでほしい1冊である。(かもがわ出版、1600円)
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