23年暮れ、政界を揺るがす「政治資金パーティ」裏金疑惑は当初、カネの流れを記帳しない杜撰な会計処理による「記載漏れ」の政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)と思われていたが、「パーティ」を隠れ蓑にカネ集めをし、権力をカネで支配する「裏金つくりの宴」だったことが明らかとなり、当初の「安倍派の政治資金パーティ」問題から、自民党の各派閥にまたがる「政治とカネ」の大問題となって国民の信を失い支持率低下にあえぐ岸田政権を直撃。「政治とカネ」に加え、自民党内に「選挙のカオ」を巡る政局まで生じる事態となった。一方、本来なら疑惑「解明の主役」であるべきメディアは、検察にその座を奪われ後追い取材に終始。政界とは別の大きな課題を抱え込むこととなった。
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問題を告発したのは、政治資金問題を追及し続ける神戸学院大・上脇博之教授。赤旗日曜版22年11月6日号が報じたことから調べを進めた。
告発に特捜動く
11月2日、共同通信などが「自民党5派閥の政治団体が政治資金パーティ収入を2018〜21年分政治資金収支報告書に過少記載している、と政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)で、東京地検特捜部に告発状が出されていた」と報道。
問題がクローズアップされ、過小申告額は、清和政策研究会(安倍派)が約1900万円、志帥会(二階派)約950万円、平成研究会(茂木派)約600万円、志公会(麻生派)約400万円、宏池会(岸田派)が約200万円。総額は4000万円などと報じられた。
地検が動いてその後、安倍派の不記載額は「1億円超」から「5億円」へと膨れ上がった。
裏金のカラクリ
派閥の政治資金パーティは、大量のパーティ券を政治家に割り当て、ノルマを超えた代金を派閥が政治家にキックバックする。そのカネを政治家が自分の政治資金団体に入れ、報告書に記載すれば問題はない。だが、派閥が「政治資金団体の報告には載せるな」と指示していたことで、特捜部は「組織ぐるみの裏金つくり」と見たようだ。
安倍派は、安倍晋三氏の下、塩谷立会長、下村博文元文科相、世耕弘成参院幹事長、萩生田光一政調会長らが実権を握り、会計の事務総長を松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、高木毅国対委員長(22年から)らが務めてきた。
4閣僚を解任
地検特捜の捜査が報道される中で、安倍派の閣僚4人、副大臣、政務官合わせて15人や自民党役員(萩生田、世耕、高木氏)も辞任を余儀なくされる状況になった。
結局、閣僚と副大臣は交代、若手の政務官については、大半が留任する形になり、12月14日、4閣僚が辞任、後任の官房長官に林芳正前外相、経産大臣に齋藤健前法相、総務大臣に松本剛明前総務相、農水大臣に坂本哲志元地方創生相が就任、副大臣5人と政務官1人も交代した。
メディアの役割は
今回問題にされているのは、自民党の派閥による、党と同じ形の資金集めパーティでの裏金作りだが、政党には巨額の政党助成金が支出され、馳・石川県知事の口から明かされた内閣機密費もすべて国民の税金だ。
カネで政治が歪められている事実は、この一件でいまや隠しようもなくなっている。
今回の報道を「自主取材」と言っても結局、内実は検察のリークと示唆に引きずられ、政界の「観測」に乗った性格が強いとの印象は避けられない。
捜査の行方は予断を許さないが、「報告書」やそれ以外の客観的事実の分析から核心をあぶり出すことが中心にならなければならないとすれば、検察が動くまで報じなかった多くのメディアは、またも赤旗に敗け、上脇教授に負けたことになる。
問題の核心は、当然、政党助成金をどうするか、企業・団体献金をどうするか、内閣機密費をどうするかにある。
メディアの課題は山積しているが、「政治とカネ」の問題は見過ごしてはならない問題だ。
メデイア本来の役割である権力監視の力を見せてほしいものだ。
退陣もあり得る政局に
疑惑の影響か岸田内閣の支持率は、時事通信調査(12月8日〜11日)で17・1%、不支持58・2%、毎日新聞(18〜19日)では、16%、不支持79%、とうとう10%台に転落した。「パー券裏金疑惑」が発展した結果だ。果たして、これで政権は持つのか? 検察の捜査にもよるが、政局は新年早々の岸田退陣もあり得る情勢になっている。
一日も長く政権の座に居たいという岸田首相にとって、自民党総裁としての再選を確実にするためにも、いつ解散・総選挙が打てるかは大きな課題だった。ところが、ここで勃発した政治資金パーティ問題は、「清和会」にとどまらず、官房長官と3閣僚、副大臣5人、政務官6人にも直接関わる問題とわかり、支持率も低下、政権の存亡にも関わる事態になった。
党のカオ交代も?
岸田政権は、安倍政権の安保法制に続く「安保3文書」で、敵基地攻撃を可能にし、防衛費の増額、NATOへの接近、中国包囲網―と米国の意向に沿った政策を次々と打ち出した。まさに安保政策の転換で、「安倍政治」を完成させた。
これまでも、自民党は適当に「顔」を変え「目先」を変えながら、一貫して、対米追随・軍事強化・憲法無視の路線を続けてきたが、24年11月の米大統領選も控え、「首相交代期」に来た、との見方もある。年明け早々からの政局からも目が離せない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号