2024年02月10日

【おすすめ本】金平茂紀 大矢英代『「新しい戦前」のなかでどう正気を保つか』日米のメディア状況を分析 近未来を見通すために=鈴木耕(編集者)

 今年は穏やかな年でありますように…と年賀状に書いた。でも元旦の夕刻におきた能登半島大地震、翌日の日航機火災、厳しい2024年の幕開けである。天変地異や事故だけではなく日本(いや、世界中)の政治そのものが崩壊寸前であるようにさえ見える。政治社会の混乱の世を「新しい戦前」とみなし、その中でどう正気を保つかを論じたのが、金平茂紀氏と大矢英代氏の対談集である。新しい戦前の進行に私たちはどう立ち向かい抗えばいいのか、まことに示唆に富む。

 第1部では日米のメディア状況を分析する。大矢氏は現在、米カリフォルニア州立大学フレズノ校でジャーナリズム論を教える准教授。金平氏は著名なジャーナリスト。だから話は当然、日米のメディア状況に及ぶ。その上で「2022年が新しい戦前の分岐点」になったのではないかと結論づける。なるほど、安倍元首相暗殺事件が、その銃爪を引いたのか。

 もともとアルジャジーラに就職希望だったという大矢氏が、なぜ沖縄に拠点を置いたか。沖縄で見つけた大切なものとは何か。渡米の経緯。そして沖縄の現状をアメリカの学生たちはどう感じているか。前線基地化する沖縄・南西諸島の現状を憂え、日米政府のやり方を強く批判することは、おふたりに共通する。それは評者の私も、強く共感できるのだ。

 変容する日本、自治や分権の不在は、昨年末の辺野古訴訟における福岡高裁那覇支部の判決に如実に示されている。本書の指摘がそのまま現実になるという、この国の不幸。そのような危機感を共有することで成立したのが本書だ。近未来≠見通す上でも、ぜひ読んでほしい1冊である。(かもがわ出版、1600円)
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする