昨年10月、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の「公共放送ワーキンググループ(WG)」が、NHKのインターネット活用業務を従来の任意業務から必須業務化する方向性を示した。この取りまとめを受けて放送法が改正されればNHKは、テレビ受像機を持たずパソコンやスマートフォンで放送を視聴する利用者からも、必要な手続きを経た上で受信料を徴収可能になる。
テレビを持たない世帯が増える中、放送のネット配信は、WGでも論じられた通り、時代の必然、世界的趨勢と言える。しかし、NHKのネット業務の近未来には幾つかの不安要因がある。一つは、NHKの業務拡大は民業圧迫だとしてネットの必須業務化に強硬に反対してきた新聞協会に「配慮」する形で、「ネット業務は放送と同等の効用をもたらすものに限定」と縛りをかけてしまったことだ。これまでNHKは任意業務として文字ニュースの「NEWS WEB」や番組関連サイトなどネットでの多様なサービスを展開し、評価を得てきた。しかし文字ニュースは事実上廃止される方向が固まった。予算の制約を考えると、今後は他のサイトの中にも廃止・縮小されるものが予想される。
第二に、放送のネット同時配信がとりあえずは地上波放送に限られ、衛星波の同時配信は見送られたこと。前田前会長時代に衛星波のネット配信の準備の予算を計上するという「勇み足」をしてしまったのと逆に、「配信のための権利料負担が大きい」との理由で見送ってしまったのだ。これでは、法改正後も配信内容は現行の「NHK+(プラス)」とほとんど変わらないことになろう。
NHKが視聴者の要求に応えて経営を維持しようとするのであれば、衛星波のネット配信や独自のネット・サービスなどは早晩欠かせないが、現状ではむしろそれに逆行しつつある。そうした中で少し注目されるのは、能登半島地震後、旧BS103の波を使って総合テレビの地震関連の情報などを放送し始めたことだ。これはあくまで総合波の同時放送に過ぎないが、独自の災害情報を盛り込み、それをネットでも配信することも不可能ではない。そのようなサービスを拡充して社会的に支持されなければ、ネットの必須業務化は公共の利益にもNHKの存続にもつながらない看板倒れに終わりかねない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号