2024年03月31日
【沖縄リポート】薩摩以来の植民地″ナ高裁を糾弾=浦島悦子
3月1日の地元紙は、辺野古新基地建設の設計変更を巡る代執行訴訟において、最高裁が沖縄県の上告を受理しない決定をした(2月29日付)ことを1面トップで報じた。地方自治法に基づく史上初の代執行にもかかわらず最高裁は審理をすることなく、昨年12月20日の高裁判決(県敗訴)が確定した。
翌2日、辺野古ゲート前で開催された県民大行動(毎月第1土曜日)には、通常より多い千人以上が参加し、怒りの声を上げた。主催者を代表して挨拶したオール沖縄会議の稲嶺進共同代表は「訴えを受け付けさえしない」最高裁を糾弾し、新基地建設を認めない結束を改めて呼びかけた。
デニー知事を支える与党県議団もこぞって参加し、代表して挨拶した上里善清議員は、「1609年の薩摩侵攻から始まった沖縄への植民地支配が今日まで続いている」と指摘した。
国勝訴を見込んでいた防衛省は、既に大浦湾側工事を着工している。県民があきらめるのを待っているのだろうが、軟弱地盤が広範囲に広がる大浦湾の工事がスムーズに進むとは思われない。
私たち地元住民は2月22日、原告30人で「代執行の取り消しを求める住民の訴訟」を那覇地裁に提起した=写真=。この訴訟の被告は国と県双方だ。代執行の性格上、「設計変更承認という行為は県に所属する」として国が逃げるのを避けるために、不本意ながら県も被告とした(沖縄県には事前に了解を得た)が、原告・弁護団内部では「県のかたき討ち」訴訟と呼んでいる。これまでに取り組んできた埋立承認撤回及び、設計変更不承認を巡る住民の抗告訴訟の集大成と言うべき訴訟になるだろう。
2日の県民大行動では、うるま市石川地区に急浮上した陸上自衛隊訓練場計画の撤回を求める地元住民の反対運動の報告も行われた。保革を超えた反対が高まり、ついに県議会で自民党県連が「白紙撤回」を表明し、保守系の中村正人市長も国に「白紙撤回」を要請。うるま市議会も全会一致で断念を要求する見通し。市民総ぐるみの動きは県民を大きく勇気づけている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
2024年03月30日
【月刊マスコミ評・新聞】「証人喚問が必要」声を大に=白垣詔男
自民党の「裏金問題」を追求する衆議院政治倫理審査会(政倫審)が2月29、3月1日に行われた。しかし、出席した岸田文雄首相ら6人の答弁は予算委員会質疑などで、これまで明らかになった内容以上のものは出てこなかった。
これを受けて、新聞各紙は3月1、2日付の朝刊社説で「6人の答弁は不十分」などと書いたが、毎日、朝日、西日本が「参考人招致や証人喚問が必要だ」と主張したのに比べ、読売、産経はそれらに言及しなかった。やはり、現政権への姿勢の強弱が如実に表れているとみるべきではないだろうか。
今回の政倫審に関して、2日続けて社説を書いているのは毎日、読売、産経。毎日は「岸田首相と政倫審 何のために出て来たのか」(1日)の見出しで岸田首相に「安倍派や二階派の幹部らに、裏金事件の経緯や使途を、国会ですべて明らかにするよう指示することだ。…さもなければ、政治不信は増幅するばかりだ」と力説した上に2日付では「政倫審に安倍派幹部 やはり証人喚問が必要だ」と見出しで踏み込んだ。説得力がある。
読売は、「開いただけでは解明にならぬ」(1日付)、「国会の混乱 言論の府の権威を貶めるな」(2日付)、産経「首相 全容解明にもっと努力を」(1日付)、「安倍派の不記載 この説明では納得いかぬ」(2日付)と首相と他の5議員の答弁に対する「不満」に絞って書いているだけで、その打開をどうしたらいいのかには触れていない。
朝日の「政倫審社説」は2日付だけで「政倫審 予算案強行の踏み台か」の見出しとともに、首相の出席を、「実態解明の先頭に立つという決意などではなく、予算案の採決を強行する『踏み台』として政倫審の開催を急いだというのが実際だろう」と推測。さらに「森喜朗元首相を国会に呼び、説明を求めるしかない」「二階俊博元幹事長や、安倍派『5人衆』で残る萩生田光一前政調会長ら、当事者は大勢残っている。参考人招致や証人喚問も含め、説明責任を果たさせねばならない」と強調する。
西日本は「裏金の全容がつまびらかにならないと、的確な再発防止策は打ち出せない。国会は参考人招致や証人喚問を検討すべきだ」と強い姿勢を見せている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
これを受けて、新聞各紙は3月1、2日付の朝刊社説で「6人の答弁は不十分」などと書いたが、毎日、朝日、西日本が「参考人招致や証人喚問が必要だ」と主張したのに比べ、読売、産経はそれらに言及しなかった。やはり、現政権への姿勢の強弱が如実に表れているとみるべきではないだろうか。
今回の政倫審に関して、2日続けて社説を書いているのは毎日、読売、産経。毎日は「岸田首相と政倫審 何のために出て来たのか」(1日)の見出しで岸田首相に「安倍派や二階派の幹部らに、裏金事件の経緯や使途を、国会ですべて明らかにするよう指示することだ。…さもなければ、政治不信は増幅するばかりだ」と力説した上に2日付では「政倫審に安倍派幹部 やはり証人喚問が必要だ」と見出しで踏み込んだ。説得力がある。
読売は、「開いただけでは解明にならぬ」(1日付)、「国会の混乱 言論の府の権威を貶めるな」(2日付)、産経「首相 全容解明にもっと努力を」(1日付)、「安倍派の不記載 この説明では納得いかぬ」(2日付)と首相と他の5議員の答弁に対する「不満」に絞って書いているだけで、その打開をどうしたらいいのかには触れていない。
朝日の「政倫審社説」は2日付だけで「政倫審 予算案強行の踏み台か」の見出しとともに、首相の出席を、「実態解明の先頭に立つという決意などではなく、予算案の採決を強行する『踏み台』として政倫審の開催を急いだというのが実際だろう」と推測。さらに「森喜朗元首相を国会に呼び、説明を求めるしかない」「二階俊博元幹事長や、安倍派『5人衆』で残る萩生田光一前政調会長ら、当事者は大勢残っている。参考人招致や証人喚問も含め、説明責任を果たさせねばならない」と強調する。
西日本は「裏金の全容がつまびらかにならないと、的確な再発防止策は打ち出せない。国会は参考人招致や証人喚問を検討すべきだ」と強い姿勢を見せている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
2024年03月29日
【リレー時評】米大統領選 陰謀論が跳梁する現代=藤森研(JCJ代表委員)
米大統領選が進む。トランプ前大統領が共和党の候補になることは決定的だ。バイデン不人気もあって、トランプが復活した時に世界はどうなってしまうのか、という危惧が現実味を帯びている。
トランプが支持される理由はさまざまにあろうが、岩盤支持層の一つに陰謀論集団「Qアノン」があるという。関連書や雑誌を読んでみた。
「Q」は米国の最高機密、「アノン」はアノニマス(匿名の)の意味だ。ネットの匿名掲示板にQが初めて投稿したのは、2017年。民主党のヒラリー・クリントンが逮捕されるという荒唐無稽な内容だった。だが、信奉者は膨らんだ。
藤原学思は『Qを追う』で、彼らの主張をこうまとめている。
――世界は、米民主党のエリートやハリウッドスターらの「ディープステート」に裏で操られている。彼らは児童虐待者らで、前大統領のトランプこそが、人々を救う救世主だ――
陰謀史観は昔からあるが、近代のそれはフランス革命が嚆矢(こうし)だった、と内田樹は書いている(『日本の反知性主義』)。
――フランス革命で一夜にして財貨を失った特権階級は、亡命先のロンドンで額を寄せ、秘密結社が革命を企んだと推論した。19世紀末、ドリュモンなる人物がこう書いた。「フランス革命後の百年で最も利益を受けたのはユダヤ人だ。彼らがフランス革命を計画実行したに違いない」――
革命の原因は、統治の経年劣化、市民社会理論の登場などの複合だ。内田も書く通り、ドリュモンの論理は、風が吹いて儲(もう)かった桶屋が気象を操作した、と言うに等しい。
米連邦議会侵入で逮捕された男性は、トランプが敗けた選挙に不正があったと信じる理由をこう語った。「トランプは多くの集会を持ち、いつも満員だった。バイデンはほとんど集会をせず、来ても支持者はわずかだった」
だが、バイデン陣営が集会を制限し、人数も絞ったのは、コロナ対策だった。
米NPOの世論調査ではQアノン流の陰謀論に、5%が「完全に同意」、11%が「おおむね同意」すると答えた。その属性は高卒以下、南部在住者らが比較的多かった。
「Qアノン」拡大の理由についてはウォッチャーたちの見方が一致する。「トランプや共和党が否定するどころか奨励するような発言をした」「コロナ禍でパソコンに触れる人が増えた」などだ。
だが、彼らの心象風景についての見方は多様だ。
「リベラルな価値観を内心で嫌悪し、差別表現の排除に辟易(へきえき)していたが、トランプが解き放った」
「彼らは社会から見下されていると感じている人々だ」との見方もある。陰謀論は自我を守る、というわけだ。
どう対すべきか。陰謀論の土壌になる不公正を減らすことも大事だろう。
しかし、かつて統一教会信者にも感じたことだが、不確かな人間存在を考える時、そう簡単な解はないのかもしれない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
トランプが支持される理由はさまざまにあろうが、岩盤支持層の一つに陰謀論集団「Qアノン」があるという。関連書や雑誌を読んでみた。
「Q」は米国の最高機密、「アノン」はアノニマス(匿名の)の意味だ。ネットの匿名掲示板にQが初めて投稿したのは、2017年。民主党のヒラリー・クリントンが逮捕されるという荒唐無稽な内容だった。だが、信奉者は膨らんだ。
藤原学思は『Qを追う』で、彼らの主張をこうまとめている。
――世界は、米民主党のエリートやハリウッドスターらの「ディープステート」に裏で操られている。彼らは児童虐待者らで、前大統領のトランプこそが、人々を救う救世主だ――
陰謀史観は昔からあるが、近代のそれはフランス革命が嚆矢(こうし)だった、と内田樹は書いている(『日本の反知性主義』)。
――フランス革命で一夜にして財貨を失った特権階級は、亡命先のロンドンで額を寄せ、秘密結社が革命を企んだと推論した。19世紀末、ドリュモンなる人物がこう書いた。「フランス革命後の百年で最も利益を受けたのはユダヤ人だ。彼らがフランス革命を計画実行したに違いない」――
革命の原因は、統治の経年劣化、市民社会理論の登場などの複合だ。内田も書く通り、ドリュモンの論理は、風が吹いて儲(もう)かった桶屋が気象を操作した、と言うに等しい。
米連邦議会侵入で逮捕された男性は、トランプが敗けた選挙に不正があったと信じる理由をこう語った。「トランプは多くの集会を持ち、いつも満員だった。バイデンはほとんど集会をせず、来ても支持者はわずかだった」
だが、バイデン陣営が集会を制限し、人数も絞ったのは、コロナ対策だった。
米NPOの世論調査ではQアノン流の陰謀論に、5%が「完全に同意」、11%が「おおむね同意」すると答えた。その属性は高卒以下、南部在住者らが比較的多かった。
「Qアノン」拡大の理由についてはウォッチャーたちの見方が一致する。「トランプや共和党が否定するどころか奨励するような発言をした」「コロナ禍でパソコンに触れる人が増えた」などだ。
だが、彼らの心象風景についての見方は多様だ。
「リベラルな価値観を内心で嫌悪し、差別表現の排除に辟易(へきえき)していたが、トランプが解き放った」
「彼らは社会から見下されていると感じている人々だ」との見方もある。陰謀論は自我を守る、というわけだ。
どう対すべきか。陰謀論の土壌になる不公正を減らすことも大事だろう。
しかし、かつて統一教会信者にも感じたことだが、不確かな人間存在を考える時、そう簡単な解はないのかもしれない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
2024年03月28日
【好書耕読】防衛大国、韓国から何を学ぶか=五味洋治(ジャーナリスト)
朝鮮半島の軍事情勢といえば、もっぱら北朝鮮がテーマだった。核実験やミサイル発射、さらには日本人拉致問題もあり、関心が高いからだ。『韓国の国防政策「強軍化」を支える防衛産業と国防外交』(伊藤弘太郎著、勁草書房)は、逆に韓国に焦点を当てている。
軍備の増強をやめない北朝鮮に対抗するため韓国が独自に開発してきた兵器は、安価で性能が良かった。欧州やオーストラリアなどの海外によく売れ、外貨稼ぎにも役立った。防衛装備品の輸出量が、2008年からわずか10年で倍増していることからも、その人気ぶりが分かる。好調な売れ行きにも支えられ、韓国の防衛費は日本を抜いて世界9位にまで成長している。
筆者は、防衛産業の発展だけでなく、韓国が展開する「国防外交」にも注目している。ある国に戦闘機や戦車を輸出すると、メンテナンスを通じて韓国と関係が密接になり、友好関係が築ける。
一方日本は、平和憲法のもとで外国の軍事問題への関与がタブー視されてきた。2014年には防衛装備移転三原則が制定されたが、反対意見も多く、進んでいない。
著者は、「(日本)国内の防衛産業の活性化を図ろうとするならば、海外への輸出拡大は不可避」と指摘しているが、私は懸念を拭えなかった。
本書にも紹介されているが、アラブ首長国連邦(UAE)の国防力整備に協力する見返りとして韓国政府は、UAEの緊急時には、韓国軍が自動介入するという秘密条項を交わしていたという。兵器セールスのためとはいえ、他国の戦争に巻き込まれかねない。
さらに、ウクライナ戦争では、韓国製の砲弾が米国を迂回してウクライナ側に供給された、と報道されている。韓国は「死の商人」になっていないか。韓国の歩みから慎重に教訓を学ぶべきだ。
軍備の増強をやめない北朝鮮に対抗するため韓国が独自に開発してきた兵器は、安価で性能が良かった。欧州やオーストラリアなどの海外によく売れ、外貨稼ぎにも役立った。防衛装備品の輸出量が、2008年からわずか10年で倍増していることからも、その人気ぶりが分かる。好調な売れ行きにも支えられ、韓国の防衛費は日本を抜いて世界9位にまで成長している。
筆者は、防衛産業の発展だけでなく、韓国が展開する「国防外交」にも注目している。ある国に戦闘機や戦車を輸出すると、メンテナンスを通じて韓国と関係が密接になり、友好関係が築ける。
一方日本は、平和憲法のもとで外国の軍事問題への関与がタブー視されてきた。2014年には防衛装備移転三原則が制定されたが、反対意見も多く、進んでいない。
著者は、「(日本)国内の防衛産業の活性化を図ろうとするならば、海外への輸出拡大は不可避」と指摘しているが、私は懸念を拭えなかった。
本書にも紹介されているが、アラブ首長国連邦(UAE)の国防力整備に協力する見返りとして韓国政府は、UAEの緊急時には、韓国軍が自動介入するという秘密条項を交わしていたという。兵器セールスのためとはいえ、他国の戦争に巻き込まれかねない。
さらに、ウクライナ戦争では、韓国製の砲弾が米国を迂回してウクライナ側に供給された、と報道されている。韓国は「死の商人」になっていないか。韓国の歩みから慎重に教訓を学ぶべきだ。
2024年03月27日
【焦点】台湾有事「基本的にはない」中台統一なら一国両制で 台沖そっくりな立ち位置 大西広氏がオンライン講演=橋詰雅博
1月の台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏が5月に新総統に就任する。中国とは距離を置く民進党政権は葬英文前総統の8年を含め12年続く。台湾統一を掲げる中国の習近平国家主席はどう動くのか。JCJと日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会が共催した3月2日のオンライン講演で台湾選挙を取材してきた慶応大学・京都大学名誉教授の大西広氏=写真=が米中対立の狭間で揺れ動く台湾の状況や「中台統一」などを語った。
最大の関心事である中国と台湾の戦争の有無について「基本的にはない」という大西氏は「中国の何十ページにも及ぶ長い台湾政策の最後の一行に『統一』が書いてあるだけです。『武力行使も辞さず』と日本のマスコミは報じているが、中国はやりたくない。台湾を武力統一した後、うまくいかないは誰の目にもハッキリしている」と言い切った。
とはいえ中国が一方的に軍縮したら、台湾は独立に走る可能性がある。日米をけん制するためにも軍縮はできない。台湾が独立宣言した場合、平和的統一は放棄するだろう。
カギを握る民衆党
総統選と同時に投開票が実施された立法院(一院制で国会議員の定数113人)選挙では、与党・民進党も最大野党の国民党も過半数に届かず、第3政党の民衆党が8議席を獲得。結局、民衆党が議会でキャスティングボードを握る。そこまで議席を伸ばすことができたのは若者の支持を得たからだ。外交はひとまず置き、内政に的を絞った。選挙権を18歳に引き下げる、後の世代に負担を回す国債増発反対など若者向け政策やSNSを駆使した選挙戦が受けた。「20から30代の票数410万のうち233万を民衆党が獲得した。若者や社会的な弱者を裏切れないポジションに達した。未知数という評価もあるが、期待できると楽観視している」というのが大西氏の見立て。また原住民(先住民を指す)にも6議席の枠を設けている台湾の民主主義は十分に機能していると分析した。
1月13日の投開票前日の民進党大規模集会、香港の民主派の旗「時代革命」やウクライナ国旗もみられた
50年日本が支配
台湾は大陸に沖縄は日本本土に「不信感」を持っている点で「台沖」は似ていると指摘した。
「沖縄は第二次大戦で本土の盾として米軍と戦い多大な犠牲者を出したにもかかわらず米軍基地を押し付けられ我慢を強いられている。好き勝手な本土と見ている。台湾は1895年に切り捨てられた(日清戦争で戦況が不利になった清国は台湾の日本割譲を認め、その後50年間日本は植民地支配した)。いまさら中国の一部という主張は好き勝手な言い分と見る。台沖は立ち位置がそっくりです」(大西氏)
良心的な中国人と知り合いが多いという大西氏は「そういう人でも日本に蹂躙されたのは軍事力が弱かったので平和のため自国の軍事力の強化は欠かせないと言います。反論はできないですよ、日本人は」と日本の罪状に言及した。
福建省軍撤退を
中国による台湾統治は1980年代提案した「一国両制」が基本だとする大西氏はさらに2つ提案した。「中国は台湾海峡に面する福建省の軍隊を大幅に撤退させる」「台湾を外交権持つ特別自治区とし、国連にも加盟させる。ただし独自の軍隊は保持させない」。
こういう形で「中台統一」が実現できればいいが……。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
最大の関心事である中国と台湾の戦争の有無について「基本的にはない」という大西氏は「中国の何十ページにも及ぶ長い台湾政策の最後の一行に『統一』が書いてあるだけです。『武力行使も辞さず』と日本のマスコミは報じているが、中国はやりたくない。台湾を武力統一した後、うまくいかないは誰の目にもハッキリしている」と言い切った。
とはいえ中国が一方的に軍縮したら、台湾は独立に走る可能性がある。日米をけん制するためにも軍縮はできない。台湾が独立宣言した場合、平和的統一は放棄するだろう。
カギを握る民衆党
総統選と同時に投開票が実施された立法院(一院制で国会議員の定数113人)選挙では、与党・民進党も最大野党の国民党も過半数に届かず、第3政党の民衆党が8議席を獲得。結局、民衆党が議会でキャスティングボードを握る。そこまで議席を伸ばすことができたのは若者の支持を得たからだ。外交はひとまず置き、内政に的を絞った。選挙権を18歳に引き下げる、後の世代に負担を回す国債増発反対など若者向け政策やSNSを駆使した選挙戦が受けた。「20から30代の票数410万のうち233万を民衆党が獲得した。若者や社会的な弱者を裏切れないポジションに達した。未知数という評価もあるが、期待できると楽観視している」というのが大西氏の見立て。また原住民(先住民を指す)にも6議席の枠を設けている台湾の民主主義は十分に機能していると分析した。
1月13日の投開票前日の民進党大規模集会、香港の民主派の旗「時代革命」やウクライナ国旗もみられた
50年日本が支配
台湾は大陸に沖縄は日本本土に「不信感」を持っている点で「台沖」は似ていると指摘した。
「沖縄は第二次大戦で本土の盾として米軍と戦い多大な犠牲者を出したにもかかわらず米軍基地を押し付けられ我慢を強いられている。好き勝手な本土と見ている。台湾は1895年に切り捨てられた(日清戦争で戦況が不利になった清国は台湾の日本割譲を認め、その後50年間日本は植民地支配した)。いまさら中国の一部という主張は好き勝手な言い分と見る。台沖は立ち位置がそっくりです」(大西氏)
良心的な中国人と知り合いが多いという大西氏は「そういう人でも日本に蹂躙されたのは軍事力が弱かったので平和のため自国の軍事力の強化は欠かせないと言います。反論はできないですよ、日本人は」と日本の罪状に言及した。
福建省軍撤退を
中国による台湾統治は1980年代提案した「一国両制」が基本だとする大西氏はさらに2つ提案した。「中国は台湾海峡に面する福建省の軍隊を大幅に撤退させる」「台湾を外交権持つ特別自治区とし、国連にも加盟させる。ただし独自の軍隊は保持させない」。
こういう形で「中台統一」が実現できればいいが……。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
2024年03月26日
【出版トピックス】意欲的なシェア型書店と「本の町づくり」=出版部会
◆今村翔吾さん都内にシェア型書店を
直木賞作家の今村翔吾さんが、2021年7月に設立し代表取締役を務める書店経営会社の「京国」(大津市)は、4月27日、東京・千代田区神田神保町にシェア型書店「ほんまる」を出店する。
同店では個人のみならず法人も本棚をシェアし、独自に選書した本をディスプレイして販売できる。さらに書店開業を目指す人々に向けセミナーや講演を行い、融資などの資金面も含めてサポートする。将来的には全国展開も目指す。
この「シェア型書店」とは、「貸し本棚屋」「棚貸し書店」とも呼ばれている。30センチ四方ほどの本棚を個別に貸し出し、その賃貸料で主な収益を得る。借り受けた側は、独自の仕入れや選書でユニークな書店空間を作り、本を売る新しい書店の仕組みとして注目され、各地での出店が続いている。
◆自治体が支援「本の町づくり」
いま青森県の八戸市が「本の町」として脚光を浴びている。その拠点となるのが、市が運営する「八戸ブックセンター」=写真=である。今から7年前、2016年12月4日、市民が気楽に出かけていって、素敵な本や好奇心をそそる本が買え、かつ何か知的刺激が得られる場所として誕生した。
この「八戸ブックセンター」では、本の販売やイベントの開催はもちろん、提案したテーマに沿う本を陳列、また閲覧スペースも提供する。さらに八戸市内の民間書店や図書館、市民活動などと連携しながら、「本のまち八戸ブックフェス」を年に1回開催している。
自治体が運営する本屋の先例は、北海道・礼文島の「BOOK愛ランドれぶん」がある。ここは本屋と図書館が一体になった、礼文町の町営施設である。稚内からフェリーで1時間40分もかかる離島では、町営本屋をつくる必然性があり納得がいく(「好書好日」3/16より)。
だが八戸は新幹線も通り、本が入手しづらい地域とは言えない。自治体が図書館に関わるのは理解できても、本屋を運営するのは異色だ。
そこには2021年まで4期16年、市長を務めた小林眞さんの「本のまち八戸」推進構想があった。八戸市全ての本屋と共同し、大人から子どもまで、それぞれに魅力のある本を並べ、知的好奇心を刺激し遊べる文化空間にしていく、青写真が描かれていた。
「利益追求」がさきに立つのではなく、ここにきて本の楽しさ、本がもたらす出会いの魅力を共有する。そして10年、20年先を見据えた「本のまち八戸」づくりの壮大なビジョンへと発展させる、その構想にエールを送りたい。
◆「MUJIN書店」24時間営業へ
トーハンは東京・板橋区のメディアライン大山店で、有人営業と無人営業を組み合わせた24時間営業を開始する。トーハン系列の書店に、Nebraskaが開発した「MUJIN書店」の導入を促進し新業態の開発に向け、同社との協業を強めている。昨年3月には山下書店世田谷店(東京・世田谷区)、同11月にはメディアライン曙橋店(東京・新宿区)に導入している。
各店ともキャッシュレス・セルフレジによる無人化と24時間営業化により夜間と早朝の売上げが増加、収益の改善効果が顕著になっている。
◆書店の倒産10年間で764社
東京商工リサーチが、この3月10日に発表したリポートによると、書店は、2014年から2023年までの10年間で764社が倒産もしくは廃業で消えている。負債1000万円以上の書店倒産は10年間で140社に及ぶ。
コロナ禍では資金繰り支援や巣ごもり需要もあって、倒産は減少に転じたが、今や支援が縮小したうえ、「コロナ特需」が一巡した2023年は、一気に13社が倒産・廃業しその数は約3倍に急増した。
「電子書籍が浸透し、書店の存在が揺らいでいる。店舗で目当ての本を探す楽しみや、知らない本との出会いも、書店の減少で失われつつある。書店の復活には『待ちの営業』から客足を向かせる創意工夫への転換と同時に、国や出版社の継続的な支援が必要だ」と指摘されている。
直木賞作家の今村翔吾さんが、2021年7月に設立し代表取締役を務める書店経営会社の「京国」(大津市)は、4月27日、東京・千代田区神田神保町にシェア型書店「ほんまる」を出店する。
同店では個人のみならず法人も本棚をシェアし、独自に選書した本をディスプレイして販売できる。さらに書店開業を目指す人々に向けセミナーや講演を行い、融資などの資金面も含めてサポートする。将来的には全国展開も目指す。
この「シェア型書店」とは、「貸し本棚屋」「棚貸し書店」とも呼ばれている。30センチ四方ほどの本棚を個別に貸し出し、その賃貸料で主な収益を得る。借り受けた側は、独自の仕入れや選書でユニークな書店空間を作り、本を売る新しい書店の仕組みとして注目され、各地での出店が続いている。
◆自治体が支援「本の町づくり」
いま青森県の八戸市が「本の町」として脚光を浴びている。その拠点となるのが、市が運営する「八戸ブックセンター」=写真=である。今から7年前、2016年12月4日、市民が気楽に出かけていって、素敵な本や好奇心をそそる本が買え、かつ何か知的刺激が得られる場所として誕生した。
この「八戸ブックセンター」では、本の販売やイベントの開催はもちろん、提案したテーマに沿う本を陳列、また閲覧スペースも提供する。さらに八戸市内の民間書店や図書館、市民活動などと連携しながら、「本のまち八戸ブックフェス」を年に1回開催している。
自治体が運営する本屋の先例は、北海道・礼文島の「BOOK愛ランドれぶん」がある。ここは本屋と図書館が一体になった、礼文町の町営施設である。稚内からフェリーで1時間40分もかかる離島では、町営本屋をつくる必然性があり納得がいく(「好書好日」3/16より)。
だが八戸は新幹線も通り、本が入手しづらい地域とは言えない。自治体が図書館に関わるのは理解できても、本屋を運営するのは異色だ。
そこには2021年まで4期16年、市長を務めた小林眞さんの「本のまち八戸」推進構想があった。八戸市全ての本屋と共同し、大人から子どもまで、それぞれに魅力のある本を並べ、知的好奇心を刺激し遊べる文化空間にしていく、青写真が描かれていた。
「利益追求」がさきに立つのではなく、ここにきて本の楽しさ、本がもたらす出会いの魅力を共有する。そして10年、20年先を見据えた「本のまち八戸」づくりの壮大なビジョンへと発展させる、その構想にエールを送りたい。
◆「MUJIN書店」24時間営業へ
トーハンは東京・板橋区のメディアライン大山店で、有人営業と無人営業を組み合わせた24時間営業を開始する。トーハン系列の書店に、Nebraskaが開発した「MUJIN書店」の導入を促進し新業態の開発に向け、同社との協業を強めている。昨年3月には山下書店世田谷店(東京・世田谷区)、同11月にはメディアライン曙橋店(東京・新宿区)に導入している。
各店ともキャッシュレス・セルフレジによる無人化と24時間営業化により夜間と早朝の売上げが増加、収益の改善効果が顕著になっている。
◆書店の倒産10年間で764社
東京商工リサーチが、この3月10日に発表したリポートによると、書店は、2014年から2023年までの10年間で764社が倒産もしくは廃業で消えている。負債1000万円以上の書店倒産は10年間で140社に及ぶ。
コロナ禍では資金繰り支援や巣ごもり需要もあって、倒産は減少に転じたが、今や支援が縮小したうえ、「コロナ特需」が一巡した2023年は、一気に13社が倒産・廃業しその数は約3倍に急増した。
「電子書籍が浸透し、書店の存在が揺らいでいる。店舗で目当ての本を探す楽しみや、知らない本との出会いも、書店の減少で失われつつある。書店の復活には『待ちの営業』から客足を向かせる創意工夫への転換と同時に、国や出版社の継続的な支援が必要だ」と指摘されている。
2024年03月25日
【焦点】著作者人格権奪う世田谷区に見直し求める要望書第二弾を提出、29日まで回答を=橋詰雅博
世田谷区史の刊行をめぐり区と対立する執筆予定だった青山学院大学文学部史学科準教授・谷口雄太氏の支援などを目的とした「世田谷区史のあり方ついて考える区民の会」は、区に2月27日に提出した著作権譲渡契約書の見直しを求める要望書に対する区の5日の回答書に「失望した」として3月22日に再び要望書を保坂展人区長に提出した。回答書の「経緯」説明の部分には、執筆者が「委員会」と3カ月にわたってやりとりしたなど看過しえない事実誤認があると指摘している。対話の場を設けてほしいと29日までに回答を求めている。第二弾の要望書の主な内容は次の通り。
区民の会との対話の拒否について
区は、「東京都労働委員会で調査手続きを行っている最中であり、まずは当事者間の対応に注力したい」とし、区民の会との対話を拒みました。
しかし、これは区の認識の誤りに基づく判断であり、対話を拒む理由とはなりません。そもそも都労委に申し立てを行ったユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)と、労働組合ではない区民の会とは別組織です。出版ネッツは、著作権譲渡と著作者人格権の不行使を承諾しないことを口実にして区史編さん委員が切られた不利益取扱い(労組法7条1号)と、区による団体交渉拒否(同条2号)に対し、都労委に救済を申し立てています。一方、区民の会は区に、@区史編さんに係る著作権(著作者人格権の不行使を含む)契約書を見直すこと、A区民や有識者らの声を聞く場を設け、その声を反映させて文化財行政を改善することを要望しています。
二つの団体は別組織であり、要望や要求内容も違います。都労委での調査を隠れ蓑にして、区が区民の会との対話を拒むことは失当と言わざるを得ません。
著作権譲渡と著作者人格権不行使の契約書について
区民の会は契約書の見直しを求めましたが、区の回答書について納得がいきません。
区は、「契約書は四つの区史編さん委員会の正副委員長八人に検討してもらい、委員会で各委員に説明やメールで修正・確認を行った上で著作権譲渡契約書を区と締結することに承諾を得ている」と回答をしています。しかし、区民の会としては、正副委員長の検討や各編さん委員への説明が十分であったか、などについて疑問を持っており、情報開示が必要だと考えています。もとより契約の承諾者が多いことをもって、著作者人格権不行使の正当性を証明することにはなりません。
また、区は「著作権譲渡契約書には編集作業は編さん委員会において行われることを明記しており、区は勝手に改ざんできないようにしている」と書いています。しかし、その一方で区は編さん委員に対しては、原稿を書き換えられない権利を規定する「著作者人格権」を放棄させる契約書を示し、これに承諾しない委員には委嘱を切っています。これは明らかなに矛盾した対応です。区史の編集は専門家による委員会が行うと言うのであれば、行政は介入できないはずです。原稿の内容に問題や疑問があれば、編さん委員会で議論すべきです。その場合も、本人の同意なく勝手に原稿を改ざんするようなことがあってはなりません。
そして、区は原稿の改ざんを防ぐためにも、契約書を見直し、「区は著作者人格権を尊重する」と明記すべきです。
編さん委員の委嘱条件として著作者人格権の不行使という踏み絵を踏ませるのは、区史編さんへの介入にもなりかねません。区民としては、著作者人格権を奪って作られた区史を読みたくはありません。最新の研究成果を取り入れた、分かりすい区史を読みたいものです。
長い年月が経れば行政の担当者も代わり、著作者人格権の不行使を求める契約書を締結して区が人選した編さん委員の原稿が改ざんされる可能性は否定できません。それを防ぐためには、著作権譲渡契約書の見直しが必要だと考えます。
区の契約書が全国の自治体に広がる懸念について
自治体史の執筆者に対し、著作者人格権の不行使を盛り込んだ契約書が、各地の自治体などに広がっていくことを懸念しています。
「セクシー田中さん」の原作者である漫画家の芦原妃名子さんが亡くなったことが今、大きな社会問題となっています。著作者人格権をないがしろにすることは著作者の命を奪うほどの重い問題です。著作者人格権は原稿を勝手に書き換えられない権利であり、著作権法で譲渡ができないと規定されています。
区民の会との対話の拒否について
区は、「東京都労働委員会で調査手続きを行っている最中であり、まずは当事者間の対応に注力したい」とし、区民の会との対話を拒みました。
しかし、これは区の認識の誤りに基づく判断であり、対話を拒む理由とはなりません。そもそも都労委に申し立てを行ったユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)と、労働組合ではない区民の会とは別組織です。出版ネッツは、著作権譲渡と著作者人格権の不行使を承諾しないことを口実にして区史編さん委員が切られた不利益取扱い(労組法7条1号)と、区による団体交渉拒否(同条2号)に対し、都労委に救済を申し立てています。一方、区民の会は区に、@区史編さんに係る著作権(著作者人格権の不行使を含む)契約書を見直すこと、A区民や有識者らの声を聞く場を設け、その声を反映させて文化財行政を改善することを要望しています。
二つの団体は別組織であり、要望や要求内容も違います。都労委での調査を隠れ蓑にして、区が区民の会との対話を拒むことは失当と言わざるを得ません。
著作権譲渡と著作者人格権不行使の契約書について
区民の会は契約書の見直しを求めましたが、区の回答書について納得がいきません。
区は、「契約書は四つの区史編さん委員会の正副委員長八人に検討してもらい、委員会で各委員に説明やメールで修正・確認を行った上で著作権譲渡契約書を区と締結することに承諾を得ている」と回答をしています。しかし、区民の会としては、正副委員長の検討や各編さん委員への説明が十分であったか、などについて疑問を持っており、情報開示が必要だと考えています。もとより契約の承諾者が多いことをもって、著作者人格権不行使の正当性を証明することにはなりません。
また、区は「著作権譲渡契約書には編集作業は編さん委員会において行われることを明記しており、区は勝手に改ざんできないようにしている」と書いています。しかし、その一方で区は編さん委員に対しては、原稿を書き換えられない権利を規定する「著作者人格権」を放棄させる契約書を示し、これに承諾しない委員には委嘱を切っています。これは明らかなに矛盾した対応です。区史の編集は専門家による委員会が行うと言うのであれば、行政は介入できないはずです。原稿の内容に問題や疑問があれば、編さん委員会で議論すべきです。その場合も、本人の同意なく勝手に原稿を改ざんするようなことがあってはなりません。
そして、区は原稿の改ざんを防ぐためにも、契約書を見直し、「区は著作者人格権を尊重する」と明記すべきです。
編さん委員の委嘱条件として著作者人格権の不行使という踏み絵を踏ませるのは、区史編さんへの介入にもなりかねません。区民としては、著作者人格権を奪って作られた区史を読みたくはありません。最新の研究成果を取り入れた、分かりすい区史を読みたいものです。
長い年月が経れば行政の担当者も代わり、著作者人格権の不行使を求める契約書を締結して区が人選した編さん委員の原稿が改ざんされる可能性は否定できません。それを防ぐためには、著作権譲渡契約書の見直しが必要だと考えます。
区の契約書が全国の自治体に広がる懸念について
自治体史の執筆者に対し、著作者人格権の不行使を盛り込んだ契約書が、各地の自治体などに広がっていくことを懸念しています。
「セクシー田中さん」の原作者である漫画家の芦原妃名子さんが亡くなったことが今、大きな社会問題となっています。著作者人格権をないがしろにすることは著作者の命を奪うほどの重い問題です。著作者人格権は原稿を勝手に書き換えられない権利であり、著作権法で譲渡ができないと規定されています。
2024年03月24日
【オピニオン】図書館の民営化の問題・元JCJ賞選考委員 清田義昭=出版部会
2020年に廃業した出版ニュース社で五十数年仕事をした。出版界の業界誌で『出版年鑑』哉雑誌『出版ニュース』を刊行してきた。読者対象は学校や図書館も含まれる。わたしが編集しているあいだの方針は「出版の自由は出版流通の自由なくしてありえない」という理念であった。出版・表現をもとにした表現物(著作物)は、読者に届いてはじめて存在理由・価値があると考えるからだ。
こうした視座で業界ウオッチングをつづけた。出版をめぐる問題は山積していてそれをどう解決するかが日々の仕事であった。近年、出版物販売の低迷が課題になっていることは事実だが、とりわけ図書館に関するものが多かった。図書館の利用率が急に増えたわけではないが、図書館についてメディアが取り上げることが目立つ。
いうまでもなく図書館は税金でつくられ運用されている。図書館は市民が知る・学ぶ・読む場であり、だれもが身につけることができる社会システムでもある。その図書館が、「にぎわい・人あつめ・新手」をキーワードに紹介されている。それらの多くが、いわゆる民営化されたものである。話題になることは否定しないが、それだけでいいのかと思う。
新自由主義の流れのなかで多くの業種の民営化がすすんでいる。他方ではその破たんが各所で起こっていることも確かだ。そうしたなかで自治体が図書館を民営化することで経費削減を目的にしているのであろう。
2016年に片山善博元総務大臣が「教育と並んで重要なのが図書館である。人は生涯に亘って成長を続ける存在」そして「人の自立の過程を、学校教育と並んでサポートする知的拠点が図書館にほかならない」。また、民営化が経費削減が目的であってはならないと発言した。
当時、図書館界で注目された。図書館は専任・専門・正規でなければならない職種である。それは、民営化で本来の使命やノウハウが自治体に蓄積されなくなってしまい、また、その評価ができなくなることにある。
最近問題になっているのが図書館における非正規職員の比率が約70%になり、賃金が低く、定着率が悪くなって官製ワーキングプアを生んでいることだ。図書館は本と利用者をつなげる場である。それを仕事とするのが図書館司書である。その司書の賃金が低いというのはどうしたことなのだろう。
海外での図書館司書の専門職としての地位は高い。日本の場合そうなった歴史的経緯があり、その分析も必要だ。それは、国の図書館政策がおかしいからだ。同時に地方自治体が経費節減のために民営化していることが問題であるのは事実だろう。市民が図書館のあり方について協働して考える時期にきているのではないだろうか。(小手指町在住)
「マスコミ・文化九条の会所沢」会報197号(3月5日発行)より
こうした視座で業界ウオッチングをつづけた。出版をめぐる問題は山積していてそれをどう解決するかが日々の仕事であった。近年、出版物販売の低迷が課題になっていることは事実だが、とりわけ図書館に関するものが多かった。図書館の利用率が急に増えたわけではないが、図書館についてメディアが取り上げることが目立つ。
いうまでもなく図書館は税金でつくられ運用されている。図書館は市民が知る・学ぶ・読む場であり、だれもが身につけることができる社会システムでもある。その図書館が、「にぎわい・人あつめ・新手」をキーワードに紹介されている。それらの多くが、いわゆる民営化されたものである。話題になることは否定しないが、それだけでいいのかと思う。
新自由主義の流れのなかで多くの業種の民営化がすすんでいる。他方ではその破たんが各所で起こっていることも確かだ。そうしたなかで自治体が図書館を民営化することで経費削減を目的にしているのであろう。
2016年に片山善博元総務大臣が「教育と並んで重要なのが図書館である。人は生涯に亘って成長を続ける存在」そして「人の自立の過程を、学校教育と並んでサポートする知的拠点が図書館にほかならない」。また、民営化が経費削減が目的であってはならないと発言した。
当時、図書館界で注目された。図書館は専任・専門・正規でなければならない職種である。それは、民営化で本来の使命やノウハウが自治体に蓄積されなくなってしまい、また、その評価ができなくなることにある。
最近問題になっているのが図書館における非正規職員の比率が約70%になり、賃金が低く、定着率が悪くなって官製ワーキングプアを生んでいることだ。図書館は本と利用者をつなげる場である。それを仕事とするのが図書館司書である。その司書の賃金が低いというのはどうしたことなのだろう。
海外での図書館司書の専門職としての地位は高い。日本の場合そうなった歴史的経緯があり、その分析も必要だ。それは、国の図書館政策がおかしいからだ。同時に地方自治体が経費節減のために民営化していることが問題であるのは事実だろう。市民が図書館のあり方について協働して考える時期にきているのではないだろうか。(小手指町在住)
「マスコミ・文化九条の会所沢」会報197号(3月5日発行)より
2024年03月23日
【焦点】覇権を争う米中 外交の武器は何か=橋詰雅博
米国と中国は自陣営に引っ張りこうと各国に接近を図っている。ただし覇権をめざす米中のやり方は同じではない。3月2日のJCJと日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯委員会が共催したオンライン講演で慶応大・京都大学名誉教授の大西広氏は、両国の外交の違いを解説した。
「米国にはグローバルサウス(インド、ブラジル、タイ、南アフリカのような南半球に位置するアジア、アフリカ、中南米地域の新興国・途上国の総称)に手を突っ込みコントロールする力はもはやありません」と前置きしうえで大西氏はこう語った。
「米国は軍事的な関係を深めることで親米圏を拡大しようとしています。狙いは2カ所。ひとつはロシアがウクライナに侵攻したことによるEUの軍拡です」。
その象徴的な組織が米英主導のNATO(北大西洋条約機構)だ。ロシアに脅威を感じたフィランドとスウェーデンはNATOに新加盟した。加盟国は32に増えた。フィランドとスウェーデンは軍事費をNATOが目標とする国内総生産(GDP)比2%に増額、米国の戦術核を国内に配備し共同運用する核共有も実施する。
もう1カ所はアジア太平洋地域で、台湾がその拠点となる。中国と対峙する民進党政権に「独立は支持しない」と釘を刺さすバイデン大統領だが、一方で中台戦争の危機を煽り、台湾への軍事支援の増強に走る。日本もその尻馬に乗る。経済では親中の韓国も安全保障の面で親米にならざるを得ない難しい立場に立つ。中国進出を阻止するため米国は日韓台と軍事的に強い基盤を構築しつつある。
片や中国の覇権は習近平国家主席が2013年に提唱した世界各国を巻き込む広域経済圏構想「一帯一路」の推進だ。「ロシアやグローバルサウスを含む諸外国への経済援助によって親中圏の勢力を広げようとしている。そういう意味では米国より平和的なやり方ではないかと思います」(大西氏)。
米国は軍事戦略、中国は経済戦略を主武器に覇権を争っている。米中による新冷戦は加速中だ。
「米国にはグローバルサウス(インド、ブラジル、タイ、南アフリカのような南半球に位置するアジア、アフリカ、中南米地域の新興国・途上国の総称)に手を突っ込みコントロールする力はもはやありません」と前置きしうえで大西氏はこう語った。
「米国は軍事的な関係を深めることで親米圏を拡大しようとしています。狙いは2カ所。ひとつはロシアがウクライナに侵攻したことによるEUの軍拡です」。
その象徴的な組織が米英主導のNATO(北大西洋条約機構)だ。ロシアに脅威を感じたフィランドとスウェーデンはNATOに新加盟した。加盟国は32に増えた。フィランドとスウェーデンは軍事費をNATOが目標とする国内総生産(GDP)比2%に増額、米国の戦術核を国内に配備し共同運用する核共有も実施する。
もう1カ所はアジア太平洋地域で、台湾がその拠点となる。中国と対峙する民進党政権に「独立は支持しない」と釘を刺さすバイデン大統領だが、一方で中台戦争の危機を煽り、台湾への軍事支援の増強に走る。日本もその尻馬に乗る。経済では親中の韓国も安全保障の面で親米にならざるを得ない難しい立場に立つ。中国進出を阻止するため米国は日韓台と軍事的に強い基盤を構築しつつある。
片や中国の覇権は習近平国家主席が2013年に提唱した世界各国を巻き込む広域経済圏構想「一帯一路」の推進だ。「ロシアやグローバルサウスを含む諸外国への経済援助によって親中圏の勢力を広げようとしている。そういう意味では米国より平和的なやり方ではないかと思います」(大西氏)。
米国は軍事戦略、中国は経済戦略を主武器に覇権を争っている。米中による新冷戦は加速中だ。
2024年03月22日
2024年03月21日
【おすすめ本】後藤 秀典『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』―6・17判決の裏に何があったのか 闇の深淵部に切り込んだ=坂本充孝(ジャーナリスト)
福島第一原発の事故からまもなく13年。現在も2万6千人を超える人々が故郷に戻れず避難生活を続けている。そんな人々に対して元々事
故の当事者である東京電力の対応は不誠実極まりなかった。尊重すると誓いを立てた原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の和解案を4年以上も拒絶し続け、仲介打ちと切りとなった。
さらに2020年ごろから損害賠償を争う法廷で露骨な出し渋りの論理を展開し始める。一企業が弱者に対してこうまで攻撃的になるのはなぜなのか。裏側に迫ったのが本書である。
興味深いのは第2章だ。22年6月17日。東京電力福島第一原発国賠訴訟で最高裁は異例の判決を言い渡した。東京電力の損害賠償責任は認めたうえで、不可思議にも、高裁の事実認定を覆し、「国の責任はなかった」と断じた。
この6・17判決は、どのように書かれたのか。判事は菅野博之、岡村和美、草野耕三、三浦守の4氏。このうち検察出身の三浦氏は「国に責任がある」と反対意見書を出したが、受け入れられなかった。
筆者は残る3判事の経歴を追う。見えてきたのは電力会社、最高裁、国、巨大法律事務所の間に張り巡らされた濃い人脈図だった。裁判長だった菅野博之氏は判決から1か月半後の8月3日に巨大法律事務所の顧問に就いた。過去に東電の代理人を勤めた弁護士が何人もいる事務所だ。さらに岸田文雄首相が原発依存を減らしていくという従来の方針を撤回、原発回帰の方向を明確に打ち出したのは、この直後のことだった。
司法の頂点の体たらくを知れば、背筋が寒くなる読者も多いのではないか。日本の闇の深淵部に切り込んだ筆者にエールを送りたい。(旬報社1500円)
故の当事者である東京電力の対応は不誠実極まりなかった。尊重すると誓いを立てた原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の和解案を4年以上も拒絶し続け、仲介打ちと切りとなった。
さらに2020年ごろから損害賠償を争う法廷で露骨な出し渋りの論理を展開し始める。一企業が弱者に対してこうまで攻撃的になるのはなぜなのか。裏側に迫ったのが本書である。
興味深いのは第2章だ。22年6月17日。東京電力福島第一原発国賠訴訟で最高裁は異例の判決を言い渡した。東京電力の損害賠償責任は認めたうえで、不可思議にも、高裁の事実認定を覆し、「国の責任はなかった」と断じた。
この6・17判決は、どのように書かれたのか。判事は菅野博之、岡村和美、草野耕三、三浦守の4氏。このうち検察出身の三浦氏は「国に責任がある」と反対意見書を出したが、受け入れられなかった。
筆者は残る3判事の経歴を追う。見えてきたのは電力会社、最高裁、国、巨大法律事務所の間に張り巡らされた濃い人脈図だった。裁判長だった菅野博之氏は判決から1か月半後の8月3日に巨大法律事務所の顧問に就いた。過去に東電の代理人を勤めた弁護士が何人もいる事務所だ。さらに岸田文雄首相が原発依存を減らしていくという従来の方針を撤回、原発回帰の方向を明確に打ち出したのは、この直後のことだった。
司法の頂点の体たらくを知れば、背筋が寒くなる読者も多いのではないか。日本の闇の深淵部に切り込んだ筆者にエールを送りたい。(旬報社1500円)
2024年03月20日
【オピニオン】ステマ規制後も残る疑問 あご足つき取材 記者は決別せよ=志田義寧
広告であるにもかかわらず、広告であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」が規制されて4カ月が過ぎた。この間、ステマに関する目立った報道はなかったが、インターネット上ではステマが疑われる投稿も少なくなく、消費者の疑心暗鬼は拭えないままだ。本稿ではステマの問題点を改めて指摘するとともに、ステマと疑われても仕方がないあご足付き取材に苦言を呈したい。
〇
消費者庁は2023年10月1日、景品表示法の規制対象にステマを加えた。代表的なステマは、金銭を支払って良い口コミを書いてもらうことだが、過去には報道記事を装ったステマもあった。
一般的に消費者は広告であれば、ある程度の誇張が含まれていると認識しており、それに目くじらを立てることはない。しかし、ステマは広告であることが隠されているため、消費者は第三者による公平な評価と勘違いして、合理的に商品・サービスを選択できなくなる懸念が生じる。ステマは「サクラ」や「やらせ」と同様、消費者を欺く悪質な行為と言える。
報道は対象外
ステマの規制対象は口コミサイトやSNS等への投稿だけでなく、テレビや新聞、雑誌等も含まれる。ただし、報道に関しては「正常な商慣習における取材活動」に基づく記事であれば、ステマには当たらないとされている(消費者庁『ステルスマーケティングに関する検討会報告書』)。では、正常な商慣習における取材活動とは何なのか。報告書は「事業者が媒体に対して、通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等」があるケースを正常な商慣行を「超えた」取材活動であると指摘している。これは裏を返せば企業の費用負担が常識の範囲内であれば、ステマには当たらないというわけだ。ただ、これには異を唱えたい。記者は企業から交通費等を含めたいかなる利益供与も受けるべきではない。
自動車やIT
筆者の経験では、自動車業界やIT業界は交通費等を取材先が持つ、いわゆる「あご足付き」の取材ツアーが多い。過去には電子機器の商品発表会で、その商品をお土産として配っていたケースもあった。
米ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は2019年3月、ツイッター(現X)で、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)から交通費や宿泊費、食事代などが先方持ちの取材ツアーの誘いを受けたと暴露した。当時はトランプ大統領がファーウェイ排除に乗り出していた時期で、ファーウェイからすれば米国人ジャーナリストを招待することは藁にもすがる思いだったに違いない。しかし、その招待は正反対の結果をもたらした。
外国プレスは取材先からの利益供与を厳しく禁じている。筆者が所属していたロイターも行動規範で「自分で費用を支払い、自分で旅行の手配もするのが基本姿勢だ」「ニュースソースから提供されるいかなる支払い、贈答品、サービス、利益(現金か物品かを問わず)を受け取ってはいけない」と定めている。ワシントン・ポストにも同様の規定があり、ロギン氏はツイッター上で直ちに断りの返信を送っている。
信頼回復へ
多くのジャーナリストは、取材費用が企業持ちでも筆を曲げることはないと言うだろう。しかし、それを読者が知ったらどう思うか。取材費用を出してもらった商品レビューをいったい誰が信用するというのか。問題は筆を曲げるか否かではない。疑念を持たれること自体が問題なのだ。企業ジャーナリズムが信頼を取り戻すためにも、あご足付き取材という悪しき文化と決別する必要がある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
〇
消費者庁は2023年10月1日、景品表示法の規制対象にステマを加えた。代表的なステマは、金銭を支払って良い口コミを書いてもらうことだが、過去には報道記事を装ったステマもあった。
一般的に消費者は広告であれば、ある程度の誇張が含まれていると認識しており、それに目くじらを立てることはない。しかし、ステマは広告であることが隠されているため、消費者は第三者による公平な評価と勘違いして、合理的に商品・サービスを選択できなくなる懸念が生じる。ステマは「サクラ」や「やらせ」と同様、消費者を欺く悪質な行為と言える。
報道は対象外
ステマの規制対象は口コミサイトやSNS等への投稿だけでなく、テレビや新聞、雑誌等も含まれる。ただし、報道に関しては「正常な商慣習における取材活動」に基づく記事であれば、ステマには当たらないとされている(消費者庁『ステルスマーケティングに関する検討会報告書』)。では、正常な商慣習における取材活動とは何なのか。報告書は「事業者が媒体に対して、通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等」があるケースを正常な商慣行を「超えた」取材活動であると指摘している。これは裏を返せば企業の費用負担が常識の範囲内であれば、ステマには当たらないというわけだ。ただ、これには異を唱えたい。記者は企業から交通費等を含めたいかなる利益供与も受けるべきではない。
自動車やIT
筆者の経験では、自動車業界やIT業界は交通費等を取材先が持つ、いわゆる「あご足付き」の取材ツアーが多い。過去には電子機器の商品発表会で、その商品をお土産として配っていたケースもあった。
米ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は2019年3月、ツイッター(現X)で、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)から交通費や宿泊費、食事代などが先方持ちの取材ツアーの誘いを受けたと暴露した。当時はトランプ大統領がファーウェイ排除に乗り出していた時期で、ファーウェイからすれば米国人ジャーナリストを招待することは藁にもすがる思いだったに違いない。しかし、その招待は正反対の結果をもたらした。
外国プレスは取材先からの利益供与を厳しく禁じている。筆者が所属していたロイターも行動規範で「自分で費用を支払い、自分で旅行の手配もするのが基本姿勢だ」「ニュースソースから提供されるいかなる支払い、贈答品、サービス、利益(現金か物品かを問わず)を受け取ってはいけない」と定めている。ワシントン・ポストにも同様の規定があり、ロギン氏はツイッター上で直ちに断りの返信を送っている。
信頼回復へ
多くのジャーナリストは、取材費用が企業持ちでも筆を曲げることはないと言うだろう。しかし、それを読者が知ったらどう思うか。取材費用を出してもらった商品レビューをいったい誰が信用するというのか。問題は筆を曲げるか否かではない。疑念を持たれること自体が問題なのだ。企業ジャーナリズムが信頼を取り戻すためにも、あご足付き取材という悪しき文化と決別する必要がある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
2024年03月19日
【支部リポート】香川 豊島のその後を聴く 太陽光発電で敗訴=今岡重夫
香川支部は1月20日、瀬戸内海の豊島で環境を守るために活動してきた石井亨さんを迎えて月例会を開きました。
香川県土庄町の豊島は、1960年代から島の西部地域で始まった産廃問題に苦しんできましたが、住民の長年にわたる反対運動で2000年に公害調停が成立。投棄された90万d強の廃棄物処理作業は17年に完了しました。
しかし、処理作業のめどがつくのと前後して、今度は島の東側の唐櫃(からと)地区で太陽光発電事業の計画が浮上。住民たちは21年に完成した太陽光発電施設の撤去を求めて裁判を続けてきましたが、昨年暮、高松地裁は住民の訴えを退けました。
豊島自治会連合会資料をもとに経過を説明した石井さんは、「現行制度の矛盾に門前払いされ、勉強にはなったが、地域共同体の限界を思い知らされた」と話しました。
石井さんによると、新たな闘いの発端は2015年、小豆島のホテルが共有林の隣接地に、電力買い取り保障の認可を受け、発電所を計画したこと。用地造成を巡る産廃不法投棄で住民に刑事告発され業者の有罪が確定。県も業者を自然公園法違反で指導した。
しかし、業者はその後用地を転売。住民は電気事業法による構造基準などに基づいて追及したが、業者が建設を強行したため訴訟に踏み切ることになったという。
裁判は当初の争点だった「違法建設」から、「発電収入」の権利の「費用均衡」だけで判断され、住民側の敗訴に。発電所完成と転売が繰り返されたことが棄却の理由とされました。
住民と自治会は「現時点でも違法」だと確認していますが、「転売で責任が問えない」という制度の矛盾を痛感しており、今はこの事例を報告としてまとめ、経産省に提出すべく作業に取り組んでいるという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
香川県土庄町の豊島は、1960年代から島の西部地域で始まった産廃問題に苦しんできましたが、住民の長年にわたる反対運動で2000年に公害調停が成立。投棄された90万d強の廃棄物処理作業は17年に完了しました。
しかし、処理作業のめどがつくのと前後して、今度は島の東側の唐櫃(からと)地区で太陽光発電事業の計画が浮上。住民たちは21年に完成した太陽光発電施設の撤去を求めて裁判を続けてきましたが、昨年暮、高松地裁は住民の訴えを退けました。
豊島自治会連合会資料をもとに経過を説明した石井さんは、「現行制度の矛盾に門前払いされ、勉強にはなったが、地域共同体の限界を思い知らされた」と話しました。
石井さんによると、新たな闘いの発端は2015年、小豆島のホテルが共有林の隣接地に、電力買い取り保障の認可を受け、発電所を計画したこと。用地造成を巡る産廃不法投棄で住民に刑事告発され業者の有罪が確定。県も業者を自然公園法違反で指導した。
しかし、業者はその後用地を転売。住民は電気事業法による構造基準などに基づいて追及したが、業者が建設を強行したため訴訟に踏み切ることになったという。
裁判は当初の争点だった「違法建設」から、「発電収入」の権利の「費用均衡」だけで判断され、住民側の敗訴に。発電所完成と転売が繰り返されたことが棄却の理由とされました。
住民と自治会は「現時点でも違法」だと確認していますが、「転売で責任が問えない」という制度の矛盾を痛感しており、今はこの事例を報告としてまとめ、経産省に提出すべく作業に取り組んでいるという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
2024年03月18日
【おすすめ本】広谷 直路『「泣き虫」チャーチル 大英帝国を救った男の物語』―激情家であり手練手管も 英雄の素顔とは =鈴木耕(編集者)
タイトルがいい。なにしろ「泣き虫」なのだ。チャーチルといえば第2次世界大戦のイギリスの英雄にして重厚な政治家で、更には文筆家としても「ノーベル文学賞」を受けたほどの人物。サブタイトルに「大英帝国を救った男の物語」とあるがこちらの方が従来のチャーチルのイメージだ。ところがそれを逆手にとって、英雄伝説を壊すことなく見事にやんちゃな「もうひとりのチャーチル」を現出させたのが本書である。
著者には何冊かの翻訳書があるが自身の著書としてはこれが初めてだという。とてもそうは思えない手練れの文章だ。さすがに長年、編集者として磨いた腕の見せどころ、素敵な本を書き上げた。
貴族の家に生まれたウィンストン君、少年のころから学校嫌いの泣き虫小僧。感極まると所かまわず泣きだしてしまう。その性格は政治家になっても変わらない。大の映画好きで自邸の映写室でヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエの『美女ありき』を観ては涙ぐんでいたという。これでもう英雄偉人のイメージが一変する。そんなエピソードを本書の最初に持ってくるところが編集者でもある著者の面目躍如。むろん、そんな激情型の性格だけでは、あの大戦の指導者たりえない。
ヒトラーを翻弄しスターリンと渡り合いルーズベルトを引きずり込む八面六臂の活躍、その手練手管も著者は余すところなく描く。エピソードの積み重ねで英雄の別の側面をまことに面白い読み物に仕上げてくれた。
(集英社インターナショナル、1800円)
著者には何冊かの翻訳書があるが自身の著書としてはこれが初めてだという。とてもそうは思えない手練れの文章だ。さすがに長年、編集者として磨いた腕の見せどころ、素敵な本を書き上げた。
貴族の家に生まれたウィンストン君、少年のころから学校嫌いの泣き虫小僧。感極まると所かまわず泣きだしてしまう。その性格は政治家になっても変わらない。大の映画好きで自邸の映写室でヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエの『美女ありき』を観ては涙ぐんでいたという。これでもう英雄偉人のイメージが一変する。そんなエピソードを本書の最初に持ってくるところが編集者でもある著者の面目躍如。むろん、そんな激情型の性格だけでは、あの大戦の指導者たりえない。
ヒトラーを翻弄しスターリンと渡り合いルーズベルトを引きずり込む八面六臂の活躍、その手練手管も著者は余すところなく描く。エピソードの積み重ねで英雄の別の側面をまことに面白い読み物に仕上げてくれた。
(集英社インターナショナル、1800円)
2024年03月17日
【お知らせ】2024 年度(第67 回) ⽇本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞) 応募と推薦のお願い=JCJ賞推薦委員会
日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、年間のすぐれたジャーナリズム活動を顕彰するため、1958年以来「JCJ賞」を設け、贈賞してきました。
今年は第67回となります。自薦または他薦によって応募といたします。今年度も優れた労作の多数応募を期待しています。
■日本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞)募集規定
〈募集ジャンルと応募資格〉
新聞、放送、出版、写真作品、ネットメディア作品のほか、市民運動や地域活動なども含み、個人・グループを問いません。
提出期限までの1年以内に発表された作品 (連載の場合は同期間に発表したもの) を対象とします。
〈提出条件〉
◆ 書籍は、その現物1冊。放送作品はDVDを1本です。
◆ 雑誌、新聞は、その掲載部分のコピー(カラーの場合はカラーで)の1セットです。
上記の2項目については、1作品に1枚エントリーシートを必ず同封。特に連絡先、担当者、
電話、メールアドレスは必ず明記。郵送または宅急便で下記の提出先にお送りください。
なお、FAX、メールによる送稿は受け付けません。
◆ネットメディア作品は、閲覧出来るURLをお知らせ下さい。
1作品に1枚エントリーシートを必ず明記。特に連絡先、担当者、電話、メールアドレスは必須です。
そしてメール(office@jcj.gr.jp)による受け付けをいたします。
○応募要項、エントリーシートはJCJホームページからダウンロードできます。
このシートはword形式ですので文章を打ち込むことができます。
〈提出期限〉
◆新聞、出版作品は5月17日(金)
◆放送・ネットメディア・その他作品は5月24日(金)です。郵送の場合は当日消印までが有効です。
〈提出先〉
〒101-0061 東京都千代田区神田三崎町3−10−15富士ビル501号
日本ジャーナリスト会議 「JCJ賞」 応募作品係 (赤で目立つように表記してください)
○応募作品は返却いたしません。選考経過,理由などについてのお問い合わせには応じておりません。
○選考結果は「ジャーナリスト」および主要新聞に公表するほか、JCJホームページに掲載致します。
○今回の選考結果の確定は8月末、公表は9月上旬(昨年は9月6日)、入選者の贈賞式は9月下旬(昨年は9月23日)を予定しております。
2024年3月15日 日本ジャーナリスト会議
JCJ事務局長 古川英一
JCJ賞推薦委員会統括責任者 大場幸夫
今年は第67回となります。自薦または他薦によって応募といたします。今年度も優れた労作の多数応募を期待しています。
■日本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞)募集規定
〈募集ジャンルと応募資格〉
新聞、放送、出版、写真作品、ネットメディア作品のほか、市民運動や地域活動なども含み、個人・グループを問いません。
提出期限までの1年以内に発表された作品 (連載の場合は同期間に発表したもの) を対象とします。
〈提出条件〉
◆ 書籍は、その現物1冊。放送作品はDVDを1本です。
◆ 雑誌、新聞は、その掲載部分のコピー(カラーの場合はカラーで)の1セットです。
上記の2項目については、1作品に1枚エントリーシートを必ず同封。特に連絡先、担当者、
電話、メールアドレスは必ず明記。郵送または宅急便で下記の提出先にお送りください。
なお、FAX、メールによる送稿は受け付けません。
◆ネットメディア作品は、閲覧出来るURLをお知らせ下さい。
1作品に1枚エントリーシートを必ず明記。特に連絡先、担当者、電話、メールアドレスは必須です。
そしてメール(office@jcj.gr.jp)による受け付けをいたします。
○応募要項、エントリーシートはJCJホームページからダウンロードできます。
このシートはword形式ですので文章を打ち込むことができます。
〈提出期限〉
◆新聞、出版作品は5月17日(金)
◆放送・ネットメディア・その他作品は5月24日(金)です。郵送の場合は当日消印までが有効です。
〈提出先〉
〒101-0061 東京都千代田区神田三崎町3−10−15富士ビル501号
日本ジャーナリスト会議 「JCJ賞」 応募作品係 (赤で目立つように表記してください)
○応募作品は返却いたしません。選考経過,理由などについてのお問い合わせには応じておりません。
○選考結果は「ジャーナリスト」および主要新聞に公表するほか、JCJホームページに掲載致します。
○今回の選考結果の確定は8月末、公表は9月上旬(昨年は9月6日)、入選者の贈賞式は9月下旬(昨年は9月23日)を予定しております。
2024年3月15日 日本ジャーナリスト会議
JCJ事務局長 古川英一
JCJ賞推薦委員会統括責任者 大場幸夫
2024年03月16日
【寄稿】映画『かづゑ的』を撮る中で 85年間 療養所で生きる カメラとマイク伴走8年 「本当のらい患者≠フ感情を残したい」=熊谷博子さん 」
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「できるんよ、やろうと思えば」、瀬戸内海のハンセン病療養所で暮らす宮アかづゑさんの言葉だ。かづゑさんに出会ってから8年間にわたって撮影したドキュメンタリー映画「かずゑ的」が3月2日からポレポレ東中野などで全国公開に。監督の熊谷博子さんに映画に込めた思いなどを寄稿してもらった。
□
瀬戸内海にある国立ハンセン病療養所、長島愛生園で、とても素敵で個性的な回復者の女性を8年間撮り続け、映画を完成させた。この3月から全国で公開される。
主人公の宮アかづゑさんは、10歳で長島愛生園に入所した。そして85年間をそこで生き、今年96歳になった。
2015年の夏、信頼する知人から、どうしても会ってほしい人がいる、と言われた。
自伝『長い道』
84歳で出版
その宮アかづゑさんの著書『長い道』(みすず書房)を読み、頭の4行で心うたれた。
世の中からいかにひどい差別を受けたかという訴えが、まずあると思っていた。だが、幼い頃、祖父母や両親を深く愛しており、「私という人間が与えた悲しみはとても深く、この四人の人生の晩年を大きな嘆きに陥れてしまった。それが悲しくて申し訳なくて、過ぎ去ったこと、などととても言えない。」から始まる。
生まれた村の貧しいが豊かな生活、島へ来てからの日々の暮らしが、瑞々しい筆致でつづられていた。後になり、かづゑさんは78歳でパソコンを覚え、84歳でこの本を出したのだと知った。
こうして私は、生まれて初めてハンセン病療養所を訪れ、生まれて初めて、ハンセン病の元患者さんに会うことになった。
部屋でお昼を一緒に食べて、話した。夫の孝行さんもいた。その場で、この夫妻の記録を撮って残しておかなくては、と心に決めた。
紹介者に伝えると、かづゑさんも「あの人ならいいわ」と。
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私が“ハンセン病素人”で、まっさらな状態だったのがよかったのかもしれない。
その1年後から、撮影を始めた。
思い込みでの
来訪者に憤り
かづゑさんはそれまで本を出してはいても、ハンセン病をテーマにした取材・撮影には一切応じてこなかった。“かわいそうなハンセン病患者”という思い込みで来る人々に憤りを感じていた。
らい予防法違憲国家賠償請求訴訟(1998〜2001)時の体験も大きかった。本に書いている。
島に大勢のマスコミが来て、家にきた記者に「なぜ出産したいと思わなかったのか」と詰問された。初めて会った人にどうしてこんなことを言われなくてはならないのかと怒りがこみ上げた。話していても、らい患者を自分の考える枠に入れて、それにあてはまらない答えは気にいらないようだった、と。
人間性消えず
心は健全です
最初に、なぜ今回、私たちの撮影を受け入れてくれたのか、を聞いた。
「本当のらい患者の感情、飾っていない患者生活を残したいんです。
らい患者はただの人間で、ただの生涯を歩んできた。らいだけで人間性は消えない。
心は病んでません。心は健全なんです。」
かづゑさんは、ハンセン病とは言わず、“らい”を使う。
らいは、神様が人間に最初からつけた病気だろうと思っているから、光栄だ。世界の文献にも出てくる最も古い病気であり、私は栄光ある道を歩いている、と言い切る。
その日、さらに驚くことがあった。明日は入浴だからお風呂を撮ってね、と。
「いい格好していては、本物は出ません。真実を分かるには、いいところより裏をとる方が訴える力が強いです。らいを撮るっていうことは全てを撮らなければ、私の身体って分かりませんでしょ」。
この初日のやり取りに、映画のエッセンスがすべて詰まっていた。
2日目、入浴シーンの撮影。かづゑさんの手の指はすべて失われ、右足はひざから下を切断し、また左足の先も失われていた。
正直に自分をさらけ出してくれるかづゑさんに対し、私たちも覚悟を決めた。それは私たちが試されることでもあった。
ここから8年の間、カメラとマイクを持って、かづゑさんと孝行さんの人生に伴走する日々が始まった。
映画の中には、夫婦の穏やかな日常も、おかあちゃんと声を出して墓に抱き着くかづゑさんの姿も、ネタバレになるから言えないが、奇跡のようなシーンが連なっている。笑いもあれば涙もある。
差別の中に
また差別が
「差別の中の差別」も語られた。
入園してすぐ、すでに重症であったかづゑさんは、軽症の子どもの患者からいじめを受ける。そして成長すると、かづゑさんのように、幼い頃から園内で育った人たちは、大人になり、社会を知ってからから入ってきた人から馬鹿にされ、侮蔑の言葉さえ投げつけられた。悲しいが、人間が持つている、差別の本質を表すような話だ。
救いは本と
お母ちゃん
救ってくれたのは、本とおかあちゃんだった。本を読み漁り、読書に没頭している間だけは、現実の世界を忘れ、別の世界で生きることができた。
死をも考えたが、来月おかあちゃんが来ると思ったら、それはできなかった。母は貧しい中で、年に2、3回、面会に来てくれた。他の子どもの親は、ほとんど面会に来なかったという。
かづゑさんの口ぐせ、「できるんよやろうと思えば」。撮りながら、どれだけ勇気と元気をもらったことか。そして一緒にいると、彼女の身体が不自由である事実を、すっかり忘れていることがよくあった。
ハンセン病のことは、差別と隔離の問題として描かれることが多かった。その中での人々の生活がほとんど伝えられなかったのは、回復者の方たちが、それを出すことで、さらなる偏見と差別が増すことを恐れたからだと思う。
かづゑさんの人生は、過酷とも言えるものだった。だが「ちゃん生きたと思う。どうでしょうか」と私たちに問いかける。その生き方は『かづゑ的』としか言いようのないものであった。
この映画は、ハンセン病が背景にあるが、それだけではなく、人が生き抜くために何が大事なのか、普遍的なことを描いたつもりだ。
そして私たちが、カメラでかづゑさんを抱きしめた記録でもある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
「できるんよ、やろうと思えば」、瀬戸内海のハンセン病療養所で暮らす宮アかづゑさんの言葉だ。かづゑさんに出会ってから8年間にわたって撮影したドキュメンタリー映画「かずゑ的」が3月2日からポレポレ東中野などで全国公開に。監督の熊谷博子さんに映画に込めた思いなどを寄稿してもらった。
□
瀬戸内海にある国立ハンセン病療養所、長島愛生園で、とても素敵で個性的な回復者の女性を8年間撮り続け、映画を完成させた。この3月から全国で公開される。
主人公の宮アかづゑさんは、10歳で長島愛生園に入所した。そして85年間をそこで生き、今年96歳になった。
2015年の夏、信頼する知人から、どうしても会ってほしい人がいる、と言われた。
自伝『長い道』
84歳で出版
その宮アかづゑさんの著書『長い道』(みすず書房)を読み、頭の4行で心うたれた。
世の中からいかにひどい差別を受けたかという訴えが、まずあると思っていた。だが、幼い頃、祖父母や両親を深く愛しており、「私という人間が与えた悲しみはとても深く、この四人の人生の晩年を大きな嘆きに陥れてしまった。それが悲しくて申し訳なくて、過ぎ去ったこと、などととても言えない。」から始まる。
生まれた村の貧しいが豊かな生活、島へ来てからの日々の暮らしが、瑞々しい筆致でつづられていた。後になり、かづゑさんは78歳でパソコンを覚え、84歳でこの本を出したのだと知った。
こうして私は、生まれて初めてハンセン病療養所を訪れ、生まれて初めて、ハンセン病の元患者さんに会うことになった。
部屋でお昼を一緒に食べて、話した。夫の孝行さんもいた。その場で、この夫妻の記録を撮って残しておかなくては、と心に決めた。
紹介者に伝えると、かづゑさんも「あの人ならいいわ」と。
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私が“ハンセン病素人”で、まっさらな状態だったのがよかったのかもしれない。
その1年後から、撮影を始めた。
思い込みでの
来訪者に憤り
かづゑさんはそれまで本を出してはいても、ハンセン病をテーマにした取材・撮影には一切応じてこなかった。“かわいそうなハンセン病患者”という思い込みで来る人々に憤りを感じていた。
らい予防法違憲国家賠償請求訴訟(1998〜2001)時の体験も大きかった。本に書いている。
島に大勢のマスコミが来て、家にきた記者に「なぜ出産したいと思わなかったのか」と詰問された。初めて会った人にどうしてこんなことを言われなくてはならないのかと怒りがこみ上げた。話していても、らい患者を自分の考える枠に入れて、それにあてはまらない答えは気にいらないようだった、と。
人間性消えず
心は健全です
最初に、なぜ今回、私たちの撮影を受け入れてくれたのか、を聞いた。
「本当のらい患者の感情、飾っていない患者生活を残したいんです。
らい患者はただの人間で、ただの生涯を歩んできた。らいだけで人間性は消えない。
心は病んでません。心は健全なんです。」
かづゑさんは、ハンセン病とは言わず、“らい”を使う。
らいは、神様が人間に最初からつけた病気だろうと思っているから、光栄だ。世界の文献にも出てくる最も古い病気であり、私は栄光ある道を歩いている、と言い切る。
その日、さらに驚くことがあった。明日は入浴だからお風呂を撮ってね、と。
「いい格好していては、本物は出ません。真実を分かるには、いいところより裏をとる方が訴える力が強いです。らいを撮るっていうことは全てを撮らなければ、私の身体って分かりませんでしょ」。
この初日のやり取りに、映画のエッセンスがすべて詰まっていた。
2日目、入浴シーンの撮影。かづゑさんの手の指はすべて失われ、右足はひざから下を切断し、また左足の先も失われていた。
正直に自分をさらけ出してくれるかづゑさんに対し、私たちも覚悟を決めた。それは私たちが試されることでもあった。
ここから8年の間、カメラとマイクを持って、かづゑさんと孝行さんの人生に伴走する日々が始まった。
映画の中には、夫婦の穏やかな日常も、おかあちゃんと声を出して墓に抱き着くかづゑさんの姿も、ネタバレになるから言えないが、奇跡のようなシーンが連なっている。笑いもあれば涙もある。
差別の中に
また差別が
「差別の中の差別」も語られた。
入園してすぐ、すでに重症であったかづゑさんは、軽症の子どもの患者からいじめを受ける。そして成長すると、かづゑさんのように、幼い頃から園内で育った人たちは、大人になり、社会を知ってからから入ってきた人から馬鹿にされ、侮蔑の言葉さえ投げつけられた。悲しいが、人間が持つている、差別の本質を表すような話だ。
救いは本と
お母ちゃん
救ってくれたのは、本とおかあちゃんだった。本を読み漁り、読書に没頭している間だけは、現実の世界を忘れ、別の世界で生きることができた。
死をも考えたが、来月おかあちゃんが来ると思ったら、それはできなかった。母は貧しい中で、年に2、3回、面会に来てくれた。他の子どもの親は、ほとんど面会に来なかったという。
かづゑさんの口ぐせ、「できるんよやろうと思えば」。撮りながら、どれだけ勇気と元気をもらったことか。そして一緒にいると、彼女の身体が不自由である事実を、すっかり忘れていることがよくあった。
ハンセン病のことは、差別と隔離の問題として描かれることが多かった。その中での人々の生活がほとんど伝えられなかったのは、回復者の方たちが、それを出すことで、さらなる偏見と差別が増すことを恐れたからだと思う。
かづゑさんの人生は、過酷とも言えるものだった。だが「ちゃん生きたと思う。どうでしょうか」と私たちに問いかける。その生き方は『かづゑ的』としか言いようのないものであった。
この映画は、ハンセン病が背景にあるが、それだけではなく、人が生き抜くために何が大事なのか、普遍的なことを描いたつもりだ。
そして私たちが、カメラでかづゑさんを抱きしめた記録でもある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
2024年03月15日
【オピニオン】「経済安保」で秘密保護法拡大 民間対象に新法案=丸山重威
政府は2月7日、経済、技術分野にも秘密保護の「適正評価」(セキュリティ・クリアランス=SC)制度を広げ、秘密保護法の適用対象を拡大して民間事業者も含めることを柱とする改正案を示し自民党部会も了承した。
秘密保護法は2014年、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野について「特定秘密」を規定し、公務員などの「秘密の取り扱い者」を指定して安全保障に著しい支障を与える(情報)漏えいを防ぐとして成立した。実施状況は、毎年報告されるが、常に表現の自由やプライバシーとの兼ね合いについて問題を抱えてもいる。今回の政府の動きに対し日弁連は1月18日、「反対」の意見書を提出した。
研究者や企業を統制
今回の改正案では、4分野の「特定秘密」に加えて、「重要経済安保情報」として宇宙やAI、インフラ関連などの「サイバー」「規制制度」「調査・分析・研究開発」4分野で、政府が指定秘密を拡大、民間にもSC制度の調査対象を大幅に広げる仕組みとなった。
秘密の中身も従来の「機密」や「極秘」に、ごく普通の「コンフィデンシャル」と呼ばれる「秘」まで対象とし、5年の拘禁刑に相当する罰則の対象分野も新設する。
急速な経済を含めた軍事化を進める岸田政権が,研究開発を国際協力で進めようとする研究者や企業を一層締め付け、国家管理する根拠つくりになりかねない問題法案でもある。
「ツワネ原則」を守れ
秘密保護法は制定当初から、国民の知る権利や人権保護と安全保障を両立させるための法制が議論されてきた。国際的には2013年5月、南アフリカのツワネに集まった国際連合、米州機構、欧州安全保障協力機構(OSCE)や70カ国、500人を超える安全保障、国際法の専門家がつくった「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)がある。
A4版11nにのぼる日弁連の反対意見書は、「ツワネ原則に即し、知る権利とプライバシー権が侵害されない国民的な議論を経た制度的保障」を求め、@政府の違法な行為を秘密指定してはならないと規定すること、A公共の利害に関わる事項を明らかにしたジャーナリストや市民が刑事責任を問われることがないこと、B適正な秘密指定がされているかをチェックする政府から真に独立した機構を作ること、C一旦秘密に指定した事項が期間の経過などで公開される仕組みを作ることを挙げた。
意見書はさらに、@人権保障に関わる関連法が改正されようとしている、A官産学協共同の情報統制が進むことになりかねない、B秘密保護法の根本的な欠陥は残されたままである――と指摘。
特定秘密の対象を明確にし、公共の利益に関する情報の流布で、個人が処罰されないようにすることなどを挙げ、国連自由権規約委員会の指摘を守るよう求めた。また、「秘密指定の要件があいまい」「公務員だけでなくジャーナリストや市民も,独立教唆、凶暴、扇動の段階から処罰されかねない」など、日弁連が指摘してきた問題点を正すよう改めて求めた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
秘密保護法は2014年、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野について「特定秘密」を規定し、公務員などの「秘密の取り扱い者」を指定して安全保障に著しい支障を与える(情報)漏えいを防ぐとして成立した。実施状況は、毎年報告されるが、常に表現の自由やプライバシーとの兼ね合いについて問題を抱えてもいる。今回の政府の動きに対し日弁連は1月18日、「反対」の意見書を提出した。
研究者や企業を統制
今回の改正案では、4分野の「特定秘密」に加えて、「重要経済安保情報」として宇宙やAI、インフラ関連などの「サイバー」「規制制度」「調査・分析・研究開発」4分野で、政府が指定秘密を拡大、民間にもSC制度の調査対象を大幅に広げる仕組みとなった。
秘密の中身も従来の「機密」や「極秘」に、ごく普通の「コンフィデンシャル」と呼ばれる「秘」まで対象とし、5年の拘禁刑に相当する罰則の対象分野も新設する。
急速な経済を含めた軍事化を進める岸田政権が,研究開発を国際協力で進めようとする研究者や企業を一層締め付け、国家管理する根拠つくりになりかねない問題法案でもある。
「ツワネ原則」を守れ
秘密保護法は制定当初から、国民の知る権利や人権保護と安全保障を両立させるための法制が議論されてきた。国際的には2013年5月、南アフリカのツワネに集まった国際連合、米州機構、欧州安全保障協力機構(OSCE)や70カ国、500人を超える安全保障、国際法の専門家がつくった「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)がある。
A4版11nにのぼる日弁連の反対意見書は、「ツワネ原則に即し、知る権利とプライバシー権が侵害されない国民的な議論を経た制度的保障」を求め、@政府の違法な行為を秘密指定してはならないと規定すること、A公共の利害に関わる事項を明らかにしたジャーナリストや市民が刑事責任を問われることがないこと、B適正な秘密指定がされているかをチェックする政府から真に独立した機構を作ること、C一旦秘密に指定した事項が期間の経過などで公開される仕組みを作ることを挙げた。
意見書はさらに、@人権保障に関わる関連法が改正されようとしている、A官産学協共同の情報統制が進むことになりかねない、B秘密保護法の根本的な欠陥は残されたままである――と指摘。
特定秘密の対象を明確にし、公共の利益に関する情報の流布で、個人が処罰されないようにすることなどを挙げ、国連自由権規約委員会の指摘を守るよう求めた。また、「秘密指定の要件があいまい」「公務員だけでなくジャーナリストや市民も,独立教唆、凶暴、扇動の段階から処罰されかねない」など、日弁連が指摘してきた問題点を正すよう改めて求めた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
2024年03月14日
【フォトアングル】ガザ戦争、即時停戦を=1月21日、東京・新宿、酒井憲太郎撮影
新宿東口アルタ前では、「ガザの虐殺すぐやめろ」「イスラエルは虐殺やめろ」とシュプレヒコールで訴える集会が開かれた。「岸田内閣打倒」などのリレーアピール後、「ガザ大虐殺やめろ!」の横断幕を掲げて、新宿駅一周のデモ行進を行なった。主催の改憲・戦争阻止!大行進東京によれば、参加者は二百七十名。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
2024年03月13日
2024年03月12日
【出版トピックス】海外へ進出する書店・本屋さん振興策の行方=出版部会
◆漫画『ドラゴンボール』の作者・鳥山明さんが、急性硬膜下血腫により3月1日逝去(享年68)。心からお悔やみ申し上げます。鳥山さんは1978年に『ワンダーアイランド』でデビュー。その後、『Dr.スランプ』、『ドラゴンボール』などの人気作品を世に送り出し、アニメ化され世界的な人気漫画家となり、今もなお愛され続けている。
◆24年1月の出版物販売金額731億円(前年比5.8%減)、書籍457億円(同3.5%減)、雑誌273億円(同9.5%減)。月刊誌219億円(同10.0%減)、週刊誌54億円(同4.7%減)。返品率は書籍33.8%、雑誌47.8%、月刊誌48.4%、週刊誌45.2%。相変わらず雑誌の落ち込みが続く。今年は月刊誌だけでなく週刊誌の休刊もありうる気配が濃厚だ。
◆日本の書籍市場が縮むなか、紀伊国屋書店は海外市場への進出を加速させ、漫画と雑貨で売り上げ増進を図る。テキサス州の紀伊国屋オースティン店では、コミック『ONE PIECE』などが並び、売上高の半分をキャラクターグッズなどが占める。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も東南アジアの市場をターゲットにし、日本の雑貨を扱う店舗を増やす。
◆経済産業省は「書店振興プロジェクトチーム」を発足させた。その背景には自民党の「街の本屋さんを元気にして日本の文化を守る議員連盟(幹事長は齋藤経産大臣)」の要望がある。書店議連の提言には「ネット書店の送料無料配送に向けた実態調査・必要な対応」「図書館での過剰な蔵書の禁止 地元書店からの優先仕入れ」などが含まれている。
しかしネット・図書館・書店、それぞれに良さがあるので、短絡的に規制するなら、本の購入にも閲覧にも弊害が生まれる危険も考慮すべきだ。まずは衰えている読書環境を充実させ、読書意欲を育てる方策を、どう作るかが先ではないか。
◆SHIBUYA TSUTAYAが、4月25日から営業再開。運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、これまでにない新しい「カルチュア・インフラ」を作る。<財産的価値のある情報>を創出するという。
地下2階から地上1階までは期間限定のストア、イベントを展開。2階から4階はカフェとラウンジ。5階から7階は書店、カフェ、ラウンジ。全館で利用できる座席は約500に及ぶ。8階はスタジオ、屋上は野外イベントスペースになる。
◆上野千鶴子さんの本が中国で大ヒット。弱者が弱者のままで尊重されるよう訴える思想が、とりわけ20〜30代の高学歴女性に共感を呼んでいる。中国では上野さんの著書が20冊以上も中国語に翻訳・出版され、総販売部数は数十万部に上る。鈴木涼美さんとの共著『往復書簡 限界から始まる』が「今年一押しの本」に。北京大で開いたオンラインの講演には全国から聴講希望者が殺到した。
◆24年1月の出版物販売金額731億円(前年比5.8%減)、書籍457億円(同3.5%減)、雑誌273億円(同9.5%減)。月刊誌219億円(同10.0%減)、週刊誌54億円(同4.7%減)。返品率は書籍33.8%、雑誌47.8%、月刊誌48.4%、週刊誌45.2%。相変わらず雑誌の落ち込みが続く。今年は月刊誌だけでなく週刊誌の休刊もありうる気配が濃厚だ。
◆日本の書籍市場が縮むなか、紀伊国屋書店は海外市場への進出を加速させ、漫画と雑貨で売り上げ増進を図る。テキサス州の紀伊国屋オースティン店では、コミック『ONE PIECE』などが並び、売上高の半分をキャラクターグッズなどが占める。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も東南アジアの市場をターゲットにし、日本の雑貨を扱う店舗を増やす。
◆経済産業省は「書店振興プロジェクトチーム」を発足させた。その背景には自民党の「街の本屋さんを元気にして日本の文化を守る議員連盟(幹事長は齋藤経産大臣)」の要望がある。書店議連の提言には「ネット書店の送料無料配送に向けた実態調査・必要な対応」「図書館での過剰な蔵書の禁止 地元書店からの優先仕入れ」などが含まれている。
しかしネット・図書館・書店、それぞれに良さがあるので、短絡的に規制するなら、本の購入にも閲覧にも弊害が生まれる危険も考慮すべきだ。まずは衰えている読書環境を充実させ、読書意欲を育てる方策を、どう作るかが先ではないか。
◆SHIBUYA TSUTAYAが、4月25日から営業再開。運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、これまでにない新しい「カルチュア・インフラ」を作る。<財産的価値のある情報>を創出するという。
地下2階から地上1階までは期間限定のストア、イベントを展開。2階から4階はカフェとラウンジ。5階から7階は書店、カフェ、ラウンジ。全館で利用できる座席は約500に及ぶ。8階はスタジオ、屋上は野外イベントスペースになる。
◆上野千鶴子さんの本が中国で大ヒット。弱者が弱者のままで尊重されるよう訴える思想が、とりわけ20〜30代の高学歴女性に共感を呼んでいる。中国では上野さんの著書が20冊以上も中国語に翻訳・出版され、総販売部数は数十万部に上る。鈴木涼美さんとの共著『往復書簡 限界から始まる』が「今年一押しの本」に。北京大で開いたオンラインの講演には全国から聴講希望者が殺到した。