イスラエル軍のガザ攻撃の最中に刊行された本書のタイトルを見れば、ガザや、ガザのイスラム組織ハマス、またはガザ戦争についての情報を期待するだろうが、それは本書の中心ではない。しかし、悲惨な戦争に到るパレスチナとイスラエルの関係を理解するには有益な本である。
筆者は外務省でアラビア語の研修後、1998年から駐イスラエル日本大使館のパレスチナ自治政府担当になり、ガザやヨルダン川西岸に頻繁に行き、自治政府関係者や主導したファタハの幹部らと接触し、和平を支える日本外交を現地で担った。しかし、2000年9月に第2次インティファーダ(民衆蜂起)によって和平の枠組みは崩れていった。
筆者は2000年夏、当時のクリントン大統領の仲介でイスラエルのバラク首相とアラファト議長の首脳会談で、パレスチナ国家樹立を目指した最後の試みの失敗と、その後の和平が破綻する状況に外交官として立ち会った。第2章「中東和平が最も実現に近づいたとき」と第3章「和解の道見途絶えた」は本書の肝であり、若い外交官が見た貴重な歴史の境目を臨場感と共に伝えている。
この経緯は、イスラエルの譲歩にも関わらず、和平を決断しなかったアラファト議長を責める言説が多い中で、パレスチナ側が呑めなかった背景や理由が記述され、和平の困難さについて読者の理解を助けるものである。
パレスチナ人の暴力の原因に、彼らの生活を圧迫するイスラエルの入植地拡大があると指摘する。さらにパレスチナ人の暴力に対してイスラエルが戦車やミサイルを使って過剰に報復することがパレスチナ人のさらなる怒りを生み、事態を悪化させるという筆者の指摘は、現在のガザ戦争を考えるうえでも参考になる。(幻冬舎新書960円)