NHK「クローズアップ現代+」の「かんぽ生命保険不正販売問題」スクープへの森下俊三・経営委員長の介入を巡る「NHK文書開示等請求訴訟」で東京地裁は2月20日、森下委員長の議事録開示妨害、NHKの債務不履行を不法行為と認定。損害賠償とともに、経営委員会議事の録音データ公表をNHKに命じた。NHKは、判決を当日午後6時のニュースでは報じたが、7時のニュース、9時の「ニュースウオッチ9」では扱わず、森下氏と共に控訴。疑惑解明に背を向け続けている。
スクープが大きな反響を呼んだ5年前の2018年、番組続編取材の動きを知った日本郵政の鈴木康雄・筆頭副社長(元総務事務次官)が、旧知の森下氏(当時、NHK経営委員長代行。元NTT西日本社長)と面談。郵政三社(日本郵政・日本郵便・かんぽ生命)が「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」と強く抗議し、その後経営委員会に抗議文を提出した。
森下氏はその後、「番組は極めて稚拙で取材をしてない」などと、郵政の意向を代弁する番組攻撃を展開。経営委員会での議論を主導して上田良一・NHK会長(当時)を「厳重注意」とし、その結果番組の続編は1年近く放送延期となった。
森下氏の番組介入は2019年9月、毎日新聞が「経営委員会の議事録隠し」をスクープし、明るみに出たが、森下氏は議事録作成・公表を頑なに拒み続け、その後、経営委員長に昇格。放送法に様々に違反する森下氏の言動を憂慮し、百人を超す原告が訴えていた。
森下氏が議事録などの公表を拒み続けた理由は、放送法3条の「放送番組は、何人からも干渉され、規律されることがない」違反のほか、経営委員の個別番組への介入を禁じた同32条、委員長に遅滞なく議事録作成・公表を義務付けた同41条違反などが明るみに出ることを恐れているからに他ならない。
森下氏に「放送の自主自律」など念頭にないことは、判決後「(経営委員の個別番組への干渉を禁じた)放送法に違反していない、と総務大臣が言ってる」などと述べていることでも明らかだ。
なぜこのような見識のない経営委員が選ばれるのか。NHK経営委員は国会の同意が必要だが、任命は内閣総理大臣。背景には安倍政権以降の恣意的な「お友だち」人事横行や、政権のNHK支配が強まっていることがある。
国会の同意を過半数から3分の2に引き上げる、野党推薦枠を設けるなど政権の恣意を排除する改革が必要ではないか。さらに言えば、独立行政委員会制度の導入など、政権のメディアに対する干渉・支配を排除する制度改革も議論の時期に来ていると思う。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号