2024年04月17日

【シンポジウム】メディアの姿勢問うシンポ 沖縄の声 全国に届けよ=古川英一 

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 2月の沖縄はもう上着がいらないような温かさ、辺野古・大浦湾の海は薄曇りながら穏やかできらきらと輝いていた。しかしその海の一角に埋めたてのための平たい作業船が視界に入る。去年の12月に福岡高裁が国の代執行を認める判決を出し、これを受けて今年から大浦湾での工事が始まった。1年ほど前に訪れた時、こうした光景だけは見たくないと強く思ったのだか・・
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 昨年夏、地元の環境グループや米軍基地に反対する市民らが立ち上げた「沖縄・琉球弧の声を届ける会」。活動の柱は、基地問題を始め沖縄の抱える問題を、メディアにもっと全国に発信するよう求めていくことだ。だから会のスローガンも「メディアは全ての人権のため隠された真実を暴け」といまのメディアの姿勢を厳しく問うている。JCJもその呼びかけに応じ、賛同団体に加わっている。
 今回の沖縄訪問は、同会が2月18日に開催した「辺野古新基地問題を考えるシンポジウム」参加が目的。その前日企画のバスツアーで辺野古を巡った。

 辺野古新基地 
 建設巡り討議

 沖縄大学でのシンポジウムでは各分野の4人が、辺野古新基地を多角的に論じ合った。その要旨を紹介する。
●真喜志好一さん(沖縄平和市民連絡会共同代表)政府は普天間飛行場の危険性を除去するために、辺野古への新基地移転が唯一の解決策だと主張している。しかし米軍の文書を調べると米軍が1966年当時、米軍には辺野古に基地を作る構想があった。一方、普天間飛行場は、「滑走路のそばのクリアゾーンに住宅などがあってはならない」とする米軍の安全基準にも合わない。2006年、当時の伊波・宜野湾市長はこれを指摘し、「安全不適格宣言」を発した。
 私たちは日米両政府から騙されてはならない。普天間の危険性の除去は普天間の運用を停止しかない。そのための交渉を米政府と行うことが、私たち沖縄の主張だ。
●吉川秀樹さん(ジュゴン保護キャンペーンセンター)米国政府は辺野古をどう見てきたかの視点から考えたい。辺野古・大浦湾海域は、米国のNGOがホープスポットに認定したほどのジュゴンやアオサンゴなど約260種類の絶滅危惧種を含む約5300種が生息する生物多様性の宝庫。7万1千本の杭を軟弱地盤に打ち込む工事が環境に影響がないわけがない。また、米軍自体が「いつできるかわからない基地は戦略的なものにはならない」と懸念を示していることが情報公開でわかった。
 代執行が行われても「ポスト代執行」の取り組みが展開できる。日本政府や米の連邦議会、国際社会に辺野古・大浦湾の生物多様性を守る重要性を訴えていきたい。
●浦島悦子さん(ヘリ基地いらない二見以北十区の会共同代表)闘いは辺野古・大浦湾から始まった。30年近く地を這うような声を出し続けてきた。当初反対運動の先頭にいたおばぁたちの多くは旅立ってしまった。「海は命の恩人。基地に売ったら罰が当たる」「子や孫たちに戦争の哀れは二度とさせたくない」という言葉を引き継いでいかなければならない。自然は未来世代の生きる基盤である。
●徳田博人さん(琉球大学人文社会学部教授)辺野古訴訟では、日本は本当に民主的法治国家なのかと疑問がわく。日本国憲法は統治者が人々を支配する道具としての法を否定し、法の支配の原則を取り入れている。しかし代執行の取り消しを求めた沖縄県への去年12月の福岡高裁の判決は、政府の辺野古新基地建設強行への追随で司法の機能不全を示している。そして国自身が法の支配の原則を破壊している。
 最高裁での上告審では、憲法問題として審理を促し、玉城知事に意見陳述の機会を与えてほしい(*その後3月1日までに最高裁は沖縄県の上告を退け、沖縄県の敗訴が確定した)。辺野古新基地阻止の闘いは、政府や裁判所の問題点を暴露し、沖縄から日本、東アジアの平和をも実現するもので、追い込まれているのは日本政府なのだ。

 メディアへの
 憤りと期待と

 当日会場に集まった110人あまりの市民は(オンラインでの参加は約70人)、パネラーの話に熱心に聞き入っていた。 
 最後に、「届ける会」共同代表の桜井国俊さんが挨拶に立った。「いま沖縄は新たな戦前に直面している。米軍基地だけでなく、自衛隊の基地や施設も作られていく。有事の際は、日本が沖縄を捨て石にしようとしている。沖縄戦の再来は許されない。こうしたことの原因の一つに日本のメディアの状況があるのではないか。政府へのメディアの忖度、沖縄の厳しい現状に本土の人たちはまるで知らんふりだ。状況を変えていかなくてはならない。メディアをターゲットにした活動を続けていきたい」

 桜井さんの言葉からは全国メディアの不甲斐なさへの憤りと、痛いほどメディアへの期待が伝わってきた。本土でメディア・ジャーナリズムの一端に携わる者として、何をしていくべきなのか、ずしりと重い宿題が課せられている。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 九州・沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする