◆日本ペンクラブなど3団体共同で
芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』に、痛烈な出版界への批判が書かれている。
<出版界が障害者に今までしてきたことと言えば、1975年に文芸作家の集まりが図書館の視覚障害者向けサービスに難癖を付けて潰した、「愛のテープは違法」事件ね、ああいうのばかりじゃないですか>
この「文芸作家の集まり」が日本文藝家協会。「愛のテープは違法」事件が解決するのは、35年後の2010年。この年に改正著作権法が施行され、公共図書館でも録音図書を製作する障害者サービスが著作権者の許諾なしにできるようになった。
さて市川沙央さんの問題提起を真剣に受け止めた日本ペンクラブ会長・桐野夏生さんらは、2023年11月20日、市川沙央さんとオンライン対論<読書バリアフリーとは何か――読書を取り巻く「壁」を壊すために>を行った。
これを機に他の2団体にも呼び掛け、4月9日、日本ペンクラブ、日本文藝家協会、日本推理作家協会の3団体が、読書バリアフリーに関する共同声明を発表した。
「障害者にとって『読書』をする手段は100年以上も前からあったにもかかわらず、未だに読みたい本を読むために長く待つことを強要されたり、読む手段を奪われたりすることさえあります」と問題提起。
表現に携わる者として、読書バリアフリー法(19年6月施行)、改正障害者差別解消法(24年4月施行)、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法(22年5月施行)に賛同の意を表するとし、「私たちは出版界、図書館界とも歩調をあわせ読書環境整備施策の推進に協力を惜しみません」と宣言している。
声明の意義は、極めて大きい。文字や表現に携わる者が読書バリアフリーに目を向け努力する契機となり、歴史的意味を持つものと言える。
◆本屋大賞の意義が進化遂げる
2024年の本屋大賞に宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が受賞。25万部を増刷し、発行部数41万5000部となる。続編『成瀬は信じた道をいく』も増刷し、2冊の累計発行部数は55万部を超える。
中学2年生の主人公・成瀬あかりが、破天荒な言動を続けて周囲を驚かせる。自分を偽らないで突き進む成瀬の言動が、読者の共感を呼んでいる。そこには「女による女のためのR-18文学賞」が果たしている役割も見逃せない。
女性による作品が、続々とノミネートされ、書店員の思いを込めた作品が本屋大賞を受賞している。これまで文学賞といえば、出版社が強烈にプッシュした作品が受賞し、人気作家に権威を与える賞になっていた。それに対抗するかのように発足した「本屋大賞」が、いまや書店員も読者も作者も誰もが幸せな気持ちになる賞へと進化している。
◆貧弱な学校図書館の公的援助
2023年度の学校1校あたりの年間図書費は小学校46万円・中学校61万円。あまりにも貧弱ではないか。学校図書館用の新聞購読費については「予算化している」が44.5%。学校司書の配置については予算化しているが69.3%。残り30%は学校司書を配置していない現状が浮かび上がった。
また学校図書館が「電子書籍」や「電子新聞(有料デジタル版)」の購入費を予算化しているかについては、いずれも「今年度予算化の予定はない」が94%を占めた。
◆電子コミック驚異的な伸長!
3月の電子書籍の総流通額は前年同月比14.2%増となった。ジャンル別では「縦スクロールコミック」の伸びが驚異的で同214.8%増となった。2022年4月期から配信を始めてから大きな成長率が続いている。