半年以上にわたるイスラエルによるガザ侵攻・ジェノサイド(大量虐殺)による、無辜の市民の犠牲者は、3万3千人を超える。蛮行に対する国際的批判が高まる中で、イスラエルの「絶対的支援国」であった米国の社会にも、大きな亀裂が生じている。特に、ミレニアル世代とZ世代の若者の間では、イスラエルの侵略の不当性に対する糾弾・パレスチナ支援の動きが拡大。バイデン政権の政策に「ノー」を突き付ける声が、4分の3にも達するほどだ。
こうした米国社会の中東問題への意識、イスラム観の歴史的展開、変容しつつある米国人のイスラムに対するイメージなど、世界史的視野から精緻に解明したのが、手練れの中東研究者による本書である。
「イスラームは何よりもアメリカの差別社会の中で反逆の手段だった」という、ジャズドラマー、アート・ブレーキ―の言葉を引用するなど、ポピュラー音楽や建築など各分野で、多様性に富む米国社会の形成に、イスラム文化やムスリムが果たしてきた役割を、明示しているのが、本書の独自性でもある。こうしたイスラムとの多様な接点がマグマとなり、若者をはじめ市民の対イスラム意識の変容を招来していることも、伺い知ることができる。
こうした米国の新たな潮流に、日本や日本人は、どのように対応すべきか。「イスラームの歴史や文化を知り、理解しようとする姿勢」、「アメリカに振り回されることなく、独自の視点や考察を持つことだ」。著者の指摘は、簡潔明瞭である。(平凡社新書 1000円)