2024年05月13日

 【おすすめ本】松岡かすみ『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』─表面からは窺い知れない実態と権利擁護の難しさ=坂爪真吾(NPO法人「風テラス」理事長)

 本書は海外で出稼ぎを行う日本人風俗嬢たちの仕事内容、出稼ぎに至る経緯、海外での暮らしぶりなどを詳細に綴ったルポルタージュである。
 「出稼ぎ」という言葉にはカジュアルな響きがあるが、その実態は完全な不法就労である。売春を合法化している国もあるが、不法就労の外国人女性が働くことまで許している国は存在しない。

 本書には、海外で出稼ぎ売春経験のある女性たちが登場する。それぞれの女性の語りの中には、確かに頷ける部分や共感できる部分もある。しかし、少なくとも海外での不法就労による売春行為を、社会的に擁護・正当化できるようなエピソードやロジックは、まったく出てこない。
 女性たちが海外での売春に駆り立てられる理由を、きちんと言語化しないと、「不法就労だから摘発しろ」で終わってしまう。仮に言語化できたとしても、「とはいえ不法就労だから摘発しろ」の声は消えず、同じ結果になる可能性は高い。

 売春が法律で禁止されている国での性労働従者の権利擁護が、難しい理由はこうした点にあるのだろう。当事者を支援すること自体が、不法就労に加担することになり、違法な仕事を黙認・斡旋していると見なされてしまう。
 そう考えると「風俗」という合法的なカテゴリーがある日本は、海外に比べて性産業従事者の権利を、守りやすい国なのではないだろうか。
 日本の「風俗」を嫌って海外に飛び出した女性たちのルポルタージュから見えてくるものが、むしろ日本の「風俗」という枠組みこそが、女性たちを法的・社会的に守ることができるという現実は、なんとも皮肉なことである。(朝日新書870円)
   
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする