国立大学法人北海道大学の前総長、名和豊春氏(70)が「職員への過度な叱責」など28件の「非違行為」を理由に文科大臣に任期途中で解任されたことを不当とし、国と北大に解任処分の取り消しと経済的損失1466万円の支払いを求めた訴訟で、札幌地裁の右田晃一裁判長は3月13日、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。名和氏は控訴せず、解任手続きの闇は解明されないまま1審判決が確定した。
ありもしない「パワハラの公益通報」を材料に北大の顧問弁護士から辞職を迫られた脅迫≠ノ始まり、名和氏の弁明も聞かずに調査報告書が一方的にまとめられた不可解な解任劇。名和氏を辞めさせる謀議に関与した疑いのある元副学長らの証人申請を裁判長は却下した。「控訴審では審理不尽と判断され、地裁に差し戻される可能性がある」との見立てから弁護団は控訴に意欲を示していたが、名和氏から控訴断念の意向が伝えられた。
判決は、被告北大の総長選考会議が文部科学大臣に対して行った解任申し出の手続きに瑕疵は認められず、非違行為の事実認定と評価は正当とした上で、「解任申し出に裁量権の逸脱・濫用は認められない」と結論付けた。
裁判では解任手続きの違法性と非違行為の事実認定と評価が主要な争点となった。証人尋問では北大側の申請証人15人が非違行為について証言。名和氏は自身の尋問で逐一反論したが、判決は北大側証人の証言を全面的に採用した。手続きの違法性をめぐる審理には事実上踏み込まなかった。
名和氏の弁護団は判決について、「証拠に基づかない不合理、非常識な事実認定が顕著なずさんな判決。法人化後の大学の自治の内容、総長解任手続きの適正(弁明権の保障)、総長解任シナリオの作成者は誰かなどが問われた重要事件だったが、裁判所には問題意識、追求姿勢が見られなかった」と厳しく批判した。
名和氏は「大学の自治の内容や解任手続きの過ちを追及することなく、北大の主張を丸ごと追認する不当な判決だ。控訴も考えたが、解任がなくとも私の任期は終わっており、一研究者・教育者に立ち戻り、裁判については区切りをつけることにした」とのコメントを発表した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号