2024年05月23日
【寄稿】福島原発は終わっていない!! 3・11から14年目の今 新たな放射能危機も 一号炉の崩壊どう防ぐ=伊東達也
元日の能登半島地震災害は、北陸電力志賀原発で変電機や環境モニターが破損、計画された珠洲だったらどうなっていたか、と改めて原発の危険を明らかにした。3・11福島事故から14年を迎えた今、現地の状況がどうなっているのかを原発問題住民運動全国連絡センター代表委員で福島いわき訴訟原告団長の伊東達也さんに寄稿してもらった。
福島県は震災関連死が2343人、自殺者が120人―。宮城、岩手に比べ格段に多いのが福島県の震災関連死だ。早稲田大学災害復興医療人類学研究所の調査では、避難者の4割がPTSDに悩んでいる。福島原発事故から14年目を迎えた今も、福島県の住民は依然、困難な生活を続けている。
福島県民の苦難は、自分が住んでいたふるさとが「帰還可能」と言われても、実際には帰れる環境がないこと、そして、現実にはもう戻れない、という人も多いことだ。
復興庁によると、今年2月現在の避難者数は県外2万0279人、県外5993人。だが、故郷に戻っていない人は、どんなに少なく見ても5万人。3・.11当時から見れば、死者や住民票異動者も含み8万人。しかもここには「避難指示区域外」の避難者、いわゆる「自主避難者」は入っていない。そして、深刻なのは小中学生数が事故前に比べて十分の一と極端に減ったことだ。
戻らぬ産業
続く出荷制限
3・11で、9町村が役場ごと全住民避難したが、いまもこの町村の産業は立ち直っていない。
年間の農産物販売金額が50万円以上の「販売農家」は事故前の2010年度と比べ、22年度の復帰率はわずか6・3%、同様に工業製品出荷額は25・6%、商業販売額は24・5%。福島全体の産業も3・11前に戻ってはおらず、農業産出額は事故前の90%台だ。林業産出額は、山菜・キノコなどの特殊林産物の出荷制限が今も続き83%、沿岸漁業の水揚げ高は20%台に過ぎない。
県内全域が受けた「事故による損傷」の修復はできていない。
第1原発の廃炉作業の遅れは比較的知られているが、昨年来明らかになったのが、「1号炉崩壊」の危険だ。原子炉を支えている台座(ペデスタル)のコンクリートが溶け落ち、鉄筋が露出していることが判明し、三菱重工主席技師の森重晴夫さんが、著書「差し迫る福島原発1号機の倒壊と日本滅亡」(せせらぎ出版)でその危険性を訴えている。
森重さんによると、いま、一号炉の基部は溶融、炉本体はむき出しの鉄筋で支えられており、震度6強の地震に襲われれば、残置され使用済み核燃料392本を冷却するプールが破壊される。燃料は冷却できず、大量の使用済み核燃料が広範囲に飛散。「最悪の場合、東日本壊滅の悪夢に日本は直面する」という。
東電も国も「大丈夫」と言うが、森重さんは「耐震工事が必要」「回避できるのになぜしない?」と訴える。「1号機の耐震補強策は待ったなし」だ。
県民も「廃炉
「達成不能」
政府と東電の廃炉の「中長期ロードマップ」は廃炉完了を2051年としているが、期限内達成は困難とみられている。
廃炉の最難関はデブリ(溶けて固まった燃料)の取り出しだが、13年経っても取り出す見通しは全く立っておらず、取り出しても運び出すところはなく、敷地留置の可能性が高い。法律上、地下埋設を義務付けられている「低レベル放射性廃棄物」も、原発の35倍もの量が発生するが、これも敷地に置かれる可能性が高く、「廃炉終了」にはなりそうにない。
そして、見逃せないのは、敷地の地盤と港湾内の堆積土が汚染されていること。これらを除去すれば780万dとなり、一般の原発600基分に相当。この量は現在世界で稼働中の441基分を上回る。(朝日3月16日)結局、除去は不可能だ。
一方、「中間貯蔵施設」の放射性物質は、法律でも「事故30年後の2045年までに他県に持ち出す」としたが、見通しは全く立っていない。
「ふるさと福島」をどうするか。まず「意見交換の場」を作ることはどうしても必要だ。
汚染水の海洋
放出中止を
昨年8月24日、政府と東電は多くの反対の声を無視して、アルプス(ALPS)処理した「汚染水」を海洋放出した。「関係者の理解なしには如何なる処分も行わない」とした文書の約束を破り、一言の謝りもない非道徳的な行為だった。
放出する汚染水は、デブリに触れたあとのため、トリチウムだけでなくストロンチウム90(半減期28・8年)、セシウム137(同30年)、炭素14(同5730年)、ヨウ素129(同1570万年)なども混入。これら核物質の総量もわからない。太平洋の生態系にどんな影響を与えるかは不明である。
なお、海洋放出しても一方では1日100d前後の汚染水が増加、23年度の場合、30基分放出したが11基分増加、実質19基分しか減らず、24年度も差し引き14基しか減らない勘定。計画では30年間放出し続ける。
問題になった地下水流入を止めるために、提案されている広域遮水壁と取水井の設置などの根本的対策も必要だ。
原発再稼働は
福島の再現
岸田内閣は昨年2月、エネルギー安定供給と脱炭素を名目に、原発の新増設や60年超の運転に道を開く「GX(グリーントランスインフォメーション)実現に向けた基本方針」で、福島以前の政策に再転換した。
それだけではない。EU諸国のように、再エネ優先を義務付け、石炭や原発の出力抑制を行うのではなく、原発で作った電力を優先して使う政策で、23年度には、17億6千万`h(475億円相当)も、自然再生エネルギーで作った電力が捨てられている。
電力不足が心配されるのは、年間に数日の夏場、冬場のピーク時だけで、事前の準備で解決できる一方、原発は発電時に二酸化炭素を出さないだけで事故の危険もある。「原発回帰」は間違いだ。
この政府の「方針転換」の「露払い役」をしたのが、2022年6月17日の最高裁判決だ。
福島生業など4訴訟で「例え国が東電に防潮堤を命令し、東電が造っても、実際の津波より低い堤防となったはずで、国に原発事故の責任はない」と国の責任を免罪した。
これに対し、いわき市民訴訟、など7訴訟が最高裁に審議のし直しを求め、毎月最高裁前行動などに取り組み「ノーモア原発公害市民連」も結成された。また、この過程では最高裁と巨大弁護事務所との「癒着」が明らかに。本来、「回避」すべき裁判で合議に加わり(以上削除)証拠にない論理で国を勝たせるなど、考えられない。
能登の現実
見つめ直せ!
元旦の能登半島地震は道路、港など地域のインフラ全般が機能を失い、3か月を経ても断水が続くなどの惨状をもたらしている。これを目の当たりにしても、岸田首相は「原発推進の政策は変える必要はない」とし、原子力規制委員会の山中伸介委員長は「避難基準は規制庁の管轄ではない」と、まともに対応しない状況だ。もともと、北陸電力志賀原発は敷地内に活断層があると指摘され問題視されてきた曰く付きの原発。今回大事故発生を免れたのが偶然だ。
放射能被ばくから逃れる「避難」もままならず、これ以上、国土と住民を危険にさらすことはできないはずだ。
「福島のいま」を能登や福井や、日本のどこででも繰り返すわけにはいかない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号