2024年05月26日

【オピニオン】破綻の「政治改革」金権腐敗は元から変えるべし 問われるメディア 有権者は行動を 枝葉は刈ってもまだ茂る=藤森 研(ジャーナリスト)

 自民党の裏金問題は、真の原因を見ないまま、手直しの「再発防止」が取りざたされている。
 しかし、この間のドタバタ劇を見ていると、森達也が『創』で書いた比喩がピッタリだ。いわく「政治資金規正法の見直しなど枝葉の剪定をしても、季節が廻ればまた生い茂る」。その通りで、金権政治は元から変えなきゃ、直らない。

小選挙区制と
政党助成導入

 30年前の出発点を顧みる。リクルート事件やゼネコン汚職で沸き起こった「政治改革」の嵐は、自民党の分裂と下野を経て、1994年の政治改革4法に収束した。柱は2本。衆院の選挙制度を小選挙区を主とする小選挙区比例代表並立制に変えること、政治資金規制を少し強める代わりに政党への公費助成制度をつくることだった。 
 前者は政治改革熱を権力者が巧妙に選挙制度改革にすり替えた成果≠セ。「政策本位の争いになり金がかからない」「政権交代が起きやすい」を売り文句に、それまでの中選挙区制を小選挙区中心の現制度に変えた。
 小選挙区制導入に対しては、多数党が有利になり、「死票が増えてしまう」「『作られた多数派』を生む」という反対意見も強かった。小選挙区制は民意の集約、比例代表制は民意の反映が特徴だが、民主主義は反映を優先すべきで、人為的な集約は民意を歪める。
 しかし、当時の多くのメディアや世論は中身を吟味することなく「とにかく変えねば」と浮き足立ち、この選挙制度改変を後押ししてしまった。
 30年たって、反対派の意見は正しかった。一度だけ民主党などへの政権交代はあったが、負の効果が圧倒した。
 有権者全体に対する得票割合(絶対得票率)で21年の総選挙を見てみよう。自民党の小選挙区での絶対得票率は26・2%、比例代表では18・9%だった。それにより自民党が獲得したのは小選挙区の議席の64・7%に及び、衆院全体でも55・7%を占めて、追加公認を含め「絶対安定多数」となった。低投票率と小選挙区制の手品だ。
 こうして、制度上有利な多数与党は対野党の選挙で連戦連勝し、安倍長期政権の力の源泉となった。党内では、公認権と政党助成金の配分権を握った自民党トップが「一強」化し、森友、加計、桜、安倍派の裏金と、腐臭漂う驕りを生んだ。

パー券などで
企業団体献金

 もう一本の柱の政治資金規制は、当時も企業・団体献金(寄付)を全面禁止はせず、最初からザルだった。今や、政党支部への寄付やパーティー券の形での企業・団体献金が、大手を振っているのはご覧の通りだ。政党助成金とは二重取りだ。
 企業献金には違法の疑いがぬぐえない。見返りを求めて政治献金をすれば贈賄だし、逆に求めなければ企業に損害を与える背任ではないか、と。
 これに対し政治献金擁護派が頼るのは、八幡製鉄事件での最高裁判決(1970年)だ。「会社は、自然人である国民と同じように、国や政党の特定の政策を支持するなどの政治的行為をする自由を有する」と、企業献金を認めた。営利事業目的を外れるのではないか、との疑問には、企業の災害救援寄金が広く認められていることを例示した。
 しかし、この事件の一審判決は全く逆の判断をしていた。「本件は自民党という特定の政党に対する援助資金だから、特定の宗教に対する寄付と同様、一般社会人が社会的義務と感ずる性質の行為に当たるとは認められない。定款違反だ」と、献金をした社長らを敗訴させた(63年、東京地裁)。
 個人が主体の政治活動の自由を、営利目的の民間企業にも保障した最高裁の論理には、憲法学者らからも批判がある。
なお、労働組合から特定政党への団体献金も、労働組合の成り立ちを考えれば、筋が通らない。

審議会参加で
足並み揃える

 30年前の「政治改革」の過ちに関連して、どうしても触れておかねばならないのは、メディアの責任だ。小選挙区比例代表並立制の原案を作ったのは第8次選挙制度審議会。その会長は小林与三次読売新聞社長(当時)で、委員27人にはテレビ東京会長、日経社長、毎日、産経各論説委員長、NHK考査室長、読売調査研究本部長、朝日編集委員が名を連ねていた。それかあらぬか、各メディアは並立制への選挙制度改変を、足並みを揃えて支持した。
 メディア人の審議会参加は本来、ジャーナリズムの本旨に反する。権力側の「結論ありき」の場に入ってアリバイ作りに利用され、決定には批判がしにくくなるからだ。だが、現在も国の審議会などに入る論説委員らがいる。今は特定の社に限られてきたものの、「審議会不参加」を決めた社でもOBが入ったりする。
 なぜ彼らは国の委員になりたがるのか。知見を社会のために、というのは建前だろう。書ける場は他にある。据え膳で資料をもらえる便宜の誘惑か。言葉はきついが、私の感想を一言で言えば、うす汚い。

企業献金全廃
比例代表こそ

 30年前の政治改革は、いま、見事に破綻した。
 メディアには、目の前の政治の動きを報じるだけでなく、本来の「政治改革」の幹についても、議題設定の機能をぜひ発揮してほしい。
 私が考える改革の方途は3つだ。
 まず、衆院の選挙制度を、民意を正確に反映する比例代表制に変える。歪んだ制度に基づく多数党安定の驕りを、より緊張感のある政治に変えるだろう。
 次に、企業・団体献金を、パーティー券も含めて全廃する。
 第3に、政権交代を推進する。浄化には新しい政治主体が必要だ。
 政治学者のジェラルド・カーティスは、自民党内から抜本改革の声一つ出ない日本政治の現状を、「半昏睡状態」に陥っているとして、こう続けた。「まず有権者が行動しなければ政治家は動こうとしません」
 補選、そして次の総選挙が肝心だ。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする