読売新聞大阪本社で目を疑う不祥事が起きた。小林製薬製品の健康被害を巡る記事で、社会部の主任が談話を捏造していた。いったんは紙面に訂正を載せたが、捏造に触れていなかった。同社は主任を諭旨退職とする関係者の懲戒処分や、編集局長や社会部長の更迭を紙面や公式サイトで公表した。だが、詳しい社内調査の結果は明らかにしていない。信頼を回復できるか疑問だ。
読売新聞によると、主任は、原稿が小林製薬への憤りという自分のイメージと違っていた、と説明。取材した岡山支局の記者は「社会部が求めるトーンに合わせたいと思った」と、修正や削除を求めなかった。記者は休職1カ月と記者職から外す職種転換となった。経験が浅い若手ではない。主任は48歳、記者は53歳のベテランだ。
社会の情報流通を新聞やテレビが一手に握っていた頃なら、そうした誘惑もあったかもしれない。今は違う。だれもがSNSで情報を発信できる。おかしなことをすれば、すぐに炎上し、組織が危機に陥る。
当初の訂正で、編集局が「確認が不十分でした」の釈明で済むと本当に考えていたのだとしたら、組織全体の危機意識の希薄さにも驚く。
読売新聞東京本社では3年前、32歳の社会部記者(当時)が、取材で得た情報を他媒体の複数の記者に漏らしたとして、懲戒解雇になっている。深刻な不祥事が続く背景に、組織体質に根差す固有の要因があることを疑うべきだ。
大阪本社は2021年、大阪府と包括連携協定を結んだ。読売新聞グループ本社は東京・築地の大規模開発の事業主体に、大手不動産会社とともに名前を連ねる。確かに経営は盤石で、近年は「唯一の全国紙」を誇示してもいる。
だが、権力監視の役割は期待できないし、都心の大規模再開発の是非をめぐって、独立の立場から報道することも不可能だ。何より、ライバルの存在を認めない傲慢さが「読売の報道が社会にとって“事実”のすべてだ」との全能感を組織内に生じさせないか。
折しも「読売新聞を、信じてもいいですか」の創刊150年キャンペーンを年明けから展開中。社内調査結果も明らかにせずに「信じろ」と言っても無理だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年5月25日号