2024年06月05日

【おすすめ本】丸山美和『ルポ 悲しみと希望のウクライナ 難民の現場から』─戦禍に生きる人々・支援する仲間 ウクライナで育つ「いのちの連帯」=木原育子(「東京新聞」特別報道部記者)

 ロシアによる長引くウクライナ侵攻。両国の情勢や戦況を伝えるメディアが多い中で、著者の視点は戦禍に生きる生活者としてのウクライナ人に据えられている。戦争で日常を奪われ、傷ついた幾人もの生身の「人間」が、いずれも今の姿を包み隠さず、切々と語っている。
 本書の文章を追い続けるうち、まるでウクライナの荒野に、もしくは戦場に立たされているかのような、臨場感に襲われる。間近で見て触れて、感じてきた者でしか描けない渾身のルポルタージュと言ってよい。

 著者はポーランド在住のジャーナリストで、国立ヤギェウォ大学の非常勤講師も務める。侵攻直後からポーランドに逃れてきた人々の支援に奔走し、ウクライナにも19回入り、人々の「声」に耳を傾けてきた。
 放置された無人の焼け焦げたベビーカー、誰かに踏み付けられたように崩れた乳児院…。著者のスマホに撮りためた幾万枚もの写真は、ウクライナの痛みそのものだ。
 ただし本書には支援者たちの懸命な活動も紹介されている。タイトルに「希望」の言葉を込めたのはそのためだ。支援者が肩を寄せ合い奔走する姿は、拱手傍観しているとも思える日本社会に、警鐘を鳴らしているように取れる。

 著者自身、紆余曲折を経て46歳で単身ポーランドへ。「人は支え合わないと絶対に生きられない」と繰り返す。著者が体現してきた思いとともに、本書に描かれた多くの人の人生模様と「いのちの連帯」が、読む者の心を揺さぶる。今、手に取るべき至極の1冊だ。(新日本出版社2000円)
    
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする