本書の「はじめに」で記されているように、鈴木邦男さんが「保坂展人さんを励ます会」でスピーチをすると聞いて、閉会後にインタビューを申し込んだ。相手はかつて新右翼として名をなしていた人である。面識もない。だが「マガジン9条(ウェブマガジン。現マガジン9)の者です」と伝えれば、引き受けてくれると思った。鈴木さんはどんな思想信条の者であっても、議論のできる相手であれば、いつでも、どこでも出向く。そうした度量の大きさを感じていたからだ。
はたして二つ返事で承諾いただき、それが「マガジン9条」での本書タイトルの連載へとつながっていくのだが、そこからテーマ別にセレクトされたコラムを読むと、鈴木さんは身体を張って書いていたんだなとつくづく思う。東日本大震災から数カ月後には「自衛隊23万のうち、半分の10万以上は東北に行っている。軍備はぜい弱だ。でも、どこも攻めてくる国はない。『仮想敵国』のロシアも、中国も、北朝鮮ですらも、日本に義援金を送り、『頑張れ!』と励ましている」として憲法前文のリアリティを語る。国を強くするという威勢のいい言説には「『強いリーダー』を待機していったら、国民はますます弱い蟻になる」と釘を刺す。国会議員は出たい人よりも出したい人に、を実現するため「国会議員は全員、国民の中から抽出する」と提案する。「これでこそ本当の『民意』だ」と。
イデオロギー偏重の向きは色を成すが、ぐうの音も出ない。政治的な立場を超えて人々と繋がった鈴木さんの文章の真骨頂を本書で感じてほしい。(集英社新書1050円)