NHKのドキュメンタリー番組が昨年来、独自に入手・発掘した資料を駆使してスクープを連発している。昨年4月の『ETV特集 誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜』は、元最高裁判事・團藤重光が遺したノートを読み込み、大阪国際空港公害訴訟で住民側の「夜間の飛行停止」要求を認めた二審の大阪高裁判決を最高裁が覆した背景に、裁判官の独立の原則に反する元最高裁長官・村上朝一の「介入」があったことを明らかにした。
昨年秋の『NHKスペシャル』『ETV特集』の『“冤罪”の深層』は、大川原化工機の社長らを外国為替及び外国貿易法違反容疑で逮捕・起訴しながら検察が起訴を取消した異例の事件を複数回取り上げた。取材班は、「事件は捏造」との告発状を送ってきた匿名の警察関係者に接触、さらに当初は起訴に慎重だった経産省が警察・公安部の立件方針を追認していったことを示す内部資料も入手して、冤罪の経緯を白日の下にさらした。これは、ETV特集のディレクターと報道番組、社会部との連携の成果だったという。
今年3月の『ETV特集 膨張と忘却〜理の人が見た原子力政策〜』は、長年国の原子力政策に関わった研究者・吉岡斉が残した数万点の未公開資料「吉岡文書」(九州大学保管)を読み込み、核燃料サイクルや原発に関する国の審議会での論議が吉岡にとって「熟議」とは程遠い無責任なもので、その結果核燃料サイクルへの固執が続き「万一」を想定した原発の安全策も後回しにされたことを示した。制作者が独自に入手した内部文書や関係者の証言などからは、審議会の結論以前に自民党内で既に方針が決められていたという事実も明らかになった。
そして極めつけが、戦後史に特筆される謎の事件に挑んだ3月末の『NHKスペシャル 未解決事件 File.10 下山事件』。制作チームは、他殺説に立って最後まで捜査を続けた布施博検事が保管していた膨大な捜査資料を入手、さらに、東京神奈川CIC(米陸軍対敵諜報部隊)の日系二世工作員アーサー・フジナミが最晩年に娘に口述した、総裁暗殺に触れる記録にもたどり着いた。そこからは、アメリカが要求する国鉄の10万人解雇に抵抗姿勢を見せた下山をアメリカが殺害した構図が、そして日米支配層が「反共」で連携するという今日まで続く両国関係の源流が浮かび上がる。4年がかりの調査・解析で、制作者自らが「シリーズ史上最も真相に肉薄」と自負し、第61回ギャラクシー賞を受ける力作が生まれたのである。粘り強い取材力、情報提供者との信頼関係、緻密な分析、そして「不都合な真実」を暴こうという真っ当な志など、一連の番組から学ぶべきものは多い。