「国民は知らない『食料危機』」。農業経済学者と経済学者による、「国の危機を訴えた」本書のこのタイトルほど、日本の「食と農」が直面する危機的な状況を示す端的な表記はない。政治資金を巡る議論に政治的関心が高まる一方で、日本の農業と食を崩壊に追い込もうとしている、農業の憲法、「食料・農業・農村基本法」の改悪案と関連法案が、国会で強行されようとしていることに、反対の声を挙げている国民は、残念ながら少数派だ。
日本国民の生命線ともいえる食料自給率の達成目標を除外し、輸入依存度を高める一方で、最低限必要な食料の確保が困難な事態に直面した時には、農業者に罰則規定まで設けてサツマイモなどの作付けを農業生産者に強制する、第二次世界大戦時と同様の「事態法」まで盛り込まれた法改正が今、国民の関心度が低い中で強行されようとしているのである。
こうした「食と農」が直面する諸課題に、鋭く切り込んでいるのが本書である。啓蒙書としてやや網羅的な面はあるが、「農業予算はどんどん削られている」、「一見安い食料ほど実は危ない」、「米食中心に移せば食料自給率は劇的に改善」など、「食と農を守る」ための課題が、本書には散りばめられている。
著者である鈴木教授は、これまで「世界のどこかで有事、異常気象、天変地異が起きれば最初に飢えるのは日本、そして東京、大阪が壊滅する」と、これまでも厳しく警鐘を鳴らしてきた。しかし、それとは逆行する「農業基本法」の改悪が強行されようとしている状況下で、私たちがとるべき対応は何か。それは、本書も指摘するように、「食と農を“自分ごと”」としてとらえ、反動的農政に対する「ノー」の声を積極的に挙げていくことなのである。(講談社+α新書、900円)