「記者・編集者のスキルと知識を高める」とうたう「報道実務家フォーラム2024」が東京・早稲田大学国際会議場で4月27〜29日の日程で催されることを知り、覗いてきた。
フォーラムの主催は同名のNPO法人。2010年に始まり、参加者の所属社の枠を越えた学びと交流の場となっているという。今回は57とセッション数も過去最高。登壇の講師・報告者も延べ91人で、取材最前線でのスクープ術や調査報道、情報公開制度やオープンデータ活用等のケース研究に加え、ジェンダー問題への視点やデジタルスキル、情報産業内での新たな競争動向を反映した議題も並び、オンライン参加を含む総勢750名が3日間、活発な議論を交わした。
今日、一口に報道実務家≠ニ言っても、かつての職務・職域のテンプレートやロールモデルは希薄化し報道実務家の生息域も変化の只中にある。
背景には旧来のマスメディア経営を長年支えてきた購読料を支払うユーザーや広告主、コンテンツ提供者がネットを介して直接結びつく地殻変動があり、それは情報分野に限らず経済活動全域で起きた。
57セッションのうち20近くはそうした動向への対応がテーマだった。
例えば経済・ビジネス情報に特化したオンラインサービスで有料会員を増やしてきたソーシャルメディア「NewsPicks」は『女性ユーザーを増やすには?「男子校メディア」からの脱却』のタイトルでジェンダー平等の観点を重視してきた取り組みを紹介した。
編集・制作現場のみならず、インタビュアーやニュース解説を担う各分野の専門家群の女性比率を同時に高めて実践してきたジェンダーバランスの改善を紹介。ライフステージとキャリア構築の相克に直面する女性ユーザーの共感を得ていく上で、その体制づくりは必須であると提起した。
韓国の女性記者
フォーラム開催
昨年10月、ソウルで開催された「韓日女性記者フォーラム」の主催は韓国女性記者協会。日本にはない女性報道実務者の
団体は1961年に発足。韓国メディアに在籍する約1700人の会員を集め、現在は海外派遣を含む各種研修のほか、各社の管理職や役員の女性比率を公表、報道機関で働く女性の地位向上をめざしていると言う。
カカオトークで日常連絡を取り合い、女性の人事情報もたちどころに共有。社会変革に前向きな財界からの支援も厚いと言う。 日本からは報道各社の韓国駐在特派員に加え、新聞やテレビ局で働く女性記者たち5人が、日本記者クラブ(JNPC)の呼び掛けで訪韓して参加。日本で働く女性記者の現状と課題が報告され、本音の交流が進んだと言う。
日本と韓国は(世界経済フォーラム2023の世界146か国のランキングで日本は125位、韓国は105位)共にジェンダー平等後進国として課題を共有する関係にあり、女性記者を取り巻く環境も似る。
韓国女性記者協会は日本の女性記者たちに、自閉しない視点で連帯を呼び掛けたことになる。
ジェンダーの
劣等生が連帯
報道実務家フォーラムでは『ジェンダー劣等生同士 日本×韓国女性記者の対話で見えたコト』と銘打ち、韓日女性記者フォーラムの様子と、参加を通じて見えてきた諸点が報告された。
韓国は日本の比ではない出生率の漸減の中にあるとの報告にも驚いた。最新データでは0・72にまでになっているという。
少子化はいずれ生産年齢人口減をもたらすから、先に紹介した韓国財界が社会変革のトリガーとして女性記者の役割拡大を支援する構図も諒解される。
労使間バランスも労働サイドに有利な方向に動かざるを得ない時代の必然が作用しているのだろう。
フォーラムの柱の一つに「アジア的な文化が関連の報道に及ぼす影」のテーマが充てられ、日韓二国間に留まらない視座が示されていたことも注目される。
アジアに残る家父長制的遺制やものの考え方が、女性のキャリア形成や社会参加を妨げてきたと指摘されてきたが、最終日のレセプションでは『ガラスの天井を破るぞ!』と乾杯の唱和が鳴り響き、そこでも韓国同業女性たちの熱量に圧倒された、と。
その空気と雰囲気を持ち帰っての今回のトークセッション、会場からは、父権的メディア職場の実用的改善法は‥などの質問も出て、その回答に笑いとどよめきが何度も起こるなど、報道実務現場で進む相変化が発散されていた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年5月25日号