2024年07月01日

【おすすめ本】増田 剛『アメリカから見た3・11 日米両政府中枢の証言から』―菅政権の悪戦苦闘を伝える 日本の原発政策への警告の書=南雲 智(東京都立大学名誉教授)

 「3・11」とは言うまでもないが、2011年3月11日に起きた「東日本大震災」を指している。この大震災では地震、津波、原発事故と3つの複合的な災害が発生し、その対処には史上最も困難が伴うこととなった。アメリカはこの3つの災害中、原発事故に最大の関心を寄せ、「フクシマ」はチェルノブイリを超える惨事となると予測していた。それだけにオバマ大統領(当時)が菅直人首相(当時)に地震発生からわずか10時間足らずで電話をかけ、原発事故に対して全面協力を申し出たのも単なる外交辞令でなかったことは、本書に記述されているアメリカ高官たちのアドバイスや要求などを含めた数々の証言が教えている。

 本書は、大地震発生直後からの7日間、決して大袈裟な表現ではなく暗闇の中を手探りで進むほかなかった菅政権中枢部の過酷で困難な悪戦苦闘の記録である。その意味では、息苦しささえ感じるほどの緊迫した空気を伝える本書は、歴史の証言者としての価値を十分すぎるほど持っている。
 それにしても、菅政権中枢部は原発事故に対して参考となる事例もなく、事態の打開を図ろうにも東電からは正確な情報が伝えられず、何が起きているのかさえ把握できない危機的状況に直面していた。信じ難いことだが、福島原発1号機の爆発を政権中枢部はテレビの映像で初めて知るのである。

 本書に記述された驚くべき事実からは東日本全域が放射能で全滅していた可能性があったことを思い知らされるに違いない。にもかかわらず、現在、自民党政権は原発推進政策を進めている。本書はこうした日本の原発政策への警告の書にもなっているのである。
(論創社 2000円)
 
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする