2024年07月06日
【焦点】海外出稼ぎ売春が急増中 摘発・暴力・だまし‥‥自分守れぬリスク 松岡かすみ氏オンライン講演=橋詰雅博
観光ビザなどで入国し、現地で売春する日本女性が急増―。警視庁が4月と5月に相次いで摘発した2つの海外売春あっせんグループで明るみに出た日本女性の数は合計400から600人にも上る。米国やオーストラリア、カナダで売春をしていた。最近では20代の日本女性3人が韓国・ソウルで売春していたことが発覚し、現地の警察に検挙されている。「お金を稼ぎたい」という女性たちはいずれも求人サイト通じて応募していた。『出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日出版新書)の著者のフリーランス記者・松岡かすみ氏(38)は「実態と今後」について5月11日のJCJオンライン講演会で報告した。
松岡氏は同志社大学社会学科卒業後、出版社勤務などを経て2015年から『週刊朝日』編集部記者に。21年からフリーランス記者として活動。週刊朝日時代に2回掲載した特集記事をもとに改めて追加取材・大幅加筆して昨年2月に出版した『出稼ぎ〜』は初の著書だ。
6人から話を聞く
「日本人女性が海外に行き出稼ぎ売春する動きがある」という話をきっかけに22年末から松岡氏は取材を始めた。ここ数年の出稼ぎ経験を話してくれた6人の女性のうちワーキングホリデービザ(日本と協定を結ぶ国などで一定期間働きながら滞在できる制度)でオーストラリアに行った29歳の人は―。英語があまり話せず日本食レストランで仕事したが、最低ランクの賃金に加えて物価高もあり生活は苦しい。シェアハウスのルームメイトの中国人女性から紹介された時給がべらぼうに高いという売春も兼ねるマッサージ店(オーナーは中国人女性)で週2、3回働く。相手は主に中国人で、チップを含め週20万円程度稼いだ。ビザの有効期間である1年で帰国した。
渡航者は4タイプ
出稼ぎ売春の日本女性は@ワーホリ取得者、A求人サイトでの応募者、BSNSを使った独自開拓の富裕層相手のセックスワーカー、Cほれ込んだホストの借金の返済者。タイプ別にするとこうなる。
Cはホストクラブ独自の「売掛(うりかけ)」システムに原因がある。ホストクラブは、売り上げの半分は店に入り、残る半分がホストの収入になる。例えば会計が50万円だとすると、お金がない女性に代わってホストが半分の25万店に入れる。客は、ホストに支払う分の25万とともにホストに50万借金したことになる。売掛50万の返済については客とホストで決める。こうして膨らんだ借金返済のためホストから紹介されたブローカーを介して女性は売春目的で外国に渡航する。ただ社会問題化したことで売掛システムを見直す店も出てきている。
「売春がカジュアル化し、ポジティブに海外出稼ぎ売春を選ぶ女性は少なくない」と松岡氏は指摘する。背景には日本経済衰退に伴い海外と比べ広がる賃金格差、急激な円安による物価高騰などがある。海外ならば日本の何倍も稼げるとはいえ、リスクは多い。「警察の摘発、報酬がきちんと支払われる保証がない、ブローカーに騙される、暴力、病気、窃盗などのリスクがある。なによりも違法な出稼ぎ売春の身では、命が危ない場面にあっても自分を守る権利を行使するのは難しい。ここが一番怖い点です」(松岡氏)
今後について松岡氏「海外では日本よりも圧倒的に稼げますので、この現象は加速するでしょう」と予測した。
日本社会のひずみが生んだ一つの事象ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号