2024年07月08日

【おすすめ本】是枝裕和・川端和治・早田そうだったのか!ジャーナリズム研究会『僕らはまだテレビをあきらめない』―公権力の放送介入に抗う貴重な論考=長井 暁(ジャーナリスト)

 本書は、安倍晋三政権がテレビ放送への介入を繰り返されていた時期に、BPO放送倫理検証委員会の委員を務めた弁護士の川端和治氏と映画監督の是枝裕和氏による数々の論考と、両氏へのインタビューを中心に構成されている。掲載されている是枝氏が当時ブログに発表した3本の私見は、評者も講演や大学講義で何度も参考にして来た貴重な論考である。

 2015年4月、高市早苗総務大臣は出家詐欺番組を放送したNHKへ行政指導(厳重注意)。同年11月には、一つの番組のみでも政治的に公正と認められない場合があると発言。16年2月には、放送法違反を繰り返した場合、電波法76条に基づき電波停止の可能性があると発言した。

 BPOはNHKへの行政指導について、15年11月に公表した意見書の中で、「放送法が保障する『自律』を侵害する行為そのものと言えよう」と厳しく批判。意見書公表の翌日に是枝氏は私見を発表し、放送法は公権力から放送の「表現・報道の自由」を守るためのものであり、公権力が放送を規制するためにあるのではないと指摘した。

 さらに10日後に発表した私見では、放送法四条(「政治的な公正」など)が成立した経緯を詳しく検証し、この条文は「法規範」ではなく「倫理規範」であると明確に指摘。さらに16年3月の停波発言を受けて発表した私見では、公権力の誤った法解釈や人々の無理解によって、「放送を守るための放送法が、公権力が放送局を監視するための法律」にされてしまっており、その倒錯した状況を改めなければならないと厳しく指摘した。

 映画の製作等で多忙を極める中で、「資料集め及び清書をしてくれた分福のスタッフも呆れています」と言うほど、放送法に関する私見の執筆に熱心に取り組んだ理由について是枝氏は、自分を育ててくれた放送への愛着=テレビ愛があること語っている。本著はメディア関係者必携の一冊である。(緑風出版2500円)
          
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする