2024年07月23日

【出版界の動き】本の需要喚起のためのユニークな取り組みと挑戦=出版部会

第171回・芥川賞と直木賞が決まる。受賞作の短い紹介
<芥川賞>
朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』(新潮社)
 同じ身体なのに半身は姉、もう半身は妹、その驚きに満ちた人生を描く。周りからは一人に見えるが、でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。隣のあなたは誰なのか? 姉妹は考える、そして今これを考えているのは誰なのか。著者はこれまで勤めてきた医師としての経験と驚異の想像力を駆使して、人が生きることの普遍を描く、世界が初めて出会う物語。
松永K三蔵『バリ山行』(講談社 2024/7/29発売予定)
 内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた男は、同僚に誘われ六甲山登山に参加。その後も親睦を図る気楽な山歩きをしていたが、あるベテラン社員から誘われ、危険で難易度の高い登山へ同道する。だが山に対する認識の違いが露わになる。圧倒的生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。
<直木賞>
一穂ミチ『ツミデミック』(光文社)
 夜の街で客引きバイトに就く主人公。女がバイト中に話しかけてきた。彼女は中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と女の話に戸惑う「違う羽の鳥」。調理師の職を失い家に籠もりがちのある日、小一の息子が旧一万円札を手に帰ってきた。近隣の老人からもらったという「特別縁故者」。渦中の人間模様を描き心震える全6話を収載。
 なお著者の一穂さんは覆面作家として活動していたため、マスクを着用して会見に臨んだ。また光文社は生島治郎『追いつめる』以来、57年ぶりに直木賞作家を輩出した。

辻村深月『傲慢と善良』(朝日新聞出版)がトータル100万部を突破
 2019年3月、辻村さんの作家生活15周年を記念する作品として刊行。内容は婚活≠テーマとした恋愛ミステリ。単行本6万部(10刷)、文庫版85万部(22刷)、電子版9万部。文庫版は22年9月に発売し、1年間で文庫ジャンルの1位になるなど、ベストセラーランキングを席巻した。
 今秋9月27日には、藤ヶ谷太輔さんと奈緒さんのダブル主演による実写映画が公開される。「web TRIPPER」では、鶴谷香央理氏によるコミカライズが連載中。9月にコミック版の第1巻も発売が予定されている。

「読書バリアフリー法」に基づく地方計画の策定は26% 
 視覚障害者らの読書環境の改善を図る「読書バリアフリー法」に基づく計画は、都道府県・指定都市・中核市の計129の自治体には、策定の努力義務がある。しかし策定されている自治体は33、検討中は54、策定予定なしは42に及んだ。策定率は約26%(2月1日現在)だった。
 電子書籍の普及や公立図書館の体制整備などが課題だが、そうした取り組みの計画作りが進んでいないことが分かった。この6月27日には読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明が発出され、読書バリアフリーの取り組みポイントとして、以下のことを挙げている。
@ 電子書籍をリフローの形式で、一般向けに制作して販売する。
A 機械式音声読み上げに対応できるようにする。
B 専門の読上げソフトで読ませるため、また点字で読ませるため、テキストデータを提供できるようにする。

日販が有人・無人のハイブリッド型店舗を今秋オープン
 日販は「あゆみ BOOKS 東京・杉並店」をリニューアルし、溜池に設置した「ほんたす」機能を加え、「ほんたす」2号店として今秋オープンする。ここには有人・無人のハイブリッド型営業をかなえる省人化ソリューションを初導入し、書店スタッフの負担軽減と営業時間の延長を図る。
 まず有人レジカウンターを廃止し、セルフレジを導入する。書店スタッフは店舗内でさらに丁寧な接客や売り場づくりを行う。さらに営業時間を4時間延長し、早朝の8時から10時と深夜22時から24時の4時間を、LINE会員証で入店を管理する無人営業時間とし早朝や深夜の営業を可能にする。

ポプラ社と横浜市教委が提携して小中学校に読み放題型の電子図書館を試行導入
 ポプラ社は7月3日、子どもの読書機会の充実を目的に、横浜市教育委員会と連携協定を締結した。ポプラ社が小中学校向けに提供する読み放題型電子図書館「Yomokka!」が、7月から横浜市の小中学校のうち、「過大規模校(学級数31以上)」に指定される9校に試行導入された。

小学館 新会社「THRUSTER(スラスター)」設立 最新テクノロジーでコンテンツ開発
 小学館は7月16日、XR技術を使ったビジネスを開発する新会社として「株式会社THRUSTER(スラスター)」を設立したと発表した。THRUSTERは「株式会社LATEGRA(ラテグラ)」から事業譲渡を受けた制作チームが業務を行う。
 今後はグループ会社の一員として、小学館が持つ膨大なコンテンツをDIGITAL・VR・AR・AI等のテクノロジーと掛け合わせた、新たなコンテンツやサービスの開発を加速させ、海外にも進出する。

世界に広がる日本の出版物 ミリオンセラー生み出す動画SNSの拡散力
 マンガをはじめ、日本の出版コンテンツに対する海外での需要が急伸している。特に米国では勢いが止まらない。今や日本の小説への需要も拡大。動画配信や動画SNSによってそのブームは世界に拡大している。電子書籍の取次や翻訳サービス、縦スクロール化などのサービスが効を奏し、多くの作品を海外に販売できる体制が急ピッチで進む。
 紀伊國屋書店は米国、台湾を含む東南アジア、オセアニア、中東に42店舗を展開。このうち市場が大きい米国で21店舗を運営する。特に動画配信サイトでアニメを見て、新たに作品のファンになったファミリー層が購入するようになり、売上が伸びているという。さらに太宰治の『人間失格』がアニメ化され、原作への関心が広がりベストセラーになっている。

新聞協会、検索連動型AIは「著作権侵害」あたり記事の利用承諾を要請
 日本新聞協会は17日、米国大手IT各社が展開する「検索連動型生成AIサービス」は、著作権侵害の可能性が高いとして、記事の利用承諾を要請する声明を発表した。情報源として新聞記事を無断利用し、かつ記事に類似した回答例を表示するケースが多く、利用者も参照サイトのニュースを閲覧せず、報道機関に不利益が生じる弊害も指摘した。
 また記事利用の許諾を得ないまま「検索連動型AI」を提供すれば、独禁法に抵触する可能性にも言及した。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする