本書は、敏腕ジャーナリストの取材ノートを読んでいるみたいだ。取材先で掴んだ事実や、掘り起こした資料などをいったんノートに書き止め、それらをもう一度吟味して時系列やファクトの軽重を勘案しながら、読み易いように整理したという感じだ。なるほど、著者は元新聞記者。仕事で身につけた取材技術をここでも十分に発揮しているわけだ。
ターゲットは「原発汚染水」だ。「処理水」などと呼ぶことの欺瞞に対する怒りから本書の英語のタイトルが決まったのだろう。簡単に意訳すれば「作為的同意」となろうが、著者はこれを「合意の捏造」と一刀両断する。
話は政府の汚染水に関するテレビ広告への違和感から始まる。それを追いかけていくと様々な汚染水放出のPR事業に行き着く。高校生向けの「出前授業」と称する洗脳じみた事業や「出前食育」(最終的には親子料理教室)などという、著者に言わせれば「気持ちの悪い」事業。それらが意味するのは原発汚染水放出のプロパガンダだ。著者は人々の声を拾い集めながら「合意」なるものの正体を暴いていく。それが「捏造」であることに、読者も否応なく気付かされる。
著者の糾弾は、汚染水放出にお墨付きを与え捏造に手を貸すIAEA(国際原子力機関)や、無批判にそれに乗って報道するマスメディアにも向かう。当然、かつて自らが身を置いた会社への批判も含まれる。それにしても著者のような真摯なジャーナリストたちが続々と辞めていくのが現在の新聞社の状況。それを当の朝日新聞社はどう思っているのだろう? (ウネリウネラ、1200円)