2024年07月25日

【オピニオン】被爆79年 根本から問われる広島平和式典 入園規制 表現の自由を侵害 法的根拠なし 民主主義否定=難波健治

 被爆年の「原爆の日」を年後に控えた今年、広島市は2022年以来のロシアとベラルーシの8・6平和記念式典招待見送りを続ける一方、イスラエル招待は維持した。こうした市の姿勢に「どちらも軍事侵攻国。二重基準では」と疑問の声が渦巻く中、今年の式典では「平和記念式典のありようが根本から問われる」ことになる「平和記念公園の全面入園規制」が打ち出され、波紋が広がる。

規制エリア拡大

 私たちが「入園規制」を知ったのは5月7日、市の報道資料公表を受けたメディアの一斉報道によってだった。

 8・6平和記念式典はこれまで、平和公園の南半分で実施されてきた。今年も同じエリアで行なわれる。だが、広島市は今年、「式典会場」の線引きを公園の北半分エリアにも拡大したうえで入園規制を発表した。

 公園の北半分は、元安橋から本川橋を東西につなぐ市道の北側にあり、原爆の子の像や韓国人原爆犠牲者慰霊碑、身元が確認されず引き取り手がない数万柱の遺骨を納めた原爆供養塔などがある。そして、元安川を隔てた対岸には原爆ドームがある。市は、これらをすべて含めた公園全域にわたる入園規制を実施する。というのだ。

 行政法が専門の田村和之広島大学名誉教授は、「自由使用の都市公園での表現活動の制限は、いかなる見地から見ても違憲・違法だ」と指摘する。JCJ広島支部は6月3日、松井一実市長に、「入園規制」への疑問を公開質問状として届け、「問題ある規制なら、発表の報道文書を含め取り消すべきでは」と提起する一方、責任部局に法的根拠などを質した。

協力要請粉飾

 これに対する担当の市民活動推進課の答えは@規制に「法的根拠はない」A規制は「公園を訪れる方々への協力要請にすぎない」だった。

 だが、それは広島市がなぜ、憲法が保障する表現の自由に抵触する恐れが指摘されるのに、法的根拠もなく入園規制を打ち出したのか。「ゼッケン・タスキ・ヘルメット・鉢巻等の着用禁止」などに加え、多くの具体例を挙げて市民の持込物にまで違法と指摘される禁止、規制措置を言い出したのかの説明にはならない。

 しかも広島市がそれを「要請に従わない場合は、平和記念公園外への退去を命令することがある」と報道資料に明記して発表し、メディアがそのまま報じたことを私たちは重視した。

 平和記念式典に「退去命令」を持ち出し、禁止措置や様々な「規制」を前面に出した市の「公園全面入園規制」は、市の発表資料の内容を検討もせず報じたメディアを含め、その「見識」が問われていることは言うまでもない。

1年前の教訓

 この過程で私たちは、1年前に体験したできごとを思い出した。

 昨年5月、広島Gサミットの際、首脳たちの会食場となった老舗旅館がある世界遺産・厳島神社で知られる宮島(廿日市市)に、島ぐるみ(全域)の「入島規制」がかかった。

「このようなケースで、島全域に入域規制が実施できるような法的根拠はないはずだ」という田村名誉教授の指摘を受け、外務省や地元廿日市

市、県民会議事務局に問い合わせた私たちは、今回の広島市と同様の@「法的根拠はない」A「協力要請にすぎない」との回答を得た。

「全島入島規制」が根拠のない協力要請措置にすぎないことが確認されたのである。

 私たちは外務省職員が見ている前を通り、田村先生を含む3人で島に渡った。サミット取材でそこに居合わせた記者たちは、何が起きているのかわからない様子だった。

 私たちは、行政の発表を知らせるだけの報道に警鐘を鳴らすことを目的に行動した。島に渡り、何の「規制」も「罰」も受けずに帰ってきたその結果は、考えつく限りの方法で市民に知らせてきた。しかし、1年後の今、再び、同じことが今度は広島平和記念公園を舞台に繰り広げられようとしているのである。

       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号

posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする