特殊詐欺事件で「受け子」(被害者宅に出向いてキャッシュカードや現金を受け取る役)をしていた21歳の女性が逮捕された。
新聞社のデスクだった著者は、違和感を抱く。 派遣労働者だった若い女性がなぜ? ここから始まる取材が、低賃金の現場を徹底して踏査した本書の第1章「特殊詐欺の冬の花」に結実した。
取材はシェアハウス、アマゾン配達、非正規公務員、農家にも及ぶ。
「一つ歯車が狂うと、全てが回らなくなる」「普通に働いて普通に暮らすことがなんでこんなに大変なのか」
普通の暮らしをつかめずに苦しむ当事者たちの言葉が、雇用社会の課題を炙り出す。
マスコミやSNSには「為政者目線」「経営者目線」からの評論があふれているが、著者はその対極に立つ。いつも現場を歩き、時に泣きながら耳を澄ませるからこそ、ここまで深く細やかな話が聴けるのだろう。
深刻な事実を描きながら読後、温かな気持ちになれるのは、当事者と著者が共感で結ばれているゆえだろうか。非正規春闘をはじめ、根源にある低賃金を打破するために動く人々も活写し、行間から光が差すようだ。
著者は、日経連が1995年、雇用ポートフォリオを打ち出した「新時代の『日本的経営』」を「賃金が上がらない国」になった元凶と見定め、反撃の狼煙をあげるという(『週刊東洋経済』著者インタビュー)。
著者は「最後の労働記者」と呼ばれる。尊称とわかりつつ、「最後にしてはいけない」と思う。弱き者に寄り添い、働くものが声をあげることを励まし、希望に続く道を探す仕事は、まだまだ必要なのだから。(地平社1800円)
2024年08月10日
【リレー時評】「つばさの党」と「言論の自由」=山口 昭男(JCJ代表委員)
4月の衆院東京15区補欠選挙で、「つばさの党」が他陣営の選挙カーを追いかけるなどしたとして、6月28日に代表ら3人が公職選挙法違反容疑で再々逮捕された。選挙期間中、黒川代表はテレビのインタビューで「言論の自由」と語っていたが、こうした場面でこの言葉が聞かれるとは思ってもみなかった。
いうまでもなく「言論の自由」は「知る権利」とともに民主主義社会の根幹をなす権利であり、日本国憲法第21条で保障されている。遡って1889年発布の明治憲法でも第29条において保障されていたが、現実にはすべての出版物は出版条例によって検閲されていた。明治以降の言論活動はまさに「言論・表現の自由」を獲得するための戦いの歴史だったといっても過言ではない。とりわけ日中戦争、太平洋戦争中の言論圧殺は著しく、1933年の桐生悠々による論説「関東防空大演習を嗤う」事件、1935年の美濃部達吉による「天皇機関説」事件など事例には事欠かない。
評論家加藤周一は、1936年2・26事件の直後に、矢内原忠雄教授の講義を聴いて、「そのとき私たちは今ここで日本の最後の自由主義者の遺言を聞いているのだということを、はっきりと感じた」(『羊の歌』岩波新書)と語っている。
「言論の死」という言葉は、私の編集者生活のなかで何回となく聞かされた言葉である。作家城山三郎は「言論・表現の自由は、自由社会の根本で、いわば地下茎のようなもの。この地下茎をダメにすれば芽は出ず、枯れてしまいます」(『表現の自由と出版規制』出版メディアパル)と語っている。
戦後の現憲法下でも、「言論の自由」を巡る戦いは数多くみられる。たとえば1961年の「風流夢譚事件」とそれに続く「嶋中事件」、また1987年の「朝日新聞阪神支局襲撃事件」は衝撃的だった。「言論の自由」はいまだ獲得途上の権利と言ってよい。
その中で想定外ともいえる「つばさの党」問題が起きると、私たちは改めてSNS全盛時代の「言論・表現の自由」問題を考えざるを得なくなる。名誉棄損を口実に「言論の自由」を束縛する可能性も大きく、SNS書き込みの炎上による、また弾圧が続くことによる言論の萎縮、自己規制、これらが同時進行で起こりかねない。
50年前私が新米編集者だったころ教えられたのは「どうなるかではなく、どうするかを考えろ」だった。そのためにはいかに多くの情報を得るかが必須だった。いまの人々は、端末に溢れる情報に翻弄されていて、まるで過剰情報社会を当てもなくさまよっているようだ。
世の中のAI化が進むにつれ、SNSを巡る新たな犯罪、悪用、情報遺漏などがますます増大するであろう。ここをどう突破するかは極めて難しい問題だが、いまこそ「情報リテラシー」教育が必要なことは間違いない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
いうまでもなく「言論の自由」は「知る権利」とともに民主主義社会の根幹をなす権利であり、日本国憲法第21条で保障されている。遡って1889年発布の明治憲法でも第29条において保障されていたが、現実にはすべての出版物は出版条例によって検閲されていた。明治以降の言論活動はまさに「言論・表現の自由」を獲得するための戦いの歴史だったといっても過言ではない。とりわけ日中戦争、太平洋戦争中の言論圧殺は著しく、1933年の桐生悠々による論説「関東防空大演習を嗤う」事件、1935年の美濃部達吉による「天皇機関説」事件など事例には事欠かない。
評論家加藤周一は、1936年2・26事件の直後に、矢内原忠雄教授の講義を聴いて、「そのとき私たちは今ここで日本の最後の自由主義者の遺言を聞いているのだということを、はっきりと感じた」(『羊の歌』岩波新書)と語っている。
「言論の死」という言葉は、私の編集者生活のなかで何回となく聞かされた言葉である。作家城山三郎は「言論・表現の自由は、自由社会の根本で、いわば地下茎のようなもの。この地下茎をダメにすれば芽は出ず、枯れてしまいます」(『表現の自由と出版規制』出版メディアパル)と語っている。
戦後の現憲法下でも、「言論の自由」を巡る戦いは数多くみられる。たとえば1961年の「風流夢譚事件」とそれに続く「嶋中事件」、また1987年の「朝日新聞阪神支局襲撃事件」は衝撃的だった。「言論の自由」はいまだ獲得途上の権利と言ってよい。
その中で想定外ともいえる「つばさの党」問題が起きると、私たちは改めてSNS全盛時代の「言論・表現の自由」問題を考えざるを得なくなる。名誉棄損を口実に「言論の自由」を束縛する可能性も大きく、SNS書き込みの炎上による、また弾圧が続くことによる言論の萎縮、自己規制、これらが同時進行で起こりかねない。
50年前私が新米編集者だったころ教えられたのは「どうなるかではなく、どうするかを考えろ」だった。そのためにはいかに多くの情報を得るかが必須だった。いまの人々は、端末に溢れる情報に翻弄されていて、まるで過剰情報社会を当てもなくさまよっているようだ。
世の中のAI化が進むにつれ、SNSを巡る新たな犯罪、悪用、情報遺漏などがますます増大するであろう。ここをどう突破するかは極めて難しい問題だが、いまこそ「情報リテラシー」教育が必要なことは間違いない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月09日
【月刊マスコミ評・新聞】能登半島地震 復興遅れの検証必要=山田 明
自民党の裏金問題が、最大の焦点となった通常国会が閉会したが、これほど国民を愚弄した国会も珍しい。ザル法の改正政治資金規正法について、自民党議員からは「政治にはカネがかかる」と開き直ったような言い訳が出る始末。岸田首相も党首討論で「政治にはコストがかかる」と発言。朝日6月22日社説は「信を失う国民感覚とのずれ」と深まる政治の危機に警鐘を鳴らす。
国民を愚弄する自民党とも手を組んだ小池氏が、都知事選で3選を果たした。都民が小池都政をなぜ支持したのか、巧みなネット戦略で大量得票した石丸氏、掲示板が不足するほどの大量候補など、都知事選は多くの課題を残した。
今国会で目立ったのが、日本維新の会の迷走ぶりだ。「身を切る改革」を旗印に勢力を伸ばしてきた維新だが、最近では存在感に陰りが見え、政権とのスタンスを巡って内部で温度差も生じている(毎日6月27日)。馬場代表と吉村共同代表の対立、党分裂すら報じられている。大阪維新の会とともに、国政での維新の動向にも注目したい。
能登半島地震から半年余りが過ぎたが、復興の遅れは深刻である。今なおライフラインの復旧や被災家屋の解体撤去が進まず、先が見通せないことへの不安、置きざり状況への怒りが広がっている。
なぜ、ここまで復興が遅れているのか。人口減少時代の過疎地域に特有な問題と片づけられない。国や自治体の災害対策のあり方をハードとソフトの両面から検証する必要がある。今国会で成立した地方自治法改正は、自治体に対する国の「指示権」を拡大するものであり、地方分権に逆行し、自治体の災害対策・復興にも悪影響を及ぼすことになる。
鹿児島県警は、福岡に拠点をおくインターネットの記者宅を家宅捜索した。内部情報を漏らしたとして県警本部長が地方公務員法違反容疑で逮捕された事件の関連だった。「警察にとって不都合な報道の情報源を探るための強制捜査だったのではないか。そうだとすれば、報道の自由が脅かされる事態だ」(毎日6月23日)。メディアへの強制捜査は、権力に不都合な事実を報じる「取材の秘匿」を脅かす。メディアの取材の根本を揺るがす異常な事態だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
国民を愚弄する自民党とも手を組んだ小池氏が、都知事選で3選を果たした。都民が小池都政をなぜ支持したのか、巧みなネット戦略で大量得票した石丸氏、掲示板が不足するほどの大量候補など、都知事選は多くの課題を残した。
今国会で目立ったのが、日本維新の会の迷走ぶりだ。「身を切る改革」を旗印に勢力を伸ばしてきた維新だが、最近では存在感に陰りが見え、政権とのスタンスを巡って内部で温度差も生じている(毎日6月27日)。馬場代表と吉村共同代表の対立、党分裂すら報じられている。大阪維新の会とともに、国政での維新の動向にも注目したい。
能登半島地震から半年余りが過ぎたが、復興の遅れは深刻である。今なおライフラインの復旧や被災家屋の解体撤去が進まず、先が見通せないことへの不安、置きざり状況への怒りが広がっている。
なぜ、ここまで復興が遅れているのか。人口減少時代の過疎地域に特有な問題と片づけられない。国や自治体の災害対策のあり方をハードとソフトの両面から検証する必要がある。今国会で成立した地方自治法改正は、自治体に対する国の「指示権」を拡大するものであり、地方分権に逆行し、自治体の災害対策・復興にも悪影響を及ぼすことになる。
鹿児島県警は、福岡に拠点をおくインターネットの記者宅を家宅捜索した。内部情報を漏らしたとして県警本部長が地方公務員法違反容疑で逮捕された事件の関連だった。「警察にとって不都合な報道の情報源を探るための強制捜査だったのではないか。そうだとすれば、報道の自由が脅かされる事態だ」(毎日6月23日)。メディアへの強制捜査は、権力に不都合な事実を報じる「取材の秘匿」を脅かす。メディアの取材の根本を揺るがす異常な事態だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月08日
【映画の鏡】今なぜ、自然への畏敬なのか『うんこと死体の復権』価値観覆し、命の循環の輪を=鈴木賀津彦
2024「うんこと死体の復権」製作委員会
森の中での「野ぐそ」が、こんなにも素晴らしい価値を持った行為なのかと驚かされる。今やウオシュレットのない便器で用を足すことができなくなってしまった自分には「不可能だなぁ」と諦めながらも、蚊に刺されないためには何かしているのだろうかと心配しながら、楽しそうな「野ぐそ」にチャレンジしてみたくなってしまう不思議な作品だ。
排泄物という価値観を覆し、無数の生き物たちが命をつなぎ、循環の輪をつないでいる「うんこ」の役割を理解させてくれる。関係性が断ち切られてしまった自然を「つなぎなおす」ために、現代社会はうんこ本来の価値を取り戻す必要があることに気付かされる。
「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関野吉晴が初めて監督、出会った3人の賢人の活動を追っていく。自ら「糞土師」と名乗り、野ぐそをすることに頑なにこだわり、半世紀に渡る野ぐそ人生を送っている写真家の伊沢正名。うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀。そして、死体喰いの生き物たちを執拗に観察する絵本作家の舘野鴻。うんこ同様、無きモノにされがちな死体を見つめると、そこには世の中の常識を覆す「持続可能な未来」のヒントが示されている。
タイトルの通りうんこと死体が主役に復権するこの映画を観て、まだ「肥溜め」が近所にあった時代を思い起こした。江戸時代以降も土に戻していたのに、不潔なもの、廃棄物として扱う現代社会って、つい最近なのだ。早急に復権を!と叫びたい。8月3日から全国順次公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
森の中での「野ぐそ」が、こんなにも素晴らしい価値を持った行為なのかと驚かされる。今やウオシュレットのない便器で用を足すことができなくなってしまった自分には「不可能だなぁ」と諦めながらも、蚊に刺されないためには何かしているのだろうかと心配しながら、楽しそうな「野ぐそ」にチャレンジしてみたくなってしまう不思議な作品だ。
排泄物という価値観を覆し、無数の生き物たちが命をつなぎ、循環の輪をつないでいる「うんこ」の役割を理解させてくれる。関係性が断ち切られてしまった自然を「つなぎなおす」ために、現代社会はうんこ本来の価値を取り戻す必要があることに気付かされる。
「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関野吉晴が初めて監督、出会った3人の賢人の活動を追っていく。自ら「糞土師」と名乗り、野ぐそをすることに頑なにこだわり、半世紀に渡る野ぐそ人生を送っている写真家の伊沢正名。うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀。そして、死体喰いの生き物たちを執拗に観察する絵本作家の舘野鴻。うんこ同様、無きモノにされがちな死体を見つめると、そこには世の中の常識を覆す「持続可能な未来」のヒントが示されている。
タイトルの通りうんこと死体が主役に復権するこの映画を観て、まだ「肥溜め」が近所にあった時代を思い起こした。江戸時代以降も土に戻していたのに、不潔なもの、廃棄物として扱う現代社会って、つい最近なのだ。早急に復権を!と叫びたい。8月3日から全国順次公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月07日
【支部リポート】東海 イスラエル訪問に抗議 岐阜市長に批判集まる=丹原 美穂・加藤 剛
岐阜市の柴橋正直市長は、5月27日から4日間の日程でイスラエルを訪問、宗教行事に参加したほか政府関係者との会合に参加するなどイスラエル支持の活動をした。
柴橋市長は「自費で行った。私的活動だ。信教の自由」と釈明したが、実際にはクリスチャンの政治家団体「オリーブの会」の会長としての訪問で、現地のユーチューブには「岐阜市長MAYOR OF GIFU CITY」と紹介されていた。このため岐阜9条の会、新日本婦人の会岐阜支部、市民のための市政を作る会、アラブ未来協会の4団体とイスラム教徒有志、キリスト教牧師らが6月13日岐阜市役所を訪れ秘書課を通じて柴橋市長に抗議文を提出した=写真=。
★抗議文の要旨
@ 信教は自由だがオリーブの会は政治家の団体であり会長としての参加は個人ではなく市長の肩書での活動だ。
A 現地では祈祷会のほかイスラエル政府関係者との会合にも参加するなどイスラエル支持が明白である
B 憲法尊重・擁護の義務を負う公務員の市長が世界からジェノサイドと非難されているイスラエル側に肩入れする活動を行ったことは、憲法99条と憲法9条に違反するのではないか
C その上外務省が危険レベル最上位の「退避勧告」を出しているガザ地区付近の村も訪れたとされる。6月議会前の重要な時期に市長が危険地帯へ行くことは非常識だ。
抗議団はこのような文書を提出したあと記者会見を行い、各団体の代表が記者団の質問に答えた。
市長のイスラエル支持が岐阜新聞などで報じられるとX(旧ツイッター)などSNSでは柴橋市長の行動を批判する声が高まった。
・今虐殺されているのはパレスチナ人で、イスラエルは虐殺してる側だよね。見えてる世界が違いすぎてマジで無理
・このタイミングでイスラエルを訪問する公職者っておかしいな
・クリスチャンなら『虐殺やめよ』と一こと言ってほしいよ
など、否定的な反応が目立つた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月06日
【放送】「市民ネット4議案否決」テレビ朝日HDの株主総会 市民株主運動デビュー報告=杉浦ひとみ(テレビ輝け市民ネットワーク)
「テレビ耀け!市民ネットワーク」は6月27日、テレビ朝日HDの株主総会で株主提案議決権を行使し4議案を提示した。
会社が株主に送る総会案内には、会社からの議題3つ、株主提案(いずれも当ネット)が4議題が掲載されたが、「会社は反対」とのコメントが株主提案議題のそれぞれに付されていた。
総会は早河洋氏(会長)が議長となり進行。
報告案件に続く決議事項として、会社議案3件の説明に続き、与えられた提案株主からの説明時間は6分。「提案は全て会社応援のため」と簡潔に説明した田中優子共同代表は「会社が全てに反対の意を示したことは大変残念である」と結んだ。
議案説明と予め寄せられていた質問にへの会社回答に続く採決前の報告事項・決議事項への出席株主からの質問では、最初に一般株主の男性が当会提案の@前川喜平氏の社外取締役について質問。「会社の拒否は不満」としながら中身は、かつて読売が報じた「出会い系バー通い」への揶揄。「名誉棄損にあたる」との指摘に、会場から拍手が沸いた。
また当会提案のA第三者委員会設置と調査、公表を定款に定めることについて、会場から「どのような根拠に基づきこのような提案に至ったのか」との質問があり、阪口徳雄当会事務局が「政治圧力」と「同社番組審査会」を巡る経過を指摘、「市民として真偽検証を求めた」提案趣旨を説明。テレ朝側は篠塚社長が「調査はしたが圧力はなかった」と回答をした。
当会の提案への説明を求める質問はさらに続き、最後の質問も「番組審議会の任期の是正」に関するもの。
当ネットからは、同社の番組審議会委員を20年務め、そのうち10年は委員長に在任する見城徹氏が社長の幻冬舎の書籍を、数十分の時間を割き書籍を何度も映した事実の説明。「大下容子ワイドスクランブル、羽鳥モーニングショーという番組内で広告と思われる放送がなされたとのことだが、番組を見ていないので説明を求める」との会場からの質問に答えた。
テレビ朝日側は「視聴者にとって有益な情報だと番組側が考え企画・制作された。これは広告ではない。昨年度は情報番組では、28社の出版物を60回放送している」というものだった。
会場では当ネットの提案議題について、具体的な話に及ぶにつれて、拍手が徐々に大きくなっていき、今回初めてチャレンジした株主提案権の行使について確かな手ごたえを感じることができた。
テレビ輝け市民ネットワークは昨年発足、テレビに報道機関の役割をもっと果たしてほしいと、市民が株主となって応援する活動だ。注目と支援をお願いする。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
会社が株主に送る総会案内には、会社からの議題3つ、株主提案(いずれも当ネット)が4議題が掲載されたが、「会社は反対」とのコメントが株主提案議題のそれぞれに付されていた。
総会は早河洋氏(会長)が議長となり進行。
報告案件に続く決議事項として、会社議案3件の説明に続き、与えられた提案株主からの説明時間は6分。「提案は全て会社応援のため」と簡潔に説明した田中優子共同代表は「会社が全てに反対の意を示したことは大変残念である」と結んだ。
議案説明と予め寄せられていた質問にへの会社回答に続く採決前の報告事項・決議事項への出席株主からの質問では、最初に一般株主の男性が当会提案の@前川喜平氏の社外取締役について質問。「会社の拒否は不満」としながら中身は、かつて読売が報じた「出会い系バー通い」への揶揄。「名誉棄損にあたる」との指摘に、会場から拍手が沸いた。
また当会提案のA第三者委員会設置と調査、公表を定款に定めることについて、会場から「どのような根拠に基づきこのような提案に至ったのか」との質問があり、阪口徳雄当会事務局が「政治圧力」と「同社番組審査会」を巡る経過を指摘、「市民として真偽検証を求めた」提案趣旨を説明。テレ朝側は篠塚社長が「調査はしたが圧力はなかった」と回答をした。
当会の提案への説明を求める質問はさらに続き、最後の質問も「番組審議会の任期の是正」に関するもの。
当ネットからは、同社の番組審議会委員を20年務め、そのうち10年は委員長に在任する見城徹氏が社長の幻冬舎の書籍を、数十分の時間を割き書籍を何度も映した事実の説明。「大下容子ワイドスクランブル、羽鳥モーニングショーという番組内で広告と思われる放送がなされたとのことだが、番組を見ていないので説明を求める」との会場からの質問に答えた。
テレビ朝日側は「視聴者にとって有益な情報だと番組側が考え企画・制作された。これは広告ではない。昨年度は情報番組では、28社の出版物を60回放送している」というものだった。
会場では当ネットの提案議題について、具体的な話に及ぶにつれて、拍手が徐々に大きくなっていき、今回初めてチャレンジした株主提案権の行使について確かな手ごたえを感じることができた。
テレビ輝け市民ネットワークは昨年発足、テレビに報道機関の役割をもっと果たしてほしいと、市民が株主となって応援する活動だ。注目と支援をお願いする。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月05日
【沖縄リポート】人間の鎖、性暴力とくい打ちに抗議=浦島悦子
7月6日、辺野古ゲート前座り込み開始(2014年7月7日)10周年を前に、米軍キャンプ・シュワブを囲む「人間の鎖」と県民集会が開かれ、猛暑の中、1200人が参加した=写真=。辺野古への埋立土砂が搬出される安和桟橋のダンプ事故で亡くなった警備員に全員で黙とうを行い、相次ぐ米兵による性暴力事件、大浦湾へのくい打ち強行に怒りと抗議の声を上げた。
6月25日、昨年12月に起こった米空軍兵による16歳未満の少女への誘拐・暴行事件が、発生から半年、容疑者の起訴から3か月も沖縄県に伝えられず、外務省・県警が隠蔽していたことが発覚。その間、5月にも米海兵隊員が成人女性への性暴力(暴行致傷)で逮捕され、1月から5月までに計5件の米兵性犯罪が起こっていたことがわかり、県民の間に衝撃と怒りが渦巻いた。
12月の事件が報道されていたら5月の事件は防げたかもしれず、また、沖縄県議選(6月16日投開票)の結果(デニー知事の与党が議席を減らし、野党・自公勢力が48議席中28議席となった)が変わっていた可能性もあり、政治的意図による隠蔽ではないかとの疑念もぬぐえない。
県民集会の冒頭で挨拶した稲嶺進・オール沖縄会議共同代表は「日米両政府の植民地支配の表れだ」と厳しく糾弾した。
6月28日に起こった安和の事故では、ゲートから国道に出ようとしたダンプに巻き込まれて警備員が亡くなり、市民女性が重傷を負った。安和からの土砂搬出が始まって5年。現場の参加者によると、「これまで、牛歩で抗議する市民とダンプ運転手、警備員の間には、お互いの安全に関する暗黙のルールができており、事故を防いでいた。しかし最近、沖縄防衛局が闇雲に工事を急がせようとする姿勢が目立ち危険を感じていた。起こるべくして起こった事故だ」という。
防衛局はその責任を取るとともに、最低でも事故の全容が明らかになるまでは工事を中止すべきである。
県との協議を拒否して強行した大浦湾くい打ちによるサンゴの損傷も発覚し、猛暑はますます酷くなるばかりだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月04日
【24緑陰図書―私のおすすめ】実体験から「人質司法」の是非を問う=本間龍(ノンフィクション作家)
角川歴彦氏の新刊『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(リトルモア1200円)を興味深く読んだ。
21年に開催された東京五輪では、その後の22年に20人近くが汚職・談合容疑で逮捕、起訴された。当時K A D O K A W Aの会長だった歴彦氏もその一人であった。
殆どの関係者が容疑を認めて保釈される中で、歴彦氏は一貫して容疑を否認したため、保釈請求は三度も却下され、勾留は226日に及んだ。容疑を認めない者は懲らしめの意味も含めて保釈しないという、悪名高き我が国の「人質司法」の犠牲となったのだ。本書は、前半で長期に及んだ東京拘置所での生活を描き、後半では人質司法の問題点をつぶさに検証している。
検察は、K A D O K A W A社内の構造上、逮捕された元専務や室長たちが、会長だった歴彦氏の指示のもと、元電通専務の高橋治之氏に賄賂を渡したという筋書きを作った。これに対し、歴彦氏はそもそも五輪参加には全く興味がなく、従って指示など一切出してはいないと主張している。だが本書では容疑の中身についてはあまり触れられず、過酷な勾留生活の記述が大半を占める。
私も約20年前に事件を起こし、裁判終結までの約210日間、東京拘置所に勾留された。それ以前に三田警察の粗末な留置場で約四カ月過ごした私にとって、新築されたばかりの東京拘置所(当時)は清潔で過ごしやすいと感じたが、高齢で持病もある歴彦氏にとっては、地獄のような場所であったようだ。
故に、拘置所内での理不尽に満ちた生活描写は鬼気迫るものがある。何よりも、自らの潔白を固く信じる歴彦氏にとって、無実の人間の自由を奪い、人間としての尊厳を踏み躙る拘禁処遇は耐えられないものだった。
こうした人権無視の処遇への強い怒りが、自白して罪を認めなければ永遠に保釈されないという人質司法に対し、我が国初の「人質司法違憲訴訟」を提議する原動力となった。贈賄容疑の裁判の行方は別として、長年問題になっていた人質司法に対し果敢に挑戦する姿勢に、言論人としての確固たる信念を見た。
2024年08月03日
【焦点】CCS(炭素回収貯留)事業 脱炭素「切り札」はウソ 未完成な技術、高コスト 50年目標値、達成は困難=橋詰雅博
「二酸化炭素回収貯留(CCS)事業法案」が先の通常国会で成立した。火力発電所や石油精製所、セメント工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を回収し海底や地中に貯留するCCS技術は、脱炭素の切り札と言われている。法制化によって試掘・貯留の事業化を目指す企業の参入を促進させる。官民合わせて今後10年間で4兆円を投じるというCCS事業、マスコミは「有望」と持ち上げるが、本当にそうなのか―。
CCS実証実験
苫小牧で実施
CO2が80%近く占める温暖化ガスを2050年に実質ゼロにする方針を打ち出す政府は、「CCSなくして、カーボンニュートラル(脱炭素)なし」とCCS事業を位置付ける。北海道苫小牧市では、国、自治体、企業が一体で19年11月までの3年8カ月間、国内最大規模のCCS実証実験が行われた。仕組みはこうだ。隣の石油精製所が出すガスから分離・回収し液化させたCO2に高い圧力をかける。パイプラインで輸送したそのCO2は専用井戸(圧入井)を通じて海底1000b以深に送り込まれる。これまで注入されたCO2は約30万d。現在、貯留層からCO2の洩れがないかなどモニタリング調査が続けられている。
所管の経済産業省は、苫小牧を始め国内5プロジェクトと、液化CO2を専用船でマレーシアやオーストラリアなどに運んで貯留する海外2プロジェクトの合計7プロジェクトを「先進的CCS事業」計画として選定した。ただし、苫小牧以外のプロジェクトはあくまで調査の段階。また苫小牧のモニタリング調査の期間は定まっていない。7プロジェクトの事業化の時期は不明だ。
高額費用の縮小
具体策は示さず
こうした状況下で30年までに事業をスタートさせて、50年時点で年間1・2億から2・4億d貯留(今の排出量の1から2割)という政府の目標は達成できるのか。
国際環境NGO「FoE Japan」の気候変動・エネルギー担当の深草亜悠美氏は「目標達成は困難」と前置きしたうえで、3つ大きな理由を挙げた。
@ 「技術がまだ完成していません。ノルウェーのスノヴィット事業では、地層の事前調査で18年分の貯留が可能としていたが、実際は6カ月程度で再調査や新しい圧入井を掘った。CCS技術が進んでいるノルウェーですらこの程度です。オーストラリアのゴーゴンでも企業が莫大な資金を投入しながら予定の半分の貯留に留まった。苫小牧では、CO2を圧入した2本の圧入井のうち1本は十分に圧入できなかった」
A 「貯留までの費用が高い。一連の工程を経た1dのCO2を地中や海底に貯留するまでには1万2800から2万200円もかかる。50年までに6割程度に下げると政府は説明するが具体策は提示していません。たとえ6割に下がっても高額なのは変わらない。世界の大規模CCS事業(年間3万d以上のCO2を回収)の78%は高コストが原因で中止か延期に追い込まれたという研究報告もあります」
B 「事故の可能性がある。実際、2020年にアメリカ・ミシシッピー州でCO2輸送パイプラインが損傷し、300人が退避、二酸化炭素中毒で45人が病院に搬送された。今年4月にもルイジアナ州でパイプライン事故が発生している」
化石燃料の利用
政府は継続狙う
ほかにもCO2回収率は60から70%に留まる、地中にCO2を注入することで地震の誘発が懸念されている。
いろいろな問題点がありながらCCS事業を進めることについて深草氏は「石炭、石油、天然ガスの化石燃料の利用を続けていくのが政府の狙い」と指摘。与党自民党をバックアップする企業が経営する火力発電所、石油精製所、セメント工場などを政府は簡単に潰すことはできない。かといって世界に約束した50年温暖化ガスゼロは反故にできない。苦肉の策がCCS事業ではないか。
多額の補助金
負担は国民へ
深草氏は「このまままではCCS技術の開発という名目で多額の補助金が投じられる。これは国民の税金。国民に負担を強いることになる」と見通しを語った。
政府が今取り組むべきことは何か。「再生可能エネルギー由来の発電と省エネ政策を拡充すれば、CO2排出の大幅削減や光熱費、化石燃料輸入費の削減が可能です」と深草氏は訴えた。
CCS事業は信頼できる脱炭素のツールではないようだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月02日
【フォトアングル】蓮舫氏の最終街宣、熱気は凄かったが‥‥=7月6日・新宿駅東南口、伊東良平撮影
7月7日に投開票が行われた東京都知事選は小池都知事が3選を果たした。写真は投票前日の7月6日夜に新宿で行われた蓮舫氏の最終街宣。駅前を埋めた溢れんばかりの聴衆に最後の訴えをアピールして盛り上がった。熱気が凄く、若い人たちが多く参加してこれまでとは違う雰囲気で、支援者が投票を呼び掛けて各地で展開した「ひとり街宣」の方たちも見受けられ選挙結果に期待が高まった。しかし無党派票を石丸伸二氏に多く持っていかれての敗北。今回はネットやSNSの連動が投票効果をより上げることも実感したが、「ひとり街宣」など今後に繋がる運動のあり方も提起した選挙戦であった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2024年08月01日
【月刊マスコミ評・放送】テレ朝HD株主総会に行ってみた=岩崎 貞明
6月27日、株式会社テレビ朝日ホールディングス(HD)の株主総会が開催された。今回は市民団体「テレビ輝け!市民ネットワーク」が@政治的な圧力により公正報道が難しい場合には第三者委員会設置・調査・公表する旨定款に定めることA社内の放送番組審議会で是正困難な報道につき第三者委員会調査を定款に定めること⓷放送番組審議会の委員の任期の是正(長期に及ぶ就任者があることに鑑み)C社外取締役として前川喜平氏を推薦する――の四項目を株主提案していた。
2015年1月、『報道ステーション』で当時コメンテーターを務めていた古賀茂明氏の発言をめぐって政権幹部から介入と受け取れるメッセージが送られたこと、それを受けてテレビ朝日が古賀氏と担当プロデューサーを同年3月末で番組から降板させたことなどが疑われている。また、同局の放送番組審議会は長年にわたって幻冬舎社長の見城徹氏が委員長を務めており、幻冬舎が出版した書籍の広告と紛らわしい番組企画が情報番組で放送されたことなどが、株主提案の理由だ。
午前10時に開会した株主総会は、早河洋・代表取締役会長が議長を務め、事業報告や会社提案の議案の説明などを行った。市民ネットワークの株主提案は第4号〜第7号の議案として提案されていたが、テレ朝HDの取締役会は株主提案すべてに「反対」の意見を表明していた。株主提案には田中優子・元法政大学学長が市民ネットワークの共同代表として説明に立ち、「これはテレビを応援するための提案です」などと述べていた。
株主との質疑応答で、最初に質問に立った一般株主の男性が、前川喜平さんに対して誹謗中傷の発言を行った。会社に対して、前川さんを取締役に選任しない理由を問う質問だったが、前川さんが新宿・歌舞伎町の出会い系バーに通っていたことなど虚実を交えて揶揄する内容で、市民ネットワークの事務局を務める梓澤和幸弁護士が、前川さんの名誉棄損となる発言を漫然と放置した早河議長の議事進行責任を問い質したが、早河議長は「株主には発言の権利がある」などと退けた。しかし会場の一般株主からは、市民ネットワークの発言に拍手を送る人も少なくなかった。
議案採決で、会社提案の議案はすべて可決、株主提案の議案は総会ではすべて否決という結果だった。市民ネットワークは来年も株主提案にチャレンジするという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2015年1月、『報道ステーション』で当時コメンテーターを務めていた古賀茂明氏の発言をめぐって政権幹部から介入と受け取れるメッセージが送られたこと、それを受けてテレビ朝日が古賀氏と担当プロデューサーを同年3月末で番組から降板させたことなどが疑われている。また、同局の放送番組審議会は長年にわたって幻冬舎社長の見城徹氏が委員長を務めており、幻冬舎が出版した書籍の広告と紛らわしい番組企画が情報番組で放送されたことなどが、株主提案の理由だ。
午前10時に開会した株主総会は、早河洋・代表取締役会長が議長を務め、事業報告や会社提案の議案の説明などを行った。市民ネットワークの株主提案は第4号〜第7号の議案として提案されていたが、テレ朝HDの取締役会は株主提案すべてに「反対」の意見を表明していた。株主提案には田中優子・元法政大学学長が市民ネットワークの共同代表として説明に立ち、「これはテレビを応援するための提案です」などと述べていた。
株主との質疑応答で、最初に質問に立った一般株主の男性が、前川喜平さんに対して誹謗中傷の発言を行った。会社に対して、前川さんを取締役に選任しない理由を問う質問だったが、前川さんが新宿・歌舞伎町の出会い系バーに通っていたことなど虚実を交えて揶揄する内容で、市民ネットワークの事務局を務める梓澤和幸弁護士が、前川さんの名誉棄損となる発言を漫然と放置した早河議長の議事進行責任を問い質したが、早河議長は「株主には発言の権利がある」などと退けた。しかし会場の一般株主からは、市民ネットワークの発言に拍手を送る人も少なくなかった。
議案採決で、会社提案の議案はすべて可決、株主提案の議案は総会ではすべて否決という結果だった。市民ネットワークは来年も株主提案にチャレンジするという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号