2024年09月30日
【フォトアングル】朝鮮人犠牲追悼式典「語り継ぐことが責務」と実行委員長=9月1日、墨田区・都立横網町公園、伊東良平撮影
関東大震災のあった9月1日、台風10号による雨が時折降る中で、朝鮮人犠牲者追悼式典が東京両国の横網町公園で行われた。台風の影響で規模を縮小して実行委員の人たちとメディア関係者で開催したが、周りには一般の市民も集まり式典を見守った。小池百合子都知事は今年も追悼文を出さず、宮川康彦実行委員長は挨拶の中で「子孫や周りの人に語り継ぐことが我々の責務」と述べた。読経と鎮魂の舞の後、舞踊家など代表4人が献花を行った。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
2024年09月29日
【月刊マスコミ評・新聞】慰霊碑破壊を声高に叫ぶ右派団体=白垣 詔男
1923年の関東大震災時に虐殺された朝鮮人問題について、非常に強く印象に残る記事を読んだ。
9月4日、毎日新聞(西部版)夕刊2面「特集ワイド」の吉井理記記者の報告だ。「関東大震災の朝鮮人虐殺『否定派』が今年も集会/一線越えた『慰霊碑破壊』予告/『なかったこと』に101年前と変わらず」という見出しが示すように、朝鮮人虐殺犠牲者の慰霊碑(1973年建立)がある東京・両国の都立横網町公園で行われた追悼式典の同時刻に、2017年から、追悼式典そばで「そよ風」という団体が中心となって始めた「真実の慰霊祭」なる集会を取材、検証した内容。
吉井記者は「忘れたい失敗はだれにでもある。でもホントに忘れたらどうなるか。近年、関東大震災があった9月1日に、差別に基づくデマで日本人が多くの朝鮮人を虐殺した大失敗について、『なかったこと』にしたい人たちの奇妙な運動が続いている」と前文に書いているように、この「奇妙な運動」を確かな視点で掘り下げる。ただ、「そよ風」の集会は部外者には目に触れないように白い幕で「目隠し」をして取材も拒否したという。
記事の中で私が一番衝撃を受けたのは、「そよ風」集会の中心人物の一人で、作家・三島由紀夫が作った「盾の会」元会員が、「6000人虐殺というウソの慰霊碑、これを我々は必ず撤去します。破壊します!」と「破壊予告」をした大声を聞いたというくだり。
また、吉井記者は「思えば『そよ風』が集会を始めた2017年は、歴代都知事が続けてきた朝鮮人追悼式典への追悼文の送付を、小池百合子都知事が取りやめた年でもある」と書く。さらに、ジャーナリスト安田浩一さんの発言「最大の問題は、差別と偏見を真っ先に止めるべき行政や政治家が、こうした風潮を助長しているとしか受け取れないことです。…小さな差別は積み重なって大きな差別を伴い、『殺しても構わない』という社会を招く」を紹介する。
「関東大震災時の朝鮮人虐殺」については朝日新聞が8月30日付社説「朝鮮人虐殺 史実の黙殺は許されぬ」、毎日が9月6日付社説「朝鮮人虐殺の歴史 向き合わぬ政治の不誠実」の見出しで、行政の歴史に向き合わない修正主義を声高に批判している。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
9月4日、毎日新聞(西部版)夕刊2面「特集ワイド」の吉井理記記者の報告だ。「関東大震災の朝鮮人虐殺『否定派』が今年も集会/一線越えた『慰霊碑破壊』予告/『なかったこと』に101年前と変わらず」という見出しが示すように、朝鮮人虐殺犠牲者の慰霊碑(1973年建立)がある東京・両国の都立横網町公園で行われた追悼式典の同時刻に、2017年から、追悼式典そばで「そよ風」という団体が中心となって始めた「真実の慰霊祭」なる集会を取材、検証した内容。
吉井記者は「忘れたい失敗はだれにでもある。でもホントに忘れたらどうなるか。近年、関東大震災があった9月1日に、差別に基づくデマで日本人が多くの朝鮮人を虐殺した大失敗について、『なかったこと』にしたい人たちの奇妙な運動が続いている」と前文に書いているように、この「奇妙な運動」を確かな視点で掘り下げる。ただ、「そよ風」の集会は部外者には目に触れないように白い幕で「目隠し」をして取材も拒否したという。
記事の中で私が一番衝撃を受けたのは、「そよ風」集会の中心人物の一人で、作家・三島由紀夫が作った「盾の会」元会員が、「6000人虐殺というウソの慰霊碑、これを我々は必ず撤去します。破壊します!」と「破壊予告」をした大声を聞いたというくだり。
また、吉井記者は「思えば『そよ風』が集会を始めた2017年は、歴代都知事が続けてきた朝鮮人追悼式典への追悼文の送付を、小池百合子都知事が取りやめた年でもある」と書く。さらに、ジャーナリスト安田浩一さんの発言「最大の問題は、差別と偏見を真っ先に止めるべき行政や政治家が、こうした風潮を助長しているとしか受け取れないことです。…小さな差別は積み重なって大きな差別を伴い、『殺しても構わない』という社会を招く」を紹介する。
「関東大震災時の朝鮮人虐殺」については朝日新聞が8月30日付社説「朝鮮人虐殺 史実の黙殺は許されぬ」、毎日が9月6日付社説「朝鮮人虐殺の歴史 向き合わぬ政治の不誠実」の見出しで、行政の歴史に向き合わない修正主義を声高に批判している。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
2024年09月28日
【出版界の動き】読書離れを防ぐ多様な取り組みが進む=出版部会
◆1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!
文化庁が17日に発表した2023年度「国語に関する世論調査」の1項目、<読書に関する調査>(雑誌や漫画を除き電子書籍を含む)で、1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!―そんな結果が明らかとなった。
同様の調査は2008年度から5年ごとだが、過去の調査で「ゼロ冊」が5割を超えたことはなく、前回の2018年度は47.3%だった。コロナ禍前の前回までは面接調査だったため、今回は郵送調査なので単純比較はできないが、憂慮すべき事態であるのは間違いない。
本を読む人は、どのように本を選ぶかを尋ねると、書店に行って手に取りながら選ぶ人は57.9%(前回66.7%)と減っている。その一方、インターネット情報により選ぶ人は33.4%(前回27.9%)と増えている。
読書量は69.1%が「減っている」(前回67.3%)と回答し、その理由はスマホやゲーム機など「情報機器で時間が取られる」と答えた人が43.6%(前回36.5%)で最多となった。これまでの調査では「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」回答が多数だったが、今回は38.9%(同49.4%)に減っている。
◆「朝の読書大賞」が発表される
文字・活字文化振興法の理念にもとづき、読書推進に貢献し、顕著な業績をあげた学校を顕彰するため毎年表彰している。今年の受賞・学校は以下の通り。
●大江学園 福知山市立大江小学校・大江中学校(京都)、
●学校法人開成学園 大宮開成中学校(埼玉)
●愛知県立豊橋高等学校
「朝の読書運動」は、主に学校在学中から読書を大切にしようと、授業の始まる前の10分から15分ほど読書の時間を設け、読む習慣づくりに貢献してきた。1970年代から始まり、1988年の船橋学園女子高校(現:東葉高等学校)の実践を機に、日本全国に広まった。
特に出版社・高文研(当時の代表・梅田正己)が、同校編『朝の読書が奇跡を生んだ』(同社1993年刊)などで協力し、1996年には「朝の読書」運動が第44回菊池寛賞を受賞した。
◆「無書店」自治体27.9%、1書店以下は47.7%
出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、今年8月末時点で15道県24市が「書店ゼロ」となり、北海道芦別市や千葉県白井市、熊本県合志市など市名を公表した。また全国の書店数は前回調査(24年3月時点)より145軒減って7828軒に減少した。
その一方で、大型書店がターミナル駅周辺などに大規模な出店を図り、近郊の青年・児童・主婦層を視野に、新たな読者拡大に傾注している。その際、紙媒体の本もさることながら、電子出版物・教育玩具などに売り場面積を拡充し、新規販路の開拓を試みている。
◆丸善ジュンク堂書店、所沢市に97店舗目出店へ
9月24日、「ジュンク堂書店エミテラス所沢店」が、埼玉・所沢市の商業施設「エミテラス所沢」(西武線「所沢駅」西口)の3階に新規出店した。97店舗目。売場面積304坪。240坪の本売場では、ファミリー層に向けて児童書や学参書を充実させて約20万冊を揃え、知育玩具を体験できるエリアも設ける。
店内には所沢市在住の漫画家・安彦良和氏のコミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の複製原画を展示するなど、「所沢」という地域を意識した企画を随時展開する。
◆JR貨物の不正が招く出版流通への影響
JR貨物が車輪と車軸のデータ改ざん不正の発表から2週間が経過する。その影響で輸送力は1割減のまま、物流への影響は続いている。国土交通省は全国の鉄道事業者に、車輪・車軸の緊急点検を指示し、影響は広がりかねない。本や雑誌の新刊を心待ちにする読者にも影響が出ている。
札幌市北区の大型書店「コーチャンフォー新川通り店」は、本州からの貨物輸送が滞ったため、発売予定日に雑誌や書籍が並べられなかったという。「物流2024年問題」で長距離ドライバーが不足している現状に、JR貨物の車両点検不正が追い打ちをかけた形で、事態を深刻させている。
とりわけ出版流通にとっては、JR貨物の正確性・迅速性・軽料金などに依存している割合が極めて大きいので、両国駅に集約される JR貨物の、一刻も早い正常化が望まれている。
◆講談社の海外向けマンガサービス「K MANGA」を国内でも
2023年5月、海外向けに公開された英語版のマンガ配信サービス「K MANGA」を、国内の読者からの強い要望を受け、日本国内でも公開することになった。「K MANGA」は、同社のウェブマンガサービス「マガポケ」の海外版で、「ブルーロック」「MFゴースト」などの人気作約500タイトルが配信されている。オンライン英会話サービス「DMM英会話」とコラボしたキャンペーンも実施する。
文化庁が17日に発表した2023年度「国語に関する世論調査」の1項目、<読書に関する調査>(雑誌や漫画を除き電子書籍を含む)で、1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!―そんな結果が明らかとなった。
同様の調査は2008年度から5年ごとだが、過去の調査で「ゼロ冊」が5割を超えたことはなく、前回の2018年度は47.3%だった。コロナ禍前の前回までは面接調査だったため、今回は郵送調査なので単純比較はできないが、憂慮すべき事態であるのは間違いない。
本を読む人は、どのように本を選ぶかを尋ねると、書店に行って手に取りながら選ぶ人は57.9%(前回66.7%)と減っている。その一方、インターネット情報により選ぶ人は33.4%(前回27.9%)と増えている。
読書量は69.1%が「減っている」(前回67.3%)と回答し、その理由はスマホやゲーム機など「情報機器で時間が取られる」と答えた人が43.6%(前回36.5%)で最多となった。これまでの調査では「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」回答が多数だったが、今回は38.9%(同49.4%)に減っている。
◆「朝の読書大賞」が発表される
文字・活字文化振興法の理念にもとづき、読書推進に貢献し、顕著な業績をあげた学校を顕彰するため毎年表彰している。今年の受賞・学校は以下の通り。
●大江学園 福知山市立大江小学校・大江中学校(京都)、
●学校法人開成学園 大宮開成中学校(埼玉)
●愛知県立豊橋高等学校
「朝の読書運動」は、主に学校在学中から読書を大切にしようと、授業の始まる前の10分から15分ほど読書の時間を設け、読む習慣づくりに貢献してきた。1970年代から始まり、1988年の船橋学園女子高校(現:東葉高等学校)の実践を機に、日本全国に広まった。
特に出版社・高文研(当時の代表・梅田正己)が、同校編『朝の読書が奇跡を生んだ』(同社1993年刊)などで協力し、1996年には「朝の読書」運動が第44回菊池寛賞を受賞した。
◆「無書店」自治体27.9%、1書店以下は47.7%
出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、今年8月末時点で15道県24市が「書店ゼロ」となり、北海道芦別市や千葉県白井市、熊本県合志市など市名を公表した。また全国の書店数は前回調査(24年3月時点)より145軒減って7828軒に減少した。
その一方で、大型書店がターミナル駅周辺などに大規模な出店を図り、近郊の青年・児童・主婦層を視野に、新たな読者拡大に傾注している。その際、紙媒体の本もさることながら、電子出版物・教育玩具などに売り場面積を拡充し、新規販路の開拓を試みている。
◆丸善ジュンク堂書店、所沢市に97店舗目出店へ
9月24日、「ジュンク堂書店エミテラス所沢店」が、埼玉・所沢市の商業施設「エミテラス所沢」(西武線「所沢駅」西口)の3階に新規出店した。97店舗目。売場面積304坪。240坪の本売場では、ファミリー層に向けて児童書や学参書を充実させて約20万冊を揃え、知育玩具を体験できるエリアも設ける。
店内には所沢市在住の漫画家・安彦良和氏のコミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の複製原画を展示するなど、「所沢」という地域を意識した企画を随時展開する。
◆JR貨物の不正が招く出版流通への影響
JR貨物が車輪と車軸のデータ改ざん不正の発表から2週間が経過する。その影響で輸送力は1割減のまま、物流への影響は続いている。国土交通省は全国の鉄道事業者に、車輪・車軸の緊急点検を指示し、影響は広がりかねない。本や雑誌の新刊を心待ちにする読者にも影響が出ている。
札幌市北区の大型書店「コーチャンフォー新川通り店」は、本州からの貨物輸送が滞ったため、発売予定日に雑誌や書籍が並べられなかったという。「物流2024年問題」で長距離ドライバーが不足している現状に、JR貨物の車両点検不正が追い打ちをかけた形で、事態を深刻させている。
とりわけ出版流通にとっては、JR貨物の正確性・迅速性・軽料金などに依存している割合が極めて大きいので、両国駅に集約される JR貨物の、一刻も早い正常化が望まれている。
◆講談社の海外向けマンガサービス「K MANGA」を国内でも
2023年5月、海外向けに公開された英語版のマンガ配信サービス「K MANGA」を、国内の読者からの強い要望を受け、日本国内でも公開することになった。「K MANGA」は、同社のウェブマンガサービス「マガポケ」の海外版で、「ブルーロック」「MFゴースト」などの人気作約500タイトルが配信されている。オンライン英会話サービス「DMM英会話」とコラボしたキャンペーンも実施する。
2024年09月27日
【おすすめ本】長井 暁『NHKは誰のものか』―なぜ権力に弱いのか 公共放送に巣食う病理を告発=永田 浩三(武蔵大学教授・元NHKプロデューサー)
立てられた問いは、NHKは誰のものか。市民のものと言いたいところだが、そうなってはいない。著者は情報を解読し、内部の事情を分析することで、構造的な病理を明らかにした。
著者自身が体験した事件は23年前。元「慰安婦」問題をとりあげたETV2001が放送直前に改変された。番組の現場は混乱を極め、多くのひとが傷ついた。プロデューサーであったわたしの責任は重い。そんな中、著者はひとりで告発の会見を行った。
二度とあんな事態を繰り返してはならない。著者は、2018年に起きた、かんぽ生命の不正販売を扱った『クローズアップ現代+』の第二弾の延期の真相に迫る。日本郵政の幹部は元の総務省事務次官。放送を監督する官庁のトップだった人間がNHK経営委員長に圧力を加え、経営委員会の場で会長に厳重注意を与えた。放送は先延ばしにされ被害が拡大した。著者は経営委員会の議事録の公開を求める裁判の原告となり、一審で勝訴する。
なぜNHKは権力に弱いのか。ネットでの配信をNHKの本来業務に格上げしたいという悲願。政権の意を受けたフィクサー・葛西敬之JR東海会長らによって送り込まれる財界出身の会長たち。官邸との癒着を競う幹部たちの権力闘争。それらの思惑が入り乱れ、ニュースは権力への監視を放棄し、心ある番組の現場は苦しみ続ける。
追及の矛先は多岐にわたる。そのひとつジャニーズ問題。若い視聴者獲得のための番組『ザ・少年倶楽部』のリハーサル室が、性被害の舞台だった。
著者の公共放送に寄せる大いなる期待と愛。だからこそ批判も鋭い。精緻な裏トリは、かつて歴史研究を志した筆者の真骨頂だ。(地平社2400円)
著者自身が体験した事件は23年前。元「慰安婦」問題をとりあげたETV2001が放送直前に改変された。番組の現場は混乱を極め、多くのひとが傷ついた。プロデューサーであったわたしの責任は重い。そんな中、著者はひとりで告発の会見を行った。
二度とあんな事態を繰り返してはならない。著者は、2018年に起きた、かんぽ生命の不正販売を扱った『クローズアップ現代+』の第二弾の延期の真相に迫る。日本郵政の幹部は元の総務省事務次官。放送を監督する官庁のトップだった人間がNHK経営委員長に圧力を加え、経営委員会の場で会長に厳重注意を与えた。放送は先延ばしにされ被害が拡大した。著者は経営委員会の議事録の公開を求める裁判の原告となり、一審で勝訴する。
なぜNHKは権力に弱いのか。ネットでの配信をNHKの本来業務に格上げしたいという悲願。政権の意を受けたフィクサー・葛西敬之JR東海会長らによって送り込まれる財界出身の会長たち。官邸との癒着を競う幹部たちの権力闘争。それらの思惑が入り乱れ、ニュースは権力への監視を放棄し、心ある番組の現場は苦しみ続ける。
追及の矛先は多岐にわたる。そのひとつジャニーズ問題。若い視聴者獲得のための番組『ザ・少年倶楽部』のリハーサル室が、性被害の舞台だった。
著者の公共放送に寄せる大いなる期待と愛。だからこそ批判も鋭い。精緻な裏トリは、かつて歴史研究を志した筆者の真骨頂だ。(地平社2400円)
2024年09月26日
【イベント】2024年度JCJ賞受賞昨品と贈賞式の案内 10月5日(土)13:00から日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール=JCJ事務局
【JCJ大賞】
◆しんぶん赤旗日曜版における「自民党派閥パーティー資金の<政治資金報告書不記載>報道と、引き続く政治資金および裏金問題に関する一連のキャンペーン」
【JCJ賞】(順不同)
◆上丸洋一『南京事件と新聞報道─記者たちは何を書き、何を書かなかったか』 朝日新聞出版
◆後藤秀典『東京電力の変節─最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』 旬報社
◆NHKスペシャル「冤罪≠フ深層─警視庁公安部で何が」「続・冤罪≠フ深層─警視庁公安部・深まる闇」 NHK総合テレビ
◆SBCスペシャル「78年目の和解─サンダカン死の行進・遺族の軌跡」 SBC信越放送
■贈賞式
※開催日時:10月5日(土) 開場:12:30 式典:13:00〜
※会場:千代田区立日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール(〒100 0012東京都千代田区日比谷公園1–4)
※交通:地下鉄「霞が関」駅 B2出口から徒歩3分、日比谷公園内。
■贈賞式記念講演(オンライン講演)
上脇博之(神戸学院大学大学院教授)<政治とカネ─自民党裏金問題をどのようにして暴いたのか>
■JCJ賞受賞者のスピーチ
■参加申し込み
※現地会場への参加者は、会場費1000円。メール jcj_online@jcj.gr.jp で予約し、会場受付でお支払い下さい。
※オンライン参加の申し込みは https://jcjaward2024.peatix.com にて、参加費800円
2024年09月25日
【79年原爆忌】ドキュメント8・6ヒロシマ=JCJ広島支部取材班
撮影:田中 伸武
8・6広島の慰霊と平和祈念式は、例年通り公園の南半分中央部の原爆死没者慰霊碑前が会場だった。だが、今年は慰霊式典の前後4時間にわたって、平和公園全域で入園規制が敷かれ、なぜか鉄柵で封鎖された入り口もあって、「園内に入ることさえままならなかった」と訴える人たちもいた。手荷物検査実施ゲート=写真=が設けられた6カ所の公園入口には「再入園」の6時半検査開始を待つ長い列が周辺にでき、思いがけない「公園封鎖」の実態に直面して戸惑う被爆者と付き添いの家族連れや、式典の朝の公園の空気に触れようと内外から訪れた人たちの姿があった。
市民に戸惑いと混乱
広島市北部の家から息子夫婦と一緒に公園を訪れた91歳の女性被爆者は、市が設けた「専用」出入り口と通路で原爆慰霊碑参拝をすませた後、息子に「毎年手を合わせる供養塔に行きたい」とせがんだ。
だが、園内は「専用通路」を外れて自由に歩くことはできないうえ、時間も朝5時半になっていた。市職員には「6時半まで待てば、手荷物検査を受けて再入園し、供養塔にも行けますよ」と言われたが、「1時間も先では…」とあきらめた。
入園規制の余波は式典会場、それも市が「先着順」「定員に達した時点で入場不可」とする被爆者・遺族席(約1600席)でも起きていたことを地元紙中国新聞が式典翌々日の8日付紙面で報じた。記事は「参列席の一角に空席」の見出しで「原爆慰霊碑前に用意した約7千席のうち、西側の被爆者・遺族席が少なくとも約500席空いていた」「一方で着席できずに立ち見する人も」いたと記し、「以前は会場に自由に入れたのに随分変わった」と嘆く、埼玉から5年ぶりの参列に来た祖父と叔父が被爆者という76歳男性の声を伝えた。
「入園規制に問題」とは書いていないが、読者は気付いたに違いない。
撮影:沢田 正
場所奪われたダイイン
一方、新たに規制対象となった公園北東端の原爆ドーム周辺広場には、規制に反対するデモ隊が前夜から座り込み、警官・市職員と対峙した。
未明から集会が始まり、「岸田首相・米・イスラエル参加の『戦争式典』を許さない」の連呼や演説が始まってにらみ合いに。
午前5時、市職員が「滞留は市公園条例違反」と退去を呼びかけ。交代した警官も「無届集会は県公安条例違反」「公園管理業務への威力業務妨害だ」と警告を繰り返すなどし、「攻防」は、式典の原爆投下時刻8時15分の黙とうが終了し、デモ隊が行進に出発するまで続いた=写真=。
だが、このあおりを受け1981年から40年以上も原爆ドーム前広場で原爆投下時刻に「ダイイン」をしてきた市民たちは場所を奪われた。メンバーはやむを得ず、電車通りを挟んで原爆ドームの反対側にある遊歩道に場所を移し、戦争反対と平和の実現を誓って地に横たわるダイインを約50人で敢行して「反戦平和」を訴えた。また、日本山妙法寺の僧侶約30人も、同じように場所を移し、うちわ太鼓をたたいて読経しながら「核兵器のない世界の実現」を祈った。
規制の目的何のため
今回、原爆ドーム周辺の「攻防」で、市と警察は退去命令の法的根拠として市公園条例と県公安条例違反、威力業務妨害罪の3つを挙げた。しかし5月7日の全面的な入園規制の発表以来、市の市民活動推進課は一貫して「法的根拠はない」「市民の方々へのお願いにすぎない」と問い合わせに繰り返してきた。
行政法が専門の田村和之広島大学名誉教授は「公園全域を式典会場と『みなす』という、ありえないことを前提にして打ち出した規制はどこから見ても使用実態がない。このような規制こそ、都市公園法・市公園条例違反だ。フェイク(嘘)まで弄して公園の自由利用を制限しようとした目的は何なのかが問題だ」と指摘する。
「法的根拠もなく市民にお願いしているだけ」の広島平和記念公園8・6全面規制が、来年はどうなるのか。ヒロシマを取り巻く世界の状況と日本政府の動向を見たとき、規制強化は必至だ。私たちは今年「ヒロシマとナガサキで何が起きたのか」を9月の「不戦の集い」で取り上げ、広島、長崎両被爆地を結ぶ大きな議論を深めることで、この流れに抗う市民の輪を全国に呼びかけたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
8・6広島の慰霊と平和祈念式は、例年通り公園の南半分中央部の原爆死没者慰霊碑前が会場だった。だが、今年は慰霊式典の前後4時間にわたって、平和公園全域で入園規制が敷かれ、なぜか鉄柵で封鎖された入り口もあって、「園内に入ることさえままならなかった」と訴える人たちもいた。手荷物検査実施ゲート=写真=が設けられた6カ所の公園入口には「再入園」の6時半検査開始を待つ長い列が周辺にでき、思いがけない「公園封鎖」の実態に直面して戸惑う被爆者と付き添いの家族連れや、式典の朝の公園の空気に触れようと内外から訪れた人たちの姿があった。
市民に戸惑いと混乱
広島市北部の家から息子夫婦と一緒に公園を訪れた91歳の女性被爆者は、市が設けた「専用」出入り口と通路で原爆慰霊碑参拝をすませた後、息子に「毎年手を合わせる供養塔に行きたい」とせがんだ。
だが、園内は「専用通路」を外れて自由に歩くことはできないうえ、時間も朝5時半になっていた。市職員には「6時半まで待てば、手荷物検査を受けて再入園し、供養塔にも行けますよ」と言われたが、「1時間も先では…」とあきらめた。
入園規制の余波は式典会場、それも市が「先着順」「定員に達した時点で入場不可」とする被爆者・遺族席(約1600席)でも起きていたことを地元紙中国新聞が式典翌々日の8日付紙面で報じた。記事は「参列席の一角に空席」の見出しで「原爆慰霊碑前に用意した約7千席のうち、西側の被爆者・遺族席が少なくとも約500席空いていた」「一方で着席できずに立ち見する人も」いたと記し、「以前は会場に自由に入れたのに随分変わった」と嘆く、埼玉から5年ぶりの参列に来た祖父と叔父が被爆者という76歳男性の声を伝えた。
「入園規制に問題」とは書いていないが、読者は気付いたに違いない。
撮影:沢田 正
場所奪われたダイイン
一方、新たに規制対象となった公園北東端の原爆ドーム周辺広場には、規制に反対するデモ隊が前夜から座り込み、警官・市職員と対峙した。
未明から集会が始まり、「岸田首相・米・イスラエル参加の『戦争式典』を許さない」の連呼や演説が始まってにらみ合いに。
午前5時、市職員が「滞留は市公園条例違反」と退去を呼びかけ。交代した警官も「無届集会は県公安条例違反」「公園管理業務への威力業務妨害だ」と警告を繰り返すなどし、「攻防」は、式典の原爆投下時刻8時15分の黙とうが終了し、デモ隊が行進に出発するまで続いた=写真=。
だが、このあおりを受け1981年から40年以上も原爆ドーム前広場で原爆投下時刻に「ダイイン」をしてきた市民たちは場所を奪われた。メンバーはやむを得ず、電車通りを挟んで原爆ドームの反対側にある遊歩道に場所を移し、戦争反対と平和の実現を誓って地に横たわるダイインを約50人で敢行して「反戦平和」を訴えた。また、日本山妙法寺の僧侶約30人も、同じように場所を移し、うちわ太鼓をたたいて読経しながら「核兵器のない世界の実現」を祈った。
規制の目的何のため
今回、原爆ドーム周辺の「攻防」で、市と警察は退去命令の法的根拠として市公園条例と県公安条例違反、威力業務妨害罪の3つを挙げた。しかし5月7日の全面的な入園規制の発表以来、市の市民活動推進課は一貫して「法的根拠はない」「市民の方々へのお願いにすぎない」と問い合わせに繰り返してきた。
行政法が専門の田村和之広島大学名誉教授は「公園全域を式典会場と『みなす』という、ありえないことを前提にして打ち出した規制はどこから見ても使用実態がない。このような規制こそ、都市公園法・市公園条例違反だ。フェイク(嘘)まで弄して公園の自由利用を制限しようとした目的は何なのかが問題だ」と指摘する。
「法的根拠もなく市民にお願いしているだけ」の広島平和記念公園8・6全面規制が、来年はどうなるのか。ヒロシマを取り巻く世界の状況と日本政府の動向を見たとき、規制強化は必至だ。私たちは今年「ヒロシマとナガサキで何が起きたのか」を9月の「不戦の集い」で取り上げ、広島、長崎両被爆地を結ぶ大きな議論を深めることで、この流れに抗う市民の輪を全国に呼びかけたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月24日
【79年目原爆忌】被爆地広島を変える動き=難波健治
8月6日、79回目の原爆の日を迎えた広島の平和記念式典は、平和記念公園の入園規制を市が打ち出し、異様な雰囲気のもとで営まれた。
式典に大きな混乱はなかったが、公園全域への入園規制で、園内各所にある原爆犠牲者碑への平和を求める市民の参拝や自由な行動は阻まれ、会場内の式典参列用の被爆者・遺族席では、規制で移動を妨げられた結果、500席を超える空席ができるなど、信じがたい光景が生じた。
このところ、被爆地広島では、「広島をヒロシマでなくす」動きが続く。今年の8・6で露わになった「平和公園の変貌」は、「これ以上、被爆者をつくるな」「そのためにも世界から核兵器をなくせ」――そんな被爆地の願いをねじまげ、核兵器の「役割」を認める広島に変質させる動きだ。
その震源地はどこにあるのか。8・6前後の岸田政権の動きから見えてくるものがある。
被爆の日を控えた7月28日、日米両政府は東京都内で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開いた。
この席で米側は、在日米軍を再編し、基地の管理権しか持たない横田基地の在日米軍司令部に在日米軍の作戦指揮権を与え「統合軍司令部」を新設すると表明。日本側は、陸海空3自衛隊を一元指揮する「統合作戦司令部」を24年度末までに立ち上げると応じた。
まさに、日米が「一つの軍」となり「敵基地攻撃」態勢構築に乗り出すとの宣言だ。この日は日本側の求めで、米国の「核の傘」を日本の防衛に適用する「拡大抑止」具体化への日米閣僚初会合も開かれた。
6日の平和記念式典のあいさつで、岸田文雄首相は4回も、「核兵器のない世界の実現」を繰り返した。そのために「国際社会を主導していく」と断言した。だが、核兵器廃絶を訴える日本が、核兵器使用が前提の「拡大抑止」を求めるのは、事実上の「核保有国」宣言に他ならない。
「米国の差し出す『核の傘』をありがたがっていて、核廃絶の議論を主導できるのか」「被爆者7団体が連名で首相に提出した要望書は怒りに満ちていた」と、式典翌日の7日付社説で中国新聞は指摘した。一方、岸田首相は同日、自民党憲法改正実現本部の全体会合でこう述べた。
「憲政史上初の国民投票にかけるなら、緊急事態条項と合わせ、自衛隊の明記も含めて国民の判断をいただくことが必要と考えている」「8月末を目指して議論を加速させていただきたい」
8・6をはさんだこの動きの中に、日本政府の本音がはっきり表れている。自らの体験をもとに核兵器廃絶を求め続ける「被爆地を変えてしまいたい」のは彼らなのだ。
昨年5月に開かれたG7広島サミットをきっかけに突然、真珠湾と広島平和記念公園との「姉妹公園協定」が結ばれたのも、この流れと符合する。いよいよ来るところまで来たな、と思う。
「NO NUKES」「NO WAR」を叫ぶヒロシマを、原爆を投下した米国とは仲良くする広島に変えてしまいたいのだ。
「核兵器のない世界」をいつまで言い続けても構わない。しかし、日米が進める「戦争準備」に真っ向から反対する広島は許さない。そんな日米両政府の姿を直視することなしに、被爆都市広島の今後のありようを考えることはできないのではなかろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
式典に大きな混乱はなかったが、公園全域への入園規制で、園内各所にある原爆犠牲者碑への平和を求める市民の参拝や自由な行動は阻まれ、会場内の式典参列用の被爆者・遺族席では、規制で移動を妨げられた結果、500席を超える空席ができるなど、信じがたい光景が生じた。
このところ、被爆地広島では、「広島をヒロシマでなくす」動きが続く。今年の8・6で露わになった「平和公園の変貌」は、「これ以上、被爆者をつくるな」「そのためにも世界から核兵器をなくせ」――そんな被爆地の願いをねじまげ、核兵器の「役割」を認める広島に変質させる動きだ。
その震源地はどこにあるのか。8・6前後の岸田政権の動きから見えてくるものがある。
被爆の日を控えた7月28日、日米両政府は東京都内で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開いた。
この席で米側は、在日米軍を再編し、基地の管理権しか持たない横田基地の在日米軍司令部に在日米軍の作戦指揮権を与え「統合軍司令部」を新設すると表明。日本側は、陸海空3自衛隊を一元指揮する「統合作戦司令部」を24年度末までに立ち上げると応じた。
まさに、日米が「一つの軍」となり「敵基地攻撃」態勢構築に乗り出すとの宣言だ。この日は日本側の求めで、米国の「核の傘」を日本の防衛に適用する「拡大抑止」具体化への日米閣僚初会合も開かれた。
6日の平和記念式典のあいさつで、岸田文雄首相は4回も、「核兵器のない世界の実現」を繰り返した。そのために「国際社会を主導していく」と断言した。だが、核兵器廃絶を訴える日本が、核兵器使用が前提の「拡大抑止」を求めるのは、事実上の「核保有国」宣言に他ならない。
「米国の差し出す『核の傘』をありがたがっていて、核廃絶の議論を主導できるのか」「被爆者7団体が連名で首相に提出した要望書は怒りに満ちていた」と、式典翌日の7日付社説で中国新聞は指摘した。一方、岸田首相は同日、自民党憲法改正実現本部の全体会合でこう述べた。
「憲政史上初の国民投票にかけるなら、緊急事態条項と合わせ、自衛隊の明記も含めて国民の判断をいただくことが必要と考えている」「8月末を目指して議論を加速させていただきたい」
8・6をはさんだこの動きの中に、日本政府の本音がはっきり表れている。自らの体験をもとに核兵器廃絶を求め続ける「被爆地を変えてしまいたい」のは彼らなのだ。
昨年5月に開かれたG7広島サミットをきっかけに突然、真珠湾と広島平和記念公園との「姉妹公園協定」が結ばれたのも、この流れと符合する。いよいよ来るところまで来たな、と思う。
「NO NUKES」「NO WAR」を叫ぶヒロシマを、原爆を投下した米国とは仲良くする広島に変えてしまいたいのだ。
「核兵器のない世界」をいつまで言い続けても構わない。しかし、日米が進める「戦争準備」に真っ向から反対する広島は許さない。そんな日米両政府の姿を直視することなしに、被爆都市広島の今後のありようを考えることはできないのではなかろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月23日
【支部リポート】北九州 岐路に立つエイズ対策 国際AIDS会議を取材=久田ゆかり、杉山正隆
「人を第一に考えよう」(Put people first!)をテーマに、第25回「国際エイズ会議」(AIDS2024)が7月22日から26日まで南ドイツ最大都市、ミュンヘンで開かれ世界100か国以上から約2万人が参加した=写真=。北九州支部は感染症対策にも力を入れており現地で取材。国連首脳がエイズ対策は「岐路に立っている」と対策強化を呼びかけ、開催国ドイツのショルツ首相も「2030年までにエイズの流行を終わらせるという目標に向けて協力しよう」と国際社会にさらなる取り組みを訴えた。
市民が自由に参加し感染者らと交流する「グローバル・ビレッジ」では子どもたち・学生らの姿も。問題解決のための「鍵」と位置付けられる性的少数者LGBTIQ+らへの支援の輪が広がったほか、特許により高騰している薬剤問題などでデモや抗議活動が繰り広げられた。
子どもたちへの支援が不十分で今後も危機的状況が続くとの発表が相次いだ。国連エイズ計画(UNAIDs)のビヤニマ事務局長兼国連事務次長は、エイズ終結を確実なものにするため十分な予算を確保するとともに、差別や偏見に満ちた有害な法律を改廃し「正義のために立ち上がる」よう、指導者たちに呼びかけた。
UNAIDs(国連エイズ計画)は年次報告書「Global AIDS UPDATE 2024」を発表。タイトルは「The Urgency of Now: AIDS at a Crossroads(今まさに緊急事態:岐路に立つエイズ)」。各国が国連の場などで正式に約束した「2030年までにエイズを終結に導く」ことは可能だとしたうえで、「HIV対策に必要な資金を確保し、全ての人の人権が守られることを保障できた場合に限られる」と釘を刺した。
会議はA基礎科学、B臨床科学、C疫学と予防科学、D社会科学と行動科学、E実装科学・経済・システムと相乗効果、F政治科学・法律・倫理・政策と人権が柱。演題数は2500を超えた。
ジャーナリストも数百人が取材し、7例目となったエイズの完治症例や6カ月に1度服薬すれば予防ができる画期的な薬剤について等、大きく報道された。日本人記者の姿は見られず、日本での報道はごく一部に限られた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月22日
【出版トピックス】出版社の倒産・廃業が増加、「月刊コロコロコミック」好調=出版部会
◆過去最大─6割が「業績悪化」
帝国データバンクが「出版業界」の動向について調査・分析を行い、2024年1月から8月末までの状況を公表した。その特徴として、@人気雑誌も「休刊ラッシュ」の苦境 出版社の3割超が「赤字」 A過去20年で最大、出版不況で低迷脱せず 倒産・廃業も増加傾向続く─とまとめている。その詳細な報告を紹介する。
2024年は有名雑誌の休刊・廃刊が相次いだ。月刊芸能誌『ポポロ』をはじめ、女性ファッション誌『JELLY』やアニメ声優誌『声優アニメディア』などが休刊を発表。日本の伝統文化や芸能関係の話題を世界に紹介する国内唯一の英文月刊誌『Eye-Ai』を発刊していたリバーフィールド社は、今年4月に破産となった。
購読者の高齢化に加え、若者層では電子書籍の普及やネット専業メディアが台頭し、紙の雑誌・書籍の売り上げは1996年をピークに減少が続いている。
また「再販制度」で出版物の約4割が売れ残りとして返品されるなど、出版社では在庫負担が重い。加えて物価高の影響で紙代やインク代など印刷コスト、さらには物流コストも上昇が著しく、ますます収益が悪化する悪循環に陥っている。
2024年1−8月に発生した出版社の倒産(負債1000万円以上、法的整理)と廃業も、4年ぶりに前年から増加した2023年(65件)と同等のペースで発生し、2024年通年では過去5年間で最多となる可能性がある。
そのため大手書店は返本を減らす取り組みを進めている。出版社関係では特色あるテーマの発掘や編集スタイルの工夫で、部数を伸ばす雑誌や書籍に成功しているケースもある。しかしヒット本や雑誌の発刊は容易でなく、出版コストの増加で経営体力が疲弊した中小出版社では雑誌の休廃刊、さらに倒産や廃業といった淘汰が進むとみられる。
( https://www.tab.co.jp/report/watching/press/p240903.html )
◆「月刊コロコロコミック」が大健闘する理由
雑誌休刊が続き、漫画誌も苦戦が広がるなか、「月刊コロコロコミック」(小学館)が大健闘している。その理由は何か。漫画やアニメの情報を常にウォッチし続けるフリーライターの元城健さんが分析している。その秘密は「少年たちを虜にさせるブレない編集方針が奏功しているのではないか」と指摘している。詳細を以下に紹介する。
日本雑誌協会が8月7日に公表した2024年4月〜6月の3ヶ月ごとの平均印刷部数によれば、「週刊少年ジャンプ」の発行部数は109万3333部となっている。これは最盛期の653万部の、約6分の1という数字だ。国内向けの雑誌はどこも苦境である。「週刊少年マガジン」(講談社)は32万3250部、「週刊少年サンデー」(小学館)は13万8750部でしかない。
その一方で、小学生の男子を対象にした「月刊コロコロコミック」は32万3467部である。このご時世ではかなり堅調な数字といえ、しかもわずかながら「週刊少年マガジン」を上回っているのだ。これは、少子化が進んでいる昨今において、驚くべき数字と言っていいだろう。
いったいなぜ、「コロコロコミック」が受けているのか。大手出版社の漫画編集者は同誌の「ブレない誌面作り」を評価し、こう語る。
「『コロコロコミック』は一貫して、小学生の男子向けの雑誌を丁寧に作っている。小学生の男子が求めるものをとことん盛り込んだ漫画が多いんですよ。具体的に言えば、下ネタを使ったギャグがその筆頭です。大人が眉を顰め、お母さんに怒られそうな下品なギャグ。これこそが、小学生男子が普遍的に求めるものなんですよ」
この編集者は、ひと昔前であれば「コロコロコミック」を卒業して「週刊少年ジャンプ」を読んだであろう小学生男子が、今はそのまま「コロコロコミック」にとどまり、読み続けているケースも少なくないのではないかと分析する。その理由に、「週刊少年ジャンプ」に掲載される漫画の内容、特に絵柄を挙げている。
「ここ20年くらいで、『週刊少年ジャンプ』に載る漫画は明らかにきれいで、画力の高い漫画家の作品が多くなった。その一方で、下ネタを扱い、荒い絵柄の漫画が消えていきました。現在、『ジャンプ』は女性読者も多いと聞きます。絵がきれいになると女性には受けますし、メディアミックスもしやすく、外国人に人気の高い漫画は生まれるでしょう。しかし、肝心の“少年”たちの支持がどこまで広がっているのかが気になります」
ギャグ漫画は海外で受けにくいといわれる。ましてや下品なギャグとなると、アニメ化などのメディアミックスも難しいだろう。しかし、そういった漫画やネタこそが、小学生男子が普遍的に求めているものなのではないか。そして、子どもたちの漫画の入口として重要な存在だったはずである。一貫してそういったニーズに応え続け、もはや孤高の存在になりつつある「コロコロコミック」が少子化のなかでも堅調な要因は、そこにあるのかもしれない。
( https://realsound.jp/book/2024/09/post-1780259.html Real Sound リアルサウンド ブック2024年9月14日)
帝国データバンクが「出版業界」の動向について調査・分析を行い、2024年1月から8月末までの状況を公表した。その特徴として、@人気雑誌も「休刊ラッシュ」の苦境 出版社の3割超が「赤字」 A過去20年で最大、出版不況で低迷脱せず 倒産・廃業も増加傾向続く─とまとめている。その詳細な報告を紹介する。
※
全国で書店の減少に歯止めがかからないなか、雑誌や書籍の出版社でも厳しい経営環境が鮮明となっている。2023年度における出版社の業績は「赤字」が36.2%を占め、過去20年で最大となったほか、減益を含めた「業績悪化」の出版社は6割を超えた。出版不況の中で、多くの出版社が苦境に立たされている。2024年は有名雑誌の休刊・廃刊が相次いだ。月刊芸能誌『ポポロ』をはじめ、女性ファッション誌『JELLY』やアニメ声優誌『声優アニメディア』などが休刊を発表。日本の伝統文化や芸能関係の話題を世界に紹介する国内唯一の英文月刊誌『Eye-Ai』を発刊していたリバーフィールド社は、今年4月に破産となった。
購読者の高齢化に加え、若者層では電子書籍の普及やネット専業メディアが台頭し、紙の雑誌・書籍の売り上げは1996年をピークに減少が続いている。
また「再販制度」で出版物の約4割が売れ残りとして返品されるなど、出版社では在庫負担が重い。加えて物価高の影響で紙代やインク代など印刷コスト、さらには物流コストも上昇が著しく、ますます収益が悪化する悪循環に陥っている。
2024年1−8月に発生した出版社の倒産(負債1000万円以上、法的整理)と廃業も、4年ぶりに前年から増加した2023年(65件)と同等のペースで発生し、2024年通年では過去5年間で最多となる可能性がある。
そのため大手書店は返本を減らす取り組みを進めている。出版社関係では特色あるテーマの発掘や編集スタイルの工夫で、部数を伸ばす雑誌や書籍に成功しているケースもある。しかしヒット本や雑誌の発刊は容易でなく、出版コストの増加で経営体力が疲弊した中小出版社では雑誌の休廃刊、さらに倒産や廃業といった淘汰が進むとみられる。
( https://www.tab.co.jp/report/watching/press/p240903.html )
◆「月刊コロコロコミック」が大健闘する理由
雑誌休刊が続き、漫画誌も苦戦が広がるなか、「月刊コロコロコミック」(小学館)が大健闘している。その理由は何か。漫画やアニメの情報を常にウォッチし続けるフリーライターの元城健さんが分析している。その秘密は「少年たちを虜にさせるブレない編集方針が奏功しているのではないか」と指摘している。詳細を以下に紹介する。
※
世界的なファンの広がりを受け、日本の漫画やアニメなどのコンテンツ市場は好調である。その一方で、雑誌の発行部数は減少が続く。なかでも、最近になって往年のベテラン漫画家も衝撃を受けているのが、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の発行部数の落ち込みである。日本雑誌協会が8月7日に公表した2024年4月〜6月の3ヶ月ごとの平均印刷部数によれば、「週刊少年ジャンプ」の発行部数は109万3333部となっている。これは最盛期の653万部の、約6分の1という数字だ。国内向けの雑誌はどこも苦境である。「週刊少年マガジン」(講談社)は32万3250部、「週刊少年サンデー」(小学館)は13万8750部でしかない。
その一方で、小学生の男子を対象にした「月刊コロコロコミック」は32万3467部である。このご時世ではかなり堅調な数字といえ、しかもわずかながら「週刊少年マガジン」を上回っているのだ。これは、少子化が進んでいる昨今において、驚くべき数字と言っていいだろう。
いったいなぜ、「コロコロコミック」が受けているのか。大手出版社の漫画編集者は同誌の「ブレない誌面作り」を評価し、こう語る。
「『コロコロコミック』は一貫して、小学生の男子向けの雑誌を丁寧に作っている。小学生の男子が求めるものをとことん盛り込んだ漫画が多いんですよ。具体的に言えば、下ネタを使ったギャグがその筆頭です。大人が眉を顰め、お母さんに怒られそうな下品なギャグ。これこそが、小学生男子が普遍的に求めるものなんですよ」
この編集者は、ひと昔前であれば「コロコロコミック」を卒業して「週刊少年ジャンプ」を読んだであろう小学生男子が、今はそのまま「コロコロコミック」にとどまり、読み続けているケースも少なくないのではないかと分析する。その理由に、「週刊少年ジャンプ」に掲載される漫画の内容、特に絵柄を挙げている。
「ここ20年くらいで、『週刊少年ジャンプ』に載る漫画は明らかにきれいで、画力の高い漫画家の作品が多くなった。その一方で、下ネタを扱い、荒い絵柄の漫画が消えていきました。現在、『ジャンプ』は女性読者も多いと聞きます。絵がきれいになると女性には受けますし、メディアミックスもしやすく、外国人に人気の高い漫画は生まれるでしょう。しかし、肝心の“少年”たちの支持がどこまで広がっているのかが気になります」
ギャグ漫画は海外で受けにくいといわれる。ましてや下品なギャグとなると、アニメ化などのメディアミックスも難しいだろう。しかし、そういった漫画やネタこそが、小学生男子が普遍的に求めているものなのではないか。そして、子どもたちの漫画の入口として重要な存在だったはずである。一貫してそういったニーズに応え続け、もはや孤高の存在になりつつある「コロコロコミック」が少子化のなかでも堅調な要因は、そこにあるのかもしれない。
( https://realsound.jp/book/2024/09/post-1780259.html Real Sound リアルサウンド ブック2024年9月14日)
2024年09月21日
【おすすめ本】原田和明『ベトナム戦争 枯葉剤の謎 日米同盟が残した環境汚染の真実』─ベトナム戦争で使われた日本製枯葉剤の‶罪と罰=£村梧郎(JCJ代表委員)
枯葉剤問題はベトナムに限らない。日本にこそ隠された汚染がある。本書の主題は、そこに置かれている。見事なのは膨大な文献と新聞情報を掘り起こして実証している 点だ。
動機は1968年の国会質問、社会党の楢崎弥之助による「枯葉剤が日本で作られ、ベトナム戦争に使われている」という指摘にあった。
枯葉剤の2,4,5-T(ダイオキシン混入)を生産していた三井東圧大牟田は「輸出先はニュージーランドとオーストラリアで、ベトナムには出していない」と抗弁した。 調査すると労働者への人体実験の話さえも出る。
ベトナムでの枯葉作戦は、ダウ・ケミカルやモンサントなど米・化学企業の増産で支えられていた。だが現地からは、もっと送れと要求される。米国は、調達を三井東圧ほか、独ベーリンガーなど海外企業に依存する。
しかし発覚すれば「戦争加担だ」との世論が当事国で起きかねない。そこで迂回してベトナムに届く「ころがし」が行われた。ニュージーランドにあるダウ・ケミカルの子会社は、アフリカやメキシコ、フィリピンに転送、そこからベトナムの戦場へと届けられた。日本は、この「ころがし」に加わり、秘かに枯葉作戦に参加していたのだ。ナパーム弾輸出もベトナム特需の一つだった。いま政権が進める武器輸出の先がけである。
問題はそれに留まらない。日本の国有林でも使われていた2,4,5-T 剤が林野庁の指示で現場にずさんな形で埋められたのである。それが50年余の歳月を経た今日、漏れ出して水源を汚染し始めている。無害化の手も打たれていない。本書は日本の政治の危うさを抉り出すものとなっている。(飛鳥出版2000円)
動機は1968年の国会質問、社会党の楢崎弥之助による「枯葉剤が日本で作られ、ベトナム戦争に使われている」という指摘にあった。
枯葉剤の2,4,5-T(ダイオキシン混入)を生産していた三井東圧大牟田は「輸出先はニュージーランドとオーストラリアで、ベトナムには出していない」と抗弁した。 調査すると労働者への人体実験の話さえも出る。
ベトナムでの枯葉作戦は、ダウ・ケミカルやモンサントなど米・化学企業の増産で支えられていた。だが現地からは、もっと送れと要求される。米国は、調達を三井東圧ほか、独ベーリンガーなど海外企業に依存する。
しかし発覚すれば「戦争加担だ」との世論が当事国で起きかねない。そこで迂回してベトナムに届く「ころがし」が行われた。ニュージーランドにあるダウ・ケミカルの子会社は、アフリカやメキシコ、フィリピンに転送、そこからベトナムの戦場へと届けられた。日本は、この「ころがし」に加わり、秘かに枯葉作戦に参加していたのだ。ナパーム弾輸出もベトナム特需の一つだった。いま政権が進める武器輸出の先がけである。
問題はそれに留まらない。日本の国有林でも使われていた2,4,5-T 剤が林野庁の指示で現場にずさんな形で埋められたのである。それが50年余の歳月を経た今日、漏れ出して水源を汚染し始めている。無害化の手も打たれていない。本書は日本の政治の危うさを抉り出すものとなっている。(飛鳥出版2000円)
2024年09月20日
2024年09月19日
【79年目原爆忌】長崎 祈念式典に政治的圧力=関口達夫(元長崎放送記者)
8月9日の長崎市平和祈念式典は、原爆死没者を追悼する厳粛な儀式である。その式典に今年、欧米主要国が政治的圧力をかけ、被爆者らの反発を招く異例の事態となった。
長崎市がガザへの攻撃を続けるイスラエルを式典に招待しなかったことに日本を除くG7のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダとEU(欧州連合)が納得せず、駐日大使を式典に出席させなかったのだ。
ガザでは子どもや老人など約4万人が殺害されており、世界各地でイスラエルに対する抗議行動が続いている。この状況を踏まえ長崎市は、式典に対する抗議行動など不測の事態が懸念されるとしてロシア、ベラルーシに加え、イスラエルを招待しなかった。その一方でパレスチナは招待した。
欧米の主要国はこれに対して、長崎市に書簡を送り、「イスラエルのガザ攻撃は自衛権に基づくもの」で招待しないとロシア、ベラルーシと同列に扱うことになり、「誤解を招く」と牽制。式典当日には駐日大使を欠席させ、代わりに格下の領事などを出席させた。
鈴木史朗市長=写真=は、「イスラエルを招待しなかったのは政治的な理由ではない。式典を平穏に実施するためだ」と強調した。
長崎市の対応について被爆者団体代表田中重光さんは、「イスラエルのガザ攻撃は、自衛権の範囲を超え、虐殺だ。招待しなかったのは正しい判断」と評価した。別の被爆者団体代表川野浩一さんは、「アメリカなどが、原爆犠牲者を弔うという式典に政治的圧力をかけたのは許せない」と憤った。
広島市は、8月6日の平和記念式典にロシアとベラルーシ、パレスチナを招待しなかった一方、イスラエルは招待しており、長崎市と対応が分かれた。
結果だけ見ると長崎市は、欧米主要国の圧力に屈しなかったように写る。しかし、鈴木市長は、元国交省官僚で「平和宣言」では日本政府やアメリカに忖度した形跡がある。
長崎の「平和宣言」は、学識経験者や被爆者団体代表などで作る平和宣言起草委員会の意見をもとに作成される。
当初の宣言案では「核保有国ロシアと核保有疑惑国イスラエルによる大きな戦闘が進行している」と書かれていたが、最終の平和宣言では「中東での武力紛争」と変更された。
これについて起草委員会では「人間の痛みを知る被爆地は、イスラエルによる人権侵害を看過できない」として、イスラエル削除に批判的な意見が出された。
鈴木市長が、イスラエルを招待しなかったのはこうした市民の意見を無視できなかったためではないか。
だとすれば市民意識と発言が市長の判断に影響を与え、欧米主要国の圧力を跳ね返したことになる。
今回の問題は、国際政治と国内政治の影響を受ける被爆地の平和行政を市民が監視し、是正させる重要性を示したと感じている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月18日
【オピニオン】「核の傘」強化 日本が確認=丸山 重威
日米両政府は7月28日、東京で上川外相・ブリンケン国務長官、木原防衛相・オースティン国防長官による担当閣僚会議(2+2)を開き、自衛隊と米軍の指揮、統制の「連携強化」を確認した。今回は通常の「2+2」(日米安全保障協議委員会)と併せ、「核の傘」を具体化する「拡大抑止閣僚会議」も初めて開催。日本の有事に「核を含む米国の軍事力」で対抗することを確認した、とされる。
岸田内閣が「戦後安保政策の大転換」を打ち出し「専守防衛」から「同盟による拡大抑止」に踏み切り、「非核三原則」も捨てて、「核抑止論」に立った「日米防衛協力指針(ガイドライン)」の具体化に進んだ形だ。戦後79年、改めて、「核抑止論」では平和は守れない。核廃絶を」の声を広げていかなければならない。
核「先制不使用」反対は日本
米国では、2016年、終焉が近づいたオバマ政権が、戦略見直しの討議の中で「核兵器先制不使用宣言」を計画、実施しようとした。ところがこれに反対したのが日本。計画は頓挫した。
東京新聞2021年4月6日付ワシントン金杉電は、当時の国務省の担当官の証言を次のように紹介している。
「同盟国の一部の中でも特に日本が『宣言は同盟国を守る米国の決意について、中国に間違ったサインを送る』と懸念を示したと説明。『このことがオバマ大統領が当時、先制不使用政策の断念を決定した理由だった』と明らかにした。(トーマス・カントリーマン元国務次官補)
報道によると、この意見表明を契機に、日米韓の「拡大抑止協議」が始まったが、閣僚レベルの協議は今回が初めてで、結局、日本政府が米国に抱きつく形で認めさせた「核の傘」政策を、この際、閣僚レベルで再確認。「核廃絶」に傾く世界に「待った」を掛け、「核による平和」キャンペーンにしようとの米国の世界戦略にも沿った政策だ。
朝中露「警戒論」を展開
今回、共同発表では、@北朝鮮による安定を損なう継続的な行動と核・弾道ミサイル計画の追求A中国の加速している透明性を欠いた核戦力の拡大B北朝鮮への軍事協力を含むロシアの軍備管理態勢と国際的な不拡散体制の毀損―をあげ、「同盟の抑止態勢を強化し、軍備管理、リスク低減及び不拡散を通じて、既存の及び新たな戦略的脅威を管理する必要性を再確認した」と、朝中露3国への「警戒論」を展開。日本の非核三原則にも触れず、巧妙に「核抑止論」に誘導している。
岸田内閣は、昨年のサミットでは「核廃絶」ではなく「核抑止論」に立った宣言を主導したが、ことしの慰霊式でも、国連事務総長メッセージや平和宣言が、日本政府の「核廃絶」や「核兵器禁止条約」への行動を促しているのに背を向け、「核兵器保有国と非保有国の仲介をする」と言うだけ。国民的批判は高まっている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
岸田内閣が「戦後安保政策の大転換」を打ち出し「専守防衛」から「同盟による拡大抑止」に踏み切り、「非核三原則」も捨てて、「核抑止論」に立った「日米防衛協力指針(ガイドライン)」の具体化に進んだ形だ。戦後79年、改めて、「核抑止論」では平和は守れない。核廃絶を」の声を広げていかなければならない。
核「先制不使用」反対は日本
米国では、2016年、終焉が近づいたオバマ政権が、戦略見直しの討議の中で「核兵器先制不使用宣言」を計画、実施しようとした。ところがこれに反対したのが日本。計画は頓挫した。
東京新聞2021年4月6日付ワシントン金杉電は、当時の国務省の担当官の証言を次のように紹介している。
「同盟国の一部の中でも特に日本が『宣言は同盟国を守る米国の決意について、中国に間違ったサインを送る』と懸念を示したと説明。『このことがオバマ大統領が当時、先制不使用政策の断念を決定した理由だった』と明らかにした。(トーマス・カントリーマン元国務次官補)
報道によると、この意見表明を契機に、日米韓の「拡大抑止協議」が始まったが、閣僚レベルの協議は今回が初めてで、結局、日本政府が米国に抱きつく形で認めさせた「核の傘」政策を、この際、閣僚レベルで再確認。「核廃絶」に傾く世界に「待った」を掛け、「核による平和」キャンペーンにしようとの米国の世界戦略にも沿った政策だ。
朝中露「警戒論」を展開
今回、共同発表では、@北朝鮮による安定を損なう継続的な行動と核・弾道ミサイル計画の追求A中国の加速している透明性を欠いた核戦力の拡大B北朝鮮への軍事協力を含むロシアの軍備管理態勢と国際的な不拡散体制の毀損―をあげ、「同盟の抑止態勢を強化し、軍備管理、リスク低減及び不拡散を通じて、既存の及び新たな戦略的脅威を管理する必要性を再確認した」と、朝中露3国への「警戒論」を展開。日本の非核三原則にも触れず、巧妙に「核抑止論」に誘導している。
岸田内閣は、昨年のサミットでは「核廃絶」ではなく「核抑止論」に立った宣言を主導したが、ことしの慰霊式でも、国連事務総長メッセージや平和宣言が、日本政府の「核廃絶」や「核兵器禁止条約」への行動を促しているのに背を向け、「核兵器保有国と非保有国の仲介をする」と言うだけ。国民的批判は高まっている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月17日
【おすすめ本】 中島京子『うらはぐさ風土記』―やさしい物語の陰に潜む社会の現実=鈴木 耕(編集者)
懐かしい街をゆったりと歩いているような小説に出会う。寝っ転がって時折ふふふと頬を緩めながら読む。ごく普通の暮らしのようでいて、でもそれぞれに何かを抱えている人たちが、なんとなく知り合う。
長いアメリカ生活から離婚を機に帰国し、母校の女子大で講座を持った沙希が主人公。彼女が暮らすのは伯父の家。伯父は認知症になり施設に入所した。その家がある街が「うらはぐさ」という東京の西の穏やかな街。うらはぐさとは風知草のことで花言葉は未来…。
伯父の友人だった足袋屋の主人とその妻、沙希に懐くちょっと変わった女子大生2人組、大学教師の同僚とゲイのパートナー、沙希が幼いころに通った小学校の校長先生や、そして妙に気になるのが芝居をやっていた頃の仲間の影。
こんな人たちが現れては、沙希との不思議な交流を重ねていく。突然の別れた夫の出現には読者も息をのむが、それも快いエピソードのひとつ。
この著者の作品の素敵なところは、やさしい物語の裏に現代社会が持つ厳しい現実が見え隠れする部分で、この小説にもそれが反映される。沙希が通う静かだが活気のある「あけびの商店街」に道路拡張計画が持ち上がり、商店主たちが立ち退きを迫られ、それに対する抗議の住民運動が起きる。LGBT問題とパートナーシップ制度、さらには空き家問題も絡むのだから、著者の社会を見る目の確かさが伝わる。そして、ほんとうに心温まる結末が待っている。私がこの著者が大好きな理由がここにある。
(集英社1700円)
長いアメリカ生活から離婚を機に帰国し、母校の女子大で講座を持った沙希が主人公。彼女が暮らすのは伯父の家。伯父は認知症になり施設に入所した。その家がある街が「うらはぐさ」という東京の西の穏やかな街。うらはぐさとは風知草のことで花言葉は未来…。
伯父の友人だった足袋屋の主人とその妻、沙希に懐くちょっと変わった女子大生2人組、大学教師の同僚とゲイのパートナー、沙希が幼いころに通った小学校の校長先生や、そして妙に気になるのが芝居をやっていた頃の仲間の影。
こんな人たちが現れては、沙希との不思議な交流を重ねていく。突然の別れた夫の出現には読者も息をのむが、それも快いエピソードのひとつ。
この著者の作品の素敵なところは、やさしい物語の裏に現代社会が持つ厳しい現実が見え隠れする部分で、この小説にもそれが反映される。沙希が通う静かだが活気のある「あけびの商店街」に道路拡張計画が持ち上がり、商店主たちが立ち退きを迫られ、それに対する抗議の住民運動が起きる。LGBT問題とパートナーシップ制度、さらには空き家問題も絡むのだから、著者の社会を見る目の確かさが伝わる。そして、ほんとうに心温まる結末が待っている。私がこの著者が大好きな理由がここにある。
(集英社1700円)
2024年09月16日
【寄稿】長崎を通して広島を見つめることによって浮かび上がる現実 平和式典は何のためか=宮崎 園子(広島支部幹事)
「劣等被爆都市」。この夏、わたしはこんなフレーズを知った。社会学者の高橋眞司・元長崎大教授が2004年の著書『続・長崎にあって哲学する』で、長崎のことを表現したものだ。「被爆地長崎はいつも広島の陰に立ってきた」「世界の注目と脚光を浴びるのはいつも広島」と。だが、高橋氏が20年前に指摘したように、長崎は広島の陰になってきたのか。ときどき長崎も訪れながら広島で取材を続けてきたわたしはこの数年、もう一つの被爆地・長崎市の姿を見るにつけ、「平和都市」広島市の平和行政に対して疑問を抱いてきた。
広島と長崎の違いを感じ始めたのは、2017年夏だった。122カ国の賛成によって国連で核兵器禁止条約が採択された翌月の原爆の日、広島の平和宣言は、外務省界隈の常套句「橋渡し」に引っ張られた宣言しかできなかった。だが、長崎は違った。「核兵器禁止条約の交渉会議にさえ参加しない姿勢を、被爆地は到底理解できません」と日本政府の姿勢を鋭く批判した上で、唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約への一日も早い参加を目指せと、明確に求めたのだ。その後安倍晋三首相(当時)と被爆者団体の面会の際には、こんな言葉が被爆者から飛び出した。「あなたはどこの国の総理ですか」
「怒りの広島、祈りの長崎」と言われてきたが、果たしてそうなのか――。思えばこの頃から、わたしは首を捻り続けている。国がどうであれ、被爆地には被爆地の考え・主張があるという信念は、少なくともこの数年、むしろ長崎市からしか見出せない。そしてその思いは今年、確信に変わった。それはパレスチナへの攻撃を続けるイスラエルを、平和式典に招待するか否かで、広島・長崎の態度が鮮明に分かれたからだ。
広島市は、例年通り招待した一方で、長崎市は招待を見送った。理由は政治的なものではなく式典の平穏のためだとしたが、公式的な説明はさておき、この判断の前段階として、外務省との協議を経て、広島・長崎ともに2022年以降ロシアを不招待としてきたことが布石となっていることは想像に難くない。
広島市の説明はこうだ。ロシアを呼ぶと、式典で自分たちの主張をほかの国に押しつける可能性があるが、イスラエルを招待してもその心配はない――。この説明とともに、広島市は前代未聞の強硬手段を打ち出した。式典を安心安全に挙行するため、式典会場のみならず平和記念公園全体に式典の前後4時間規制をかけ、さらにはゼッケンやプラカードなどの持ち込みを禁止したのだ。
ちなみに、日本政府が国家承認していないパレスチナについては、長崎市が駐日代表を2014年以降招き続けている一方で、広島は招いていない。米英仏らG7諸国は、イスラエルを招かないなら我々も行かない、と長崎市に圧力をかけたが、長崎市長はそれでも方針を変えなかった。結果、各国は長崎の式典をボイコットした。異例の展開によって、誰もが考えざるを得なくなった。被爆地は、なんのために、原爆の日に平和式典を開くのだろうか、と。
2016年、オバマ米大統領(当時)は広島を訪問したが、長崎は立ち寄らなかった。2023年、広島でG7サミットが開催されたが、首脳らはやはり長崎に足を伸ばさなかった。「優越被爆都市」広島は、それらの政治イベントによって何かを得たか。原爆投下国のオバマ氏が原爆投下を「死の灰が降ってきた」と他人事のように語ることを許し、G7各国が核抑止論を堂々と主張することを許しただけではないか。被爆地の叫びを封じてでも、核兵器を手放すつもりがない、大量虐殺を辞めるつもりもない政治家たちを招き入れたことで、平和式典の意味を歪めてしまった。それが、核兵器保有国に追随するばかりの日本政府と一体化し、国家主義にとらわれてしまっている広島の哀れな姿だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
広島と長崎の違いを感じ始めたのは、2017年夏だった。122カ国の賛成によって国連で核兵器禁止条約が採択された翌月の原爆の日、広島の平和宣言は、外務省界隈の常套句「橋渡し」に引っ張られた宣言しかできなかった。だが、長崎は違った。「核兵器禁止条約の交渉会議にさえ参加しない姿勢を、被爆地は到底理解できません」と日本政府の姿勢を鋭く批判した上で、唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約への一日も早い参加を目指せと、明確に求めたのだ。その後安倍晋三首相(当時)と被爆者団体の面会の際には、こんな言葉が被爆者から飛び出した。「あなたはどこの国の総理ですか」
「怒りの広島、祈りの長崎」と言われてきたが、果たしてそうなのか――。思えばこの頃から、わたしは首を捻り続けている。国がどうであれ、被爆地には被爆地の考え・主張があるという信念は、少なくともこの数年、むしろ長崎市からしか見出せない。そしてその思いは今年、確信に変わった。それはパレスチナへの攻撃を続けるイスラエルを、平和式典に招待するか否かで、広島・長崎の態度が鮮明に分かれたからだ。
広島市は、例年通り招待した一方で、長崎市は招待を見送った。理由は政治的なものではなく式典の平穏のためだとしたが、公式的な説明はさておき、この判断の前段階として、外務省との協議を経て、広島・長崎ともに2022年以降ロシアを不招待としてきたことが布石となっていることは想像に難くない。
広島市の説明はこうだ。ロシアを呼ぶと、式典で自分たちの主張をほかの国に押しつける可能性があるが、イスラエルを招待してもその心配はない――。この説明とともに、広島市は前代未聞の強硬手段を打ち出した。式典を安心安全に挙行するため、式典会場のみならず平和記念公園全体に式典の前後4時間規制をかけ、さらにはゼッケンやプラカードなどの持ち込みを禁止したのだ。
ちなみに、日本政府が国家承認していないパレスチナについては、長崎市が駐日代表を2014年以降招き続けている一方で、広島は招いていない。米英仏らG7諸国は、イスラエルを招かないなら我々も行かない、と長崎市に圧力をかけたが、長崎市長はそれでも方針を変えなかった。結果、各国は長崎の式典をボイコットした。異例の展開によって、誰もが考えざるを得なくなった。被爆地は、なんのために、原爆の日に平和式典を開くのだろうか、と。
2016年、オバマ米大統領(当時)は広島を訪問したが、長崎は立ち寄らなかった。2023年、広島でG7サミットが開催されたが、首脳らはやはり長崎に足を伸ばさなかった。「優越被爆都市」広島は、それらの政治イベントによって何かを得たか。原爆投下国のオバマ氏が原爆投下を「死の灰が降ってきた」と他人事のように語ることを許し、G7各国が核抑止論を堂々と主張することを許しただけではないか。被爆地の叫びを封じてでも、核兵器を手放すつもりがない、大量虐殺を辞めるつもりもない政治家たちを招き入れたことで、平和式典の意味を歪めてしまった。それが、核兵器保有国に追随するばかりの日本政府と一体化し、国家主義にとらわれてしまっている広島の哀れな姿だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月15日
【株暴落】市場との対話に課題 日銀の説明不足=志田 義寧
日銀に対する信頼が揺らいでいる。日経平均株価は8月5日にブラックマンデーを超える過去最大の下げ幅を記録したが、その原因のひとつに日銀のコミュニケーションを問題視する声があがっている。確かに7月の利上げは、市場の意表をついた格好となり、市場との対話に課題を残した。このところの情報漏洩(リーク)疑惑も含めて、日銀はもう少し丁寧に説明すべきだ。
予想されず
日銀は7月の金融政策決定会合で15ベーシスポイントの利上げを決めた。7月会合での利上げは直前まで予想されていなかったためサプライズとなり、5」日の暴落の遠因になった可能性は否定できない。植田和男総裁が追加利上げに前のめりな姿勢を見せたことも、市場の動揺を誘った。円キャリー取引を積み上げていた海外勢にとって植田総裁のタカ派姿勢は想定外で、これがポジションの解消につながり、「植田ショック」を招いたとの見方がある。
日銀は会見や講演、経済・物価情勢をめぐる判断など考え方を伝える手段を数多く持っている。ただ、7月の利上げは事前の情報発信からは読み取れなかった。6月会合後は執行部の講演がなく、国会も閉会していたため、金融政策の考え方を伝える機会は限られていた。そうした中での利上げ決定。筆者は金融政策の正常化は必要との立場だが、事前の説明やタイミングに関して、もう少し考える余地があったのではないかと感じている。日銀は市場との対話に失敗したと判断していい。
リーク否定
日銀が市場との対話に失敗すれば、その影響は報道にも及ぶ。今回も事前の情報発信から利上げが読み取れなかった中で、NHKと時事通信、日本経済新聞が相次いで追加利上げの検討について報道したため、リークが疑われた。植田総裁は会見で「ルールの中で情報管理をきちんとしている。時々出る報道は観測報道であると理解している」とリークを否定したが、X(旧ツイッター)では説明を信じる声はほとんどない。
では、日銀は本当にリークをしているのか。筆者は2020年まで報道機関で日銀を担当していたが、筆者の経験から言えば、一般の人が想像するようなリークはないと断言できる。一般の人が想像するリークは、政策を事前に市場に織り込ませるために陰でコソコソと教えるというものだろうが、前述したように、日銀は考え方を伝える手段を数多く持っている。リスクを冒してまで、報道機関を使って織り込ませる必要はまったくない。
日銀担当記者は日頃から、景気の現状や先行きに対する見方、リスク等について、かなり細かく取材をしている。日銀は会見や『経済・物価情勢の展望』(展望レポート)で蓋然性の高いシナリオやリスクを公表しており、記者はそのシナリオに変化はないか取材を通じて確認し、その積み上げが報道につながっている。ただ、今回のように日銀が市場との対話に失敗すれば、事前報道が癒着とみなされ、報道に対する信頼も揺らぎかねない。
軌道修正へ
日銀は4月の展望レポートで「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」との見解を示していた。つまり利上げ自体は既定路線だった。問題は事前のコミュニケーションとタイミングだ。弱めの経済指標が目立っていたため、市場では「経済・物価の見通しが実現していくとすれば」の前提条件は成立していないと判断する参加者も少なくなかった。
内田真一副総裁は8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と明言、軌道修正を余儀なくされた。日銀には、より丁寧な対話を求めたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
予想されず
日銀は7月の金融政策決定会合で15ベーシスポイントの利上げを決めた。7月会合での利上げは直前まで予想されていなかったためサプライズとなり、5」日の暴落の遠因になった可能性は否定できない。植田和男総裁が追加利上げに前のめりな姿勢を見せたことも、市場の動揺を誘った。円キャリー取引を積み上げていた海外勢にとって植田総裁のタカ派姿勢は想定外で、これがポジションの解消につながり、「植田ショック」を招いたとの見方がある。
日銀は会見や講演、経済・物価情勢をめぐる判断など考え方を伝える手段を数多く持っている。ただ、7月の利上げは事前の情報発信からは読み取れなかった。6月会合後は執行部の講演がなく、国会も閉会していたため、金融政策の考え方を伝える機会は限られていた。そうした中での利上げ決定。筆者は金融政策の正常化は必要との立場だが、事前の説明やタイミングに関して、もう少し考える余地があったのではないかと感じている。日銀は市場との対話に失敗したと判断していい。
リーク否定
日銀が市場との対話に失敗すれば、その影響は報道にも及ぶ。今回も事前の情報発信から利上げが読み取れなかった中で、NHKと時事通信、日本経済新聞が相次いで追加利上げの検討について報道したため、リークが疑われた。植田総裁は会見で「ルールの中で情報管理をきちんとしている。時々出る報道は観測報道であると理解している」とリークを否定したが、X(旧ツイッター)では説明を信じる声はほとんどない。
では、日銀は本当にリークをしているのか。筆者は2020年まで報道機関で日銀を担当していたが、筆者の経験から言えば、一般の人が想像するようなリークはないと断言できる。一般の人が想像するリークは、政策を事前に市場に織り込ませるために陰でコソコソと教えるというものだろうが、前述したように、日銀は考え方を伝える手段を数多く持っている。リスクを冒してまで、報道機関を使って織り込ませる必要はまったくない。
日銀担当記者は日頃から、景気の現状や先行きに対する見方、リスク等について、かなり細かく取材をしている。日銀は会見や『経済・物価情勢の展望』(展望レポート)で蓋然性の高いシナリオやリスクを公表しており、記者はそのシナリオに変化はないか取材を通じて確認し、その積み上げが報道につながっている。ただ、今回のように日銀が市場との対話に失敗すれば、事前報道が癒着とみなされ、報道に対する信頼も揺らぎかねない。
軌道修正へ
日銀は4月の展望レポートで「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」との見解を示していた。つまり利上げ自体は既定路線だった。問題は事前のコミュニケーションとタイミングだ。弱めの経済指標が目立っていたため、市場では「経済・物価の見通しが実現していくとすれば」の前提条件は成立していないと判断する参加者も少なくなかった。
内田真一副総裁は8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と明言、軌道修正を余儀なくされた。日銀には、より丁寧な対話を求めたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月14日
【オピニオン】「戦争の危機」を煽る政治とメディアの欺瞞を撃つ=梅田正己(書籍編集者)
「今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれません」
今年4月11日、岸田首相が米国議会で行なった演説の一節である。だから、防衛予算を倍増して大軍拡をするとともに、日米同盟の防衛力を一段と強化する必要があるのです、となる。
しかし、本当に東アジアに戦争の危機が迫っているのだろうか?
◆東アジアの「脅威」の実態
一昨年12月、岸田内閣が閣議決定した「安保3文書」では危機(脅威)の発生源を、ロシア、北朝鮮、中国と特定していた。
ロシアは確かにウクライナを戦火の中にたたき込んだ。だがそれは独裁者プーチンの「大ロシア思想」によるものだ。いかに帝国主義者プーチンといえども、宗谷海峡をこえて北海道に侵攻することなどあり得ない。
北朝鮮もミサイルと核開発に固執している。だがそれは、米国との交渉力を手に入れて、70年来の潜在的「交戦状態」を解消、経済制裁の解除とともに、日本とも国交を回復して60年前の日韓基本条約並みの植民地支配に対する補償と経済協力を得たいためだ。
中国・習近平政権の香港問題や南シナ海問題にみるような、強引で一方的な自己主張には、たしかに目に余るものがある。しかし「中国は一つ」を振りかざしての台湾攻略のリアリティーとなると、問題は別だ。
半導体にみるように台湾の経済発展はめざましい。それに台湾の世論は圧倒的に「現状維持」だ。その台湾を武力でねじ伏せるなんてできるわけがない。
ウクライナに倍する軍事力をもつプーチンのロシアも、2年半を費やしながらいまだ東南部4州の制圧にも手を焼いている。
まして中台の間は台湾海峡で隔てられている。ミサイルだけでは台湾は制圧できない。陸軍による上陸作戦が絶対に必要だ。今から79年前、面積が台湾の30分の1の沖縄本島への上陸作戦でも、米軍は1500隻の艦艇で周囲の海を埋め尽くし、55万人の兵力を必要とした。
加えて、その上陸作戦を世界中がリアルタイムで注視することになる。台湾攻略の非現実性はこれだけでも明らかだ。
◆岸田発言の真偽の検証を
にもかかわらず「台湾有事は日本有事である」とバカな政治家が言った。そして実際、岸田政権は軍事予算を増額して南西諸島にミサイル基地を新設し、日米両軍は「作戦司令部」を統合し、いまこの一文を書いている8月初旬、両軍合同による最大の訓練を実施中である。
「今日のウクライナは明日の東アジア」の岸田発言を、マスメディアは伝えた。しかし伝えるだけで真偽については全く検証しなかった。ということは、岸田発言を容認し、結果として「東アジアの危機」なる現状認識を黙認したということだ。
SNSの時代とはいえ、国民世論の動向にはマスメディアが決定的に影響する。私はいま、岸田発言の真偽について各新聞社の論説委員室が徹底論議し、その論議の過程と結論を読者に伝えてほしいと思う。
今年4月11日、岸田首相が米国議会で行なった演説の一節である。だから、防衛予算を倍増して大軍拡をするとともに、日米同盟の防衛力を一段と強化する必要があるのです、となる。
しかし、本当に東アジアに戦争の危機が迫っているのだろうか?
◆東アジアの「脅威」の実態
一昨年12月、岸田内閣が閣議決定した「安保3文書」では危機(脅威)の発生源を、ロシア、北朝鮮、中国と特定していた。
ロシアは確かにウクライナを戦火の中にたたき込んだ。だがそれは独裁者プーチンの「大ロシア思想」によるものだ。いかに帝国主義者プーチンといえども、宗谷海峡をこえて北海道に侵攻することなどあり得ない。
北朝鮮もミサイルと核開発に固執している。だがそれは、米国との交渉力を手に入れて、70年来の潜在的「交戦状態」を解消、経済制裁の解除とともに、日本とも国交を回復して60年前の日韓基本条約並みの植民地支配に対する補償と経済協力を得たいためだ。
中国・習近平政権の香港問題や南シナ海問題にみるような、強引で一方的な自己主張には、たしかに目に余るものがある。しかし「中国は一つ」を振りかざしての台湾攻略のリアリティーとなると、問題は別だ。
半導体にみるように台湾の経済発展はめざましい。それに台湾の世論は圧倒的に「現状維持」だ。その台湾を武力でねじ伏せるなんてできるわけがない。
ウクライナに倍する軍事力をもつプーチンのロシアも、2年半を費やしながらいまだ東南部4州の制圧にも手を焼いている。
まして中台の間は台湾海峡で隔てられている。ミサイルだけでは台湾は制圧できない。陸軍による上陸作戦が絶対に必要だ。今から79年前、面積が台湾の30分の1の沖縄本島への上陸作戦でも、米軍は1500隻の艦艇で周囲の海を埋め尽くし、55万人の兵力を必要とした。
加えて、その上陸作戦を世界中がリアルタイムで注視することになる。台湾攻略の非現実性はこれだけでも明らかだ。
◆岸田発言の真偽の検証を
にもかかわらず「台湾有事は日本有事である」とバカな政治家が言った。そして実際、岸田政権は軍事予算を増額して南西諸島にミサイル基地を新設し、日米両軍は「作戦司令部」を統合し、いまこの一文を書いている8月初旬、両軍合同による最大の訓練を実施中である。
「今日のウクライナは明日の東アジア」の岸田発言を、マスメディアは伝えた。しかし伝えるだけで真偽については全く検証しなかった。ということは、岸田発言を容認し、結果として「東アジアの危機」なる現状認識を黙認したということだ。
SNSの時代とはいえ、国民世論の動向にはマスメディアが決定的に影響する。私はいま、岸田発言の真偽について各新聞社の論説委員室が徹底論議し、その論議の過程と結論を読者に伝えてほしいと思う。
2024年09月13日
【2024年度第67回 JCJ賞】JCJ大賞 しんぶん赤旗日曜版 『自民党派閥パーティー資金の「政治資金報告書不記載」報道と、引き続く政治資金、裏金問題に関する一連のキャンペーン』、 JCJ賞4点。10月5日(土)午後1時から東京・日比谷図書文化館コンベンションホールで贈賞式
JCJ賞作品は次の通りです。
【JCJ大賞】 1点
● 自民党派閥パーティー資金の「政治資金報告書不記載」報道と、引き続く政治資金、裏金問題に関する一連のキャンペーン しんぶん赤旗日曜版
【JCJ賞】 4点 (順不同)
● 上丸洋一(じょうまる・よういち)『南京事件と新聞報道 記者たちは何を書き、何を書かなかったか』 朝日新聞出版
● 後藤秀典(ごとう・ひでのり) 『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』 旬報社
● NHKスペシャル 「冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部で何が~」「続・冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部・深まる闇~」 NHK総合テレビ
● SBCスペシャル 「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡」 SBC信越放送
JCJ賞贈賞作品一覧
【JCJ大賞】 1点
● しんぶん赤旗日曜版 自民党派閥パーティー資金の「政治資金報告書不記載」報道と、引き続く政治資金、裏金問題に関する一連のキャンペーン
自民党の主要5派閥が政治資金パーティーのパーティー券大口購入者を、政治資金報告書に記載していなかったことをスクープした報道に始まった「しんぶん赤旗日曜版」の報道は、2023年から24年にかけての日本の政治を揺り動かした。
公開されている膨大な政治資金報告書から、一つ一つを地道に積み上げ、検察の捜査にまでつなげ、それが大政治犯罪であることを明らかにした。
政治資金パーティーという、小さな問題に見えた事件は、実は政治資金問題の中心的問題で、事件の大きさは、自民党が公表せざるを得なかった議員が衆院51人、参院31人、計82人に上っていた(24年4月14日号)ことに示されるとおり、そのスケールの点では、1975年の「田中金脈」報道や、88年の「リクルート事件」報道を超えるものだった。
国会は安全保障政策の大転換を迎え、極めて重要な問題を抱えていたが、この問題に多くの時間を割き、秋に予想される、総選挙もしくは自民党総裁選を控え、「政治資金改革」は、いま、最大の政治的焦点となっている。こうした事態を引き起こしたのは、「しんぶん赤旗・日曜版」の報道がなくしてはできなかったことであります。
【JCJ賞】 4点
● 上丸洋一 『南京事件と新聞報道 記者たちは何を書き、何を書かなかったか』 朝日新聞出版
日本の侵略戦争の犯罪を象徴する「南京大虐殺」――南京事件は、西のアウシュヴィッツでのナチス蛮行に匹敵する戦争犯罪であるが、当時の日本の新聞記者は何を書き何を書かなかったかを追跡し、検証した力作。
筆者は、2007~2008年朝日新聞夕刊の「新聞と戦争」で戦時報道を検討する連載の取材班に参加。「南京」シリーズを担当した。2020年フリーになったのを機に再び「南京事件」に向き合って、当時の新聞報道を調べる毎日が続く。「南京事件まぼろし説」「百人斬り」はじめ日本軍の蛮行、虐殺の数々に向き合い、真偽の確かめ作業が続く。当時の報道や記録を掘り起こし、記事を追い生存の記者を取材して検証する。気の遠くなるような作業のなかから、事実としてあったことは勿論、前後左右の状況、外国の記事も使っての多角的な検討により、あったはずの事実を浮き彫りにしている意義は大きい。
戦場に行く記者、カメラマンは厳しい報道規制のもと、軍紀服従、検閲、報道規制、従軍記者心得により、「戦場一番乗り」「報道報国」「報道戦士」に絡め取られていく様を記事で検証しながら明らかにしているのが恐ろしい。
終戦後、生存の記者への取材、戦友会の記録のなかで、多くの人々の意識が変わらず、責任も感じず、見たくないことはなかったことにする有様を突きつけられ、日本の教育と、洗脳された日本人の状況に愕然とさせられる。
南京事件についての研究はすすみ、書物も多いが、新聞、放送など影響力の大きなジャーナリズムの有り様がますます重大である。
岸田政権による軍備拡大と戦争準備がすすめられるこの2024年、『南京事件と新聞報道』という力作を得たことの意義は大きい。
● 後藤秀典 『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』 旬報社
福島第1原発事故から14年、責任が明確にされた東京電力は避難者たちが起こした損害賠償請求訴訟を数多く抱えたままだ。その訴訟の過程で加害者である被告東電が原告の被害者たちを、あたかも安逸な生活を享受しながら無理難題を求めているかのように攻撃をする現象が生まれている。賠償を出し渋るための「変節」である。その背景にある最高裁と巨大法律事務所という司法エリートと東電との結びつきを探ったのが本書である。
著者は2022年に出された、国に原発事故の責任はないとした最高裁判決(6.17判決)を下した3名の判事の経歴・人脈を追い、彼らが巨大法律事務所をはじめ国や法曹界、産業界のさまざまな機関と密接に関わっていることを明らかにしていく。その構造は本書にある「電力会社・最高裁・国・巨大法律事務所の人脈図」を見れば一目瞭然だ。原子力規制庁のメンバーで一審では国側の指定代理人であった弁護士が控訴審では東電の代理人として登場するという事実には呆れるほかない。この弁護士はもちろん巨大法律事務所の所属である。
本書は原発問題をテーマとして書かれ、「原子力ムラ」には司法エリートも含まれていることがはっきりする。同様なことは日本の他の多くの分野でも起きているであろう。日本における司法の独立は国家の圧力との関係で問われてきたが、「民間」の巨大法律事務所というモンスター的存在が権力の補完機能として働いているという事実を具体例を挙げて告発した作品として推薦する。
● NHKスペシャル 「冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部で何が~」「続・冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部・
深まる闇~」 NHK総合テレビ
「冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部で何が~」(23年9月24日21:00~21:50)
なぜ冤罪≠ヘ起きたのか。3年前、軍事転用が可能な精密機器を不正に輸出したとして、横浜市の中小企業の社長ら3人が逮捕された事件。長期勾留ののち、異例の起訴取り消しとなった。会社側が国と東京都に損害賠償を求めている裁判で23年6月、証人として出廷した現役捜査員は「まあ、捏造ですね」と、捜査の問題点を赤裸々に語った。公安部の中で、一体何が起きていたのか。法廷の証言と独自取材をもとに、徹底取材で検証する。
「続・冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部・深まる闇~」(2月18日21:00~21:50)
警視庁公安部の冤(えん)罪¢{査を検証したNスぺ(昨年9月)第2弾。4年前、軍事転用可能な機器を不正輸出したとして、大川原化工機の社長ら3人が逮捕された事件。東京地裁は昨年末、捜査は違法だったと認め、国と都に賠償を命じる判決を言い渡した(国と都は控訴)。NHKは今回、さらに新たな内部資料を入手。経産省はなぜ警察の捜査方針を追認したのかそして、検察はなぜ起訴に踏み切ったのか。残された闇に迫る。
● SBCスペシャル「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~」(3月13日19:00~20:00) SBC信越放送
太平洋戦争の末期、現在のマレーシア、ボルネオ島で「サンダカン死の行進」と呼ばれる悲劇が起きた。日本軍の無謀な命令により、道なきジャングル横断を強制された英豪軍の捕虜2400人余が飢えや病気、銃殺で死亡。生き残ったのは、脱走した6人だけだった。悲劇から78年、豪州兵捕虜の息子、ディックさんの呼びかけで、長野県の元日本軍兵士の遺族やスパイ容疑で処刑された地元住民の孫ら関係者が戦跡をめぐり、二度とこのようなことが起きないよう合同で「和解」を誓い合った。
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日本ジャーナリスト会議(JCJ)
〒101‑0061 東京都千代田区神田三崎町3−10−15 富士ビル501号
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メール: office@jcj.gr.jp
直接のお電話: 古川英一(JCJ事務局長) 090‑4070-3172、大場幸夫 (JCJ賞推薦委員会)090‑4961-1249
■贈賞式記念講演(オンライン講演となります)
「政治とカネ 自民党裏金問題をどのようにして暴いたのか 」 上脇 博之(かみわき ひろし)神戸学院大学大学院教授
■講師プロフィール:
上脇 博之(かみわき ひろし)1958年7月、鹿児島県生まれ。1984年3月、関西大学法学部卒業。1991年3月、神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得。北九州大学(現在の北九州市立大学)法学部 助教授・教授を経て、2004年から神戸学院大学大学院実務法学研究科教授、2015年から神戸学院大学法学部教授(現在に至る)。専門は憲法学。、政党助成金・政治資金、政治倫理、情報公開制度、改憲問題などを研究『検証 政治とカネ』(岩波新書・2024年)など著書多数。公益財団法人「政治資金センター」理事などを務める
■オンライン参加お申し込み:
https://jcjaward2024.peatix.com
2024年09月12日
【シンポジウム】「取り戻せ!テレビを市民の手に」前川喜平氏らがパネリスト 9月28日(土)午後3時から5時 立教大学池袋キャンパス(JCJ共催)
「テレビは報道機関としての役割を果たしていない」「テレビは、政府広報か」と、放送の現状を多くの人達が怒り憂いています。
一方で、視聴者・市民の手で「テレビを市民の手に取り戻す」運動もここ数年多彩に展開されてきました。
市民・メディア関係者・研究者による研究プロジェクトでは、放送行政に独立行政委員会制度を導入する提言もまとめられています。
シンポジウムでは、市民運動のリーダーたちから多様な視聴者運動の現状を聞き、新しい政権の下での放送制度改革の可能性や展望を語り合います。
■民放の改革迫る新しい市民運動 「テレビ輝け!市民ネットワーク」は、市民がテレビメディアの所有者(株主)になって、テレビを内部から変えて行こうというユニークな市民運動です。6月27日にはテレビ朝日の株主総会に乗り込み、「政治的な圧力で公正報道が難しい場合、第三者委員会設置を」などの提案を市民株主が行いました。
●パネリスト
前川 喜平氏(現代教育行政研究会代表・テレビ輝け!市民ネットワーク共同代表)
杉浦 ひとみ氏(弁護士・テレビ輝け!市民ネットワーク事務局)
砂川 浩慶氏(兼司会・立教大学社会学部教授・「放送を市民の手に:独立行政委員会 を考える」プロジェクト代表)
●日 時:2024年9月28日(土)15:00 〜 17:00(開場 14:30)
●リアル会場参加: 800円(立教大学池袋キャンパス7号館 1階7102教室)※学生無料
●オンライン参加: 800円(https://peatix.com/event/4054432/)※後日録画配信の予定
●主 催:NHKとメディアの今を考える会 + 立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ
●共 催:日本ジャーナリスト会議、日本ジャーナリスト会議・東海、 放送を語る会、 メディアを考える市民の会ぎふ
※今企画はJCJ会員も有料での参加となります。
(問い合わせ先)小滝一志:kkotaki@h4.dion.ne.jp
2024年09月11日
【おすすめ本】田中敦夫 『盗伐 林業現場からの警鐘』―荒れる森林 無能な行政に最後の警告=栩木誠(元日経新聞編集員)
「パッと見には緑のスギ林に覆われている。が、何か変だ。スギ木立のその後ろに茶色の地肌が透けて見える。斜面の一部も崩れていた」。本書は、宮崎県中部の盗伐現場の生々しい現場ルポから始まる。
先進国や発展途上国など地球規模で拡大の一途をたどる「違法伐採」。森林破壊が進む「森林王国」日本でも、違法伐採の輸入材が多く流入している。その一方、宮崎県はじめ全国各地で、重機を使った大規模で組織的な盗伐が頻発。東京五輪のメイン会場となった、新国立競技場の建設に使われた合板型枠も、違法伐採された木で作られた可能性が、国際的なNGO団体などから警告されたほどだ。各地で被害に逢った林業者が被害届を出しても、警察が受理しないなど、今や日本は、本書が指摘するように、無法がまかり通る「世界に冠たる盗伐天国」なのである。
国会でも田村貴昭議員(日本共産党)などが、繰り返し行政の取り組み強化を追求し、「違法木材の流通規制」を盛り込んだ法案を提出した。しかし、警察がなかなか腰を上げす、政府は、「絶望的な感度の低さ」に終始している。
本書は、長年にわたり全国各地の森林や林業現場を取材、『絶望の林業』を著わした筆者が、「森林行政の刷新と林業健全化の最後の機会」との熱い思いを込めた、1冊である。森林環境税の強行で国民に新たな負担を強いながら、「やってる感満載」の自公政権は、森林を荒れ放題なままに放置する。「山河壊れて国はなし」。筆者が警告する、日本の森林の危機的な状況から脱するための原動力は、「食にも森にも、ほぼ無関心だった」多くの国民の覚醒と行動である。(新泉社2000円)
先進国や発展途上国など地球規模で拡大の一途をたどる「違法伐採」。森林破壊が進む「森林王国」日本でも、違法伐採の輸入材が多く流入している。その一方、宮崎県はじめ全国各地で、重機を使った大規模で組織的な盗伐が頻発。東京五輪のメイン会場となった、新国立競技場の建設に使われた合板型枠も、違法伐採された木で作られた可能性が、国際的なNGO団体などから警告されたほどだ。各地で被害に逢った林業者が被害届を出しても、警察が受理しないなど、今や日本は、本書が指摘するように、無法がまかり通る「世界に冠たる盗伐天国」なのである。
国会でも田村貴昭議員(日本共産党)などが、繰り返し行政の取り組み強化を追求し、「違法木材の流通規制」を盛り込んだ法案を提出した。しかし、警察がなかなか腰を上げす、政府は、「絶望的な感度の低さ」に終始している。
本書は、長年にわたり全国各地の森林や林業現場を取材、『絶望の林業』を著わした筆者が、「森林行政の刷新と林業健全化の最後の機会」との熱い思いを込めた、1冊である。森林環境税の強行で国民に新たな負担を強いながら、「やってる感満載」の自公政権は、森林を荒れ放題なままに放置する。「山河壊れて国はなし」。筆者が警告する、日本の森林の危機的な状況から脱するための原動力は、「食にも森にも、ほぼ無関心だった」多くの国民の覚醒と行動である。(新泉社2000円)