2024年09月27日

【おすすめ本】長井 暁『NHKは誰のものか』―なぜ権力に弱いのか 公共放送に巣食う病理を告発=永田 浩三(武蔵大学教授・元NHKプロデューサー)

 立てられた問いは、NHKは誰のものか。市民のものと言いたいところだが、そうなってはいない。著者は情報を解読し、内部の事情を分析することで、構造的な病理を明らかにした。

 著者自身が体験した事件は23年前。元「慰安婦」問題をとりあげたETV2001が放送直前に改変された。番組の現場は混乱を極め、多くのひとが傷ついた。プロデューサーであったわたしの責任は重い。そんな中、著者はひとりで告発の会見を行った。
 二度とあんな事態を繰り返してはならない。著者は、2018年に起きた、かんぽ生命の不正販売を扱った『クローズアップ現代+』の第二弾の延期の真相に迫る。日本郵政の幹部は元の総務省事務次官。放送を監督する官庁のトップだった人間がNHK経営委員長に圧力を加え、経営委員会の場で会長に厳重注意を与えた。放送は先延ばしにされ被害が拡大した。著者は経営委員会の議事録の公開を求める裁判の原告となり、一審で勝訴する。

 なぜNHKは権力に弱いのか。ネットでの配信をNHKの本来業務に格上げしたいという悲願。政権の意を受けたフィクサー・葛西敬之JR東海会長らによって送り込まれる財界出身の会長たち。官邸との癒着を競う幹部たちの権力闘争。それらの思惑が入り乱れ、ニュースは権力への監視を放棄し、心ある番組の現場は苦しみ続ける。

 追及の矛先は多岐にわたる。そのひとつジャニーズ問題。若い視聴者獲得のための番組『ザ・少年倶楽部』のリハーサル室が、性被害の舞台だった。
 著者の公共放送に寄せる大いなる期待と愛。だからこそ批判も鋭い。精緻な裏トリは、かつて歴史研究を志した筆者の真骨頂だ。(地平社2400円)
             
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posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする