2024年10月30日

【映画の鏡】一人ひとりの人生 丹念に記録『ガザからの報告』取材歴30年 過去と現在継ぐ=鈴木 賀津彦

               
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                 DOI Toshikuni 2024
  パレスチナ取材歴30数年の土井敏邦監督がガザに生きる人たちの本音を丹念に捉えた「渾身のレポート」だ。本作を観れば、多くのメディアが伝える「イスラエル対ハマス」「イスラエル対パレスチナ」の二項対立で単純化して捉えることがいかに不十分な情勢認識か気付かされ、再度「過去の原点」に立ち返る大切さが理解できよう。

 第1部「ある家族の25年」(120分)は故郷を追われガザ最大の難民キャンプ「ジャバリア」に暮らすエルアクラ家の生活に密着、第2部「民衆とハマス」(85分)はガザ攻撃で住民がどんな状況にあるのかを、ネットで土井監督に報告してくる現地のジャーナリストMらの命がけの“生の声”を伝える、合計205分の大作だ。
 一つの家族を25年も追い続けた土井監督は「等身大・固有名詞の人間の姿・日常生活」をきちんと描くことで、「現地の人々が私たちと“同じ人間”であることを伝える」狙いだと説明。単に「死者4万人超」という数字で分かったつもりになるのではなく、「私たち同じ人間の一人ひとりの死の痛み、悲しさの4万倍超なのだ」という認識に変わり、遠いガザの事態を日本の私たちに引き寄せられると確信していると、込めた思いを語る。

 第2部で紹介される知り合いのジャーナリストMの現地報告は、昨年10月下旬以降、今もずっと続いているという。「Mが伝えてきた“生の声”を受け取った私には、それをきちんと世界に向けて伝える責務がある」と話す土井監督は7月に岩波ブックレットで同名の著作も出版している。26日から東京・K’cinemaほか全国順次公開。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
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2024年10月29日

【リレー時評】 罪に問われない「証拠捏造」=白垣詔男(代表委員)

 袴田巌さんが58年ぶりに「自由の身」になった。
 これまで、彼を「不自由な境遇」に追いやっていたのは「司法」のほかマスコミにも大きな責任がある。深く反省しなければならない。
 
 私も記者時代、警察・司法を担当したことがあるので、袴田さんの逮捕、死刑判決の過程を取材していたら同じ過ちをしていただろう。「犯罪情報」は、捜査当局が一手に握っており、自ら捜査しない記者は、その情報を信じないわけにはいかない。その際、その捜査が誤りかどうかを疑うことは、なかなかできないものだ。
 しかも、かつては、「容疑者」段階では呼び捨てで、「容疑者は真犯人」という世論形成に大きな役割を果たし、それが、裁判段階で裁判官の心証に与える影響も多かれ少なかれあっただろう。

 「袴田事件」は、まさにそうした「愚」の連続で、無罪の人間に対する死刑判決から長期収監につながったのだと確信している。
 以上のような点を、今回、袴田さんが無罪確定した段階で、新聞各社は「反省と謝罪の弁」を大きく掲載した。西日本新聞は、「袴田事件」の記事はすべて共同通信からの配信を使っていた(一部は提携紙の中日新聞の記事を使ったか)ので、共同通信の「お詫び・反省」を前書き付きで目立つように載せた。

 ところで、今回、「袴田事件」の静岡地裁判決(国井恒志=こうし=裁判長)は検察の「証拠捏造」を認めた。検察に対する「誤認捜査」を痛烈に批判した。
 こうした場合、証拠を捏造した検察の行為は「犯罪」ではないのか。「袴田さん無罪」の判決理由の大きな柱として「証拠捏造」報道を知ったとき、私はまず、そのことを考えた。捜査当局以外の人が「証拠隠滅」した場合は「証拠隠滅等罪」が適用されて逮捕される。これは検察当局には適用されないのだろうか。

 初の女性検事総長になった畝本直美さんは、発表された談話で「『捏造』断定には大きな疑念と不満がある」と。「袴田事件捜査」について、今後、改めて検証するとも表明した。この談話は「何を今ごろ検証するのか」と批判したくなる。そのうえで、再審決定から初公判までの長い時間を考え、なぜ司法関係の時間は、こんなに長く掛かるのかという疑問も、いつものように抱いた。もっと迅速に裁判が進まないものだろうか。

 今回の「袴田裁判」に関連して、司法改革が叫ばれているが、それがいつ動き出すのか、見通しはない。国民の疑念が多い司法が「国民本位」に改革されることを強く望む。それを「聖域」にしてはならない。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
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2024年10月28日

【長崎被爆体験者】認定めぐる闘いはなお=橋場紀子(ライター)

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             9月9日長崎地裁前=撮影・橋場 紀子
 長崎で原爆に遭いながら、国に「被爆者認定」を拒まれてきた被爆体験者に、また、指定援護区域の壁が立ちはだかった。長崎地裁は9日、被爆体験者が県と市に被爆者健康手帳交付を求めた訴訟の判決で15人を救済、残る29人の訴えは退けた。キーワードは「黒い雨」。広島の黒い雨訴訟を経て22年に運用開始された新基準に沿った判決で、今度は被爆体験者に分断を持ち込んだ。一方、8月に被爆体験者に「合理的解決参画」を約束した岸田首相は21日、「認定被爆者と同等の医療費助成」を発表したが、被爆体験者を生んだ国の被爆地域指定や被爆者認定制度の見直しは頑なに拒んだ。原爆に遭って79年、被害を受けた人たちの闘いはなおも続く。
                   △
 岸田文雄首相は9月21日、長崎の被爆体験者「救済策」として、医療費助成を被爆者と同等とすることを発表した。8月9日の平和祈念式典後、被爆体験者と初めて面会し、「早急に合理的に解決する」とした“約束”を退任ぎりぎりになって取り繕った形だ。
 だが、「被爆体験者は被爆者だ」と17年にわたり裁判闘争を続けてきた当事者にとっては依然、格差が残る「不思議な」(岩永千代子原告団長)政治救済策が示されたというのが、大方の受け止めのようだ。

被爆者の認定
なぜ拒むのか

 被爆体験者とは、原爆投下当時、爆心地から半径12キロ圏内にいながら、国が定める「被爆地域」外で原爆に遭った人たちをさす。
実際に原爆に遭いながら、こうした国の「被爆者認定」から漏れた人たちには、原爆の体験による心的外傷後ストレス障害(PTSD)を前提に7種類のがんなど、特定の疾病にのみ限って医療費を助成する単年度の支援事業が続いている。
 この問題は、長崎の被爆地域が、当時の行政区域に沿って南北に細長く定められたことに起因する。東西に7キロ以遠だと被爆者と認められないという市民感覚からかけ離れた不合理な状況がいまだに続いているのだ。

被爆の体験者
認定求め訴訟

 被爆体験者らは立ち上がり、長崎県や長崎市を相手取って被爆者健康手帳の交付を求めた。それが2007年の「被爆体験者訴訟」の始まりだ。
 一旦、最高裁で敗訴が確定したものの、原告のうち44人が2018年に再び提訴。被爆地域外にも雨や灰など「放射性降下物」があり、原告らは「原爆放射能の影響を受ける事情の下にあった」(被爆者援護法1条3)などと主張した。
 2021年には広島高裁が、被爆地域外で「黒い雨」に遭った原告84人全員を被爆者と認めたことで、放射性降下物による健康被害が一気にクローズアップされた。

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             9月21日長崎市内=撮影・橋場 紀子
期待裏切った
長崎地裁判決

 9月9日の長崎地裁判決でも、原告のうち「黒い雨」が降ったとされる爆心地から東側にあたる旧矢上(やがみ)村・旧古賀(こが)村・旧戸石(といし)村にいた15人を被爆者と認めた。一方で、降灰は放射性物質か定かではないなどとして、残り29人の訴えは退けられていて、原告団は控訴の意思を固めていた。

医療費の助成
認定を拒む国

 岸田首相が示した救済策は、医療費助成は被爆者と同等とするとしながら被爆者認定を頑なに拒む国の姿勢を正当化しようとするものだ。
 確かに、高齢の被爆体験者には早急に援護の手を差し伸べられる政治救済ではある。だが、「私たちは被爆者だ」という命を懸けた訴えには肩透かしでしかない。原爆被害の範囲や内部被ばくの可能性には手を打てていない。

国の制度自体
間違っている
 
「金が欲しかったのではない。お情けもいらない。被爆体験者の制度自体、国が間違っていたと反省し、当事者が何を求めているか話し合いのテーブルにつけ」(岩永原告団長)、と救済策表明を受けた記者会見でも原告らの憤りは止まない。
 県と市も国に「控訴断念は地元の思い」と訴えながらも、国の意向には逆らえず控訴した。被爆から79年が経ってもなお、原爆被害をめぐる闘いが続くことになる。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号


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2024年10月27日

【好書耕読】民主主義に新しい命を吹き込むために=𠮷原 功(JCJ代表委員)

 暉峻淑子さんは、近著「承認をひらくー新・人権宣言」(岩波書店)の「おわりに」で次のように書いている。「私が本を書きたいと思う動機には・・・社会の中に、深いひずみが生じて、周りから悲鳴をあげる声が聞こえ、私の心がその悲鳴に共振するときでした」と。

 「悲鳴の声」が筆者に届き、「深いひずみ」を素早く感得できるのは筆者が常に社会を凝視し、虐げられた人々、マイノリティに温かい目を注いでいるからであろう。そればかりではない。筆者はしばしば市民・民衆のなかに飛び込みその声を聞き、多様で複雑な現実の核心を捉え分析しその結果をわかりやすく提示してくれているのである。『豊かさとは何か』『対話する社会へ』に続いて本書もまた、現代社会の「ひずみ」を解き明かし進むべき道を提起してくれている。

 グローバル化した資本主義経済が深刻な「貧困」を生み出し富の再分配を不可避としている。同時に「承認」に関わる問題もまた決定的に重要であることが提示される。承認とは「相互承認」であり、親子関係も家族や友人との関係もその原型。人間は社会に参加し他者との「相互承認」の過程のなかで自己実現とアイデンティティが「成就」されるのに、競争が強制され、自己責任論が一般化されるなかで格差拡大・社会的排除が極度に進み「承認拒否」や「まやかしの承認」が蔓延し、民主主義を掘り崩していることが明らかにされる。

 貧困が生み出すさまざまな排除(承認拒否)、承認を求めて果たせなかった末の悲劇・犯罪((引きこもり、自死、拡大自死=無関係の人々の殺傷)、権力による不当・違法な承認(「モリ・カケ・サクラ」など)、逆に不承認(学術会議委員候補者任命拒否など)、ゆがんだ社会的承認基準(戦前の日本が典型)などなど「承認」に関わる深刻な具体的事例を法律、制度、制度の運用を含め詳しく紹介・解読・分析するなかで筆者は次のように読者によびかける。 承認とは、認めるという行為を行うとき、「真実、正義・公正・人権などの普遍的価値」や「妥当性」に照らし合わせて行う行為であり、そうした「相互承認」を浸透させることによって社会を変え、「民主主義に新しい命」を吹きこもう、と。ジャーナリズムへの問題提起でもある。 
    
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2024年10月26日

【出版イベント】第50回出版研究集会:トークイベント─「ひろがる出版」の現在地

 <デジタル化、コンテンツビジネス化が進む現在地から出版産業のゆくえを展望する>
トークセッション:植村八潮さん(専修大学教授)+橋場一郎さん(株式会社KADOKAWA 執行役 Chief Digital Officer)

 コロナ禍を経て、出版産業の二極化がますます顕著になっている。大手出版社がコンテンツビジネスを機動力に、空前の利益をあげる一方で、紙の書籍を柱にする多くの小・零細出版社は厳しい経営状況に置かれ、廃業する書店も後を絶たない。
 デジタル化は、情報アクセシビリティを高め、ニュースプラットフォームやマンガアプリなど、多角的な媒体の利用で読者が文字情報にふれる機会を拡大している。また、大手を中心とするコンテンツビジネスは海外市場も視野に入れて展開されている。
 「ひろがる出版」の現在地を、光と影の両面からとらえ、出版産業のゆくえを展望する。

日時:10月30日(水) 18:30〜20:30
場所:出版労連会議室(オンライン併用)東京都文京区本郷4-37-18
 地下鉄「本郷3丁目」下車 東大赤門に向かって、初めの交差点を渡り交番裏の道を左折し、ふたき旅館の手前・いろは本郷ビル2階
参加費:1000円
問い合わせ:出版労連・第50回出版研究集会事務局
 電話:03-3816-2911 メール:50syukken@syuppan.net
※なおPeatixにてのオンライン申し込みは、https://50syukken.peatix.com へ。
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2024年10月25日

【好書耕読】核燃料サイクルという虚妄=鈴木 耕(編集者)

 「核燃料サイクルの確立は戦後日本最大の『国家事業』なのであった」。山本義隆氏は最近の著書「核燃料サイクルという迷宮ー核ナショナリズムがもたらしたもの」(みすず書房)の中で書いている。「資源小国」という強迫観念にとらわれた日本の為政者や官僚たちが、世界に伍していくための武器≠ニして縋りついたのが「核燃料サイクル」という妄想じみた計画だったということだ。

 山本氏は冷徹な科学者であるとともに、精緻な科学史家でもある。近代日本の科学がいかに軍事と結びついて発展してきたか。本書では、それを辿る。国家総動員のファシズム体制の中に台頭したいわゆる革新官僚≠ニ呼ばれた岸信介ら一群のテクノクラートたちが、統制経済の中核として電力の国家管理を押し進めていく。これがやがて、戦後日本の原子力開発に道を開くことになった。その裏には、岸信介の「潜在的核武装論」があったと著者は指摘する。その上で原子力政策が原発に収斂し、原子力ムラという利権集団と原発ファシズムを生み出すことになった。まことに明快な絵解きである。

 我が世の春を謳ってきた原発だが、90年代になると「冬の時代」に入る。それは世界の趨勢でもあった。79年のスリーマイル島原発事故が決定的な打撃となった。さらに2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島第一原発のメルトダウン事故は、日本の原発にとっての「死の宣告」になると思われた。だがなぜかゾンビのごとく不気味な復活を遂げる。その中核を担うのが「核燃料サイクル」という虚妄である。

 著者は詳細に資料を渉猟してこの国の核政策の破綻を淡々と断罪していくのだ。評者もたくさんの原発関連本を読んできたが、電力国家という面からこれほど精緻に組み立てられた論を知らない。目からウロコとは言い古された言葉だが、まさにそれを経験する。
 ところで、山本義隆氏について、本紙の読者ならば知らない人はいないだろうが、もう1冊、どうしても紹介しておきたい本がある。『私の1960年代』(金曜日)で、60年代末の学生反乱を領導した東大全共闘議長としての山本氏のある種の回顧録、もしくは総括本だ。まるで動画のように私の眼前に広がるあの時代、必読の史料でもある。
    
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2024年10月23日

【出版界の動き】「TikTok」がリアル本の出版・販売に乗り出す=出版部会

◆トーハン「HONYAL」サービスを開始
 このほどトーハンは、小型書店の開業をサポートする少額取次サービス「HONYAL(ホンヤル)」を開始し受付を始めた。本の流通フローを簡略化し、少額の取引先とも持続的に取引が可能となる。書籍販売への新規参入を促進し、無書店自治体を失くす流れを作る。
 取扱いは書籍の注文品のみ、返品は仕入額の15%まで、配送は週1回。想定月商は30万〜100万円で、連帯保証人や信認金は原則不要。初期在庫費用も分割払いの相談を受ける。
 トーハンの一般的な取引書店と同じで、3000社以上の国内出版社からの商品調達が可能になる。トーハン桶川センター(埼玉・桶川市)で注文に対応し、70万点500万冊から随時ピッキング、非在庫品は出版社に発注する。トーハンの全国配送網を活用し、全国エリアに対応。一般的な書店と同程度のマージン率になるという。

◆メディアドゥ中間決算、増収増益で推移
 メディアドゥの2024年3月〜8月までの累計売上高は510億5700万円(前年同期比10.0%増)、経常利益は10億3400万円(同10.3%増)。
 2月に獲得した新規商流が業績に寄与したほか、既存商流の売上成長により電子書籍流通事業の売上高が好調に推移。またIP・ソリューション事業の利益改善が進んだ戦略投資事業において営業赤字が縮小したことで、増収増益となった。
 ジャンル別成長率は、売上の8割強を占めるコミック(前年同期比13.7%増)が、大手書店を中心としたキャンペーン展開の拡大により、メディアドゥの成長をけん引した。書籍(前年同期比8.4%増)も3月以降、書店のキャンペーン実施や好調な作品の影響により前年比で安定的に成長した。

◆ノーベル文学賞に韓国人作家のハン・ガンさん、アジア出身女性で初の受賞
 彼女は『菜食主義者』で2016年にイギリスの文学賞「ブッカー国際賞」を受賞。日本では、韓国文学を中心に手掛けてきた出版社「クオン」が同作のほか『少年が来る』『そっと静かに』『引き出しに夕方をしまっておいた』を刊行。
 河出書房新社が『すべての、白いものたちの』、晶文社が『ギリシャ語の時間』、白水社が『別れを告げない』の邦訳版を出版している。注文が殺到しているが、現在すべて品切れ中で、重版の準備に入っている。

◆長くなる本のタイトル。ネット文化の波及で「埋もれない」工夫
 本の書名が長くなっている。2023年までの直近5年間に刊行された本の上位30冊は、タイトルが平均10.3字となり、1960年代と比べ2倍近くになる。ひらがなや熟語を使った簡潔な書名の文芸書から、本文の文章とみまがうような説明調の実用書・ビジネス書の長いタイトル本へと、売れ筋が変化している。
 とりわけ大量のウェブ情報が交錯し、ネット文化が浸透する中で、埋没を避けるには本のタイトルも、訴求力のある分かりやすい説明調の書名がベストセラーを占めるようになった。人生・お金など生き方に関する言葉も増加している。たとえば最近刊では、下記の1書は典型である。
 横道誠『なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか』集英社 9/26刊

◆「TikTok」がリアル本の出版に乗り出す
 世界で10億人のユーザーがいる中国発祥の多国籍企業「TikTok」は、「#BookTok」の運営を通して、世界中から多くの動画閲覧者を集めている。米国ではそこからベストセラーも生まれている。その影響力は無視できない。
 「TikTok」の関連事業として発足した、デジタル本の出版社「8th Note Press」は、「Zando」という出版社と提携して、リアル書籍の販売を拡大していく計画だという。扱うジャンルはロマンス、ロマンチック、ヤングアダルト小説が中心。毎年10〜15冊の本をリリースする予定。
 すでにエージェント経由で契約をしている著者もいるらしく、契約では「TikTok」のインフルエンサーを使って、プロモーションを行うという。日本ではスターツ出版が「TikTok」を活用した出版の事例もあり、新しい印刷版レーベルが立ち上がるかもしれない。

◆いま子どもに人気のスターツ出版<野いちごジュニア文庫>
 若者の間で人気を集めているのが、スターツ出版(本社:東京都中央区)が刊行する<野いちごジュニア文庫>。5年間で売上高を3倍に伸ばした。もともとは2007年に立ち上げた「野いちご」という小説投稿サイトに始まる。
 会員登録をすれば誰でも無料で小説を読んだり書いたりすることができ、投稿された作品で人気の高いものは、本として刊行されるので注目が集まった。しかも子ども自身が買いたくなる本の出版を基本に運営されている。テーマの多くは「恋愛」だ。電子出版よりも紙媒体の方が人気は高い。装丁が可愛くコレクション目的で本棚に並べたくなる、そんな気持ちをかきたてるのも人気のひとつ。

◆出版労連が『早わかり教科書制度 教科書Q&A 』(改訂新版)発行
 すべての子どもたちが使う「教科書」。だが「検定」「採択」については、複雑でわかりにくい制度がたくさん。「教科書」の制度・問題点について、旧版を大幅増補改訂し、新たにデジタル教科書やQRコンテンツについても扱う。A5判28ページ。頒価:1部200円、送料:ゆうパック実費。
※申込先:出版労連 FAX03(3816)2980/メールsumi@syuppan.net
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2024年10月22日

【自民党総裁選】全候補「改憲、軍拡」に前向き 「裏金」「旧統一教会」再調査拒否=丸山 重威

 9人の候補者が揃い、まさに「メディアジャック」状況で進められている自民党総裁選は、大宣伝の中で候補全員が「改憲・軍拡」を主張、選挙を前に、自民党キャンペーンを揃い踏みした。
 もともと、総裁選は自民党内でトップをどうするか、の場。従って、政策論争はないのが当たり前で、議論をすればするほど、結果として、党全体の宣伝になる。
 だが、メディアに露出して宣伝はしたいが、都合が悪い質問には答えるなと、「国民不在」の対応を指示していた。
自民党の総裁選選管は9月4日、所属議員に対し、「各種報道機関、団体、インターネット調査等から」アンケートが寄せられる見込みだが、この種のアンケートは「投票行動に影響を与える可能性が極めて大きいことから公正・公平な運営を図るため、その対応について自粛する旨、決定いたしました」「ご理解とご協力を」と要請(9月23日「赤旗」)した。
 しかし、そんな中でも候補たちの「改憲」「裏金隠疑惑抹消」などの姿勢は隠しようもなく、報じられている。
  
「憲法改正」にはそろって前向き

 改憲問題は、岸田首相が8月7日自民党の憲法改正実現本部で「憲法改正国民投票をするなら自衛隊明記をするべきで、論点整理してほしい」と促した。9人はこれを受けて、揃って憲法改正を主張。記者会見やアンケートでは、9人全員が自民党の@9条への自衛隊明記A緊急事態条項B教育無償化C参院の合区解消―の改憲4項目に「賛成」を表明した。
 総裁選に最初に出馬表明した小林鷹之氏は、憲法審査会で議論されている緊急事態・議員任期延長案にも触れ「緊急事態条項と9条への自衛隊明記は『喫緊の課題』。早期の発議に向けて最大限の熱量で取り組む」と表明。小泉進次郎氏は「国民投票は一日も早く実施したい。国防、防衛力強化、予算増額、これは大賛成」と述べた。石破茂氏は9条2項の削除論者だが、「議論を振り出しからしても仕方がない」。
高市早苗氏が改憲論者であることは知られているが、茂木氏が「3年以内に改正を実現」、加藤勝信氏も「緊急事態条項の整備が最優先」としたほか、河野太郎氏も「なるべく早く発議へ持って行きたい」、林芳正氏も「任期中の発議したい」とした。
 
企業・団体献金殆どが禁止反対

 総裁選、最大の問題は「政治とカネ」。しかし、本質的「企業・団体献金禁止」ができるかどうかについても、賛否を明らかにしなかった石破氏以外の全ての候補が禁止には反対。裏金問題についても「再調査する」はゼロだった。
 小林氏は「企業・団体は社会で重要な役割を持っており、個人が善、企業が悪という考え方は取らない」と企業・団体献金の肯定論を展開した。 また、統一協会との関わりを「再調査するか」と聞かれ、「調査する」候補はゼロだった。
 総裁選で突然クローズアップされたのは、小泉氏が言い出した「残業時間既成を柔軟化、労働市場改革として解雇規制を見直す」。この財界に呼応した主張には、河野太郎氏が同調した。財界が求める政策では、「成長分野に思い切った投資をする」(石破氏)、「先端半導体、GXなど戦略分野への投資拡大を加速する」(茂木敏充氏)「安全性が確認された原発の再稼働、リプレース、新増設に取り組む」(小林氏)などが目立った。
 
「軍事同盟」の強化を強調

 今回の総裁選では、自民党内でも議論があるはずの 「軍拡・軍事同盟強化」についての論議がないことも目立つ。
 小泉氏は「中国、ロシア、北朝鮮といった『権威主義体制』に毅然と立ち向かうために、防衛力強化を加速する」「日米同盟をさらに協会、レベルアップしていく」。「安倍元首相の後継」を自任する高市氏も、「無人機、極超音速兵器など新たな戦争の態様にも対応できる国防体制を構築する」「非核3原則についても議論しなければいけない」。と非たりとも前のめりだ。
河野氏にいたっては、「中国等の抑止のため、日本も原子力潜水艦を配備して東シナ海から太平洋へ出るところをしっかり首根っこを押さえる戦略をとる議論をしていかなければならない」などと、「戦争」を意識したかのような発言まで飛び出している。
                  ×  ×
こうしてみると、自民党の総裁選と言っても基本政策に何の変化もなくこれを加速する単なるキャンペーンの場だったことがよくわかる。

一方、立憲民主党の代表選挙は、自民党と重なり合う感じで行われた。しかし、ここではっきりしてほしかった」「自民党との対決」については曖昧なままだった。
 野田佳彦、泉健太、枝野幸男、吉田晴美の4候補のうち、自民党との対決をはっきりさせたのは、結局、新人の吉田氏だけ。ここでも問題を残したが、新代表には、、野田氏が、代表選投票の結果、就任した。 
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月21日

【原発・エネルギー政策各党比較】国際環境NGO「FoE Japan」が公表=橋詰雅博

 「FoE Japan」は世界73ヵ国のネットワークを有する国際環境NGOです。10月27日の衆議院議員選挙投開票に向けて「原発・エネルギー」に関して各党のマニフェストを比較してみました。
 改めて読み比べてみると、いろいろと発見が…。原発の再稼働、新増設、核燃料サイクルなどについては予測がつきますが、原発の民間企業の責任を「有限化」したり、福島県の甲状腺がんの縮小をマニフェストに書き込んでいる政党もあります。原発事故対応についても各党のトーンはさまざまです。
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 自民 再稼働を進める/次世代革新炉の建設/核燃料サイクル推進
 
 立憲 2050年までのできるだけ早い時期に原発ゼロ/新増設は行わない/原発に頼らない地域経済の確立
 
 維新 早期再稼働/審査の効率化/民間の責任を有限化/甲状腺検査の縮小
 
 公明 再稼働を認める/将来的に脱原発 (新増設については記載なし)
 
 共産 2030年度に原発ゼロ/新増設は認めない/核燃料サイクルからは直ちに撤退
 
 国民 早期再稼働/審査の効率化/次世代革新炉の開発・建設
 
 れいわ 即時廃止/「廃炉ニューディール」で立地自治体の「公正な移行」を実現する
 
 社民 2030年までに原発ゼロ/汚染水の海洋放出の中止/被災者・避難者の十分な生活保障
 
 参政 既存原発の活用/次世代原発の推進

        以下にまとめました。ぜひご一読ください。
       https://foejapan.org/issue/staffblog/2024/10/18/staffblog-20830/
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2024年10月20日

【おすすめ本】安田浩一『地震と虐殺 1923-2023』─日本社会に巣くう差別意識を炙り出す=森 達也(作家)

 予想はしていたけれど関東大震災から101年となる今年も、小池東京都知事は理不尽に殺害された朝鮮人たちへの追悼文を送らなかった。その理由について小池都知事は「(犠牲となった)全ての方々に対して哀悼の意を表している」「何が明白な事実かについては歴史家がひもとくものだ」などと、テンプレのように答えている。
 だが本書で安田が指摘するように、災害で亡くなった命と暴徒となった人たちによって殺された命を、一括りにすべきではないし、裁判資料や公式文書は数多くある。平安時代や室町時代の話ではない。歴史家が出る幕ではないのだ。

 小池都知事に象徴される「史実を否定する人たち」に共通する要素は、「人を殺すような人たちは残虐で冷酷」との思い込みだ。その認識はあまりに浅い。多くの日本人が多くの朝鮮人を殺戮した事実から、僕らが身に刻むべき教訓は「多くの日本人は凶暴だった」ではなく「人はそれほどに多面的な生きものだ」と気づくことだ。状況によって紳士淑女にもケダモノにもなる。
 ならば朝鮮人虐殺を誘発した状況とは何か。安田はその要因を本書で示す。震災時における混乱だけではない。もっと前から日本社会に胚胎していたその「何か」は、現在進行形で今も脈動し続けている。

 安田は闘う作家だ。主要メディアの記者たちが自縄自縛する「公正中立幻想」には目もくれず、 ひたすら主観的に(結果的には公正に)日本社会に巣くう差別意識を炙り出し読者に突き付ける。(中央公論新社3600円)
 
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2024年10月18日

【JCJオンライン講演会】「カザフスタンの核被害と日本」講師:小山 美砂さん(ジャーナリスト、『「黒い雨」訴訟』集英社新書 23年度JCJ賞受賞)10月26日(土)午後2時から4時 

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■開催趣旨:これまでに73カ国が批准した核兵器禁止条約(TPNW)の第3回締約国会議は、ニューヨークの国連本部で来年3月に開かれる。議長国は中央アジアのカザフスタン(人口約1960万)。旧ソ連による核実験の被害国のカザフスタンは、TPNWの6条と7条に定められた被害者への援助と汚染地域の環境改善など積極的に取り組んでいる。
 これに先立ちTPNW締約国や市民団体代表らが8月に首都アスタナに集まり、被害者援助に関する作業グループ会議を実施した。またICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が主催した世界の核被害者らが集まった「核被害者フォーラム」も開かれた。

 第3回締約国会議を日本社会でも盛り上げようと新発足した「核禁条約をすすめるヒロシマ・カザフスタン実行委員会」のメンバーでジャーナリスト・小山美砂氏(JCJ会員、『「黒い雨」訴訟』で23年度JCJ賞受賞)らは、9月にカザフスタン入りし、核被害の実態や被害者へのサポート態勢などを取材した。折しも日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノールベル平和賞を受賞した。核兵器反対の団体としてICANに続く受賞だ。
小山氏が現地報告と、唯一の戦争被爆国の日本は何ができるかなどを語る。

■講演者プロフィール:小山 美砂(こやま・みさ)
1994年生まれ。2017年に毎日新聞へ入社後、希望した広島支局に配属。被爆者や原発関連訴訟、広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びた被害者への取材に取り組む。2022年7月、「黒い雨被爆者」が切り捨てられてきた戦後を記録した初のノンフィクション『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)を刊行。同書にて「日本ジャーナリスト会議」が優れたジャーナリズム活動・作品を懸賞する第66回JCJ賞を受賞した。大阪社会部を経て2023年からフリー。広島市在住。女性記者たちでつくる新しいニュースメディア「生活ニュースコモンズ」にも参加中。趣味は焚き火と料理とお酒。

※小山美砂さんnote:https://note.com/s__mallmount/

■zoomにてオンライン 、見逃し視聴用記録動画の配信有り)
■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline1026.peatix.com)で参加費をお支払いください。
(JCJ会員は参加費無料・先着100名の定員となります)
■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272-9781(月水金の13時から17時まで)
      https://jcj.gr.jp/
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2024年10月17日

【JCJ8月集会B】第2シンポ 最後の砦としての平和憲法 久道 メディアに携わる責任問う 大森=鈴木 賀津彦  

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 第2部のシンポジウムでは、『ラジオと戦争 放送人たちの「報国」』(NHK出版)の著者、大森淳郎さんと、若者の政治参加に積極的に取り組む若手弁護士、久道瑛未さんが加わり「軍拡の動きに、私たちはどう対応するか」をテーマに議論した。

 大森さんは、1925年登場したラジオ放送に携わった人々が戦争の拡大をどう捉え、どう報じたのか、また報じなかったのかを、丁寧に検証したことを紹介。記者、ディレクター、アナウンサーなどの放送人たちが遺した証言や記録、NHKに遺された資料などから、戦時放送の中でも国策にただ従うだけではなく、自ら「何ができるか」を悩み、模索していた出来事ピックアップし、現在の状況と比較ながら解説した。軍拡の宣伝者の役割を押し付けられる中で、メディアに携わる者がどう考え行動できるのか、検証を踏まえて今の状況に向き合う放送人への責任を問いかけた。

 久道さんは、2022年12月の安保3文書(敵基地攻撃能力保有)の閣議決定以降、政府の法律改正は日本が戦争をするために行われている現実をまとめ、それに抵抗する手段としての憲法の役割がいかに重要かを強調した。23年には「大学・学問への介入」のために国立大学法人法を改正、24年の防衛装備移転3原則改訂(次期戦闘機輸出)、特定利用空港の指定、重要経済安保法成立、地方自治法改正などのほか、議員任期延長を可能とするための憲法改正の動きなど、全てが戦争準備のための法律・制度を整えてきている日本の現状を報告した。

「最後の砦としての平和憲法・憲法9条」の重要性を訴え、対中・対米外交の在り方についても「台湾有事への平和憲法に基づく対抗言論、平和国家だからこそ果たせる役割を探る」ことが必要だと述べた。そのうえで、若い世代の意識に訴えていく形として、久道さんが取り組んでいる「石垣島住民投票」の権利を問う裁判など「CALL4」(社会問題の解決を目指す訴訟<公共訴訟>)の活動などを紹介し、若者が社会的なアクションに動き続け広げていることの展望を示した。
            JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号

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2024年10月16日

【JCJ8月集会A】抑止力神話から脱却を アジア外交と多国主義で 川崎 哲氏講演=須貝道雄

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 若い世代に今、戦争を防ぐには「抑止力」を強化するしか道はないというあきらめが広がっている気がする。ウクライナやガザでの戦争を目にすれば、国連や国際法も頼りにならない。やはり軍事力を持つしかないと思うのも自然だろう。その点は理解しつつ「でも、それでいいのか」と対話していくことが大切になっている。

戦略の真剣度疑問

 政府が「安保3文書」を出した2022年12月に私と青井未帆さん(学習院大学教授)が共同座長で平和構想提言会議を開いた。そこでの提言のポイントは「抑止力」で戦争は防げない、別の形で防がなければならないということだった。「抑止力神話」から脱却し、日本国憲法の基本原則に立ち返る。「日米同盟」一辺倒から脱し、アジア外交と多国主義の強化を図らなければならないと述べた。

 「安保3文書」の国家安全保障戦略をよく読むと「抑止力」と「対処力」の強化が言われている。そして「抑止力」が破れたら「対処」するとしている。「対処」とは要するに戦争のことだ。「万が一、我が国に脅威が及ぶ場合も、これを阻止・排除し、かつ被害を最小化させつつ、我が国の国益を守る上で有利な形で終結させる」と文書にはある。
 戦争を「終結させる」というが、いったいどのようにしてできるのか。ウクライナやガザで起きていることを考えると、本当に真剣に、真面目に事態を想定して議論しているとは私には思えない。「対処」の内容や問題点について政治家も発言しないし、マスコミも報道しない。大きな問題だと思う。
 
 軍事力ではなぜ平和をつくれないか、5つの理由がある。第1は軍拡競争が危機を加速させるからだ。先日、安全保障関係の学者の皆さんと話したとき、口々に「中国が先にやっているのだから日本も少しくらい軍拡をしてもいいのでは」と言っていた。だが相手も同じことを考え軍拡をしているわけで、作用・反作用で両方とも危機に陥る。
 第2の理由は軍拡が資源と機会を奪うからだ。政府は軍拡による増税をぼやかしているが、5年で43兆円を使えば日本の軍事費は世界3〜5位になる。国連のSDGs(持続可能な開発目標)達成にマイナスだ。

「抑止力」脅しでは

 第3に、抑止力は「武力による威嚇」ではないのかということだ。きわめて脅しに近い。英語の語源から見てテロリズムと親和性がある。国連憲章や今日の文明に照らし、このような行為で国際秩序を成立させるのはどうかという問題がある。
 軍事がもたらす害悪
 第4に、軍事は人権と民主主義を脅かす。管理・監視の強化と秘密主義の横行へとつながる。第5は、軍事力は問題を解決しない。米国の「対テロ戦争」は何をもたらしたか。日本は戦後80年たっても周辺諸国との和解ができず、国際関係を不安定にしている。
私たちは軍事ではない他の方法を探らなければならない。毅然としてそう言い続ける必要がある。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
      
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2024年10月15日

【JCJ8月集会@】軍拡の動きに抗う一歩=古川英一

 来年は戦後80年、私たちは戦争の犠牲の末に築かれた「平和」を守り、次の世代に引き継いでいけるのだろうか。集団的自衛権の事実上の容認、敵基攻撃能力の保持と防衛費の増額、この10年、軍拡へとひた走る政府の動きに、どう抗っていくのか。
 こうした問題意識で5年ぶりにJCJが開いたのが8月17日の8月集会だ。
 集会では、全体の問題提起という形で核兵器廃絶国際キャンペーンの国際運営委員・会長でピースボートの共同代表の川崎哲さんが基調講演を行った。続いて元NHKディレクターの大森淳郎さん、若手弁護士の久道瑛未さんを交えてシンポジウムで、いま私たち、メディアに関わる人や市民がこの状況にどのように対抗していくのかについて意見を交わした。(詳細は次号と次々号)

 また今回の集会に合わせてJCJでは会員や支部、市民にメッセージを呼びかけ、8つの支部と29人から届いた。メッセージは冊子にして会場で配布するとともにスクリーンにも映し出された。「私たちは命を守り、平和をつくっていくためにペンを取るのだと今こそ再認識したいと思う」「十分に生かしていない『世界の宝・憲法9条』を声を大にして活用しよう」メッセージにはそれぞれの思いがこめられ、ずしりと重い。

 最後に集会アピールが読み上げられた。アピールでは「現在のメディアは、権力を見つめ厳しく監視し、政府が隠そうとしていることを明らかにして伝えていくという本来の役割を十分に果たしているとは言えません。」とした上で「私たちはいま日本や世界で起きている「現実」への想像力を働かせ「歴史」から学ぶことによって、政府が着々と進めている軍備拡大、『戦争のできる国』への転換に対して抗っていきます。私たちが誇る憲法をもとに「戦争の準備」ではなく「平和の構築」を目指して。」と結んだ。アピールは大きな拍手で採択され、JCJの戦後80年へ向けたストップ軍拡のキャンペーンのスタートを後押しする形になった。集会はエデュカス東京の会場の参加者が71人、オンラインの視聴者は66人だった。
 JCJでは12月にも集会を開き、なぜ戦争を止められなかったかなどについても過去から学び考えていきたい。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月14日

【日韓学生フォーラム】幌加内で現代史学ぶ ダム工事の犠牲者追悼=古川英一

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 日韓の学生、若手記者らが現場を歩く9回目の日韓学生フォーラムは8月下旬の北海道、札幌から北へバスで4時間あまり。車窓に広大な青空と小さな花を咲かせているそば畑が広がる幌加内町の人造湖・朱朱鞠湖を訪れた。

 今は観光スポットの湖は戦時中に雨竜ダムがつくられた工事で210人が犠牲になった。うちの45人は朝鮮半島からの人で、その多くが強制連行された人たちとされる。
 隣の深川市の住職、殿平義彦さんたちのグループは、今から30年近く前、朱鞠内で遺骨の発掘を始め、後に日韓などの学生も参加して2001年までに合わせて23人分を発掘した。
「かつてあたり前の言葉として使われていた『強制連行・強制労働』を今、マスコミはほとんど使わない。報道が政治的状況、権力者の意向で変わってしまう。」殿平さんの指摘が響く、共同墓地で、フォーラム参会者25人は墓標に手を合わせた=写真=。 

 朱鞠内にはもう一つの碑がある。1959年、同地の小学校で人形劇を披露していた深川西高校のボランティアサークル「あゆみ会」の活動を北海道新聞が「共産党の触手が伸びている」など、事実ではない報道をし、リーダーの2年の生徒が抗議の自殺をした事件の慰霊碑だ。
 道新OBでJCJ北海道支部代表委員の高田正基さんは碑前で「学生は激しい新聞批判を残して亡くなった。だが道新は1人の若者を死に追いやった責任は取っていない。新聞記事は人を殺すことも救うこともできる」とメディアの責任の大きさを訴えた。

 九州から参加した学生は「今の学生はSNSばかりだか、現場に行ってみることの大切さがわかった」と話した。また韓国からの参加者も「現場で学び、僕ら若者が次の世代につないで行きたい」と語った。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月13日

【おすすめ本】加藤 久晴『異様!テレビの自衛隊迎合ー元テレビマンの覚書』―自衛隊宣伝に手を貸すな  テレビの現場から警鐘 =岩崎貞明(ジャーナリスト)

 最新鋭の艦船、超音速で飛行する戦闘機、過酷な訓練で鍛え上げた制服姿の隊員たち…派手でカッコよく見える番組の背景に、いったい何があるのか。NHK・民放を問わず、やたらと目につくようになったテレビの「自衛隊番組」を徹底的に批判したのが本書だ。

 テレビが自衛隊を番組に取り上げようとする動機はいくつかある。@戦争映画のような迫力のある映像を作れるA防衛省に協力してもらえば制作予算がかからないBインパクトの強い映像で視聴率が期待できる――。一方、防衛省サイドにとってもメリットは小さくない。@広告費をかけずにテレビに露出できるA全面協力のパブリシティー番組だから自衛隊批判が出てこないB多くの視聴者に自衛隊の存在を見映え良くアピールできる…。

 ウクライナで、ガザ地区で、多数の罪なき人々が戦争によって生命・財産を容赦なく奪われている今、テレビが軍事訓練を無批判に電波に載せ、安易な自衛隊宣伝に手を貸していいのか? テレビドキュメンタリーのディレクターを長年務めた著者が、ジャーナリズムとしての放送のあり方を鋭く問いかけている。

 労組の取り組みも重要だ。民放労連の呼びかけで市民に反対の声が広がって放送中止となった日本テレビの『列外一名』や、会社がスポンサーの意向で放送中止とした番組に対して労組や市民が上映運動を展開したRKB毎日の『ひとりっ子』など、歴史的な事例も豊富に取り上げられる。
 戦争の悲劇を繰り返さないために、テレビは何ができるのか――著者の姿勢は一貫している。(新日本出版社1800円)
             
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2024年10月12日

【シンポジウム】日米関係の諸問題集約 米兵事件めぐり、JCJ沖縄と沖縄大学共催 情報コントロールは警察庁と官邸=米倉外昭

                       
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           シンポに参加した青木理さん(左)と金城正洋さん  

 JCJ沖縄は7日、那覇市の沖縄大学で、同大と共催で公開シンポジウム「米兵事件はなぜ隠されたのか―見えない壁の正体」を開催した。昨年12月に発生し、今年6月まで隠ぺいされていた米兵による16歳未満の少女への性暴力事件を巡って、なぜ半年間も隠ぺいされたのかに迫った。オンラインと合わせて約300人が参加した。

 シンポはJCJ沖縄世話人の黒島美奈子さんの進行で、事件を最初に報じた琉球朝日放送の、当日のデスクだった金城正洋さんが、報道に至る経緯を報告した。
 6月23日の沖縄戦慰霊の日の翌日24日、担当記者が地裁の期日簿のチェックをして事件を知り、25日に起訴状の開示を受け、昼ニュースで報じた。すぐに各社が速報に動き、半年間の隠ぺいへの怒りが広がっていった。
 金城さんは、県民の知る権利のために働くメディアとして、ルーティンをしっかりこなし、問題意識を研ぎ澄ましていることの重要性を指摘した。

 県警や政府が隠ぺいの理由にした被害者のプライバシーについて「報道する側は常に最大限の配慮をしている。被害者はケアされ、加害者は罰せられないといけない」と隠ぺいの問題点を指摘し、人権に最大限に配慮しながら知る権利を行使する重要性を強調した。
 続いてジャーナリストの青木理さんが近年の警察と政治の関係について話した。3人の内閣官房副長官の官僚から起用される1人が、安倍政権では公安警察出身の人物が長年権勢を振るい、岸田政権になっても構図は変わっていないと指摘した。

「警察はあらゆる情報を持っているので、政治にとって便利だ。警察は政治と一体化し、この間、特定秘密保護法などの治安法を次々と手に入れた」と説明した。そして、推測だとしたうえで「米兵事件の情報は警察庁、官邸でコントロールされているのではないか」と指摘した。

 黒島さんは、この30年の沖縄の米兵の性犯罪を巡る報道を調べた結果を紹介した。辺野古新基地問題を巡って沖縄県政と政府の関係が険しくなった2017年ごろから米兵事件が広報されなくなり、広報されても発生から時間がたっているケースがあった。
 青木さんは「この事件には日米関係のいろんな問題が凝縮している」と述べた上で、地位協定が改定できない背景として日本の人質司法などの問題も考えるべきだとした。

        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
   
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