2024年10月05日

【おすすめ本】船津 靖『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』―「特別な関係」を深掘り 白眉は米キリスト教の影響力を分析=池田 明史(前東洋英和女学院学長)

  1980年代だったか、「ユダヤがわかれば世界が見えてくる」というタイトルのトンデモ本がベストセラーとなって、国際的に物議を醸したことがあった。その後もユダヤ人問題やイスラエル国家に関する日本人の無知蒙昧が世界中に晒された。

 これら偏見に満ちた極彩色の世迷言とは次元が異なるが、最近でも長崎での平和記念式典にイスラエル大使が招待されず、これに反発した米英など西側主要国大使も事実上式典をボイコットした。日本人の多くは、これを過剰反応とか政治利用とみなしたようだが、こうした解釈そのものが、欧米における反ユダヤ主義の位置づけやイスラエルの取り扱いの難しさをいまだに理解していない事実を物語っているように思われる。

 一筋縄ではいかないこのような欧米、とりわけアメリカとイスラエルとの「特別な関係」を歴史的・政治的・文化的に俯瞰し、また中軸部分は深く掘り下げて解明しようとするのが本書である。従来この関係は、冷戦時代にはソ連・東側陣営を、ポスト冷戦期にはイスラム過激派を、両国がそれぞれ敵として共有してきたこと、両国ともに移民国家であって辺境開拓のフロンティア精神への憧憬で繋がっていること、などで説明されることが多かった。

 しかし筆者は、説明の主軸をユダヤ=キリスト教的伝統、すなわち聖書に求める。なかでも、アメリカのキリスト教の流れを跡付け、その変遷において台頭してきた福音派やキリスト教シオニズムの信条や理路、そしてそのアメリカ政治への影響の分析は明快で、まさに本書の白眉と言えよう。
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posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする