2024年10月07日

【Bookガイド】10月に刊行の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)。

◆川端美季『風呂と愛国─「清潔な国民」はいかに生まれたか』 NHK出版新書 10/10刊 980円
 私たち日本人が「毎日風呂に入り、お湯に浸かるのは当たり前」という意識や習慣は、いったいどこからきたのか。「日本人は風呂好き」のルーツを、江戸時代の入浴習慣や「清潔な国民」を育てるため衛生指導、さらには国民道徳としての身体・精神の「潔白性」強調など、入浴を通して見えてくる「衛生と統治」のカラクリを、立命館大学准教授(専攻・公衆衛生史)の著者が日本の近代史を通して考察するユニークな新書。
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◆日向咲嗣『「黒塗り公文書」の闇を暴く』朝日新書 10/11刊 900円
 モリカケ、桜を見る会など、解明のための資料請求に、政府は「黒塗り公文書」を平気で出してきた。その悪習がいまや地方自治の現場でも行われるようになった。公文書が黒塗りで情報開示される事態が多発している。市民が開示を求めた情報を、どうして行政は黒塗りにするのか、なぜ許されるのか?黒塗りで隠された官民連携の実態に迫る! 著者は数々の地方自治体に情報開示請求を行い、公文書の闇に迫る活動を続けるジャーナリスト。
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◆原武史『象徴天皇の実像─「昭和天皇拝謁記」を読む』岩波新書 10/21刊 960円
 昭和天皇と側近たちとの詳細なやり取りを記録した「昭和天皇拝謁(はいえつ)記」。政局や社会情勢、戦争について饒舌に語る昭和天皇の等身大の姿が浮かび上がる。歴史上はじめて象徴天皇となった人物の言動は、どんな内容だったのか。私たちにとって「象徴」とは何なのか。日本政治思想史を専攻する著者が、新聞記者の現役時に昭和天皇の最晩年を取材、その後も昭和天皇について研究を重ね、その成果の上に論考する。
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◆鈴木俊幸 『蔦屋重三郎』平凡社新書 10/21刊 1000円
 来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公─蔦屋重三郎とはどんな人物か。江戸吉原の人気ガイドブック『吉原細見』を独占出版し、続いて狂歌と浮世絵を合体させた豪華な狂歌絵本の刊行、山東京伝らによる戯作を出版、歌麿や写楽などを見出し、大成功をおさめた。この名プロヂューサー「蔦重」がもたらした文化的な影響を軸として、蔦屋重三郎という人物を浮き彫りにする書き下ろし。著者は中央大学文学部教授で近世文学・書籍文化史を専攻。
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◆ニュースサイトハンター編『追跡・鹿児島県警 闇を暴け!』南方新社 10/25刊 1800円
 今年6月、鹿児島県警は2件の内部告発を機に、県警本部長の隠蔽疑惑、内部告発者の逮捕、報道機関への強制捜査など、底なしの闇が暴かれた。本書の編者・ニュースサイトハンターは、福岡市を拠点に政治・行政に特化した記事を配信している。そこへ鹿児島県警は家宅捜索に入り、公益通報を単なる情報漏洩にすり替えようとした。この事態の詳細と鹿児島県警の闇を、徹底的に調べ告発する本書は、ジャーナリストはもちろん一般市民の必読書。
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posted by JCJ at 16:06 | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【寄稿】強まる政治圧力、揺れるNHK、中国人スタッフ生ニュース発言 国際担当理事 引責辞任、行政指導も=長井 暁氏

 8月19日の午後1時過ぎにNHKラジオ国際などで生放送された中国語ニュースで、中国人のスタッフがニュース原稿にない内容を発言した問題は、ついに国際放送担当理事の引責辞任、総務省によるNHKへの行政指導という事態に発展した。
問題矮小化で
傷広をげる
 NHKは放送当日、直ちに報道資料を公表し、ニュースウオッチ9でも伝えた。しかし、問題を「不適切発言」とし、内容も尖閣諸島を「中国の領土である」と発言したことに限定して公表した。
 いつものように問題を矮小化し、NHKの責任を小さく見せようとしたのである。
視聴者からも
抜け落ち指摘
 しかし、この問題は政治家の激しい批判に晒された。
 8月22日に自民党の情報通信戦略調査会での説明を求められると、NHKは発言内容に「(中国語で)釣魚島と付属の島は古来より中国の領土です。NHKの歴史修正主義とプロフェッショナルではない業務に抗議します。(英語で)南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」という内容があったことを公表し、稲葉会長が謝罪した。

 議員からは「非常に深刻な問題だ」「重大な違反行為だ」などの厳しい発言が相次いだ。さらに視聴者からの指摘で、「歴史修正主義」の後に「宣伝」という言葉があったこと、「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」も抜け落ちていたことが明らかになった。
異常な内容の
謝罪番組放送
 政治への対応に追われていたNHKは、8月26日の午後5時50分から5分間の謝罪番組を総合テレビで放送した。
 この番組ではNHKが定めた「国際番組基準に抵触するなど、NHKが放送法で定められた責務を適切に果たせなかったという、極めて深刻な事態であり、深くお詫び申し上げます」というフレーズを3回も繰り返すという異常な内容だった。

 さらに、中国人スタッフは慰安婦について「性奴隷」と発言したことについて、この表現は「事実に反するので使用すべきでない」、慰安婦問題は、「韓国政府との間で、両国間で解決済みである」とする日本政府の公式見解を、何の解説も付けず、あたかも客観的な事実であるかのように放送した。
 「性奴隷」という言葉は国連人権委員会などの報告書などでも一般的に使われており、「事実に反する」とは言えないし、韓国政府との間で解決済みだとしても、慰安婦問題が全て解決済みとする見解には無理がある。
報道資料にも
政府への忖度
 この謝罪番組は、発言内容に激しく反発する政治家に対応するために放送したものにしか見えない。NHKが8月28日に公表した報道資料には、「安全保障の観点への意識が欠けていた」との言葉を盛り込まれた。これは政府への配慮だろう。
 NHKの国際放送は国が一部負担し、総務大臣は「国の重要な政策」などの事項について、国際放送を行うことを要請することができると定められている。しかし、その際にもNHKの「番組編集の自由に配慮する」ことが明記されている。NHKも「自主的な編集のもと国際放送をおこなっている」と説明している。
公正な批判と
見解はどこに
 「国の重要な政策」を放送するにしても、「公正な批判と見解」のもとに伝えないのであれば、それは戦前戦中の対外宣伝放送と同様なものになってしまうだろう。そのような国際放送が、「わが国に対する正しい理解」と「国際親善の増進」に役に立つとは思えない。
 NHKには自主自律を堅持して、公共放送の使命を果たしてもらいたい。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 寄稿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする