この夏の戦争関連番組で特に注目したものを振り返りたい。まずNHKスペシャルから3作。
『新・ドキュメント太平洋戦争1944 絶望の空の下で』は、市民の犠牲が急増したこの年を、サイパン島で両親を米軍の銃撃で喪いながらも奇跡的に生き延びた少女の手記や、武蔵野の中島飛行機の工場への爆撃で亡くなった少女の遺した日誌などから描いた。
『“最後の一人を殺すまで”〜サイパン戦 発掘・米軍録音記録〜』は、米軍が録音したサイパン戦の米兵の肉声を発掘、初めて日本の民間人と対峙した戦場で、投降を呼びかけても応じない日本人住民に米軍が猜疑心を募らせ、住民保護から殺戮へと転換してゆく過程を克明に描いた。
『“一億特攻”への道〜隊員4000人 生と死の記録〜』は、15年間特攻を取材し続けてきた大島隆之ディレクターが、隊員約四千人のデータ、隊員の選別基準を記す極秘資料などから、「一億特攻」が叫ばれる過程を明らかにした。軍とメディアのプロパガンダによって「特攻をしている間は負けない」という国民的熱狂が作り出され、戦争への批判が抑え込まれた構造が分かった。
戦時中日本軍は、都市空襲の際に捕えた米機の搭乗員を、国際法違反の無差別爆撃を行った戦争犯罪人として軍律会議で裁き、処刑した。敗戦後横浜で開かれたBC級戦犯裁判では、米兵を裁いた日本の法務官たちが逆に捕虜殺害の罪で裁かれた。『ETV特集 無差別爆撃を問う〜弁護士たちのBC級横浜裁判〜』は、神奈川県弁護士会による裁判記録の再検証に密着、名古屋空襲、台湾空襲、広島・長崎の3例を通して、今なお続く無差別爆撃と、それを違法化する国際法とのせめぎあいを浮き彫りにした。
NHK・BSで目を惹いたのが、『英雄たちの選択 昭和の選択』2本。『戦争なき世界へ〜国際司法の長・安達峰一郎の葛藤〜』は、国際連盟の下で創設された常設国際司法裁判所で1931年に初のアジア人所長となった安達峰一郎を取り上げ、満州事変の扱いを巡る安達の葛藤を紹介した。『敗戦国日本の決断〜マッカーサー「直接軍政」の危機〜』は、降伏文書調印直後、進駐軍が「直接軍政」「軍票の使用」などを布告しようとし、これを知った岡崎勝男、鈴木九萬ら外務官僚が土壇場で進駐軍幹部に中止を働きかけたという知られざる史実を取り上げた。間接統治体制が決まった過程から、今に至る戦後日本の「原形」を改めて考えさせられた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号