最新鋭の艦船、超音速で飛行する戦闘機、過酷な訓練で鍛え上げた制服姿の隊員たち…派手でカッコよく見える番組の背景に、いったい何があるのか。NHK・民放を問わず、やたらと目につくようになったテレビの「自衛隊番組」を徹底的に批判したのが本書だ。
テレビが自衛隊を番組に取り上げようとする動機はいくつかある。@戦争映画のような迫力のある映像を作れるA防衛省に協力してもらえば制作予算がかからないBインパクトの強い映像で視聴率が期待できる――。一方、防衛省サイドにとってもメリットは小さくない。@広告費をかけずにテレビに露出できるA全面協力のパブリシティー番組だから自衛隊批判が出てこないB多くの視聴者に自衛隊の存在を見映え良くアピールできる…。
ウクライナで、ガザ地区で、多数の罪なき人々が戦争によって生命・財産を容赦なく奪われている今、テレビが軍事訓練を無批判に電波に載せ、安易な自衛隊宣伝に手を貸していいのか? テレビドキュメンタリーのディレクターを長年務めた著者が、ジャーナリズムとしての放送のあり方を鋭く問いかけている。
労組の取り組みも重要だ。民放労連の呼びかけで市民に反対の声が広がって放送中止となった日本テレビの『列外一名』や、会社がスポンサーの意向で放送中止とした番組に対して労組や市民が上映運動を展開したRKB毎日の『ひとりっ子』など、歴史的な事例も豊富に取り上げられる。
戦争の悲劇を繰り返さないために、テレビは何ができるのか――著者の姿勢は一貫している。(新日本出版社1800円)