2024年10月16日

【JCJ8月集会A】抑止力神話から脱却を アジア外交と多国主義で 川崎 哲氏講演=須貝道雄

8面・川崎講演写真_IMG_8019.jpg

 若い世代に今、戦争を防ぐには「抑止力」を強化するしか道はないというあきらめが広がっている気がする。ウクライナやガザでの戦争を目にすれば、国連や国際法も頼りにならない。やはり軍事力を持つしかないと思うのも自然だろう。その点は理解しつつ「でも、それでいいのか」と対話していくことが大切になっている。

戦略の真剣度疑問

 政府が「安保3文書」を出した2022年12月に私と青井未帆さん(学習院大学教授)が共同座長で平和構想提言会議を開いた。そこでの提言のポイントは「抑止力」で戦争は防げない、別の形で防がなければならないということだった。「抑止力神話」から脱却し、日本国憲法の基本原則に立ち返る。「日米同盟」一辺倒から脱し、アジア外交と多国主義の強化を図らなければならないと述べた。

 「安保3文書」の国家安全保障戦略をよく読むと「抑止力」と「対処力」の強化が言われている。そして「抑止力」が破れたら「対処」するとしている。「対処」とは要するに戦争のことだ。「万が一、我が国に脅威が及ぶ場合も、これを阻止・排除し、かつ被害を最小化させつつ、我が国の国益を守る上で有利な形で終結させる」と文書にはある。
 戦争を「終結させる」というが、いったいどのようにしてできるのか。ウクライナやガザで起きていることを考えると、本当に真剣に、真面目に事態を想定して議論しているとは私には思えない。「対処」の内容や問題点について政治家も発言しないし、マスコミも報道しない。大きな問題だと思う。
 
 軍事力ではなぜ平和をつくれないか、5つの理由がある。第1は軍拡競争が危機を加速させるからだ。先日、安全保障関係の学者の皆さんと話したとき、口々に「中国が先にやっているのだから日本も少しくらい軍拡をしてもいいのでは」と言っていた。だが相手も同じことを考え軍拡をしているわけで、作用・反作用で両方とも危機に陥る。
 第2の理由は軍拡が資源と機会を奪うからだ。政府は軍拡による増税をぼやかしているが、5年で43兆円を使えば日本の軍事費は世界3〜5位になる。国連のSDGs(持続可能な開発目標)達成にマイナスだ。

「抑止力」脅しでは

 第3に、抑止力は「武力による威嚇」ではないのかということだ。きわめて脅しに近い。英語の語源から見てテロリズムと親和性がある。国連憲章や今日の文明に照らし、このような行為で国際秩序を成立させるのはどうかという問題がある。
 軍事がもたらす害悪
 第4に、軍事は人権と民主主義を脅かす。管理・監視の強化と秘密主義の横行へとつながる。第5は、軍事力は問題を解決しない。米国の「対テロ戦争」は何をもたらしたか。日本は戦後80年たっても周辺諸国との和解ができず、国際関係を不安定にしている。
私たちは軍事ではない他の方法を探らなければならない。毅然としてそう言い続ける必要がある。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
      
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