2024年10月30日

【映画の鏡】一人ひとりの人生 丹念に記録『ガザからの報告』取材歴30年 過去と現在継ぐ=鈴木 賀津彦

               
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                 DOI Toshikuni 2024
  パレスチナ取材歴30数年の土井敏邦監督がガザに生きる人たちの本音を丹念に捉えた「渾身のレポート」だ。本作を観れば、多くのメディアが伝える「イスラエル対ハマス」「イスラエル対パレスチナ」の二項対立で単純化して捉えることがいかに不十分な情勢認識か気付かされ、再度「過去の原点」に立ち返る大切さが理解できよう。

 第1部「ある家族の25年」(120分)は故郷を追われガザ最大の難民キャンプ「ジャバリア」に暮らすエルアクラ家の生活に密着、第2部「民衆とハマス」(85分)はガザ攻撃で住民がどんな状況にあるのかを、ネットで土井監督に報告してくる現地のジャーナリストMらの命がけの“生の声”を伝える、合計205分の大作だ。
 一つの家族を25年も追い続けた土井監督は「等身大・固有名詞の人間の姿・日常生活」をきちんと描くことで、「現地の人々が私たちと“同じ人間”であることを伝える」狙いだと説明。単に「死者4万人超」という数字で分かったつもりになるのではなく、「私たち同じ人間の一人ひとりの死の痛み、悲しさの4万倍超なのだ」という認識に変わり、遠いガザの事態を日本の私たちに引き寄せられると確信していると、込めた思いを語る。

 第2部で紹介される知り合いのジャーナリストMの現地報告は、昨年10月下旬以降、今もずっと続いているという。「Mが伝えてきた“生の声”を受け取った私には、それをきちんと世界に向けて伝える責務がある」と話す土井監督は7月に岩波ブックレットで同名の著作も出版している。26日から東京・K’cinemaほか全国順次公開。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする