ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)。
◆藤原 聡『姉と弟─捏造の闇「袴田事件」の58年』岩波書店 11/8刊 2000円
袴田巖が真の自由の身になる時がきた。無実の弟を支えた姉とのエピソードを軸に、警察の「捏造」、死刑判決を出した裁判所の内側など、世紀の冤罪事件の全貌に迫る。寡黙な元ボクサーを精神の破綻に追い込んだ責任はどこにあるのか。献身的に支え続けた姉ひで子と弟の人生を重ね合わせながら、世紀の冤罪事件の全貌に迫る。共同通信社編集委員の著者が執筆し、全国の新聞社に配信された連載記事を加筆して刊行。
◆織田 忍『山谷をめぐる旅』新評論 11/11刊 2400円
日雇い労働者の街・東京「山谷」。だが1966年に「山谷」の名が消され、今は地図にもない。ドヤは一気にマンションへと建て替えられ、ここ数年で風景が一変した。その間、訪問看護師として働きながら、この街の「生と死」を見つめ続けてきた著者が、詳細に綴る同時代記録。移り変わる街の歴史とありのままの現在、生きづらさや孤独感でつながるこの街で生活してきた人々の、闘いと願いが鮮やかに描かれる。写真約120点収録。
◆岸本聡子『杉並は止まらない』地平社 11/12刊 1600円
全国から注目を集める東京・杉並区長・岸本聡子。<民主主義をアップデートする>をスローガンに、住民自治の再生、市場原理主義に対抗する公共サービスの拡充に向け、さまざまな壁にぶつかりながらも、住民と一緒に前進してきた2年間の闘いを報告。著者は20代で渡欧しアムステルダムを本拠地とする政策シンクタンク「トランスナショナル研究所」で研さん。2022年6月の杉並区長選挙で現職を破り初の女性区長となる。
◆安間繁樹『秘境探検─西表島踏破行』あっぷる出版社 11/18刊 2500円
沖縄県・西表島に関ること60年。初めての西表島は1965年7月、20歳。島の自然に魅せられ、その後も琉球列島の生物研究に没頭してきた。特にイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた業績は高く評価されている。島の自然と文化を観察し続ける動物学者が、西表島の山、川、海。その全てを歩きつくして纏めた貴重な記録。詳細な行動地図や1965年以降の写真など、豊富な資料も収録。
◆小柴一良『水俣物語─MINAMATA STORY 1971〜2024』弦書房 11/20刊 3000円
1971年に大阪で開かれたチッソ株主総会の混乱現場を撮影したことを契機に、水俣現地で暮らし、生活者の視点で水俣を50年余にわたって撮り続けてきた写真家が、水俣の海や山、街と暮らしを収録。ここに収めた251点の写真は、水俣と水俣病の実相を映し取った重要な記録である。「近代」が犠牲を強いた人間の生と死に、様々な姿があることを教えてくれる。現在、一般社団法人「水俣・写真家の眼」理事
◆若竹千佐子『台所で考えた』河出書房新社 11/25刊 1450円
『おらおらでひとりいぐも』で芥川賞を受賞した著者の初エッセイ集。夫を亡くし63歳で主婦から作家に。その間、書いて考えて辿りついた台所目線の滋味あふれる文章が新鮮だ。身近な人の死、孤独と自由、新しい老い、自分を知る楽しさ、家族の形、ひとりで生きること、みんなで生きること――台所からだって世の中は見える、そう嘘ぶいて何とか心の均衡をとってきた、著者の心情が胸に迫る。