「裏金解散」の結果が注目される総選挙と一緒に投票される最高裁判所の国民審査は、その制度も含め考えられなければならない課題だ。
国民審査は憲法79条に規定され、「国民審査で過半数の信任を得られなかった裁判官は罷免される」。状況を考えると、罷免される裁判官が出てくるとは考えにくい。だが、「不信任」の投票は、裁判所に対する国民意識が判断される唯一の機会。考えてみる価値はある。
問われる司法
今年のJCJ賞、後藤秀典さんの「東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃」のベースになったのは,雑誌『経済』23年5月号の論文「国に責任はない 原発国賠訴訟・最高裁判決は誰がつくったか 裁判所、国、東京電力、巨大法律事務所の系譜」だった。
国の主張を容れ、巨大弁護事務所と癒着し、元最高裁裁判官の意見書を受け入れる…。後藤レポートで明らかにされた裁判所と巨大法律事務所との癒着は、司法の独立から見れば、まさに「スキャンダル」だ。
原発事故の国の責任を否定した22年6月17日の最高裁判決は、その結果、生まれた。それがいまの仕組みだ。
憲法と安保
全国で闘われている「安保法制違憲訴訟」も例外ではない。憲法学者にいわせれば、安保法制は明らかに違憲で、国会で、自民党推薦の学者まで「憲法違反だ」という意見が述べられていた記憶に新しい。米軍駐留を認めなかった「伊達判決」が改めて議論される状況にもある。
だが、「司法消極主義」の結果か、安保法制違憲の判決は出てこない。本来国民的論議が必要なはずで、憲法学からいえば「専守防衛」という考え方も問題にされなければならないはずだ。
裏金事件で問題になった企業,団体の政治資金拠出」も、「参政権」がない「法人」にも政治参加を認めるかのような論理だ。
これが認められた結果、政府・与党は大いばりで「禁止できない」というが、これまた明らかに問題だ。
「人権」に対する考え方も、国連からさまざまな形で国連から批判されている。問われているのは、「司法の在り方」である。
10回目の再審請求
今回の国民審査で対象になっているのは、宮川美津子(弁護士出身)中村慎(裁判官出身)今崎幸彦(裁判官出身)石兼公博(行政官、外務省出身)平木正洋(裁判官出身)の6人だ。石兼、平木裁判官は最高裁ではまだ関与事件がないが、他の裁判官はすでにいくつかの最高裁判決に関わった。「優生保護法違憲判決」は全員一致だったし、「統一教会念書無効」判決には尾島、今崎裁判官が、多数意見に加わった。今崎裁判官は「名張毒ぶどう酒事件」の10回目の再審請求を、「認めない」多数意見に加わった。
今回の国民審査で、どんな結果が出るのか。そのことは何を意味しているのか、改めて裁判所の在り方を論じていくことが重要だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号